【急募】俺が同僚の前カノと普通に接する方法   作:タン塩レモンティー

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星の次にやってきたのは、太陽?

 俺は悶々とした週末を迎える。友ちゃんのブログを確認したが、その日は更新が無く、知りたい部分は何も俺には教えてくれなかった。今更前カノの個人ブログを確認するなんて女々しいかもしれないが、これは習慣だ。

 月曜日、珈琲を飲みに、給湯室に立つ友ちゃんの後をさりげなく追い、ご馳走になりにいく。俺を見て答えている彼女の視線が、俺の後ろに移動し微笑む。石川さんが微笑みながら給湯室に入ってくる。そして俺の方をチラリと見る。

「入江くん、デートは彼女と行ったほうがいいと思うよ」

 その様子を見ていたのか、石川さんは思いもがけない言葉を突然放ってくる。

「え? 何言っているの?」

 俺は思わず聞き返す。友ちゃんはキョトンと上品に笑う石川さんを見る。

「友ちゃん『は』陰険じゃないから、何も言わないとは思うけど、彼氏が他の子と二人っきりで行くって、内心いい気分ではないと思うよ」

「ちょっと待って……」

 慌てて訂正しようとしたが、友ちゃんは納得した表情で頷いている。『そうだったんだ〜気付かなかった〜。でも、なるほど』とかつぶやいている。

「隠さなくてもいいわよ! 社内でも評判よ! 最近仲良く仕事上がり飲みにいっているし、週末も一緒に遊んでいるから」

 石川さんは、いつになく俺に明るく親しみのある笑みを向けてくるが、彼女の笑みからはまったく親愛の情を感じない。敵意すら感じる。

 確かに、松ちゃんとは最近頻繁に呑みに行っているし、彼女に誘われバーベキューとかにも行っていたけど、何処でそれが付き合っているとなっている話になるんだ。第一、彼女には恋人がいる。

「なんだ、そうなら言ってよ! 二人で応援するから」

 友ちゃんは石川さんとニッコリ微笑みあってから、此方を見る。比べて見るとよく分かる。本気で祝福し応援し笑っている友ちゃんと、俺に悪意をもって笑いかける石川さん。

 何故ここまで嫌われたのだろうか? 石川さんは、社内での男性からは滅茶苦茶が人気ある。見た目は楚々とした日本美人。うちの会社には珍しいお嬢様タイプだけにちょっとしたマドンナ状態である。

 基本的に穏やかで浮いているわけではないが、人とはちょっと一線を引いて付き合う所がある。そういった所がミステリアスで他の男性には、さらに堪らない魅力なのだろう。

 その石川さんが唯一社内で心を許しているのが友ちゃんで、一緒に有給休暇をとって海外旅行したりしている。逆にいえば友ちゃんに近い人間の一人が、俺をここまで敵視している理由は何なのだろうか?

 フロアの方から、友ちゃんを呼ぶ声がして、彼女は『じゃあね』と言いながら、戻っていった。微妙な空気の二人が取り残される。

「あのさ、変な噂流さないでくれない? 俺、松ちゃんとは付き合ってないし」

 俺はつい、咎める口調になってしまう。 

「ふーん、まあどうでも良いけどね。私関係ないから。……知ってる? 友梨ちゃんって潔癖だから妻帯者とか恋人の居る人、一気に恋愛対象から外れるの」

 俺はニコやかに、トンデモない言葉を言ってくる石川さんにぞっとする。知らない内に最悪な敵を作っていたようだ。石川さんの俺に対する感情はいったい何なのだろう? もしかして友ちゃんに対する感情が友情ではなく愛情で、俺が恋のライバルって事なのか?

 松ちゃんと俺が付き合っているという噂は、石川さんが流したわけではなく、元々社内ではささやかれていたらしい。俺が必死で打ち消そうとする甲斐なく社内での認識はそういう事になっていた。

 しかも、今の状況で唯一の仲間であるはずの松ちゃんは、彼氏と二週間の海外旅行に出た直後だった。

「あの、水無瀬さん、貴方なら知っているでしょう、松ちゃんに彼氏いるの。だから友ちゃんにそれとなしに誤解だって話してくださいよ」

 味方という訳でもないが、多分敵ではない水無瀬さんに助けを求める。松ちゃんのバーベキューメンバーでもある水無瀬さんは、松ちゃんの彼氏にも会っている。それに友ちゃんが慕う彼女の言葉なら誤解も解けやすいだろうと考えたからだ。

「人のプライベートに関わる話を、ペラペラ話すのって私は嫌いだから」

 軽く一蹴される。

「あの……」

「そういう事って、自分で何とかするべきでしょ!」

 水無瀬さんにしては珍しく、ニッコリと愛情を感じる優しい笑みを浮かべる。言っている言葉はちっとも優しくはなかった。

 松ちゃんとの噂は彼女が旅行から戻って来ることで解消はされる。彼氏の存在をアッケラカンと公表したことで、彼女は俺と付き合っている事を否定した。

 しかし何故か、俺と松ちゃんが付き合っていたという部分は消えなかった。社内の認識では、松ちゃんに見切りつけられ振られた事になっているようだ。俺が必死で否定していた事が、そのような印象をみんなに与えたらしい。

 唯一の救いは、可哀想にこっぴどく振られたという事になっている俺に対して、友ちゃんは冷たい視線ではなく、労るような同情の目で見ていることだけかもしれない。

 

 恋する女性というのは、分かり易い。

 男性に比べれば難しいが、良く見ていたらすぐ分かる。『綺麗になる』という曖昧な見分け等ではなく、もっと分かり易く行動に現れる。

 まず、服装の趣味が微妙に変わる。新しい趣味を持つ。スマホをやたら気にするといった行動が出てくるとまず間違いない。

 こんな現象が起こり始めると、それはその女の子が恋をしている証拠。

 夏になり、爽やかなブルーのストライプのタイトなインナー白い薄い生地のフードのついた上着に、紺のパンツにヒールのあるサンダルと、夏らしいファッションの友ちゃんを俺はシゲシゲと眺める。実に彼女らしい、シンプルで爽やかな服装だ。

 でも、この違和感は何? 俺は改めて友ちゃんの顔を見つめる。そして最近の違和感の原因に気付く。顔がなんか近いのだ。

「友ちゃん、背伸びた?」

 そう言って頬を膨らます。足下をみたら、彼女にしては高いヒールを履いている。動きやすいファッションを好む彼女は、あまりヒールの高い靴は選ばなかったような気がする。

「それ、嫌味?」

 そういえば、最近の彼女の靴は、ヒールが多い。

「あ、靴か、いや、珍しくない? そういう靴はくの」

 友ちゃんは大きくため息をつく。

「だってさ、みんな背高いから、一緒にいると、私凄いちんちくりんに見えるじゃん!」

 彼女が、身長低めなのを気にしているのは知っていたけど、何で今更とも思う。それに、百五十センチ半ばで、本人が言うほど小さ過ぎる事もない。

「いや、女の子ってさ、寧ろ小さいほうが可愛くない?」

 でも、小さいという単語が気にくわなかったのか、ジロっと睨んでくる。此方が良しと思っていても、女性にはコンプレックスに感じている箇所の会話はタブーであった。

「身長だけ可愛いと言われてもね……」

 そう言いながら、左手で髪を掻き上げる。その腕に初めて見る腕時計を発見する。彼女が好みそうな、レトロな味わいのアナログ時計だ。

「あれ? その時計いいね!」

 彼女の顔が、途端に嬉しそうになる、取りあえず話は逸らせそうだ。彼女は面白いデザインの腕時計を好む。デジタル時計は嫌いなようで、アナログでデザイン的に凝った時計をいつも身につけている。ブランド品とかいうのではなく、雑貨屋さんとかブティックで見て一目惚れしたものを買ってくるようだ。

「分かる? デザイナー手作りで、一品モノらしいの! この機械というのを前面に出した雰囲気が良いでしょ」

 部分的に装置をあえて見せるデザインのそれは、確かに面白かった。

「ジブリ映画に、なんか出てきそうだよね」

 俺の言葉に、嬉しそうに微笑む。

「だよね! 私もそう思った。ボーナス出た後だから、迷わず買っちゃったよ」

「なんか分かる、面白いね」

 なんか違和感を覚えるのは気のせいだ、いつもの通りの彼女だと俺は安心する。というか、気のせいだと俺は自分に言い聞かせた。

 

 友ちゃんのブログをチェックする。コメント一覧を確認すると、『星』と相変わらず仲良く交流は続いている

 それにしても、友ちゃんがかつて惚れたという噂の、『星』とはどんな男なのだろうか? 俺よりも格好いい?包容力は? まぁどんな人かは知る由もないが。

 しかし、突如現れた違和感のあるものを俺は見つめていた。

 まず、ジャンルが広がった。前まではどちらかといえば見た目重視で、イケメン選手に関する感想を書いている。場合によっては熱く語っている。

 二つ目は、ブログに『太陽』という人物の陰がチラチラしてきた事。ここがある意味一番、気になる所。

 『太陽』という男が最初にブログに現れた時の事は、俺は不思議と覚えていた。久しぶりにコメントでも入れようとした入力欄の上に、そいつのコメントがあったのだ。

『そういえば、ブログやっていると聞いたので、遊びにきました。見事、俺の好みとは違うね。でも面白くていいんじゃないかな。 太陽』

 記事ともまったく関係のないし、彼女のブログの世界を全否定したとも取れるそのコメントに俺は、『何だ? コイツ』と思ったもののあまり気にしてなかった。

『太陽さんへ

 コメントありがとうございます。まあ、太陽さんが好きそうな野球の記事はここには少ないかもしれません』

 そのコメントに対しても友ちゃんは珍しく冷たい反応のコメントを返していた。

 

 しかし、そいつは度々このブログに登場するようになる。しかもそれは、予期せぬ形で。

 友ちゃんがよく参加している、オフ会にコイツは出席したようだ。友ちゃんの連れとして。そしてそのオフ会が行われたと思われる後に、オフ会に出席した他のブロガーの『太陽さんと今までと違った野球談義も出来で楽しかった』『月さんと太陽さんのラブラブっぷりに当てつけられてしまいました』といったコメントに対して返事を、『月』じゃなく『太陽』がコメント返しをしている。

 俺は、友ちゃん本人にそれとなしに、彼氏の存在を探る。

「いないよ! そんなの」

 が、ポカンとした顔でと答えるだけ。

 念のため水無瀬さん等にも探りを入れるが、『早くいい人見付けて欲しいけどね〜。アンタ以外で』といった感じの答えが返ってくる。

 

 『星』以上に厄介な存在が現れた? そもそも『太陽』って何者?




いかがだったでしょうか。
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