でもそんなの関係ねぇ。
遡ること、3年前。
「明日の『円卓の騎士』採用試験、一緒にチーム組まないか?」
大きな立食パーティー会場にて。高身長でガタイの良い、陽気な金髪男が話しかけてきた。今は大組織「円卓の騎士」の採用実技試験を明日に控えた受験生が、騎士達によるガイダンスを終えて、受験生同士の交流会を開いているのだ。皆、スーツやドレスを身にまとって談笑している。
「見たところ、随分とメンバーが多いな」
「当たり前だ。数が多いほど有利なのは戦の定石だからな!」
アイラは、そうとも言い切れない、と言いかけてやめた。見たところ、今回の試験のために地道な鍛錬を重ね、磐石な体制を整えているガチ勢なのだろう。とりあえず名前を尋ねる。
「名前は?」
「ラフト・ムーリトス。ラフトで良いよ!お前は?」
「アイラ・ラプレイス。アイラで良い」
「アイラか!よろしくな!で、チームには参加するのか?」
アイラは、水色に輝く炭酸水の入ったグラスを傾け、しばし考える素振りを見せてから、短く返す。
「悪いが、断る。明日は頑張ろうな」
ラフトは、「それなら仕方ない。互いに全力を尽くそう!」と言い残し去っていった。それと入れ替わるように、今度は黒い髪を肩まで伸ばした女が近づいてきた。瞳と同じ、翡翠色のドレスがよく似合う。年は同じくらいで身長は俺より低め。胸はCってとこか。うん、良い発育だ。
「別のチームに参加してるの?」
「いや、どこにも」
「まさか一人でやるつもり?」
「でなければ、この大盛況とも言える会場の中、たった一人グラスを傾けるなんて野暮な事はしない」
淡々と返す。あくまで“一匹狼”の姿勢は崩さない。つり目の彼女はなかなかの美人だし彼女が良ければ二人きりで抜け出したいところだが、今回の目的はナンパではないのだ。彼女はグラスを片手に、怪訝な表情を向けてきた。
「他のチームはよく分からないけど、少なくとも私がいるラフトのチームは本気で勝つつもりだよ。騎士の人達に積極的に話しかけて、傾向や対策を巧みに聞き出してるみたい」
「なるほど。それは懸命だな」
「本気で受かりたいなら、今すぐにでも考えを改めて、うちのチームに入ったら?」
「その必要は無いって意味で言ったんだよ、アヤミノお嬢さん」
「っ!?どうして私の名前を……」
それは簡単だ。答えるまでもない。誰とも話さず一人でこの会場に居たのは、参加者の情報を集めるためだ。アヤミノ・ヘルアス。普通の家庭で普通に育った、聡明な女性だ。
「君のお仲間が呼んでいるみたいだ。俺も用は済んだし、明日のためにゆっくり休むよ」
「…………そう。じゃあ、最後に一つ良い?」
アヤミノは目を細め、睨みつけるように言い放った。
「厨二病は、そろそろ卒業しといた方が身のためだよ」
────厨二病ではない。断じて、否である。アイラは、立ち去るアヤミノの背中を睨みつけた。
〜〜
翌日、青空の下。大きな屋敷の玄関前に15人の受験生が集結した。
「これより、『円卓の騎士』採用実技試験を行う!内容はずばり、“宝探し”だ!」
受験生の間で動揺の声が上がる中、ラフトは落ち着いてメンバーに指示を出す。
「先輩が言ってた傾向の通りだ。対策は立ててある。各自指示に従って動いてくれ」
「ラフトさん、いや隊長!今日はよろしくお願いします!」
まるで決起集会だ。ラフトの周りには参加者のうち13名が集まっていた。どうやら、彼はアイラ以外の受験生全員を抱き込んだらしい。なかなかのカリスマ性だ。感心していると、担当の騎士がルール説明を始めた。
「この“宝探し”は、今から入る屋敷の奥に隠された“宝”を回収する事で終了となり、回収したチームの中で特に優秀と判断された者が試験を通過する。宝の隠された部屋は入り口から離れた位置にあるが、奥にあるそれぞれの部屋にはCN付きの騎士が控えている。能率的な情報収集と戦闘の両立が重要だ」
リーダーには統率力が、その他の者にも判断力や発想力が問われる。まさに実戦型の採用試験といったところだ。
「なお、屋敷内にはトラップも仕掛けてある。脱出不能な場合は失格になるので、注意して進むように」
会場で少し耳に挟んだな。「理不尽トラップ」と、騎士達は呼んでいた。
「水分補給用の飲料水を配給する」
「ナヤマ君、皆の分の水を運んでもらえるか?」
「了解です」
ラフトよりも背が高く、筋骨隆々な男ナヤマが支給されたバッグに飲料水を詰め込み、片手で軽々と持ち上げた。そんな巨漢を尻目に俺は自分のペットボトルを回収する。
「それでは、今から60分。始めッ!!!」
迫力のある掛け声と共に、14人の男女が屋敷に突っ込んでいった。俺はというと、持参した折り畳み式の椅子───キャンプの時に使うようなタイプ───に座り、イヤホンを耳に差し込んだ。号令を掛けた騎士が近づいて来た。
「やる気を失くしたなら辞退の旨を伝え」
「その必要は無い」
騎士の発言を遮る。騎士は次の言葉に迷っているようだが、後ろから現れた男に突如深々と頭を下げた。
「お疲れ様です!アーサー王!」
「…………」
『円卓の騎士』における最高権力者、アーサー王が見学に来たようだ。さすがの王も、俺の行動が気になるらしい。
「…………行かないのか?」
「行くよ。少しタイムラグを作るけどな。今はタイミングを見計らっている」
「おい!言葉遣い!」
騎士が割って入ろうとしたが、アーサー王に止められた。
「そうか…………まあ、好きにすると良い」
そう言い残し、アーサー王と騎士は別の場所へ移動した。一人取り残された俺は、イヤホンから聴こえてくる音声に意識を集中し、メモを取っていく。実は、支給されたバッグに小型の盗聴器を仕掛けておいたのだ。
「入口付近のトラップで早速1名脱落。1階と2階の探索にそれぞれ7人と6人を配備。ラフトは2階。この2班が合流する事は施設の構造上無さそうなので、2階の6人がCN騎士と接敵、か」
その後30分ほど経過し、予想通り残ったのは2階の6人だけだった。1階は部屋こそたくさんあるが、トラップもその分だけ多く、宝を隠せるようなスペース自体存在しない。それに比べて2階にはトラップが少ない代わりに部屋ごとに十分なスペースが確保されており、CN騎士との戦闘に適している。その中でも最奥の部屋、大広間に“宝”はある。大広間には3人のCN騎士が待ち構えており、この試験の最後の砦となっている────というのが、昨夜アイラがここの担当清掃員を買収して得た屋敷の内装と試験の情報だ。採用試験で使う会場は毎年変わるため、先輩騎士からこれらの情報を得る事は出来ない。2階で激しい戦闘が行われている様子を音だけで察し、アイラは立ち上がってリュックを背負う。
屋敷の門をくぐると、まずは外壁に沿って北側に回る。北側の庭の地面には古ぼけた扉があり、鍵を壊して侵入する。そこからは簡単だ。この"隠し通路"を通って突き進むと、倉庫、調理室、大広間の順に部屋の裏側を抜けることができる。通路内の推定移動時間と、ラフト達の現在の行動を元に、ラフト達が最後の大広間で接敵した際に出来る隙を突いて“宝”を盗み取る作戦だ。このゲームは、“宝”を回収できたチームの中から合格者が決まる。つまり、単独で回収に成功した場合は自分のみが合格者となるわけだ。必ずしも他人と協力しなければならないわけではないし、そもそも事前に情報を得る手法にだって制限は無かった。我ながら完璧な作戦だ。
「にしても、狭いな……」
人が一人、やっと通れるくらいの通路内を、持参した懐中電灯の光を頼りに突き進んでいく。
〜〜
目的の大広間の裏側に着いた。壁の向こうでは激しい戦闘が行われているようだ。ラフト側の戦力は、ラフト含めて4名。よく残った方だと思う。では、ここからどのようにして大広間に入ろうか。盗聴器の音声に耳を傾けてみると、ラフト達の“宝”に対する言及は無い。怪しそうなポイントから探そうとしたが、ふとここで通路がまだ奥に繋がっていることに気づいた。
「なるほど。隠し部屋か」
大広間にいたら、戦闘どころで意識が向かなかっただろう。通路最奥の埃だらけの扉をこじ開けると、小さな部屋の奥に古めかしい箱が置かれていた。室内に騎士は居ない。俺は、ポケットから一枚のメダルを取り出し、相棒を呼び出す。
「シュライヴ。悪いが、罠が無いか確認してくれ」
白いメダルから現れたのはクリプトン。小学生の時から行動を共にし、アイラ以外の人間には心を開かない。シュライヴは部屋の中を歩き回り、異常が無い事を確かめると、アイラに合図を送った。
「サンキュー」
箱に手を伸ばし、蓋を開けた。その瞬間、隠し部屋の扉が開いた。
「はぁ、はぁ…………アイラ君か…………」
「何で…………なんでアンタがここに…………!?」
ラフト、アヤミノ、ナヤマ、そしてもう一人の女性───確かニジナだった気がする───は、難関を無事突破してこの隠し部屋の存在にも気付いたようだ。戦闘と探索を同時並行で行っていたと考えられる。
「そういう事だ。数や先人の知恵が揃えば良いってもんじゃない。最小限のリスクで最大限の結果を得るにはどうするかを考えるのが“戦い”だ」
俺の合格は決まったな。アイラは勝利を確信し、箱の中に入っていた小切手───採用試験合格者にはいくらか賞金が充てられるようだ───を回収し、部屋を出ようとする。
「終了だ」
響く低音。アーサー王の声だ。
「ラフト率いるチームの活躍は素晴らしかった。アヤミノの冷静な判断力、ナヤマの鍛え抜かれた筋力と胆力、ニジナの卓越したリバイバー戦闘力、そしてそれらを適切にまとめあげたラフトの統率力。見事だった。君たちは合格だ」
「本当ですか!?!?」
「やったー!!」
驚嘆するラフトと全身で喜びを表現するニジナ。アイラが想定していた展開とは違う。
「…………待て。この試験の採用基準は?」
「“騎士としての適性”だ。騎士達から聞かなかったか?」
「っ…………!?」
そうだ。ただの清掃員が細かい採用基準まで知るわけが無い。ゲームの攻略法ばかりを気にしすぎて、『適性を見られる試験』であることを忘れていたのか……!
「チッ………………分かったよ」
ラフトに小切手を渡し、足早に部屋を出た。今回は自分のミスだ。バイトで稼いだ受験料が無駄になった。
「ラフト達を本部の会議室へ案内してくれ」
アーサー王から合格の判を押され、歓喜の声が後ろから聞こえて来る。早くこの屋敷から出よう。大広間も廊下も、人が生活出来る空間でありながら、隠し通路内の空気よりも重く感じた。
「アイラ君」
階段を降りようとした時、女性騎士に呼び止められた。赤髪とそばかすがよく似合う。
「君はどうして、この採用試験を受けたんだい?」
「俺の特技が活かせそうだったから。それだけだ」
「なるほど。『騎士になりたかった』わけではないんだね」
「器用貧乏な人間は、一つの信念を貫く騎士には向いてない」
「でも器用貧乏は確実に役立つスキルだ」
「この組織は求めてない」
「今までは、ね」
どういう事だ?
「付いてきな」
赤髪の女性騎士に案内され、近くの部屋に入る。部屋の中央にある円卓の側で立ったまましばらく待っていると、アーサー王が入って来た。アーサー王は、部屋の入口から一番奥にある席に腰を下ろし、真っ直ぐにアイラを見つめてきた。
「これまで、この採用試験では“騎士としての適性”を見てきた。しかし、長きに渡って運営してきたこの組織も、時代と人々の変化に合わせ、少しずつ『視野を広げていく』必要があるという考えに至った」
「…………つまり?」
「ルールの穴を突き、姑息な手段で結果を手に入れる反騎士道精神。大いに結構だ。周囲の騎士達に迷惑を掛けないと誓うのであれば、君を採用しようと思う」
「………………」
期待していた結果を得るために、予想外の展開を経ることになった。屋敷を出たアイラは、青空の下で喜びの雄叫びを上げた。
アイラ・ラプレイスの所属は、CN騎士とは異なる王直属の一般騎士編成隊「クロニクル」だった。アイラの所属決定と同時に編成された組織で、CN騎士やその部下、一般騎士達に情報提供を行うのがメインだ。
「といっても、構成員は君一人だけだ」
「は?」
「悪いが、人手不足なんだ。その代わり、情報収集の際は、私の直属の部下としての権限を使ってもらって構わない」
「それは何より」
アイラは、アーサー王に連れられ、拠点となる居室に案内された。
「今日からここが、君のオフィスだ」
「広いなぁ」
「一人は寂しいか?」
「全然。むしろ快適だよ」
「では、今日はゆっくり休むと良い」
「アーサー王はこれから?」
「CN騎士達と定例会議だ」
「お忙しいようで」
「しばらくしたら、君にも報告など諸々手伝ってもらう」
「了解」
青いカーテンの向こうから暖かい日差しが差し込む。アイラの円卓騎士生活が始まった。
〜〜
「アイラ君!!!円卓加入おめでとう!!!」
ラフトがデカい声でアイラを祝福する。彼らは、円卓御用達の飲食店で行われた新入騎士達の歓迎会に参加していた。
「いちいち声がデケぇよ、ラフト」
「これからは同じ組織の仲間同士、仲良くしよう!!!」
「それはお互い様だ!」
ラフトとアイラが盃を交わす。といっても、彼らの手にあるのはノンアルコールドリンクの入ったジョッキだ。合格したのだから、"一匹狼"なんて設定は忘れて、今日は存分に楽しもう。
「うるさい仲間が増えた……」
「いんじゃない?これはこれで」
アヤミノとニジナが、少し離れた席で野郎に冷ややかな視線を送る。
「騎士志望って言うから、てっきりもう少しクールな男ばっかだと思ってた」
「それはド偏見過ぎるでしょ。力仕事が多いんだから、体育会系がほとんどなんじゃない?」
「でも、CN騎士には女性も多いって聞いたけど?」
「あれは、なんかアタシらとは違う世界の住人でしょ」
運ばれてきた料理を真っ先に啄んでいく女性陣をよそに、ラフトとアイラは、もう一人の同期であるナヤマに話しかけていた。
「ナヤマ君!君は、いつもどこで鍛えてるんだい?」
「じ、自室です……」
「おいおい、まさか自前のトレーニング器具とかあったりすんのか??」
「い、一応……」
「「………………マジか」」
ナヤマは、比較的大人しい性格のようだ。話を聞いてみると、どうやら実家がスポーツジムらしい。
「両親は、ジムでたくさんの選手を見てて……僕も、そんな両親みたいに強い人になりたくて、それで円卓に入りました」
「良い心掛けだ!!!」
「素晴らしい!」
「ふ、二人は、どうして円卓入ったんですか……?」
「俺は、困ってる人を助ける最高の騎士になるためだ!!!」
「す……すごいですね……!!」
「良いねぇ!目指せ世界平和!」
「アイラ君はどうだい??」
「俺は、自分のスキルを活かしたいから、かな」
「良いですね……アイラさん、頭良いですし、ピッタリです……!」
「よっ!!!円卓の新たな風!!!ダイセンプウ!!!」
「ダイセンプウは言い過ぎだろ!」
「二人はどうかな??」
ラフトが、今度は女性陣に話題を振る。
「…………ニジナは?」
「アタシは、父さんとの約束。父さんは警察官やってて、小さい頃に『一緒に街を守る』って約束したんだよね」
「へぇ〜。意外」
「熱い家族の絆だな!!!」
「かっけぇぇぇぇ!」
「良いですね……お互い頑張りましょう……!」
「はい。次アヤの番」
「えぇ〜……」
アヤミノは4人からの視線を受ける。耳を赤くし、横髪をいじり始めた。
「えーっと…………特に無いんだよね。あはは」
「………………」
うるさかった卓が急に静まり返った。他の卓にいる先輩騎士達の声が鮮明に聞こえてくる。
「え。なんか、ごめ」
「特に無い!!!素晴らしい!!!」
「無の境地だ!辿り着いたのか!」
「無の境地……かっこいいですね……!」
「ぎゃっはっはっは!ウケる〜!」
「アンタらフォロー下手くそ過ぎでしょっ!」
歓迎会は、まだ青いアイラ達の思い出深い門出となった。
〜〜
青々とした牧草が生い茂る。乳牛が穏やかに食んでいる横で、アーサー王とアイラは農家の依頼を聞いていた。
「昨日、ついにうちのがやられてねぇ。これでここいらの農家みんなやられた事になる」
「野良リバイバー被害と見て、間違い無さそうですか?」
「間違いねぇ。恐竜出るようになってから、キツネも、クマも、綺麗さっぱりいねぇんだわ」
この数年、農家たちの乳牛や肉牛、豚、ブロイラー(食用若鶏)が次々に襲撃される事件が相次いだ。犯人は、現場に残された足跡と襲撃された家畜の惨憺たる様子から、中型の肉食獣脚類リバイバーである事が予想された。アイラは現場に足を踏み入れる。凄惨な光景が広がっている中、何とか対象リバイバーの特徴を絞り出そうとする。しばらくして、アーサー王が話しかけてきた。
「リバイバーの種類は分かるか?」
「そこまではまだ。でも、水属性だ」
「その根拠は?」
「ここもそうだが、どの現場も死体の置かれた地面がびしょ濡れだ。いくら日当たりが悪くても、ここまで湿っているのはあり得ない。意図的に水を使ったんだ」
「何のために?」
「最初は狩り目的だと思ったが、襲撃されたと見られる場所には血溜まりしかなかった。こればかりは直接見てみないと何とも言えないな」
アイラが手元のメモ帳の上でペンを走らせる。綿密な捕獲作戦を立てているようだ。
「騎士は何人必要だ?」
「リスクは最小限で済ませる。俺とCNが一人で十分だ」
「これまで一度も人前に姿を現さなかったリバイバーに、二人だけでどうやって立ち向かう?」
「誰でもいいわけじゃない。後で伝える条件に合うCNを連れてきてほしい」
「良いだろう。他に必要な物はあるか?」
「出来れば新品のトラップと、動体センサー付きカメラをそれぞれ3セットずつ。これまで"コイツ"が罠に掛かった事は一度も無いが、どの場所でも足跡が見られた。縄張りに置かれたトラップに興味を示していると分かる。後はカメラで動きを捉えて、夜明け前に位置特定して捕獲だ」
「分かった。手配しておこう」
その日の午前4時過ぎ頃、仕掛けられたトラップ周辺に置かれたカメラが、トラップの周囲を歩き回る1頭のディロフォサウルスを捉えた。ディロフォサウルスは、罠の周囲を嗅ぎ回った後、頭上に向かって口から水を吐き出した。その水を頭から被ると、どこかへ走り去ってしまった。
その一時間後、ディロフォサウルスはアイラと接敵した。
「よぉ、綺麗好き。これから朝飯か?」
ディロフォサウルスは牙を見せ、アイラを威嚇する。人間が敵意を向けている事を理解しているのだ。
「シュライヴ。コイツを正気に戻してやれ」
アイラの左手から放り投げられたメダルは、クリプトンに変化した。体格差が露わになる。ディロフォサウルスは、水の攻撃でシュライヴを牽制すると、踵を返して逃げ出した。
「もうすぐ射程に入る」
アイラが指示を出した。ディロフォサウルスは、狭い森の中を軽快に駆け回る。アイラは追って来なかった。ディロフォサウルスはそのまま木々の間を駆け抜ける。不意に、木々の間が一直線に開いた狭い獣道を横切った。警戒心の強いディロフォサウルスは、嗅覚で対象の位置が分かる。しかし、その"高性能レーダー"は、対象が遠すぎると捉えられない。距離にして1.5キロメートル。感知できるはずもない。ディロフォサウルスが獣道を横切る瞬間、気付いた時には既に、彼の横腹は角で貫かれていた。遅れて、轟音が周囲を震わせる。ライフルの弾丸のように、黄金の駆体が超高速で突進してきたのだ。
「『直往邁進』」
白いオーラを放つ可憐な少女が、マントを翻す。頭痛に少し顔を歪めるが、決着が早かったためか代償の影響は少ない。
「よくやった。ガレス卿」
「ありがとうございます……!」
アーサー王からの激励に、ガレス卿が目を輝かせる。加護とはまた違った純真さを放っている。
「すげぇな〜。これが"円卓の加護"か……」
アイラはアーサー王達の元へ遅れてやって来る。獣道には轍のような跡が刻まれ、辺りには煙が立ち込めていた。
「苦手属性相手にも一撃で決められるって、まさにチート能力だな」
アイラは、落ちていたディロンのメダルを拾った。
「アイラ」
「どうした?アーサー王。別に"コイツ"を盗んだりはしねぇよ」
「いや、加護の件だ。本来、加護は代償の重さから、それ相応の有事でない限り使用しない。まだ慣れていない加護の経験を重ねるという目的で応じてくれたガレス卿の恩情を忘れないでほしい」
アーサー王が、アイラに厳しい表情を向ける。ガレス卿は、ビューメインと呼ばれているオミアシにもたれかかっていた。
「安心してくれ。アフターケアは考えてある。ただ……そうか。円卓の加護は騎士の間では"とっておき"なのか」
「何が言いたい?」
「いや、今回は野良相手だから認識しづらいかもしれないが、相手が円卓をよく知る人物なら、初めから王手を掛けるというのも戦略の一つになるのかなぁ、と」
「…………それは、相手を正しく見定める必要があるな」
アイラは満悦の表情で、ディロンのメダルをアーサー王に渡す。そして、少しずつ回復してきたガレス卿に近づき、目の前で跪いた。
「ご協力感謝します、ガレス卿。もうすぐ日の出の時刻で、腹も空く事でしょう。もし宜しければ、俺と一緒に近くのカフェでモーニングでもいかぐぼぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ビューメインが高速でアイラに突っ込んできた。
「…………まさか、最初からこれが目的という訳ではないよな?」
アーサー王は呆れた様子で、倒れ込むアイラを見つめていた。