転生者は創造神の光を見るか?   作:おんのじ

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誤字・脱字ありましたら教えて下さい。
かなり間が空いてしまい申し訳ありませんでした。

タグに「独自解釈」を一応入れておきました。



8話 果報はただ信じて待て

 夜になってもヒウンの街は眠ることを知らず、その喧騒から逃れるようにオレは"ユナイテッドピア"まで来ていた。

 部屋は日が暮れる前に出たのに、結局何もせずヒウンシティをグルグルしている内に夜を迎えてしまった。この街とオレの相性はとことん良くないらしい。

 街中に比べればここは静かで、周りには停泊している船とオレ以外何者も存在しない。

 波止場のビットに腰をかけ、水平線をぼーっと眺めつつ波の音に耳を澄ます。

 心が落ち着く。都会の中で聴く波音もこれはこれでオツなモノだなと思い、しばらく浸っていくことにした。

 

『まだ眠く無いしなぁ……あーあ、カノコから読みかけの本何冊か持ってくるんだった。』

 

 本屋にも何軒か行ってみたが、興味をそそられる本には出会えなかった。本のラインナップも都会だからか若者を意識してマンガやラノベ、雑誌といったオレの趣味とは少し違うテイストの本が多く取り揃えてあった。

 オレが普段読むのは専門書や図鑑、歴史書だったりするので上の本にはあまり縁が無いのだ。ただマンガだって一冊も読んだことがないわけではないし、雑誌も一部の記事───ジムリーダーや博士の特集など───は切り抜いて読んだりもする。ただ、それらを読むよりも、ポケモンについて学んでいた方がずっと楽しかったのだ。"転生者"として生きていくために学んだ、という意味もあったが。

 

『お前達も……うん、眠く無さそうだな。だよなー、今日バトルしてないもんなー……』

 

 イーブイとフタチマルが入ったモンスターボールとゴージャスボールはカタカタと揺れ、活気に溢れていることをアピールしてくる。

 2匹の特訓計画を立てたのはいいが、実行に移されるのは明日の「バトルカンパニー」でだ。1日くらいゆっくり休むべきと思ったが、どうやらオレのポケモン達はオレの思う以上にスタミナがあるようだ。オーバーワークは望まないが、変にストレスを溜めて次の日空回りされるのも困る。とすると、

 

『4番道路辺りで少し特訓するのもあり……だな。どうしよっか、やるかい?』

 

 オレの問いかけに2つのボールは震える事で賛同の意を示す。やる事が無いとすぐに特訓に走るオレも大概だが、ポケモン達も秒でそれに乗っかってくる辺りトレーナーと手持ちの性格が似るという話はあながち間違いではないのかもしれない。

 やる事も決まり、オレは海に背を向け騒がしき大都会のその先へ歩き出す。夜はまだ、始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奥地の「リゾートデザート」程ではないが、4番道路も大体が砂漠地帯である。昼間はそれなりに暑いが夜になるとそこそこ冷える。

 大都会ヒウンと娯楽の街ライモンを繋ぐ道であるからか、開発工事が行われており砂漠地帯とは言ったが道は整備されているし高架橋までかかっている。脇道に逸れない限り砂に足を取られることは無いだろう。

 

 ──────だと言うのに、「ちょっとワクワクするから」と脇道に逸れてしまうのがオレなのである。

 

『オゥオゥ兄ちゃん!子供がこんな所に何の用かなぁ!?』

 

『1人でこんなとこに来るなんて、いい度胸してんじゃねーか!ヒャッヒャッヒャ!』

 

 帰りたいと、切に思った。

 

 簡潔に言うと、オレは不良の溜まり場に迷い混んでしまった。

 わざわざ脇道に逸れる人間は少なく、だからこそまだ工事が進んでいない砂漠地帯は人が寄り付かず、集会場所に丁度いいのだろう。

 彼らにとってオレはいいカモに見えるのか、こちらの都合などお構い無しにたかられる(バトルの)流れになってしまった。

 しかし目と目が合ってしまったのも事実。断る理由もこちらには無くバトルは受けなければならない。

 

『ま、練習(・・)にはなるか……うん、フタチマル頼んだ!』

 

『オメーのお小遣いサクッと剥いじゃうぜぇ!! ヤブクロンやっちまいな!』

 

 夜だがやる気に満ち溢れているフタチマルと相対するは、ゴミぶくろポケモンのヤブクロン。元々はゴミが詰まったゴミ袋で、そこから生まれたポケモンだと本で読んだことがあるが本当なのだろうか。

 などという雑学は置いておいて、このバトルだがまずオレが勝つのは確定している(・・・・・・)。理由は単純、フタチマルの方が強い(・・)からである。レベル、能力、経験、─────そして、トレーナーの力量の差。ありとあらゆる要素でこちらが上回る。仮にもジムバッジを2つ手に入れているのだ。そこらのトレーナーとは一線を画していて当然だと言える。

 

『"みねうち"!』

 

 "練習"と称した二つの斬撃がヤブクロンを断つ。

 しかしこの攻撃が相手の体力をゼロにすることは不可能であり、それが目的でもある(・・・・・・・・・)

 

 このバトルでの狙い、それはフタチマルのホタチ捌きを向上させることだ。

 オレが今フタチマルに習得してほしい技は、中々に高度な技術を必要とする。特に技を出すスピードと的確に技を当てられる正確性、この2つには重きを置いて取り組んでもらっている。"シェルブレード"の様に単に切りつけるだけではダメなのだ。

 本当なら技マシンを使って手っ取り早く覚えさせてあげたいが、該当する技マシンをオレは所持していない。なので、こうして練習して覚えてもらうほかない。

 "みねうち"を覚えさせたのもこのためである。なるべく相手の体力を削らない様、言い方が悪いがサンドバッグ代わりにして特訓を積ませている。故に、"練習"なのだ。

 

『"みねうち"だァ? ナメてんのかテメェ!! とっととこのガキ潰せヤブクロン! "おうふくビンタ"ァ! 』

 

『受け流して連続で"みねうち"!』

 

 右から迫る腕をするりとホタチで流し、左から迫る腕は当たる前にもう片方のホタチでカウンターを入れる事で、攻撃そのものを中断させる。

 一見ホタチ捌きは既に一級品と思えるが、オレが、何よりフタチマルが納得していないのだ。もっと高みを目指せると、常に研鑽を重ねるのは武士の心がある故なのか。

 

『弾いて、切り付ける…やることは似ているんだ…あとはその弾きを攻撃に転換すれば……』

 

 ぶつぶつと呟いていると、フタチマルが一瞬コチラを見て頷いた。「もう終わらせる」、そう伝えたいのだろう。

 

『そっか、分かった。じゃあ"シェルブレード"でトドメだ!』

 

 刀がヤブクロンを捉え、一閃。

 先程までの手加減した連撃とはかけ離れた剛撃が、ヤブクロンを正面から打ち破った。

 

『ク、クソッ! よくもやりやがったな……! 兄貴 後は頼んます!』

 

 と、捨て台詞を吐いて不良A(スキンヘッズ)が後ろに下がり、変わりに出てきたのはどう考えてもこの地帯とそのマシンは相性最悪だろう、と思わざるをえない不良B(ぼうそうぞく)だった。なぜ持ち込もうと思ったのか真剣に知りたい。

 

『へっ! おれさまはアイツみてぇに簡単に倒せねぇぞ! ズルッグぶっ潰せ!』

 

 ボールから飛び出したのは皮をだるんと伸ばした黄色が主配色のポケモン、ズルッグだ。

 分類はだっぴポケモン。見た目は可愛いかもしれないが、特技である"ずつき"は全く可愛くない威力なので十分注意しなければならない。また、皮は防御にも活かすことが出来るらしい。

 

 ふぅ、と息を吐き出しフタチマルをボールに戻す。最初(ハナ)からギリギリの熱いバトルなんて期待してなかったが、実力差が開きすぎるとここまで"蹂躙"と呼ぶ他ないカタチになるとは思わなかった。"練習"なので相手の強さなんてのはどうでもいいのだが。

 交代先として繰り出したのはイーブイ。彼にもまたヒウンジム攻略のカギを担ってもらうことになると思うので、特訓は積ませなければならない。

 

『多分"スピードスター"と同じ要領でやれば………いやもっと複雑か……イーブイの"可能性"を引き出すように……』

 

 何せイーブイが習得しようとしている技は、数あるポケモンの技の中でもかなり変わったな技なのである。フタチマルと同様技マシンさえあれば楽に覚えられたのだが、やはり無いので地道に努力するしかない。

 

『"ずつき"ィ!!』

 

 指示と共にイーブイ目掛けて一直線に突っ込んでくるズルッグ。愚直とも言える攻撃であり、身軽さには定評のあるイーブイが避けるのは訳無かった。

 こちらのターンになったならば、隙だらけのターゲットに向かってわざと弾数を減らした"スピードスター"を放ち、距離をとる。今回イーブイに行ってもらうのは言わば"引き撃ち"だ。

 

 

 ─────正直な話、本当にこの方法が練習になっているのか断言する術がオレにはない。フタチマルの練習法ならある程度の自信を持って「イエス」と答えられたものの、コレ(・・)に関しては「似たような(似ているかも分からないが)技を撃たせているだけ」なのだ。

 

 怒号にも似た声色での指示が相手から飛ばされている中、避けて撃つを徹底しているイーブイを見てオレは思案する。

 最終的に技の習得に必要なのは、イーブイの中に内在する"可能性"をイーブイ自身が理解し、それを技として放つこと。それは分かっている、しかし─────

 

『どうやったらイーブイが理解出来るのか……うーん……』

 

 オレがアドバイスの一つや二つ言うのは簡単だ。多少のヒントくらいにはなるだろう。

 ただ、イーブイの可能性まで「ああしろこうしろ」とオレが決め付けるのは間違っている。だから、イーブイにほとんどを委ねるしかないのだ。

 

『考えろ…考えるんだ…オレが今どうするべきなのかを……』

 

 今のままではダメなのだ。今の練習法では、目指す技には至れない。

現在(いま)」のままではだめならば──────「過去」はどうだったのか。ふと、考えた。

 これまで技を習得してきた時は、一体どうしてきたのか。レベルアップで習得した時の事は置いておいて、そう、"スピードスター"を習得した時なんかはどうだっただろうか。

 

 ─────可能性を信じたのだ(・・・・・・・・・)

 

 出来ると思った、そしたら出来たのだ。

 今やるべき事もあれこれと難しい手を打つのではなく、それだけの事ではないのか。

 

『……ッ!』

 

 フッと熟考から浮上し、丁度"スピードスター"を撃ち終えて下がったイーブイを止め、

 

『……うん、やめた(・・・)指示出すのやめた(・・・・・・・・)。』

 

 ごく自然に、それが当たり前であるかのようにオレは言った。

 そして、オレの意図がイーブイに伝わってないことを「は?」と言いたげな表情から察し、慌てて言葉を付け加えていく。

 

『あ、違うから。諦めたとかじゃないからな。そうじゃなくて、お前のやりたいようにやってくれってことで……』

 

『何ごちゃごちゃ喋ってんだコラァ!! ズルッグ"だましうち"でぶっ叩け!』

 

 伝えたいことはまだあるが、どうやら相手は空気を読んでくれないらしい。

 ズルッグは進撃を止めずイーブイに迫り来る。いつもなら何かしらオレが指示を出していただろうが、敢えてオレはイーブイに問いかける。

 

『────イーブイ、お前ならこの攻撃をどうする(・・・・)?』

 

 ズルッグが使った技は"だましうち"。どんな状態であれ"必ず当たる"技だ。

 それに伴い、イーブイがとれる行動は2つのみ。

 1つ目は防御。シンプルかつ手堅い一手だ。確実にダメージは抑えられるし次の一手に繋がる行動も取りやすい。

 2つ目は反撃。リスクこそあるが見返りも大きい。成功すれば一気に攻め立てられ、流れを引き寄せる事も可能だ。既に流れがこちらにあるのは置いておく。

 本来なら回避も択に入るが"だましうち"の前では意味を成さない。

 

 2択の内イーブイが選んだ選択は当然──────反撃(・・)だった。

 回避不可の拳が振り下ろされる瞬間、逆に拳目掛けて"でんこうせっか"の一撃繰り出すことで攻撃を弾き、続けざまに尻尾を思い切り振り抜きズルッグを吹き飛ばしたのだった。

 

「なるほど」とオレは理解し、同時に「だよな」と予測通りの結果に安心した。

 

 イーブイはとても不安定なポケモンだ。己の"軸"が内外問わず様々な要因によってブレやすく、個体が持つ本質が掴みにくい。

 そこでわざと指示を出さず、その中でイーブイがどのような行動をとるのかをオレが知り、イーブイにも自覚してもらう。それがトレーナーとしてやるべきことを放棄したオレの真意だ。

 あれがイーブイの真に望む戦い方なのだろう。何せ自身で選択したのだ。それすなわち、己の"本質"に基づいた行動であるとオレは判断する。少なくとも()は。

 

 ──────後は、多少のヒント(・・・・・・)になるかもしれないアドバイスをかけ、信じて待つのみ。

 

『やりたいように、想い描いたままにやってみな。それを実現する力がお前にはあるんだよ、相棒(・・)。』

 

 一瞬間を挟み、イーブイが閃いたようにニッと笑う。伝わったようで良かった。

 

 絶えず攻撃を続けようとする意思、それは消えぬ炎であるとオレは見た。

 イーブイの本質は未だ揺らぐ。されど「こうしたい」と選んだのも事実。ならば、その決定は"本質"を固定化させるに足りるのだ。

 すぅッとイーブイが息を吸い込む。"スピードスター"を放つ時とはまた違う力の溜め方。

 ──────これを見て、オレの信頼は最良の結果(・・・・・)へと結び付いたと理解する。

 

『タイプは"ほのお"! "めざめるパワー"!』

 

 確信と、歓喜と、祝福を込めた声でオレは叫んだ。

 己の内側から溢れ出る「可能性」に形と力を与え、一つの"技"としてイーブイは撃ち出す。

 この技に宿るのは紛れもなく"ほのお"のエネルギー。"めざめるパワー"で物は燃えずとも、魂を焦がすには十分足りる熱量である。

 先の"スピードスター"と"でんこうせっか"のダメージが残っているのか、動きが鈍いズルッグが"めざめるパワー"を躱すことは能わず残りの体力を完全に溶かされ、望まぬ2連戦のバトルは終わりを迎えることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 その後オレ達を取り囲んでいた多数の不良も、2連戦をものともしないタフさと純粋なバトル技術の格差を理解したのか、「次は誰だ」とありがちなセリフを吐いてみたが誰も名乗りを上げなかった。これでは特訓になりそうもないので、今は4番道路の本道にまで戻ってきている。

 

 

 完成したのだ。こうもあっさりと、しかしこれまでにない達成感を感じながら。

「嬉しかった」のは1番の想いだ。努力が実を結ぶことは何よりも嬉しいし、それが自分でなくとも携わっていたなら喜びは湧くものだ。

 同時に「呆気なかった」とも思った。

 "めざめるパワー"をイーブイに発案したのは今日であり、これ以前に特訓もしていない。それでも完成させてしまったのだから、拍子抜けだと感じても仕方の無いことであろう。

 最後に──────恐怖(・・)があったのも事実なのだ。

 なんという「可能性」なのだろうと、身体の震えが今も止まらない。果たしてこの「可能性」をオレが導いていけるのかと、柄にもなく不安に駆られてしまった。

 

『でもなぁ、まだダメなんだよなぁ。……なぁ?』

 

 オレの問いかけにイーブイは不満げながらもコクリと頷く。

 "めざめるパワー"は成功した。しかし、これが偶然ではないと否定出来る根拠がオレ達にはなかった。本番とも言えるジム戦で使っていくには些かの不安が残るのが現実だ。明日のバトルカンパニーでの調整で、どこまで自分のモノに出来るかが課題である。

 

『にしても……良い光だったな。』

 

 不意に立ち止まり、無意識にポツリと呟いていた。

 オレにだけ見えるポケモンとの間にある光。"転生者"だから見えるのか、それとも原因は別にあるのか。それはオレにも分からない。

 それでも悪いモノでは無いのは分かる。先のバトルの時も、イーブイとの間に在った光は眩しく熱い、(まさ)しく炎がもたらすような照らす光だった。

 

『よーし、帰って寝ますかぁ。』

 

 程よく体も頭も疲れ、充実感に身を浸しながらポケモンセンターに戻ろうと歩き始めたその時──────

 

『ん?…なんだアレ……ッ!? 』

 

 視界に入ったボロボロの何か。

 およそ1.5m程のその何かが、ポケモン(・・・・)であると理解するのに時間はかからなかった。

 フェンスを全速力で乗り越え、キズだらけのポケモンの下に駆け寄り様子を確認する。

 

『こいつは…でもなんで……?』

 

 あまりにも唐突すぎる出来事に、オレはただひたすらに応急処置をするので精一杯であった。

 

 




こんにちはお久しぶりです
もしかしたらまた間が空いてしまうかもしれませんが、ご了承ください

一応完結させたいという気持ちではいます

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