「ケイ卿が連れ去られ、ハルカが重傷」
フイミから情報を受け取った騎士を通じて無線でこの事実を聞いた時、アーサー王ことオースティンは、デスペラード戦を終えたラグル達の見舞いに来ていた。と言っても、皆自室で療養出来るくらいには快復している。
「俺は行くぜ」
「しかし、まだ傷が……」
「無花果戦で協力してもらったからな」
ラグルはコートを羽織り、支度を始める。彼には、ケイ卿達のピンチに駆けつける確かな理由がある。
「…………では、手配しよう」
当然、ラグル達で向かわせるわけにはいかない。しかし、現在円卓の騎士は、「無花果の会」、「グランドロン」、「鳳龍の一族」と立て続けに凶悪組織と対立しており、多忙な中でラグルと共に向かわせるCN騎士がいなかった。彼には優秀な部下もいるが、この案件に自室療養中のCN騎士一人と部下数人では少々心許ない。何より、ケイ卿とハルカを円卓に招き入れたのは、他でもないオースティンだ。
「私も同行する」
「オーステ院!?」
運命の歯車は、グリースが注がれたかのように、滑らかに動き出す。
20:39。オースティン、現着。
「もう屋敷に向かったか」
ヘリコプターを降り、屋敷に向かって歩く。気付くと、ラグル達は既に姿を消していた。屋敷に突入して最短でケイ卿を救出するつもりなのだろう。屋敷の情報を知らないこちらとしては、あまり無茶をしてほしくないものだが。オースティンは、携帯していた懐中電灯を点け、相棒のイクスを呼び出した。
「本当にアクセスが悪いな……」
ヘリコプターでの移動中、眼下には鬱蒼とした森林が広がっており、灯りはほとんど無かった。この付近にあるのは温泉街や古いキャンプ場くらいで、最近は人の気配も少ない。三方を山に囲まれ、一方は海に面した"陸の孤島"に、一族の屋敷は鎮座している。もう少し、近くで下ろしてもらっても良かったかもしれない。そんな事を考えていると、少し開けた土地に出た。木々が切り株を残して無くなっている。伐採地だったのだろうか。
「どうした?」
先行していたイクスが立ち止まり、臨戦体制に入る。ライトの先には、何もいない。だが、イクスの警戒は本物だ。この闇に紛れて、何者かが潜んでいる……。
ガキン!!!
大きな金属音がして、オースティンはすぐさま身を翻し後退する。イクスの剣は、肉食恐竜の頭を押さえつけていた。中型〜大型といったところだろうか。そのフォルムは、つい最近読んだ報告書で見覚えがあった。
「クリプトンか……!」
デスペラードを倒した直後に、円卓の騎士を再びウイルスの毒牙が襲う。イクスの剣から逃れたクリプトンは、続くイクスの斬撃を器用に回避し、イクスから距離を取って闇に紛れた。イクスは、クリプトンを匂いで探し出そうと、オースティンの周囲を歩き出した。イクスの嗅覚は鋭い。クリプトンが闇に紛れようと、その居場所を瞬時に見つけ出すだろう──────。
──────否。もし、この個体がデスペラードと同様に特殊なウイルスを持っていたとしたら。ウイルスは稀に"空気感染"するものもあるという。下手に近づいて空気を取り込むのは却って危険だ。
「距離を取るぞ、イクス」
オースティンの命令で、イクスはオースティンを守るようにして移動を始める。オースティンは、これまでのクリプトンの行動を分析し、作戦を立てる。彼を攻撃するタイミングはいつでもあった。しかし、開けた土地に出た瞬間に攻撃を始めたのだとしたら、やはりクリプトンは、狭い森林の中では力を発揮できないのだろう。ならば、ここは木々の生い茂る森林に戻り、嗅覚ではなく聴覚でクリプトンの居場所を察知する方が安全だ。オースティンは、イクスに指示を伝え、森の中へ後退する。その時、頭上から眩しい光が差し込んできた。
「っ!…………ドローンか」
空を切るような羽音を立てて、2機のドローンが宙を舞う。ドローンよりも向こう側には、人影があった。
「久しぶりだな、オースティン」
「…………アイラか」
オースティンは、アイラに歩み寄ろうとするが、クリプトンが立ち塞がった。オースティンは、アイラを睨みつける。
「そこを退け」
「断る」
オースティンとアイラの間に、しばし沈黙が流れる。
「何が目的だ」
「実力を測ろうと思ったんだ。俺とアンタの」
「"結果"が分からないお前ではない」
「"結果"は見えてる」
「はぁ……私は今、遊んでる暇が無い。先を急がせてもらう」
「これが遊びに見えんのか?」
互いに譲る気配が無いまま、時間だけが過ぎていく。月は完全に姿を隠してしまった。
「…………本気で邪魔をするんだな?」
「むしろアンタの任務の方が邪魔だよ」
「お前の醜態が晒されるぞ」
「そっくりそのまま返してやる」
イクスとクリプトン───確か名前はシュライヴだったか───は、互いに臨戦態勢を取る。
「君の"無敗神話"に、私が泥を塗ることになるとはな」
「元々あって無ぇようなもんだ。気にすんな」
イクスの剣が輝きを放ち、シュライヴの周囲に靄が掛かる。空気がビリビリと振動する。
「我が名はオースティン!騎士を導くアーサーの名を冠する者なり!」
「全力で来やがれ!!!オースティン!!!」
王に決戦を挑むのは、かつて王直属の騎士として戦略を練り上げ騎士達を導いた、"反騎士道"の男だった。
〜〜
キャンプ場の駐車場、キャンピングカーの中。すやすやと寝息を立てているハルカのそばで、フイミは眠りから目覚める。どうやら、アイラ達を見送った後、疲れて寝てしまったようだ。
「夢じゃ……ないんですよね」
フイミにとって、アイラは頼れる先輩騎士だった。常に状況を俯瞰し、最小限のリスクで最大限の結果を持って帰る。厨二病気質で女好きの変態なところは、昔から変わっていない。そのせいで女性陣からの評判は散々だったが、それでも彼の"反騎士道精神"は、円卓に所属した時から、他者を包み、護ってきた。それなのに…………。
「……………………」
彼は、ある日突然、円卓の騎士を永久追放された。