星と騎士と宝石と楽器と花の話   作:ドリベンタス

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前回までのあらすじ。

ケイ達の元へ、ハルカの姉「クオン」が訪ねてきた。クオンが手渡した温泉旅行券でケイ達は温泉旅館に向かうも、長女の「ハセク」の策略によって、ケイは連れ去られ、ハルカは重傷を負って倒れてしまう。参謀のフイミは、ハルカを連れて追手から逃れながら、ケイ卿を取り戻すために屋敷へ向かう。フイミ達は、途中で出会ったアイラ・ラプレイスをリーダーとするチームに助けられ、フイミは運命の相手であるアイラの指示で療養中のハルカの護衛を任される。ケイ達に助力すべく、オースティンとラグル達が屋敷に向かうも、オースティンは彼に複雑な感情を抱くアイラに足止めされ、最終的に本拠地の防御を固める事を目的としてキャメロッ島へ帰還する事になる。時を同じくして、屋敷から送られた武装組織に包囲されたフイミ達の元へ、突如としてお花リバイバーを連れたユミレと千枝が現れ、千枝の"桜の力"でハルカを完全復活させた。

後半戦スタート。


ケイ卿篇 ハルカトオキサクラ Ep. 8「快楽を求めて」

 

 

 

 

 車から降りて屋敷に入ると、旅館のような佇まいがケイを出迎えた。黒いスーツの人達に連れられ、和室に通される。何人かの人達が出て行った後、部屋にはケイと一人の男が残された。

 

「ケイ殿」

 

 男が急に口を開いて、ケイは内心焦った。

 

「ケイ殿は、ハルカ様とどのような関係にありますか?」

 

 えっ、ここでも聞かれるの?というか、今聞く話かこれ。ケイは慎重に言葉を選ぶが、本心は隠さずに答えた。

 

「…………誰よりも護るべき大切な人、です」

「それは、安心しました」

 

 男は、穏やかな笑みを浮かべる。サングラスの奥からでも、にこやかなのが分かる。

 

「ケイ殿。親方様には、『客人が来ている』とだけ、お伝えしてあります」

「えっ!?」

「ケイ殿がハセク様に反抗せず、大人しくしていたおかげで、今は上手く誤魔化せています。ですが、それも長くはありません。しかし、屋敷から出てしまうのは、警備の観点から却って危険です。ケイ殿は、親方様に見つからないように屋敷を逃げ回り、脱出の糸口を見つけて下さい」

「貴方は、そんな事をして大丈夫なんですか?」

「…………生きては、帰れないかもしれません。ですが、良いのです。ハルカ様に幸せになってもらうには、貴方に生きててもらう事の方が、何倍も重要です」

「………………」

「後に分かる事ではあると思いますが、親方様は足が悪く、自分の身体で追跡する事は困難です。マサツグ様やホツカ様に見つからなければ、この入り組んだ屋敷の中、逃げ回る事は造作もありません」

「防犯カメラは?」

「こちらに配置図があります」

 

 男が、折り畳まれた屋敷の設計図を渡してきた。まるで迷路のようだ。小さな赤い線は、防犯カメラの視野角を表しているのだろう。

 

「私から話せる事は以上です。ご健闘を」

「ありがとうございます」

 

 現在地を瞬時に特定し、ケイは襖を開け…………るのではなく、掛け軸を捲って隠し扉から部屋を出た。

 

「…………………………親方様」

 

 男は、襖の奥にいた車椅子の老人に、声を掛ける。

 

「よくやった。鬼ごっこは久しぶりだな。腕が鳴る。腕はろくに動かんが。がっはっはっは!」

 

 老人は、しわがれた声で冗談を言うと、車椅子のレバーを引き、走り去った。

 

「申し訳ありません。ケイ殿………………」

 

 迷路のような屋敷を舞台に、地獄の鬼ごっこが始まる─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「確か、ここが…………」

 

 隠し通路から廊下に出て、防犯カメラの死角を通り、目的の場所に辿り着いた。脱出を優先するのが先決だが、説明があった通り、屋敷周辺の警備は万全だ。今は脱出の機会を待つべきだろう。それまでの間、ケイは鳳龍の一族の事を知るために、屋敷内の書庫に来ていた。

 

「日記や伝承がまとまった本があれば良いんだが…………あっ」

 

 スマホのライトで、背表紙を流し見る。目的の本はすぐに見つかった。

 

「『鳳龍の一族 栄枯盛衰』」

 

 パラパラとページを捲る。著者名は記録されていない。おそらく、屋敷の従者の一人が、鳳龍の一族の歴史をまとめ上げ、一冊の本にしてくれたのだろう。ケイが夢中になって読んでいると、入口の方から廊下を擦る音が聞こえてきた。

 

「!?」

 

 ケイは、慌てて書棚の奥に隠れる。一つしかない出入口から入ってきたのは、車椅子に乗った老人だった。

 

「さあて、さあて。賢い少年は、どこに隠れたのかな〜?」

 

 老人は顎以外を動かさない。だが、声の持つ雰囲気で全てを察した。この人が、この屋敷の当主にして、鳳龍の一族のトップ、威世省三(イセ ショウゾウ)だ─────!

 

「私が君なら、まずは書庫で情報収集するね。君もそうなんだろ?」

 

 車椅子がゆっくりとケイのいる場所に近づいて来る。ケイは、ショウゾウの死角から動き出し、棚をすり抜けて出入口を目指す。

 

「いるんだろ?私が外すわけがない。客人なら、当主に挨拶の一つはあっても良いんじゃないか?ああ、今更挨拶なんてしなくても、お互い分かるか。がっはっはっは!」

 

 はつらつと動き回るショウゾウは、ただただ不気味だった。ケイは、出入口に近付く。このまま外に出れば。

 

「見ぃつけた」

 

 ………………しまった。ショウゾウの目の前には、『鏡』があった。ショウゾウは、最初からケイを探すつもりはなかった。出入口が見える鏡の前で、逃げ出すケイを待っていれば良かったのだ。ケイは、一目散に書庫を出る。扉を閉めようと思ったが、それよりも逃げる事を優先した。扉を離れたその瞬間、後方で爆発音がした。

 

「な、何が……!?」

 

 ガラガラと崩れる木片と立ち昇る煙の中から、ショウゾウは現れた。車椅子の横には、銃火器のような物が付いていた。

 

「嘘だろ……!」

 

 ケイは脇目も振らずに、屋敷の廊下を走り抜けた。どこかで、読む時間を確保しなければ。いや、それよりも、一度カムランを出してその場を凌ぐか……!

 

「…………カムラン?」

 

 メダルのカムランと、"共鳴"で意識をリンクさせる。カムランは、どうやら外に出たくないようだ。

 

「何が起こっているんだ?」

 

 屋敷に入った時から、カムランの様子がおかしい。まるで、恐ろしい何かに怯えているような。思えば、鳳龍の一族の関係者は、リバイバーを一切使ってこない。何か関係があるのだろうか。ケイは廊下を駆け回りながら、思考を巡らせる。

 

「唐突な老害の語りで悪いんだが、君は『寸劇の巨神』を読んだ事はあるか?最近アニメの方も完結したと聞いたが、正直漫画原作のエンディングの方が主人公の孤高さが際立っていて非常に味があったと思うんだが」

 

 なんか語り出した!?老人とは思えぬ若者文化への理解の深さで思考が乱される……!!

 

「そうそう。君のところにも、『アーサー王』を名乗るボスがいるらしいな。『アーサー王伝説』は私も読んだことがある。派生したゲーム原作のコミカライズだけどな。がっはっはっは!」

 

 とにかく、まずは追跡を撒かなければ。確かこっちに階段があったはずだ。ケイは、廊下の角を曲がり、少し開けた場所を目指す。

 

「君のところのアーサー王、噂によれば私よりも随分若造ではないか。西洋の剣術は漫画でしか見た事がないから、一度この目で本物を見てみたいと思っていたところでな」

 

 ショウゾウが銃器をぶっ放す。どんな形式かは分からない。車椅子同様、おそらく改造されている。とんでもない火薬量で打ち出された弾は、着弾地点周辺を瞬く間に灰燼に帰す。ケイは、階段を駆け上がり、上の階へ辿り着いた。車椅子なら、上層階には上がって来れない。だが、彼が所有する屋敷だ。もしかしたら、フロアを移動するためのバリアフリー建築を持ち合わせているかもしれない。ケイは階段から反対方向に走り、安全に過ごせる部屋を探した。

 

 下層のショウゾウは、階段の前に辿り着いた。

 

「上がったか」

「あの、お祖父様」

 

 後方から、落ち着いた声が聞こえてきた。ショウゾウが振り向くと、そこにはスーツを身にまとい、四角いメガネを掛けた細身の若い男が立っていた。腰には刀を携えている。

 

「従者の方々が消火活動に手を焼いています」

「人力の消火活動なのだから多少は手も焼けてしまうだろう。がっはっはっは!」

「笑い事ではありません。屋敷を燃やす気ですか?」

「咲昏≪サクラ≫の血を根絶やしに出来るなら、全て燃やしてしまっても良いのだが?」

「……………………」

「安心したまえ。屋敷は壊すかもしれんが、流石に全焼は厄介だ。私が燃やすと火災保険が下りないかもしれないし。というか、マサツグもお前も、屋敷を壊すくらいは暴れたいのではないか?」

「……気を付けます」

「どっちの意味かな?」

「両方の意味です。『屋敷の全壊』と、『ハルカの太刀筋』について」

「お前達を過小評価するつもりは無いが、ハルカは強いぞ?実戦経験がある上に、アイツは"最も寵愛を受けている"」

「ですが、私と兄がいれば最強です。私も実戦経験を積んでますし、寵愛は兄も受けています」

「がっはっはっは!一族は安泰だな。ハルカを任せたぞ」

 

 ショウゾウは、豪快に笑いながら車椅子を走らせる。メガネの男"ホツカ"は、黙って見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 鬼ごっこ開始から30分。ケイは、ようやく落ち着ける部屋を見つけて本を高速で読んでいた。

 

「なるほど。つまり…………」

 

 脳内で点と点が繋がっていく。鳳龍の一族の誕生から咲昏家との因縁、そして現在までの道筋。ケイは、何か引っかかるような感覚に襲われる。それは、思い出さなくてはいけない、大切な記憶───。

 

「せいやーっ!!!」

「おわぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 突如部屋の窓ガラスが豪快に破られた。破片と共に突入してきたのは、ラグルだった。

 

「ブルーノ卿!何でここに!?」

「友のピンチに参上〜!ケガしてない?」

「今のところ特には…………あっ」

「ん?どした?」

「窓ガラスの破片が…………」

「あ…………」

 

 ケイが持っていた絆創膏を小さな傷口に貼り、気を取り直す。

 

「ケイ。脱出するぞ!」

「いや、今は無理です。入って来るのは楽かもしれませんが、出るのは難しい・・・それに、脱出出来てもまた命を狙われるなら、ここで当主のショウゾウを片付けるしかありません」

「まあ、そうだろうな〜…………ん?」

「どうかしましたか?」

 

 ラグルは、立っていた床をまじまじと見つめる。

 

「この床、下に何かあるぞ。明らかに空洞になってる」

「部屋のつくりじゃないですか?」

「いや、踏めば分かる。他と違う」

「ちょうど近くにピッケルがありました。掘り出してみましょう」

「なんで近くにピッケルがあんだよ」

 

 ケイはラグルが立っていた場所に、ピッケルを振り落とした。

 

 

 

 

 大量のマンガを掘り出した!

 

「いつの少年キャンプだよこれ……」

 

 ズボズボと音がして、穴の中から機械の腕が出てきた。老人を乗せた車椅子がゆっくりと上がって来る。

 

「おっと、そのマンガは渡さないぜ!……なんてな!がっはっはっは!」

 

 

 

 

 

 

 

 ──────地獄の鬼ごっこが再開した。

 

 

 

 

 

 

「何で車椅子乗ってるジジイが穴の中から出てくんだよっ!!」

「あの車椅子、相当改造されてるみたいですね……」

 

 ケイとラグルは、廊下を駆け回る。

 

「で、何か糸口は見つかったか?」

「はい。とりあえず、一族の歴史が分かりました。ここに、ショウゾウ攻略のヒントがあったんです」

 

 ケイは、ラグルに一族の歴史を簡潔に説明した──────。

 

 

 




「所詮は鳥頭か」
「よくも、よくもおおおおおお!!!」
「サボってる・・・って訳じゃなさそうだな」
「これは・・・あり得ない・・・」
「新しいシナリオを始めようじゃないか!」

次回、Ep. 9「始まりの鳥」。
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