インキャソロハンター   作:カルガモ大将

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なんか書けたわ。
弓使いの話もどっかのタイミングで書きたい。
ガンスはしらね。


14 バカ話のひとつでもしようか

 

G級ハンターと言えども、毎日のように命を削るような戦いをする訳ではない。例えば、異様な強さを持つモンスターの調査に派遣されそのモンスターが上位クラスなのか、二つ名なのか、獰猛化や狂竜病なのか、実質G級と言えるほど強いのか、そう言った判断を下す事もある。例えば、貴重な素材を得る為に大自然の奥地、秘境に赴いて素材を集める事もある。

だが、あくまで基本は戦力として運用される。大都市の守護神。あるいは、被害が出る前に叩き潰す侵略者として。

そもそもG級と呼ばれる程のモンスターが下まで降りてくる事はそうそうない。基本的には住み心地の良い奥地に篭っている。

だからこそ、そんな化け物達が降りてくると言うことは、更なる化け物が奥地に現れたことを示す証拠でもある。暫くの間古代林の生態系は狂っていたが、主であるオストガロアが消えてから、少しずつ元の姿に戻ろうとしていた。だが、だからこそ、付け入る隙が生じていた。

 

 

 

「ハァッ!」

 

掛け声と共に、イビルジョーの顎めがけてハンマーが振り上げられる。

地を這うような鋭い前身から勢いを乗せて放たれたアッパーは、獲物が視界から消えた動揺から生まれた隙によってイビルジョーに多大なダメージを与えた。ぐらりと揺れる頭部。撒き散らされるアマゾンフィルターのかかったゲーミング体液。

 

「シッ…いぃッ!」

 

イビルジョーの飛んでいた意識と揺れ動いていた頭部が戻ってくるのに合わせたスタンプ。頭骨諸共脳を打ち砕き、見事G級イビルジョーの討伐を終えた。鮮やかな手際であった。ここだけを見ていれば。

 

「ふーっ。本当に、何でも食べる」

 

しびれ生肉、毒生肉、眠り生肉、ドキドキノコを混ぜたドキドキ生肉、謎の粘菌を混ぜた爆破生肉、トウガラシを混ぜた激辛生肉、とにかく色々な肉を食わせてイビルジョーを弱体化させていた。ちなみにドキドキノコの効果は恐らく体液がアマゾンフィルターのかかったゲーミングカラーになる効果だった。ゴミかな? もしかしたら他にも効果があったのかもしれない。

 

「これ、いいな。やっぱり使いやすい」

 

対オストガロア用に作った極鎚ジャガーノートだが、使い勝手が良かった。最悪無くしてもぶっ壊れてもいいと考えているからなのか、気軽に使える。その上、主な構成物質が鉱石である為、なんだかんだで頑丈でそうそう壊れそうに無い。

 

そもそも、なぜ古代林にイビルジョーが現れていたのか。答えは単純で、オストガロアの影響で逃げ出したモンスター達が戻ってきた事により、イビルジョーもエサを求めてやってきた、という訳だ。

 

「……ハンマーって、いいなぁ」

 

それはそれとして、鉱石ハンマーでG級イビルを倒すのはおかしい。

 

 

 

 

 

 

G級ハンターの役割は、あくまで侵略者である。自然を切り拓き、略奪の限りを尽くす簒奪者。そんな人類の守護者、守護神。護るのではなく、壊すことしか出来ない化け物達。

 

だが、やろうと思えば他の事だってできる。

例えば、休暇代わりに後輩への指導を任されるとか。

そもそも休暇なしで後輩への指導を任されたりとか。

 

「という訳で、お願いしたいのですが……」

 

「……いや、それは、困る」

 

ロックラックの集会所カウンターで、何やら揉め事があるらしい。受付嬢がお願いするも、ハンターの方は困ったと返す。それはそれでこちらも困ると受付嬢が返せば、無理なものは無理とまた突き返される。

 

「ですが、ロックラック出身のボウガン使い、それも組み立て式は希少種でして……」

 

「……無理なものは無理だ」

 

「そこをなんとか」

 

「……誰だ?」

 

聞き覚えのない声が背後からした。

振り返れば、新人ハンター特有の防具を身につけた、少女と言っていいような年若い、それも、田舎から出てきたばかりとしか言えない様な者が居た。

 

「……こちらの方が、どうしてもと」

 

申し訳なさそうに目を伏せ、受付嬢がつぶやく。

 

「……そもそも、特定の個人を優遇するのは、どうなんだ」

 

「言いにくいのですが、その……」

 

「……ああ。いや、いい。忘れていただけだ」

 

そもそもボウガンを志す者は少ない上、楽をしたいからボウガンを選ぶという者が殆どのため、態々教えを請う者なんて希少種なのだ。

 

「わたし、あなたのお話を聞いてから憧れなんです!」

 

キラキラとした目で、穢れを知らぬ瞳で見つめられる。

 

「うっ……」

 

こんなにも綺麗な瞳で見られることはあまりなかった。

 

「おねが」

 

「少しだけ、話をしよう」

 

受付嬢が言い終わるよりも前に、答えを出した。

 

「え?」

 

「やった! ありがとうございます!」

 

困惑する受付嬢。無邪気に喜ぶ少女。

 

「……はぁ」

 

絆されてしまったか。

いや、元々か。

少し、人間性が回復でもしたか。

昔なら、こんなことしなかったかもしれないな。

 

色々と考えながらも、足は勝手に集会所の奥の方、ロックラックでの定位置と言っていい場所へと進む。

 

比較的灯りが届きにくい様な、少し暗い場所。

お気に入りの場所。

ゆっくりと腰を下ろし、そういえば、ここに座っていたのは、下位の頃だったっけかと思い出す。

 

「ここ、受付から遠くないですか?」

 

「いや……いいんだ、ここで」

 

少女が疑問を口にする。

だが、ここがお気に入りなのだ。思い出の場所なのだ。

 

「ボウガンは簡単な武器ではない。それを、分かっているのか?」

 

「はい! 憧れの人に近づけるなら頑張ります!」

 

「……まあ、いいか」

 

テーブルを指でなぞりながら、思考を巡らす。

そうして、手を上げようかと思った時、既に横に給仕が立っていた。

 

「久しぶり。それで、注文は?」

 

「……好きなものを頼め」

 

「えっ? ほんとですか? やった!」

 

メニューを見て、描かれている絵で判断しているのか、「これとこれでお願いします!」と元気そうに言っていた。

 

「取り皿は?」

 

「頼む」

 

「じゃ、待っててね」

 

ヒラヒラと手を振りながら給仕が去っていく。

 

さて、何から話そうか。

失敗ばかりのあの頃の話でもするか。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

モンスターハンター。

職業狩人。

狩人とは言っても、実際は狩りをしないで採取をしたりもする。

 

俺は、職業モンスターハンターの、しかしハンターとは呼べない様な最底辺ハンターだ。

受ける依頼は採取ばかり。だが、採取したところで傷ついていたり、上質なものではなかったり、粗悪品扱いされたりで収支は0に近い。採取依頼のついでで採掘した鉱石類を売却すれば高く取引されるが、それでも日毎の糧を得る為の金として消費される。地道に溜まっていくゼニー。しかし進歩は無いに等しい。

扱いが比較的楽と言われている初心者向けの武器である片手剣ではなく、ハンマーを用いて小型のモンスターであるジャギィ類を狩り素材を売却しようと思えば、どこからかドスジャギィが現れて追いかけ回される。逃げた先の視界の悪い洞窟内ではギィギ達に全身を噛みつかれて死にかけたり、たまたま顔馴染みになっていたアイルーやメラルーに助けられたり。

 

ハッキリ言って、俺は、毎日毎日、言いようの無い焦燥感と、胃の不快感と、吐き気と戦っていた。

命を賭けた戦いはまだ本格的なものを経験してはいない。だがそれでも毎日、運が悪ければ死んでしまうような綱渡りを続けている。いつ金を稼げなくなるかわからないような不安感もある。

モンスターと戦うのは恐ろしい。漏らしてしまいそうだ。殺意をぶつけられて、萎縮してしまう。殺した時の手応えが気持ち悪い。

 

ダメだ。ゲームみたいになんとかなるかと思ったが、ダメだ。

手を洗っても、不快感が消えないんだ。

 

だから俺は一つ、賭けに出た。

 

 

 

 

 

 

ヘビィボウガン。

扱いやすさに定評のある鉱石派生の買えるやつをちょっとだけ強化した奴。通常弾をメインに貫通弾と散弾も用意。

 

扱いに関しては、訓練所で一通り習ったからまあいけるはず。

そう考えて、下位の登竜門であるドスジャギィに挑み、なんの手応えもなく勝利してしまった。

 

続くクルペッコも、ロアルドロスも、意図も容易く倒してしまった。ハッキリ言って、この時の俺は調子に乗っていた。だからこそ、痛い目に遭ったんだ。

 

「痛い目って?」

 

そうだな。まあ、よくあるバカ話だ。誰でも経験する話だ。

 

 

 

 

 

 

エリアはお馴染みの孤島。

リオレイアは弱い。適当に皮膜をズタズタにしてしまえばまともに移動できなくなるだろうし、顔に通常弾をぶち込むだけで死ぬだろう。動きも単純だ。どうせ毒にはならないから解毒薬は持っていかずに弾の調合分を持っていこう。回復薬系はいつも通り現地で採取しながら作ればいいか。

通常弾と貫通弾はメインの火力担当。散弾は雑魚散らし。シビレ罠と落とし穴で捕獲用、あとはペイントボール。

 

集会所で腹ごしらえをして、孤島へ向かう。

 

孤島地方なのでトライに出てきた孤島とはまた違うが、おおよその特徴は似ている。一通り採取を終えて、リオレイアが居そうな場所を探す。そうして、開けた場所でリオレイアを見つけた。背後に回れたからか、あちらは気づいていないようだ。どうやら、日向ぼっこをしているようだ。

 

──ドッドッドッドッ

 

通常弾をリオレイアの背後から撃ち込み、まずは左の翼の皮膜に穴を開けて空を飛んだ際の安定感を失わせる。

 

──ギロリ

 

口元から火をごぼしながら、鋭い目つきでリオレイアが振り返った。

 

──ギョアアアアアアア!!!

 

咆哮。予め耳を塞いでおいたが、それでもビリビリとした殺意が衝撃波としてぶつけられる。

 

──ゴウッ!

 

吐き出された小型の太陽と言ってしまいたくなる火球。横へゴロリと転がって回避するも、地面にぶつかった衝撃が、捲れ上がった土や石が俺を襲う。火球の後、少しだけ隙とも言える間。ある程度の距離をとっている為、相手は火球をメインに使うはず。だから俺は、通常弾レベル3を今度は右の翼の皮膜に2発撃ち込んだ。

 

──クンッ

 

リオレイアの顔が持ち上がる。これは、3連発か? 単発か?

 

──ゴウッ! ゴウッ! ゴウッ!

 

1発目を横へ。2発目を抉れた大地へ。3発目は射線が違う為回避せず攻撃へと移る。

 

──ギャゴッ、ドッドッ

 

リロード、そしてレベル3通常弾を2発再び右の翼幕へと撃ち込む。恐らくこれで機動性能はかなり落ちた筈だ。

 

──ギョアアアアアアア

 

火球が当たらない事に痺れを切らしたのか、突進してくる。ヘビィボウガンを背負い、急いで逃げる。ここは開けた場所故、障害物もほとんど無い。後ろをチラチラと確認しながら逃げるが、当然差は詰まる。

 

「シッ!」

 

恐ろしい時こそ、死へ近づくような手段を取らなければならない。俺はマンガやアニメで、更に言えばモンハンでそう学んでいた。だからこそ、リオレイアへと突っ込めた。もっと言ってしまえば、「自分は死なない」と、心の奥底で無意識に考えていたからこそ、そんな行動が取れたのかもしれない。

 

突如反転して、リオレイアの股下を抜ける。

追いかける対象を見失ったリオレイアの一瞬の隙。しかし、振り返ってしまえばそれもすぐなくなる。

ボウガンとしては距離を取りたい。だが、尻尾の振り回しの当たらないギリギリの距離は難しい。どうするか。

 

そんなことを考えている間にもリオレイアは振り返っており、噛みつきを行ってくる。背負ったヘビィボウガンの重さを利用して後ろへと軽く飛んで避ける。

 

今ヘビィボウガンを展開しても、機動性能で負ける。火力的にも微妙。フレーム回避がない以上、難しい点が多い。クソ、ミスったな。

 

噛みつき。尻尾振り回し。火球。噛みつき。

 

兎に角回避。距離を取る為に回避。決して攻撃できるような隙は無かった。

 

クソッ。閃光玉なんて要らないと思ったが、やっぱりいるな、これは。

 

──ギョアアアアアアア!!!

 

そうしてしばらく回避を続けていれば、咆哮の後、リオレイアは飛び立っていった。

 

ペイントボールを尻尾に当てて、行方が分からなくならないようにしておく。

 

「……やるか」

 

回復薬は作ってある。閃光玉はまだ作っていなかった。

閃光玉を作って、動きを止めてから火力で押し切る。頭に血が上ったところで罠を仕掛ける。

 

よし、そうするか。

 

 

 

 

 

 

リオレイアは、木々が空を覆い、岸壁に囲まれた狭い場所にいた。動き回れないのは好都合。と、思っていた。それは、互いにそうだった。

 

ヘビィボウガンを展開し、先行して貫通弾を撃ち込む。突進をギリギリまで引きつけて横に避け、今度は尻尾の振り回しが当たらないような至近距離、足元でローリングを繰り返して回避する。散弾を肉の柔らかな腹に撃ち込み、少しずつ出血させていく。

足踏みや尻尾の振り回しを避けながら攻撃を続け、そうして今度はリオレイアがこちらから離れるように走り出した。

 

「フーッ!」

 

体が熱い。気を鎮める様に大きく息を吐く。今俺は勢いに乗っている。興奮落ち着かぬまま武器をしまい、こちらを振り返るであろうタイミングで閃光玉を投げつけ、貫通弾レベル2を装填する。

 

──ドッドッドッドッ!

 

適切な距離で放たれた貫通弾はリオレイアの頭を、口腔を蹂躙した。

 

──ゴウッ!

 

視界が潰れているが故に、破れかぶれに放たれた火球を避ければ、喉に痛みが走ったのか咳き込んでいる様子が確認できた。これで遠距離攻撃の手段である火球も封じたようなものだ。だが、それでも頭を狙って貫通弾を放つ。

 

──ギョアアアアアアア!!!

 

怒りの咆哮。

閃光玉も切れたか。

 

──ゴウッ! ゴウッ! ゴウッ!

 

慌てて3連火球を避ける。しかし、予定外の行動に俺はリズムが崩れていた。

リオレイアが走り出す。こちらへ向かってくる。武器を急いでしまって後ろを見ながら駆け出す。

 

「あだっ!?」

 

側頭部に走る痛み。

 

前を見れば、壁。いや、岸壁。しまった。斜め横向きで走っていたと思ったが、それでも壁に向かっていた。後ろ向きに走っていた弊害が出てしまった。

 

──ゴウッ!

 

音に反応して、体は勝手に横に転がっていた。

 

──ドガァッ!

 

「ぐっ!」

 

弾けた岩が全身に襲いかかる。直撃を避けても間接的にダメージがくる。反射的に腕で身体を守ろうとしていた。庇ってしまっていた。そのせいで、反応が遅れた。

 

振り返れば、咳き込むのを終えたリオレイアが走り出していた。

 

「クソッ!」

 

どうやって避ける?

 

横か?

 

ダメだ。

 

前か?

 

前しか空いてないのか?

 

考えている間にもリオレイアは迫る。

 

「ええい!」

 

タイミングを合わせる様に前へ転がろうとした時──

 

──フワッ

 

「オッ……ッッッ!!!」

 

理解よりも先に痛みがきた。

 

明滅する視界。腹が抉れたのかと思うような感覚。

 

フワフワと浮かぶ様な感覚。

 

重力がおかしくなった様な感覚。

 

「い゛っ?」

 

全身に走る衝撃。

 

真っ暗な視界。

 

──逃げ、なきゃ。

 

頬が濡れる。

 

──じょろろろろろろ

 

死ぬ。死ぬ。やだ、死にたくない。

 

それでも身体は動かない。

 

「い、げ……」

 

動かない。

 

動かない。

 

「ご、ごめ、ざ……」

 

口から溢れるのは無駄な言葉。

 

「ゆぅ、じ……え゛」

 

誰への懇願なのかも自分ではわかっていない。

 

「ぅ、げ、ぇ」

 

いつまでも戻らぬ漆黒の視界の中、必死にもがいていた。

 

 

 

 

 

 

「う、うぅ……」

 

いつまでも戻らぬ視界の中、ようやくここは恐らく安全圏なのだろうという答えに至った矮小な存在は、割れることなく残っていた回復薬の一本を飲んで体力を回復していた。しかし、それでも体力をゴリゴリと削られていく様な感覚がある。まるで風邪をひいてしまった時の様な、熱が出て思う様に身体が動かぬ様な、そんな状態。

 

ああ、自分はリオレイアのサマーソルトを食らったのだと、ようやく理解した。

 

そしてここは恐らく、洞窟内なのだろうと。

 

黒一色の世界の中、体に染みついた動きでボウガンを分解し、感覚頼りで火薬を取り出し着火。灯りを灯した。

 

「ああ……」

 

そうして、ようやく自分の置かれた状態を理解した。

ボロボロの防具。

割れた多数の回復薬の瓶。

壊れてしまった罠類。

ひしゃげているヘビィボウガン。

そして、壁にもたれかからなければ苦しくて仕方ない己の肉体。

 

──もうダメだ。

 

心が折れていた。

激痛とまでいかないのは、身体の防衛機能なのだろう。もうすぐ死ぬのだ、自分は。体もあまり動かない。

どうせ死ぬのであれば、これ以上苦しまない様に、動かないで、じわじわと襲いかかる痛みと死への恐怖と闘いながらゆっくりと死ぬのだ。

 

死ぬのだ。

 

死ぬんだ。

 

「い、やだ……っ!」

 

──死にたくない

 

「い゛っ!」

 

腹に力が入った瞬間、全身に痛みがじんわりと広がった。

 

──死にたい!

 

死んでしまえば楽だ。もうこんな痛い思いをしなくていい。

 

「う、うぅ……」

 

死にたく無い。

 

「う、ぐ」

 

死にたい。

 

「ひ、う、ぐずっ」

 

死にたい。死にたく無い。痛い。寂しい。寒い。熱い。痛い。死にたく無い。熱い。死にたくない。寒い。死にたい…痛い死にたく無い死にたく無い死にたく無い死にたい寒い。死にたく無い。

 

涙が出る。しゃくり上げるたびに痛みが走る。

 

頭が痛い。頭痛だ。じんわりと痛む。それよりも全身が痛む。寒い。熱い。手が震える。

 

「あ、あ……」

 

手が動く。口が動く。

 

残っていたもう一本の回復薬を口元へ運ぶ。

 

「う、ごく、おぼ、ゲホッ、ぐ、う、う、ごくっ」

 

手が震える。口元も震える。まともに飲めない。気管に入って咳き込めば激痛が走る。それでも飲む。

 

「あ、あぇ……」

 

だいぶこぼしてしまった。自分の足元が濡れている。回復薬で濡れている。

 

「飲まなきゃ」

 

体をゆっくりと倒す。

 

「えろ、れろ、じゅ、ず、ず、れろ」

 

なんて、意地汚い。

生き汚い。

死んでしまえばいいのに。

それで楽なのに。

 

だが、それでも、この卑小な存在は、『苦痛』よりも『死の恐怖』が勝った。

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

だいぶ落ち着いてきたのか、それとも苦痛への耐性ができたのか、徐にバックパックをひっくり返して中身を出すと、採取してあったカラ骨にバックパックを巻きつけ、火をつけた。

 

ぼんやりと辺りを照らす。

先ほどよりも高所から。

 

回復薬はない。解毒薬もない。

身体は重いし痛い。ここから出られるかもわからない。

 

それでも、歩き始めた。

 

ハンターは歩みを進める。

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

喘ぎ声と、コツコツと響く足音。

ピチャピチャと垂れる水滴の音。

 

時間の感覚はイカれている。

 

はやくこの苦しみが終わってくれと願いながら歩みを続ける。

止まりそうな足を無理くり前に出して、体を壁に擦り付けて多少の楽をしながらもとにかくすすむ。

 

見えぬ灯りを求めて、進む。

 

火がいつまで続くのか。

 

いつ消えてしまうのか。

 

そんなことを考えると、いやでも足が進む。

 

出口はどこだ。

 

自分は同じ場所をぐるぐると回っているのではないか。

 

「くっ……う!」

 

嫌な考えを振り払う様に、兎に角進む。

 

だが、先は見えない。

 

そうして、しばらくして、見つけた。

 

「あ、あ」

 

ひしゃげたボウガン。

 

「う、あ……」

 

散乱したアイテムたち。

 

「ひ、ぐ、ぅ……」

 

どうやら自分は、死に場所に戻ってきてしまった様だ。そのことを理解した瞬間、今度こそ、心が折れた。

 

「だめ、だ」

 

──カラン

 

持っていた松明が手から離れた。

 

もう地上には戻れない。

死ぬ。

 

「いやだ」

 

それでもなお。

 

「いやだ」

 

まだ、こいつは。

 

「しにたぐない!」

 

死にたくないと、生きていたいと、意地汚く、声高らかに宣言した。

折れていた筈なのに。完全に、諦めた筈なのに、立ち上がった。

 

「う、ぐすっ」

 

そして、極限状態まで追い詰められたハンターは、悪魔的な発想に至る。

 

──ドウシテ自分はここにいる?

 

──どうやって地下に来た?

 

──あの時、岸壁が弾けていなかったか?

 

──ここは、つまり地下は、まさか

 

上を見上げる。かすかにオレンジ色の光が差し込んでいる。

 

「や、ばい」

 

松明に火が残っている間に、散乱したアイテムの中から目的のものを取り出す。

 

「ま、だつか、える!」

 

ピッケル5本。ボロピッケル2本。

 

ここから、地上まで、恐らく30メートルはあるだろうが、登る。

登るしかない。

登り切ってみせる。

 

「ぐっ、う!」

 

ボロボロの防具。それも、剥がれかけのパーツを力任せに引き剥がしていく。

残った頑丈な部分はそのままにするとしても、それでも、剥がれかけのパーツを兎に角引き剥がしていく。

 

登るのに当たって、余計な重量は邪魔なだけだ。兎に角軽く。

そうして引き剥がしていって、準備ができた。

 

「ッシ!」

 

──コッ! コッ!

 

ピッケルを岸壁に突き刺し、ゆっくりと登り始めた。

 

薄らと見えていたオレンジ色の光は、既にほとんど見えない。

 

──コッ! コッ!

 

「戻る! 戻ってやる!」

 

さっきまで完全に生きるのを諦めていたとは思えないほどの気迫。

 

──コッ! コッ!

 

死にかけとは思えない登攀ペース。

 

──コッ! コッ!

 

平常時としか思えないスピードでスイスイと上がっていく。

 

おおよそ20m地点にて、気づいた。

 

──カッ!

 

「なっ!?」

 

刺さり具合がおかしい。

 

左手と両足のピッケルを壁に突き刺したまま、右手で壁を触って確認する。

 

「こ、れ……」

 

壁が曲がっている。こちらへ突き出してきている。

光が見えたのに地下が暗かったのは、これが原因か。

背後に手を回しても余裕はある。ここが突き出しているだけだ。

 

「ぐっ! ふっ!」

 

嫌な汗と共に痛みを思い出す。

 

──ゴッ!

 

全力でピッケルを振り下ろす。しっかり突き刺さったのを確認して、登る。

 

「ふっ、う、うぅ、ぐっ」

 

突き出しているせいで、変な体勢になる。腹がすれ、激痛が走る。

 

「あ、が、あああああああ!!!!!」

 

──ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ!

 

痛みから逃げる為、勢い任せにピッケルを突き刺して、登っていく。

 

「うああああああああ!!!!!」

 

そしてその勢いのまま、地上へと生還した。

 

 

 

 

 

 

光源は月明かりのみ。数多のモンスターが眠る時間。しかし、油断はできない。

 

「た、助かった」

 

早々に苦虫とげどく草を手に入れ、口の中に突っ込んで川の水を流し込んで咀嚼しながら飲み込んだ。

 

とんでもなくまずかった。それからアオキノコと薬草も口の中に突っ込み、川の水で咀嚼しながら流し込んだ。

 

だが、キャンプまではそれなりに距離がある。

 

今の自分は防具として意味を成していない服に、ピッケルという格好だ。

 

キャンプまでは、見晴らしのいい場所を通り抜けなければならない。

 

果たして、モンスターに出会った場合、逃げ切れるのか。

それでも、逃げるしかない。わずかな可能性に賭けて。

 

細道を抜けて、見晴らしのいい大地が伺える場所まで来た。

 

幸い、モンスターは居ない。空を飛ぶものも居ない。

 

──いける!

 

弾丸の如く、とは言えないが、それでも嫌なイメージを振り払う様に走り出した。

 

「はっ、はっ、はっ」

 

ぐちゃぐちゃなフォーム。

 

乱れた呼吸。

 

嫌な汗。

 

それでも、走り切った。運良く、モンスターと出会う事なく。

 

そして、キャンプにたどり着いた。

 

見事生還したのだ。

 

 

 

「ああ、あ、う、あ……っ!」

 

こうして、ベッドに倒れ込む事なく、ベッド手前でぶっ倒れたのだった。

寝心地最悪の筈の大地で眠りこけたが、その表情は安らかだった。

 

 

 

──リオレイアの討伐、リタイア。

 

 

 

 

 

 

「……これは、油断も慢心もそうだが、ボウガンは立ち回りが難しい。それでも、やるか?」

 

「す、すごい……!」

 

なんでこの子、目をキラキラと輝かせてるんだ。

 

「そんな状況、私だったら諦めてますもん。やっぱり、G級ハンターさんって、そういうところがすごいんですね」

 

あ、これあれだわ。

 

「……取り敢えず、飲み込んでから話せ」

 

飯が美味いだけだわ。

 




もう一話分続くと思うけどどうなるかはしらね。
こいついっつも育ててんな。

他に書きたい話が弓使いのが一話分くらいと、もう一つ他のを二話分くらいあるけど書けるかはしらね。
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