「そ、それはダメです・・・・・・」
「諦めろ、ほら、俺の勝ち」
「ひぃぃぃぃ・・・・・・!」
教室には2人、少し薄暗い空間で机を囲んでいた。1人は背の高い男子生徒、もう1人は小柄な女子生徒。随分と凸凹とした2人である。
「う、うぅ。また負けた。これが、陽キャの力・・・・・・?」
「いや、ビカラが分かりやすすぎるだけだぞ」
そんな2人は今、トランプで遊んでいた。種目はババ抜き。2人でババ抜きをしているのである。
「これで10連敗・・・。うう、鬱い・・・」
「もう遅いし、そろそろ帰ろうぜ」
「そ、そうですね・・・。すみません、私なんかと遊んでいてもつまらなかったですよね・・・・・・」
この少女はとにかく卑屈である。自分に自信がなくて、人との関わりに慣れていない。
自分を『陰トピア』の住人と言い、陽キャラに憧れている少女なのだ。
「なわけあるか、ビカラと遊ぶのは楽しいよ。だから卑屈にならない!陽キャになるんだろ?」
「そ、そうです。陽キャになるんです。うぇ、ぅぇーぃ・・・・・・」
「いや、声ちっさ」
これはそんな『陰トピア』の住人である彼女と遊ぶ物語。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その少女はいつも涙目だった。出会いなんて鮮明に覚えている。
4月、新入生が入学し、自分が進級をしてしばらくたった日だ。その日は適当に歩いていた。
一緒に食べている友人たちは、呼び出しとか、委員会の仕事とかがあるために全員いなかった。本日は1人である。ならば気分でも変えようかと思い、いい昼食をとれる場所を探していた。
「行ったことない場所ってあったか?」
こんな事を考えながら歩いていく。一つだけ思い当たる場所があった。
旧校舎だ、部活動とかで使う旧校舎。少し古びた建物となっているが、今でも部員の少ない文化部とか、運動部の部室とかに使われてはいる。まぁ、それでもあまり使われていない場所ではある。
勝手に使っていいかは分からないが、とにかく行ってみることにした。
なかなかに雰囲気がある場所だ。少しワクワクしながら、歩いていく。
行ったことない場所を歩くのは心が踊る。探索を優先して、昼食を食べるのを忘れそうである。
「ぅ、ぅぇーぃ・・・・・・違うな、もっとこう、お腹から声を出してみて・・・・・・うぇ、うぇーい!あ、ちょっとそれっぽくなったかも・・・・・・」
小さな声だが、どこかの教室からこんな声が聞こえてきた。近くの教室をそーと、確かめてみる。
「これで、私も陽キャの仲間入りに・・・・・・!」
何かいた。小柄の少女が両拳を握っていた。ミディアムぐらいのボブをした、黒髪の少女だ。制服のリボンを見てみると、新入生みたいだ。
その姿が不思議すぎて、凝視しすぎたようで、不注意で扉を開いてしまった。
「ヒッ!あああ・・・・・・」
「えっと、あー」
目の前の少女の目に涙が溜まっていく。いやー、これはまずい。どうしようか・・・。
「す、す、すみませんでしたぁぁぁ・・・」
目の前の少女はいきなり土下座をしてきた。いきなりすぎて、少し呆けてしまった。だが、すぐにマズいと思い、声をかける。
「い、いや、ちょっと待ってくれ。頼むから、まずは顔をあげてくれ」
「なな、何をすればいいんでしょうか・・・」
「話を、話をしよう」
「は、話ですか・・・?すみません、あたし、か、会話すらもままならない、陰キャですので、ど、どうか勘弁を願いたいです・・・はい・・・」
oh......超卑屈な少女だ。とにかく話だ、俺も会話は得意な方では無いのだが、目の前の少女は俺以上に会話が出来ないタイプっぽい。
ふぅー、やるしかない。
「よし、一旦落ち着こう。ゆっくりでいいから、自己紹介から入ろうか」
「自己・・・紹介・・・・・・?」
「そうだ、まずは俺からいこう。俺は2年の牡丹だ。
「あ、あた、あたあたあたしは、ね、
あたとビカが多かった。しかし、名前を知ることが出来た。彼女は
「そうか、ビカラちゃんって言うのか。えっと、ビカラちゃんはこんなところで何を?」
「そ、それはですね・・・・・・。ここで、お、お昼をしようかと・・・」
俺は、そういったビカラちゃんの右手を見る。そこには、白いネズミ柄の袋を持っていた。
旧校舎の人のいない所で、1人で昼食を取ろうとする少女。そして、先程の変な掛け声。なんだか俺は、この少女のことが気に入ってしまったようだ。
「なぁ、良かったらなんだけどさ、昼飯一緒に食べないか?」
「えっ・・・・・・!?」
だから、こんな提案をしてみる。女の子を昼食になんて誘ったことは無い。ただ、弁当を一緒に食べようと言っているだけなのに、緊張してしまう。
彼女は驚き、戸惑っている。俺は返答を待つ。
「・・・あ、あたしなんかと、いいんですか・・・・・・?」
彼女が絞り出したのは、そんな言葉だった。消え入りそうな声で、おずおずと聞いてくる。
だが、そこには踏み出す勇気があった。
「当たり前だ。俺が君と食べたいんだよ」
少し気障っぽいセリフ。上から目線で、背伸びをして格好をつけてみる。
考えたら恥ずかしくなっていき、顔が暑くなる。
「じゃ、じゃあ是非に、お願いしたいです・・・」
「おう」
そこにあった机を並べ、弁当を広げる。
これが、臆病で自分に自信がない少女との出会い。
これは、彼女、ビカラと遊ぶ物語だ。『陰トピア』と遊ぶ物語なのだ。