【急募】俺が同僚の前カノと普通に接する方法 作:タン塩レモンティー
結婚生活が始まって半年。お互いの生活リズムにも慣れてきた。
だが、慣れは油断を招く。緊張感もほどけ、相手に対する気遣いもついつい無くなってきた頃、事件は起こった。
「プリンがない」
休日の朝、沙織が冷蔵庫を開けた途端に悲鳴にも似た声を張り上げた。
「食べちゃったよ」
俺は何気なく答えた。その態度が沙織の怒りに火をつけた。
「どうして食べちゃうの。そのプリンはわたしのよ」
「一昨日から冷蔵庫に入れっぱなしだったじゃないか」
「勝手に人の物を食べるなんて酷い」
俺は表情を歪ませた。非が自分にあるのは分かっているが、そこまで言うのもどうだろうか。沙織はこんなに怒りっぽい女だっただろうか。生涯を誓い合って、たった半年でこれか。
俺の不安をよそに、沙織は強い目線で俺を見上げた。
「プリン買ってきて」
「お任せでいいんだな」
「違う、貴方が食べたの」
「じゃあ、沙織が買ってくれば」
「あのプリンはこの辺では売ってないの」
「どうしてそんなプリンがうちの冷蔵庫に入っていたんだ?」
今まで沙織は俺に挑むような目線を投げかけていたが、目を反らした。
「……職場でお土産にもらったの」
台詞の勢いが少しだけ衰えたように聞こえた。聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか。なにか、心に引っかかるものを感じた。
俺は家から一番近いコンビニに向かった。コンビニの自動ドアが開くと軽快なメロディが流れる。
プリンが並んでいるはずの陳列棚に行くが、空だった。その後何軒か回ってみたが、手に入れられなかった。
沙織の怒る顔が目に浮かぶ。怒られるのが分かっていながら帰宅するというのも、あまり良い気分では無い。
もとはといえば自分の迂闊さが招いたことではある。沙織の怒りを静めるためにはプリンを手に入れられればそれに越したことはないが……。
……本当にそうか。プリンはお土産。沙織が食べずに取って置いた物。もしかして、あえて食べていないことに意味があるのではないか。
「ただいま」
「おかえりなさい」
声に怒りは含まれていなかった。台所で炊事をしていて俺には背を向けている。
「朝、怒りすぎちゃってごめんね」
背を向けたまま沙織が言った。
「いや、俺の方こそ勝手に食べてごめん」
「いいの。食べてもらって良かったような気がするの」
俺の方に振り向いた。目は口ほどにものを言う。俺は沙織の目に疾しい光がないか探ってしまう。
「プリンあった?」
ここでなかったと答えたら、また怒りを招くことになるかもしれない。そうだ。
「プリンとキス、どっちがいい?」
沙織がキスと答えれば、プリンは無くても問題ない。さあ、答えは。
いかがだったでしょうか。
これにて完結です。