星と騎士と宝石と楽器と花の話   作:ドリベンタス

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お待たせしました。シャトー回です。前後編で短くまとめますが、内容はそこそこ重めです。直接的なグロ表現は避けるので大丈夫だとは思いますが、読みたくないなと思ったら遠慮なくブラウザバックして下さい。


アレキサンドライト篇
アレキサンドライト篇 前編「二律背反-antinomy-」


「最近の小学生って凄いわよねぇ」

 

 近所の淑女達による他愛もない会話を耳にした。改めて考えてみると、小学6年生である私の同期は放課後や休日になると、普段ランドセルを背負って登下校しているとは思えないような大人びたファッションセンスで街を出歩いてる事が多い。SNSの普及による関係性の複雑化や情報伝達の活発化に伴い、私たちにとっての「当たり前」は、親世代からドン引きされるようになっているらしい。

 

「おはよ!シャトー!」

「うん、おはよ!アンちゃん」

 

 後ろから唐突にランドセルを叩いてきたのは、同じクラスの親友アンズ。通称アンちゃん。学級委員長で成績優秀、品行方正、文武両道。とりあえず好印象を与える四字熟語を並べれば大体当てはまってしまうような、模範生徒だ。道中で倒れ込んだおばあさんを見かけた時には救急車を呼び───そこまででも小6にしては十分なのだが───、さらに心臓マッサージと近くにあったAEDの取り付けを迅速に執り行い、救急車の到着時点でほぼ応急処置が済んでいて驚かれたという逸話を残している。学校で表彰された際に彼女が見せた笑顔は事なきを得たおばあさんに向けられたものであり、教師や保護者達からも一目置かれている。藤色の長髪に黄緑の瞳が輝くその姿も容姿端麗という言葉が相応しい。

 

「ねぇ、昨日の『深掘り探偵』のスイーツ特集見た?」

「見たよ!岩國屋本店のカスタードプリンすっごい美味しそうだったよね!」

 

 そんな伝説的な彼女と平凡な私は、スイーツ好きという共通点で意気投合。学校では目を合わせればスイーツトーク、休日に空きが出来れば一緒に街でスイーツの食べ歩き。もし学校で「この街の名店で販売されている和洋スイーツに関するテスト」なるものがあれば、彼女と私が満点を奪い合うだろう。満点取ったご褒美に互いの母からお小遣いを貰ったら、今度は隣町にも行ってみたい。そんな妄想を何度繰り広げた事か。私にとっての彼女は───彼女にとっての私も───唯一無二の親友だ。

 

 

 

 

 

〜〜

 

 

 

 

「なにこれ…………」

 

 教室に着くと、クラスメイト達が散らばった机や椅子を整列させていた。中には机の中に隠してあったプリントを失くして慌てふためく男子も見受けられる。

 

「何があったの?」

 

 アンちゃんは近くにいたクラスメイトの女子に事情を尋ねた。

 

「朝来たら、机と椅子がグチャグチャにされてたんだって。アンちゃんも自分の机と椅子あるかどうか確認しといた方が良いよ」

 

 そのクラスメイトは、手を止める事なく机を拭いていた。私のは無事だろうか。不安な気持ちは、次のアンちゃんの言葉で一掃された。

 

「あったよ!シャトーの机と椅子!どこも壊れてないみたい!」

「あ、ありがとう……!じゃあ、私はアンちゃんの探すね!」

 

 しばらくして、アンちゃんの机と椅子も無事見つかった。教室内が元の整然とした風景を取り戻した後、生徒間で「探偵ごっこ」が始まる。

 

「いつ誰がやったのかな?」

「私が帰る時は先生も居て綺麗だったよ」

「先生は責任問題になるような事自分からしないと思うし、違うでしょ」

「じゃあ、クラスの誰か?」

「外から入ってきた不審者かも」

「えー怖……アタシの荷物大丈夫かな……」

 

 ざわめきを鎮めたのは、職員室から戻ってきた先生の一言だった。

 

「今、学校の防犯カメラを使って侵入者の痕跡を調べています。万一に備えて、今日は短縮日程で下校時刻を少し早める事になりました。しかし、生徒がやった可能性もあります。心当たりがある者は後で正直に申し出るように」

 

 特に何事もなく授業が始まった。短縮日程により、少し早めの昼休憩に入る。給食の当番だった私は、支度をして配膳を行う。

 

「ねぇ、アタシの分明らかに少なくない?」

 

 流れが止まる。並ぶクラスメイト達の目が全て私の方に向けられる。特に減らした覚えは無いが、私は無言で追加の分をよそう。

 

「『ごめんなさい』の一言も言えないのかよ。非常識な奴」

 

 悪態を突いて、彼女は次の配膳係の前に向かった。隣のアンちゃんが小声で話しかける。

 

「気にしなくて良いよ」

 

 そのたった一言で私の心は何度救われた事か。言葉は人を幸せにも不幸にも出来る事を、改めて実感したのだった。

 

 

 

 

 

〜〜

 

 

 

 

「ねぇ」

 

 先生からの連絡報告が終わり、放課後に入る。昼間にクレームを入れてきた女子が私を呼んでいる。

 

「ちょっと来てよ」

 

 よく連んでいる3人組だ。私はアンちゃんを探したが、教室には居なかった。このタイミングを狙っていたのだろう。逆らう事も出来ず、私は彼女達に従って倉庫裏まで連れ出された。

 

「給食の時に思ったんだけどさ、教室荒らしたのシャトーだよね?」

「何で私が……」

「アタシらの机と椅子だけやけにガタついてんの。相当強い衝撃与えないとああならないって」

「だからって何で」

「アタシらに逆ギレしそうな奴なんて一人しか居ないじゃん」

「えっ……」

 

 後ろから見ていた一人が前に出てきた。

 

「教科書隠された事、濡れた雑巾当たった事、机に落書きされた事。全部アタシらのせいだと思ってんでしょ?」

「今『隠された』って……」

 

 前に出てきた女子が目を見開いた。私を連れ出したリーダー格の女子が、彼女を睨み付ける。

 

「チッ………………アタシが言うからちょっと黙ってて」

「……………………ごめん」

 

 リーダー格の女子は私に向き直った。

 

「とにかく、アタシらに喧嘩売ったって事、ちゃんと理解してるよね?」

「まだ私と決まったわけじゃ」

「うっせぇ!!」

 

 蹴り飛ばされた。お腹が痛い。倉庫裏がアスファルトやコンクリートではなく砂利と土で埋められていたために頭部は助かった。

 

「うっわ、流石にこれはやりすぎでしょ」

「その辺にしときなよ〜」

 

 後ろの取り巻きがヘラヘラと笑いながら冗談混じりで止めに入る。だが、リーダー格の女子は後ろの取り巻きに私を押さえつけるよう指示を出すと、うつ伏せにされた私の腕を掴んで絞め技を繰り出してきた。腕が千切れそうな程の激痛が襲い掛かる。

 

「い、痛いっ……!」

「委員長の隣で守ってもらえてるからって調子に乗りやがって……!!」

「やめなさいっ!!!!」

 

 噂をすれば、委員長の声が聞こえてきた。

 

「何でここに……!?」

「貴方たちがシャトーを連れ出した事を教えてもらいました。最近シャトーに嫌がらせをしてたのはやっぱり貴方たちだったんですね!」

「チッ……逃げるぞっ!」

 

 3人は私を置いて脱兎の如く逃げ出した。冷たい土と熱い滴の感触を頬に感じながら、私はアンちゃんに抱き寄せられる。

 

「シャトー!怪我は!?」

 

 目立つような怪我はしてない。それを一言伝えて、私はゆっくりと身体を起こす。アンちゃんの優しさが私にほんの少しだけ力をくれる。その力は、倒れた私がもう一度起き上がるための大事な原動力。どんなに怖い状況でも、アンちゃんが居れば頑張れそうな気がする。

 

「ありがとう……アンちゃん」

「今日、一緒に帰ろ」

「……うん」

 

 アンちゃんが居てくれるだけで、私は再び笑顔になれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜

 

 

 

 

 

 

 21時過ぎ。学校は施錠され、警備員による巡回も終了している。誰も居ない事を確認して校門を乗り越え、理科実験準備室の窓のサッシに挟まっているつっかえ棒を外し、校内へ侵入する。先生達や警備員はこの窓を「壊れた開かずの窓」と認識し、施錠の確認をしない。だから簡単に入れる。学校側が経費をケチって2、3台程度しか設置しなかった防犯カメラの死角にあり、唯一の出入口。侵入に成功したら、靴を脱いで左手に持ち、暗い廊下を音も立てずに彷徨い歩く。「6-A」と書かれたプレートが示す我が教室の扉を、私はゆっくりと開けた。月明かりが差し込む薄暗い教室に、机と椅子が整然と並んでいる。前回は頭に血が上って少々やり過ぎた。勘づいた奴の報復は結構痛かった。そこで今回はターゲットを奴に絞る事にする。奴の椅子のボルトを緩め、アクシデントを装う。普段から椅子を傾けて揺らしている行儀の悪さはクラス中に知れ渡っている。皆、誰かの悪戯を疑う前に、自業自得だと奴を嘲笑うだろう。持参したドライバーで少しずつボルトを緩め、外れるギリギリの所で留めておく。今夜はこの辺にしておこう。ふつふつと湧き上がる苛立ちを何とか抑えつつ、私は立ち上がる。振り返ると、背後に窓があった。傍に靴を置いてガラ空きになった左手が、ゆっくりと上がっていく。振り下ろされる直前で私はドライバーを持つ右手で左手を止める。これ以上は駄目だ。バレる。というかそもそも、最近の学校の窓はフィルムが貼られていてヒビ割れても破片は飛び散りにくい。想定していた結果にはならないだろう。少し興奮し過呼吸気味になった私は、よろけながらも靴を拾って、「出入口」へと向かった。もしアンちゃんに見られていたら、もう二度と私とスイーツトークしてくれないだろう。でも、アンちゃん。私は貴方と違って、「良い子」ではいられない。溜め込んだストレスは夜中に歪な形で発散される。一度癖になってしまうと抜け出せない。まるで「もう一つの人格が暴れ回っている」ような感覚。出来ればそろそろ終わりにしたい。アンちゃんに対する隠し事はこれ以上増やしたくない。気付くと私は、廊下に蹲っていた。両目が熱く、瞼を押さえていた手は湿っていた。情緒不安定、というやつか。この時間の私はもう、自分の感情を全く理解出来ていなかった。

 

 

 

 

 

 

 翌日、奴は学校に来なかった。皆勤賞だったのに珍しい事もあるもんだと思っていたら、他のクラスメイトから事情を聞いたアンちゃんがこっそり私に教えてくれた。

 

「昨夜から行方不明なんだって」

 

 

 

 

 

 

 




次回、後編「二者択一-alternative-」
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