ただ、ただ弁当を口に運んでいく。シーンとした沈黙がその場に流れる。
会話が進まない。せっかくだから、何か話すんだ。
「えっと、ビカラちゃんは好きな食べ物とかある?」
こちらも会話なんて得意じゃない。だから何を言っていいのかも分からない。
だから、こんな変な質問になった。
「好きな食べ物ですか・・・・・・?あたしは、ち、チーズが好きです・・・」
「チーズかいいな」
返しが下手である。これじゃ、会話が続かない。
えっと、何か話題、話題、話題・・・。あっ、そうだ。
「なぁ、ちょっといいか?」
「は、はい・・・」
「そういえば、どうして旧校舎なんているんだ?」
はじめの出会いが衝撃的すぎて、聞くことが出来ていなかった。滅多に人の来ることの無い、旧校舎で1人だ。そんなの気になるだろう。
「そ、それは、その・・・。教室は少し、い、居場所というか、居心地が悪かったので・・・。たまたまここを見つけて、この場所をお借りしています・・・」
教室は居心地が悪いって、それに居場所がないって言おうとしてなかったか。
もしかして彼女はイジメでも受けているのだろうか?
「・・・なぁ、イジメとか受けてないか?」
「い、イジメなんて・・・。それに、あ、あたしなんか気づかれてないですよ・・・・・・くじけそう・・・・・・」
なんか聞いているこっちが、くじけそうになってくる。気づかれてないってそんな事があるのだろうか?
「と、とりあえず、元気だせって。ほら、チーズやるよ」
「あ、ありがとうございます・・・」
俺は弁当にたまたま入っていたチーズを、彼女に渡す。彼女はお礼を言いながら、少し嬉しそうにそのチーズを齧る。
彼女の機嫌が戻ったようで何よりだ。
途切れ途切れの会話をしていき、段々とビカラちゃんの事が分かってきた。
それに、ビカラちゃんも慣れてきたのか、少しだけ距離が縮まった気がする。
そんなお昼の時間も終わりが来てしまう。あと少しで、午後の授業の始まりだ。
だから、彼女に別れを告げる。
「時間か・・・。んじゃあ、俺はそろそろ行くな」
「は、はい・・・」
「そうだ、また一緒に弁当を食べないか?」
俺たちは学年が違うために、校内で出会える頻度は多くはない。彼女とこれで会いにくくなるのは、なかなかに寂しいもなのだ。
だから、彼女に尋ねる。会える機会を増やすために。
「・・・あ、あたしなんかといいんですか?」
食べる前と同じ質問が飛んでくる。自分なんかといいのか、という質問。
返しは決まっている。だから笑って答えてやるんだ。
「当たり前だ。俺が君と食べたいんだよ」
2度目の気障っぽいセリフ。今度は恥ずかしがらずに、精一杯格好をつける。
「ぜ、是非に・・・!またご一緒しましょう・・・・・・!」
「おう」
彼女の勇気の籠ったセリフ。ほんの少しだけ力強い言葉は、それを表していた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
〈side ビカラ〉
(ど、どうしてこうなったんだろう?)
ビカラは戦慄していた。自分が置かれている状況があまりにも唐突だったから。
教室での居心地が悪かった。友人と呼べる人は同じクラスにはいなかったし、人付き合いなんて避けてきた。
だから、この旧校舎を見つけた。人が寄り付かず、落ち着ける場所だった。昼の時間には必ずここへ来て、独りでご飯を食べていた。
寂しい、という想いはあった。だが、自分には現状を変える力なんて無く、無理だと思っていた。だって、自分は陰トピアの住人なのだから。
なのに、ある日突然、その男子生徒はやってきた。
その日は、独りで陽キャになるための練習をしていた。それを、聞かれた。その時は吐きそうになったくらいに焦った。
テンパって、土下座をしてしまった。本当に鬱かった・・・。
「話を、話をしよう」
その男子生徒は、落ち着きながらもそういった。あたしの醜態を見ても、笑わずに蔑まずにいてくれた。
そのまま、自己紹介の流れになった。自己紹介なんて苦手だけど、彼はゆっくりでいいと言ってくれた。
「そうだ、まずは俺からいこう。俺は2年の牡丹だ。
彼は先輩だった。同級生よりもハードルが高く感じてしまい、焦りが加速する。
「あ、あた、あたあたあたしは、ね、
ああ、やってしまった・・・。噛んだ・・・、もうおしまいだ・・・。
あたしはそう思った。だけど、目の前のこの人の反応は違った。
「そうか、ビカラちゃんって言うのか」
声音は優しく、しっかりと名前を聞き取っていた。この人がいい人だと分かったんだ。
しかし、期待なんてしてはいけない。
あ、あたしは所詮、陰キャだ・・・。この人だって・・・、成り行きで声をかけてくれているだけで、あたしなんかと関わろうとは思っていない・・・・・・。考えただけで、鬱ぃ・・・・・・。
だけど、だけど、この人はあたしにとんでもない言葉を発した。
「なぁ、良かったらなんだけどさ、昼飯一緒に食べないか?」
驚きでよく考えることが出来なかった。この人は何を言っているんだろうと、思った。
こんなあたしと、お昼を一緒に食べようと誘ってきたのだ。
(う、嬉しい・・・・・・!でも、あたしなんかと一緒に食べるなんて、不味くなっちゃうよね・・・・・・。お、お断りしなきゃ・・・・・・)
そう思った。そう思ったんだけど、口に出ている言葉は違った。
「・・・あ、あたしなんかと、いいんですか・・・・・・?」
期待をしてしまった。手を伸ばしてしまった。いくら卑屈になろうとも、ダメだと思っていても、あたしの心は素直だった。
彼は優しく笑い、返答した。
「当たり前だ、俺が君と食べたいんだよ」
あたしとはかけ離れた陽キャのような言葉だ。普段は怖いそんな言葉。だけど、その言葉は嫌じゃなかった。
「じゃ、じゃあ是非に、お願いしたいです・・・」
その言葉に対する、精一杯の回答だ。少し勇気を出した言葉だ。
この勇気の一言で、初めての誰かと一緒にお昼ご飯を食べることになった。
黙々とご飯を口に運んでいく。沈黙が広がっていく。
(な、何か、話さなきゃ・・・・・・!)
沈黙が続くと、不安になってくる。何か話さなきゃいけない感じになってくる。
しかし、それを壊したのは彼だった。
好きな食べ物は何かと、シンプルな質問がとんでくる。たどたどしくも、チーズと答えることが出来た。
会話と呼ぶには言葉数とかが足りない気もするが、会話が出来たことは嬉しく思えた。
彼は会話を続けようとしてくれたし、自意識過剰かもしれないが、あたしの事を知ろうとしているように思えた。
イジメの心配もしてくれて、チーズだってくれた。それらが無性に嬉しくて、彼の優しさが分かった。
彼は陽キャかもしれないが、それでもいい陽キャだと、思えた。
「時間か・・・。んじゃあ、俺はそろそろ行くな」
時間はやってくる。昼の終わりの時間だ。また独りに戻ってしまう。
「は、はい・・・」
だけど、ここで引き止める勇気なんて出る訳が無い。楽しく過ごしたいなんて、高望みは出来ない。
だけど、彼はあたしのこの気持ちを、遠慮なく壊していく。
「そうだ、また一緒に弁当を食べないか?」
その一言がどんなに嬉しかった事だろう。あたしが勇気が出ないのを、出来ないことをやってくれる。彼はやっぱり陽キャだ。
「・・・あ、あたしなんかといいんですか?」
出た言葉はこれだ。今度は、少し期待混じりの言葉。だから、少しだけ手を伸ばす。
「当たり前だ。俺が君と食べたいんだよ」
この小さな期待に、彼は大きく応えてくれる。さっきも聞いた言葉を彼は放つ。
「ぜ、是非に・・・!またご一緒しましょう・・・・・・!」
「おう」
こうして、あたしは約束をした。嬉しさで舞い上がり、なんだかなんだって出来る気がした。
佐倉牡丹さん・・・。ひとつ上の学年の、よ、陽キャで、優しい先輩だ・・・。
今日はなんだか、よく眠れそうだ・・・・・・。
次回もよろしくお願いします。