ケイの命を狙う"鳳龍の一族"こと威世家の屋敷に連れて来られたケイは、当主である威世省三(イセ ショウゾウ)の策略で地獄の鬼ごっこに巻き込まれる。ケイは途中で侵入して来たラグルと合流した後、ショウゾウ攻略のヒントを探るために、屋敷内の図書室で入手した本に記された咲昏家と威世家の因縁の始まりのエピソードをラグルと共有する。
時は幕末。欧米諸国勢力の開国要求を受け、新時代のうねりと共に多くの混乱が生じ、国内で内乱が勃発していた激動の時代。咲昏家と威世家は、共に地域の藩主に仕える名家であった。両家は良好で密接な関係性を築いており、諍いがあるとすれば、「東西どちらから見る山がより美しいか」、「どちらで取れる海産物がより美味か」程度のものであった。
ある日、それぞれの当主である咲昏有葉(さくら あるは)と威世邦吉(いせ くによし)が、砂浜に面した茶屋で商談をしていた時のことだった。
「邦吉。何やら人が集まっておる」
「珍しい物でも打ち上がったんか?」
興味が湧いた二人が人だかりに近寄ると、波に洗われている鳥のような生物が倒れているのが目に入った。白い羽に覆われているが、鳥にしては尾羽が長く、口の形状はトカゲのようだった。
「尾長鶏ではないか?」
「いいや、顔は鶏じゃない。知人に動物に詳しい者がおる。ワシが引き取ろう」
「頼むぞ、邦吉」
邦吉は、この奇妙な生物を持ち帰る事にした。まだ息があったので、麻布にくるみ、湯を染み込ませた布の切れ端で身体を拭き、温めた。野生動物に詳しい猟師の知人が、邦吉の元を訪れた。
「……分からんねぇ。オラ、ここらで二十年猟師やってっけども、こんな奇っ怪な奴ぁ、見た事ぁねぇ。もしかしたら、『神の使い』かもしれんな!はっはっは!」
陽気な猟師は豪快に笑うと、出された茶を一気に飲み干した。神への信仰心が薄い邦吉は、不思議な生物をひとまず飼育する事にした。しばらくすると、その不思議な鳥は生気を取り戻し、徐々に羽ばたく動作を取るようになった。一方で、邦吉は鳥に執心するようになっていった。
「邦吉。鳥の世話も大事じゃが、自分の世話も怠ったらいかんよ」
「悪いが帰ってくれ。もうすぐコイツは空を飛べるようになる。そうなれば、ワシとコイツで天下も取れる」
「鳥と組んで天下取れるんなら、信長もホトトギス殺さんじゃろ・・・」
そして、数ヶ月後。剣術の稽古に励んでいた有葉の前に、痩せ細った邦吉が現れた。邦吉の目は充血し、口の端から唾液がこぼれていた。
「何じゃ、山籠りでもしてたんか」
「ワシは・・・天下取るぞ・・・有葉」
「ほんなら、まずは飯食ってけ。腹が減っては戦もできぬし、夜の女にも勝てぬ」
「黙れ!!!」
邦吉は、荒い呼吸のまま、腰に提げた刀を抜く。有葉は、木刀を構え直した。
「お主とやり合うのは久々じゃの。腕鈍っとらんか?」
「きえやあああああああああああああ!!!!!」
邦吉からは、禍々しい殺気が溢れていた。よく見ると、邦吉の刀には血の跡が付いている。有葉は、邦吉の剣戟をひらり、ひらりと回避すると、木刀の先端を邦吉の腹に正確に突き刺した。急所に一撃を喰らった邦吉は、千鳥足で後退すると、膝をついて倒れ込んだ。
「邦吉。お主は昔っから、血気盛んな武士《もののふ》じゃった。荒ぶる虎を嗜めるのに、こちとらどれだけ苦労したことか」
「はぁ・・・はぁ・・・」
邦吉は、怒りと憎しみに満ちたような両目を有葉に向けた。
「・・・そうか」
有葉は、瞬時に邦吉の背後を取ると、木刀の柄の先で邦吉の後頭部を叩いた。不意を突かれた邦吉が力尽きて地面に伏すのを見送ると、有葉はすぐさま駆け出した。途中、斬り殺された町人や役人を目の端で捉えた。威世家の屋敷に辿り着くと、荒らされた敷地内を駆け抜け、不穏な空気の漂う広間へと向かった。折られ、破られ、倒された障子の先に、邦吉と同じく禍々しい殺気を纏った一羽の鳥が佇んでいた。
「”鳥”というよりは”龍”の類じゃったか。化け物」
鳥は、甲高い叫び声を上げながら羽ばたくと、広間を飛び出した。有葉は、襖や障子を突き破り、逃げ回る鳥を最短距離で追跡した。有葉は、狙いを定めて木刀を斜め上から振り下ろそうとするも、近くの柱に木刀が引っかかり、うまく振り下ろせなかった。その様子を見ていた鳥は、踵を返すと、有葉に向かって足先の爪を立て、一直線で突っ込んできた。
「───────所詮は”鳥頭”か」
有葉は、鳥が間合に入った瞬間、木刀に一気に力を乗せ、柱を抉り取って鳥を薙ぎ払った。鳥は壁に身体を強く叩きつけられ、床に墜落した。鳥は脳震盪を起こし、身動きが取れないまま、有葉に首を掴まれた。
「我が盟友を呪った罪、地獄の果てで償い、その羽を散らすが良い」
有葉は、木刀を振り、鳥の首を切断した。
「有葉・・・」
邦吉は、有葉を追って屋敷に戻ってきた。有葉は両膝をつき、頭を下げた。
「すまぬ。鳥の首を落とした。あれは呪いの類じゃ。生かしてはおけぬ」
「・・・許さん。よくも、よくもおおおおおお!!!!」
邦吉は、今度は目に涙を浮かべ、絶叫した。
「そこまで情が湧いていたか。無理も無い。愛嬌だけはあったからのう」
邦吉は、再び刀を握り締め、有葉に斬り掛かった。有葉は目を閉じ、木刀を握り直した。
「これで終わりか、邦吉───」
有葉は邦吉の腕に木刀を当てて動きを封じると、そのまま駆け出して屋敷を出ていった。かつて、邦吉と共に過ごした記憶が脳裏を過ぎる。有葉は、涙を堪え、三日三晩逃げ続けた。
“遠き日に 海を夢見た 川清水 袂分かちて 交じることなく”
〜〜
時は現代。ケイとラグルは、威世家屋敷の一室で身を潜め、鳳龍の一族にまつわる歴史の概要を共有していた。
「この一件以来、威世家の当主には、咲昏の行動を罪とする教育と、鳥が滅びてなお続く呪いが継承されてきました」
「それは分かったけど、結局あのイカれジジイはどう倒すんだ?」
「威世家の憎しみの元は、おそらく”例の呪い師”が作り上げたリバイバーでしょう。リバイバーが呪いの元凶なら、カセキバトルで”祓える”」
「いいね〜、やっぱりこういう展開じゃないと」
「ただ、一つ問題があります。カムランが外に出たがらないんです」
「この期に及んでサボってる・・・って訳じゃなさそうだな」
カムランは、何かに怯えている。先程よりも激しい。ケイ達には感じ取れない危機が迫っているのだろうか────。
「ケイ!!!」
ラグルの声で我に返る。その瞬間、床が大きく崩れた。
「あのジジイ・・・!」
「これは・・・あり得ない・・・」
落下するケイ達の目の前には、人を丸呑みできるほど巨大な蛇の首が二つあった。二つの首は下層へと続いている。
「ブークリエ!!」
ラグルが相棒のメダルを投げる。閃光と共に、ブークリエの丸い巨体が現れた。ブークリエは両手を結ぶと、巨大な蛇の頭の一つに強く振り下ろした。蛇の頭はさらに下層の床に叩きつけられ、建物全体が振動した。
「カムラン・・・!」
ケイもカムランに呼びかけるが、やはりカムランは出たがらない。二人の騎士と一匹のメガテリーは、そのまま下層の大広間に降り立った。天井が崩れ落ちたため、三階分くらいの高さがある。
「随分と長く逃げ切ったものだ。車椅子のバッテリーがそろそろ切れそうでな。楽しんでるとこ悪いが、ここからは最終ラウンドといかせてもらう」
二人と一匹の前に立ちはだかったのは、巨大な蛇の首が八つ並ぶ、”あり得るはずのない”存在だった。それは、赤い瞳に白く光る鱗を持ち、長く太い胴体に足はなく、大広間の真ん中で待ち構えるように鎮座していた。
「ヒュドラか!?」
「いや、おそらく『八岐大蛇《ヤマタノオロチ》』・・・!」
沈んでいた蛇の首が持ち上がる。全部で十六の瞳が、ケイ達を見据えていた。ヤマタノオロチの奥に、ショウゾウは堂々と座っていた。
「日本神話も、イギリスの英雄譚も巻き込んで、新しいシナリオをここに作ろうじゃないか!がっはっはっは!」
「ケイに伝えて」
「もう大丈夫です!」
「無視してんじゃねぇぞっ!」
「一族の血が絶える瞬間だ!」
次回、Ep. 10「戦略と謀略」