【急募】俺が同僚の前カノと普通に接する方法   作:タン塩レモンティー

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別れはやってくる、突然に

 俺と友ちゃんが訪れた劇場の中で、今まさに一つの恋愛が終わろうとしていた。

 といっても俺と友ちゃんの二人の間ではなく、その前列にいる若いカップル。

 別れを切り出す為に、男を映画に呼び出す女。そして、そんな事も気が付かずヘラヘラやってきた男。

 この男の痛い所は、だんだん冷めてきていたであろう彼女の態度に全く気付いていないどころか、今日まさに今、別れを切り出されている事にも気付いていない。

 完全に女の中から消えた愛と、まだまだラブラブなつもりの男。どこまでもかみ合わない二人の会話。本人達は大まじめだが、端から見ると喜劇である。

 とはいえ、この男程馬鹿ではないにしても、俺自身似たような経験をしてきた事があるだけに、笑うというより苦笑いになるが。

 

 友ちゃんは、目の前にいきなり繰り広げられたドラマに、肩を奮わせている。リゾート地を思わせるエキゾチックなワンピースに丈の長い軽い上着を羽織った感じで、ナチュラルテイストな洋服が良く似合っており、彼女のより穏やかな魅力を増していた。会社での格好よりも、プライベートでのラフで柔らかい感じの格好の友ちゃんの姿の方が俺は好きだ。

「いや〜凄いドラマだね〜」

「喜劇だよ」

 笑いながら、こそこそと顔を寄せ合って話す俺達は、恐らくまわりの人からみれば、ラブラブなカップルに見えるだろう。

 でも、完全な俺の片思い。俺は、ある事に引っかかりを覚えていた。

 彼女と映画に出かけたのは、初めて。大抵、野球とかスポーツ観戦をしているのに、あえて映画を指定してきた。それもいつもと違う曜日に。

 そしてデート(?)の日、彼女は何をしていたのか? ブログを見ると、野球観戦していたようだ。誰と?

 

 映画が終わり、俺達は外に出る。秋だというのに嫌味な程、太陽が輝いている。友ちゃんはそんな太陽を浴びながら『最高に良い天気だね〜』と嬉しそうに笑っている。

 俺は太陽から逃げるように、裏道にある小さな喫茶店に彼女を誘う。

 観たのが男女の恋愛感のズレを描いた映画だったこともあり、話題も恋愛方面に。

「女性は、結構好きだよね、あの映画」

「相手とか、周りとかまったく気にしないで、愛の為だけに生きて壊れるって、私には絶対出来ない行動だしね! そういう所が格好良い! と思ったの」

「格好良い……?」

 予想もしない言葉に俺は驚く。

「そう、でも私はといったら、前の彼氏が実家に戻るためにここを離れると聞いても、『そうなんだ、仕方が無いよね』という言葉を返すだけで、相手を追いかける事も一切出来なかった」

 仕事でも彼女は前面に出て何かをするというのではなく、どちらかというと一歩引いて調和をとりながら物事を進めていくタイプ。恋愛に関しても、いつも一歩引いた形で友ちゃんは生きてきたのだろう。

 水無瀬さんを彼女が憧れ慕うのもそこにあるのかもしれない。本当はもっと前に出て行動したいと思っているのだろう。

 初めて彼女の口から語られる、星野というヤツの話。でも俺はその時の友ちゃんの表情から何か分かってしまった。それは完全に愛が終わった相手の話をしている事を。逆にだからこそ、俺にその話をすることが出来たのだろう。

 俺に別れを告げてきた過去の恋人と同じ目をしている。ハッキリ終わった愛の話をしている女の目だ。

「入江くんは、引きずっていたと言うけど、違ったかなって今分かった」

 彼女は明るく笑う。

「……たしかに、自分で納得して別れないと、ね」  

 今まで散々待ち望んだ瞬間。彼女の中から『星』が消える事。

「人生にも、句読点って必要だよね、本当に!」

 そういって顔を上げた彼女の目は、新しい未来を見ているように感じた。

「上手いこと言うね!」

 俺は、内心複雑な気持ちでその表情を見ていた。

 彼女が静かに見つめる未来に、俺はいるのか? 真っ直ぐ前を見る彼女の目には、目の前にいるはずの俺の姿も映ってない。

「でしょ!」

 いつものように、俺に笑いかける彼女。そう『いつものように』つまり、今までと全く変わらない笑顔。

「あのさ……」

 友ちゃんが廊下でコッソリ携帯のメールを見ているときの、心底嬉しそうな笑顔とは違って、いつもの笑顔。

「ん?」

「俺達さ……」

 首を傾げ、俺を見上げてくる彼女。俺の頭に『太陽』の存在がよぎる。『付き合わない?』という言葉を続けたかったけど、言えなかった。

「来週も、また会わない?」

 彼女は、俺の言葉にちょっと考える。

「んー。来週も土曜日は用事入りそうだから、日曜日でよければ」

 彼女は、『誰か』の為に土曜日の予定は入れるつもりはないようだ。俺は苦笑するしかない。

 その後、何度か彼女を遊びに誘ったが、彼女の土曜日は空くことがなかった。

 そして、気が付いた時には、彼女のブログから『星』のコメントが消えていた。何があったかは分からないけど、二人は完全に別れたようだ。




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