星と騎士と宝石と楽器と花の話   作:ドリベンタス

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ケイ卿篇です。過去作もこっちの方に投稿していきます。


ケイ卿篇「デートは計画的に」

 

「あの……ハルカ、さん?」

 

 ベッドで寝ていたケイが目を開くと、ハルカが覆い被さるような形でじっとしていた。

 

「私たちは、そろそろそういう事してもいい気がする」

「えっ!?ま、待って!!色々と心の準備ががが」

 

 ケイが言い終わらないうちに、ハルカの唇が迫る。

 

「ごめんまだそういうのした事ないです!!!」

 

 ────目が覚めた。辺りを見渡すと、部屋にはケイ以外誰も居ない。

 

「…………あぁ、気まずいやつだ」

 

 罪深い夢を見てしまった。ケイは煩悩を少しでも脱ぎ去るように、洗面所でいつもより入念に顔を洗った。

 

 

「おはよう、ケイ」

「どわっ!?!?」

「どうしたの?滝行でもしてるかのような水流の音が聞こえたけど」

「い、いや、水道壊れてて……おはよう」

「……?」

 

 ハルカは寝間着に寝癖スタイルで登場だ。お洒落に無頓着なハルカは、こんな姿でも平気で外に出ようとする。ケイは洗面台に置いてある櫛を取り出し、ハルカの背後に立つ。

 

「そこに立って」

「むっ、私の背後を取るなんていつの間にそんな技を」

「はいはい、大人しくしてて」

 

 ハルカの髪をとかす。ケイにとってこの時間は日課であるとともに、ちょっとした幸せを感じる時間でもある。普通に洗っているだけなのにサラサラな髪、櫛を走らせている間心地良さそうにしているハルカの穏やかな表情……ハルカと共に過ごす時間がいつまでも続いてほしいと、心の底から思うようになったのは、果たしていつだったか……いかんいかん、今日は変に意識し過ぎてしまう。

 

「櫛筋に迷いがある。何かあった?」

「そんな太刀筋みたいな概念あるんだ……」

「話して。ケイの悩みは私の悩み。私の悩みも私の悩み」

「ジャ○アンかよ!?背負い込み過ぎだからハルカの悩みも半分寄越して!!」

「ふっ」

 

 ハルカが少しだけ笑う。こっちまで笑顔になってしまうような、そんな不思議な力がある。人前で滅多に表情を変えないハルカだが、ケイの前ではちゃんと喜怒哀楽を表現している。これは、もしかして優越感なのだろうか……?

 

「…………」

 

 色々考えてしまうケイの顔を、ハルカは鏡越しにじっと見つめていた。

 

 

 

「ケイ。今日はオフだから出掛けよう」

「えっ!?今日って確か任務があったはずじゃ……」

「フイミン(朋溟吹診≪トモクラフイミ≫。ケイとハルカの部下だが、保護者的立ち位置。設定とエピソードは後日)に任せてきた。簡単だったから」

「ごめんなさいフイミさん……ほんとにすみません……」

「行こう」

「ちょ、ちょっと待って!せめて支度だけさせて!」

 

 こうして、予期せぬ形でデートが始まった。

 

 

 

 

 

「マンガ喫茶……?」

 

 ハルカに連れられてやって来たのは、近くのマンガ喫茶だった。

 

「本を読む事は癒しに繋がる。教養も得られて一石二鳥。いや、五鳥くらいはいける」

「途中からハルカの固有スキルの話になったね」

「そこで、ケイにはまず漫画を読んでもらう。私がお勧めの漫画持ってくるからそこで動かないで」

「うん、分かった……」

 

 大丈夫かなぁ、と心配するケイ。数分でハルカは大量の漫画を持って戻って来た。

 

「祝賀海鮮とピザカッターマン」

「いや重いやつ!!癒しっていうかひたすらしんどくなってくるよ!!」

「理不尽な展開に翻弄されるキャラを見るのは癒しだよ、ケイ」

「それはハルカの性癖であって、俺の好みではない!!」

「そう……」

 

 肩を落とすハルカを見ていられず、ケイは思わず漫画に手を伸ばす。

 

「まあでも、ハルカがお勧めしてくれたんだから、きっと面白い作品なんだと思う。読んでみるよ」

「ケイ……!」

 

 そうして、ケイは漫画を読み始めた。展開は重いが、その中でも登場人物たちが足掻いていく姿は現実味もあり、共感出来る。噂に聞いていた通り、面白い!

 

「よし、じゃあ次の巻を……」

「時間。ケイ、次行くよ」

「あれ?今日ってマンガ喫茶で1日潰すんじゃなかったの?」

「この後はランチに行こう。お昼ごはんを済ませたら、映画観て筋トレして水族館行って筋トレしよう」

「筋トレ2回言った!!」

「もうすぐ店が混んでくる。急ごう!」

「あっ、ちょっ、先に漫画片付けさせてぇぇ!!」

 

 ハルカに強引に連れられ、今度はファミレスにやって来た。ケイはハヤシライスを注文したが、ハルカが注文したのは……

 

「お待たせしました。海鮮丼と、カップル限定スペシャルドリンクになります」

「ありがとうございます。ケイ、どうかした?」

「いや、その……個性的なお飲み物を頂かれてるなぁ、と」

「これはケイと一緒に飲む」

「やっぱりかぁ!!」

 

 カップル限定スペシャルドリンクを最初に頼んでた時は聞き間違いかと思っていたが、来たのはミルクティーみたいな色をしたドリンクに2本のストローがハート形を作っている典型的なアレだ!!聞き間違いなんかじゃなかった!!

 

「このスペシャルドリンクには、プロテインが大量に入っている」

「何でプロテイン!?」

「筋トレ前によく飲んでる」

「一人で飲んでるのか!?」

「いつもはこんな変なストロー付いてない」

「たぶん誤解されたんだよ……店員あそこで泣いてるし。『ようやく彼氏連れて来たのね……』みたいに思われてそうだな」

「彼氏……」

 

 ハルカはそう呟くと、ケイの方を数秒見つめた後、海鮮丼を食べ始めた。もしかしたら、何か気に障る事を言ってしまったのかもしれない。完食後、ドリンクの減りが早いと言っておかわりを注文しかけるハルカを全力で止めた後、ハルカの分の代金もケイが払って店を出た。ちょっと恥ずかしかったけど、プロテインの味がして美味しかった!

 

 そのままの足で映画館に直行する二人。ケイはハルカにリクエストの有無を確かめた。

 

「何か観たい映画あるの?」

「…………」

「いらっしゃいませ。今ならカップル限定で『君の水晶を返しなさい』のチケットが半額になりますよ」

 

 タイトルに突っ込みたくなったが、どうやら恋愛もののようだ。安くなるしこれでも良いかな、とハルカの方を向くと……

 

「『パワーレックス3』が観たいので『パワーレックス3』を二人分お願いします」

「は、はい……」

 

 パワーで押し切ったぁぁぁぁ!!!観る前から既にパワーで溢れてるよ!!!

 

 

 

 パワーレックス3の感想。一言で表すなら、「5秒に一回筋肉か爆発が出てくる映画」だった。ひたすらドンパチばかりしていたが、勢いや迫力は他の映画を圧倒する出来栄えで楽しかった!

 

「ケイ!筋トレして水族館行って筋トレ……」

「筋トレ、最後で良い……?」

「分かった」

 

 水族館へ向かう二人。閉館1時間前というギリギリのタイミングで滑り込んだ。

 

「あの魚、速い!的が小さいから斬るのも容易じゃない」

「斬れるかどうかで魚見るんだね……」

「ケイ!マグロ!」

「脂乗ってて美味しそう……」

「そういうケイは食べれるかどうかで見てる」

「案外似た物同士なのかもね」

「……うん」

 

 ハルカは相変わらず表情変化に乏しいが、かなり楽しんでいるのは見てとれた。ここまで高速展開のデートだが、疲れひとつ見せる事なく、しかも時折ケイの様子を確認している。相手の充実度をちゃんと把握しながら事を運ぶハルカの仕事っぷりには敵わない。

 

「クラゲ……おそらく最も斬りづらい宿敵」

「ゼリー状だからね……」

 

 二人はクラゲホールに来ていた。平日の閉館間際、比較的少ない他の来場者は今日最後のイルカショーに赴き、クラゲホールは二人きりの空間となっていた。

 

「……ケイ」

「ん?」

「今日、楽しかった?」

「凄く楽しかったよ」

「ほんとに?」

「マジ」

「そう……よかった」

 

 静かな空間に漂うクラゲを見ているこの時間が、幻想的な空気を作り上げる。ケイが隣の水槽に移動すると、何かが左手に当たった。

 

「?」

 

 ハルカか?いや、気のせいだろう。仮にそうだったとしても、偶然手と手が当たってしまう事くらいあってもおかしくな────

 

「ケイ……!」

「!!」

 

 ───────ハルカが手を握ってきた!!!

 

「ハルカ……?」

「………………………も」

「も?」

「もう、ちょっとだけ………いっ…………………ここに居たい」

「……うん」

 

 ハルカの熱が直に伝わってくる。表には出さないが、ケイの内心では汗が滝のように流れていた。沈黙の後、ハルカが再び口を開く。

 

「夢を………………見た」

「夢?」

「ケイと、一緒に寝る夢。目が覚めた時、何だか落ち着かなくてケイの様子を見に行った。ケイはいつも通りに見えたけど、少し様子がおかしかった」

 

 ハルカはそのまま語り続けた。

 

「だからフイミンに相談した。そしたら────」

 

 

〜〜

 

 書記室にて。

 

「大丈夫……?」

「な、何でもないです……あまりのウブさに貧血を起こしただけですから」

「貧血……」

「そ・れ・よ・り・も!!!そこまで互いに意識してるんだったら今日はデートに誘い出してそのままイチャついてくれば良いじゃないですか!!!」

「で、デート……」

「『デート』の意味、一から説明した方が良いですか!?」

「いや、必要ない……」

「今日の任務は簡単だしフイミン一人でも出来ますから!お二人はマンガ喫茶なりファミレスなり映画なり水族館なりジムなり行って、互いの距離を限界まで縮めてきて下さい!!ラブホで朝帰りしても誰にも言いませんから!!」

「朝帰り……?」

「そこは引っかからなくて良いですっ!!」

「な、何とかやってみる……」

「……まあ、とりあえずお互いに好きな事共有して楽しめば良いんです。頑張って下さい!お二人の事、応援してますから!」

 

 

〜〜

 

 

 フイミさぁぁぁぁぁぁぁぁん!?!?!?

 

「何か気になる事でもあった?ケイ」

「いや、後でフイミさんにちょっと話しておきたい事があったの思い出して……」

「そう……」

 

 ハルカがいつにも増して強引に色々な場所に連れて行ったのは、フイミの提案がきっかけだったらしい。しかし、フイミへの感謝とちょっとした説教は後で済ませておくとして、今はフイミの言う通り、ハルカと好きな事を共有しよう。

 

「ハルカ。水族館出たら筋トレしよう!」

「……!!わかった」

 

 駆け足で水槽の前を通り過ぎていく。手は繋いだままだ。ケイもハルカを離さないし、ハルカもケイを離さない。二人だけの時間が過ぎていく。水槽の中をゆっくり観るのは、一人で来た時にしよう。今はただ、二人きりの時間をいつまでも大切にしていたい。例え趣向が違っても、この二人の想いは確かに一つだった。

 

 円卓騎士が利用しているジムに着くと、スポーツウェアに着替えて筋トレが始まった。

 

「ハルカ!そろそろスピード落とした方が……」

「まだ。スピードトレーニングLv. 2で悲鳴をあげているようでは、友情トレーニング発動しても大した効果が得られない。短距離逃げはスピードが命」

「そんなウ○娘みたいなシステム無いからぁぁぁぁ!!」

 

 空腹の限界が来るまで筋肉を酷使した。夕飯休憩を挟んだ後もハルカは続ける意思を見せ、二人は結局朝まで筋トレしていた。ジム併設のシャワーで汗を流し、二人は仕事部屋(という名のケイ卿組専用の溜まり場)に赴く。

 

「んなっ!?!?」

「お、おはようフイミさん……」

「はわわわわわわ分からないわわわわ」

「フイミン、予測変換ミスってる」

「お、同じシャンプーの香りがしますっ!!おめでとうございますっ!!式はいつにしますか?お名前はもう決まったんですかぁっ!?」

「あの、仕事始めませんか…?」

 

 フイミの誤解を何とか解いて、今日も一日が始まった。

 

 




フイミンのイラストは鋭意製作中です。次回未定だけどムゲンギア列車篇は何とか完成させたい。
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