今日も俺たちは旧校舎の一室で、お昼ご飯を食べている。いつも通りで、普段の事。
だから、いつも通り俺は彼女と会話をする。
「部活動はどうだ?慣れたか?」
「は、はい・・・・・・。み、皆さん、良い人でしたので、な、なんとかやってます・・・・・・」
「そうか、それは良かった」
ビカラが部活動に所属した。何個かの部活を2人で見て周り、ビカラが気に入るものを見つけた。体験入部を経て、彼女は部活動へと入った。
彼女は陸上部には入らなかった。見学はしたが、やっぱり性にあわなかったようだ。
「なんか作ったりしたのか?」
「こちらを、つ、作りました・・・・・・」
そう言って取り出されたのは、小さな白いネズミのぬいぐるみだった。キーホルダーになっており、とてもいい出来だと思った。
「へぇー、これは凄いな」
「あ、あの、良かったら、も、貰ってください・・・・・・!」
ビカラはそう言ってきた。恥ずかしそうに、俯いている。
なんだか、その気持ちが嬉しくてこっちまで照れてきてしまう。
「いいのか?」
「は、はい・・・・・・」
「ありがとう、大事にする」
俺はそのキーホルダーを受け取った。ビカラからのプレゼントが嬉しくて、じっと見てしまう。
見れば見るほどに、彼女の技術の高さが伺えた。これが彼女の部活動での、初作品なんだ。
ここで、彼女の部活についてだ。彼女は陸上部には入らなかった、でも、部活には入っている。
その部活とは、手芸部だ。元々彼女は、服を作ったり小物を作ったりする事をやっていたそうだ。
というよりも、彼女は店員との会話が苦手で、自作で作らざるを得なかったと言っていた。何とも彼女らしい話だ。
部活でも得意な事をやりたく、色んなものを作りたいので、手芸部を選んだ。
見学の時も、体験入部の時も、ガチガチに緊張していて、彼女の言うところの陰キャムーブをしていた。
それでも、手芸部の部員たちは暖かく新入生を迎え入れた。そのため、ビカラもちゃんと馴染めたようだった。
「俺からも何かお礼をしないとな」
「あたしが・・・す、好きで差し上げたので、お、お礼なんて、そんな・・・・・・」
「そう大した事は出来ないんだが・・・何かあるか?」
自分に出来ることは、まぁ少ない。思いつく事も少ない。だから、直接彼女に希望を聞くことにした。
優柔不断で、自分では決められない、なんて思われても仕方がない。面倒かもしれないが、失敗するかもしれないし、ビカラならば、全て受け入れてしまいそうなのだ。
「な、なら・・・・・・!一緒に、と、トランプしませんか・・・・・・?」
「えっ、トランプ?」
驚いて、思わず聞き返してしまう。これは、予想外すぎた。
「す、すみません、わ、忘れてください・・・!な、なんて事をお願いしてるんでしょうね、あたしは・・・・・・身の程をわきまえます・・・・・・」
こちらの反応を確認したビカラが、早口にそう言ってくる。相変わらず卑屈である。
こちらから、お礼がしたいと言ったのに、どうしてそうなってしまうのか。思わず、笑ってしまう。
「あはははははは!トランプね、いいよ遊ぼう。トランプやろう」
「そんな、い、いいんですか・・・・・・?」
「それくらいなら、いくらでも付き合うよ」
「あ、ありがとうございます・・・!」
ビカラは早速、嬉しそうにトランプを取り出す。慣れた手つきで、トランプをシャッフルしていく。
「なぁ、ビカラ。どうして、トランプがやりたかったんだ?」
これは純粋な疑問。今、トランプを持っていた事もそうだが、彼女はトランプをとてもやりたがっているんだ。
「そ、それは・・・・・・ずっとひ、独りでトランプをやっていたので、だ、誰かと、あ、あそ、遊んでみたかったんです・・・・・・」
ずっと独りでって、だから彼女はシャッフルが異様に上手いのか。
「す、すみません、ぼ、牡丹さんなら一緒にやってくれるかなって、お、思ってて・・・・・・」
そうか、俺なら一緒にやってくれるって、思ってくれてたんだな。それならば、1歩前進していると言っていい。
今回のこのお礼の機会を経てだが、彼女から提案してくれた。それが嬉しくてたまらない。
「俺ならいくらでも付き合うよ、どんどんやりたい事をやろう」
「な、なら、バ、ババ抜きを・・・」
「おう、いいぞ!」
勢いよく返事をしたが、ババ抜きって、2人だと簡単すぎじゃね?
まぁ、そんな事はどうでもいいか。ビカラがやりたいと言っているんだ。ならば、やろう。
ビカラが、手際よくカードを配っていく。本当に手馴れているのが、なんだか悲しくなってくる。
ともかく、手札を見て揃ったカードを場に捨てていく。
2人でやるババ抜きの途中は、茶番だ。ただ引いて、捨てていくだけ。
JOKERさえ引かなければ、絶対に揃う。サクサクと試合は進んでいく。
そして、最終局面になる。こっちが2枚、ビカラが1枚。当然、こちらにJOKERがある。
彼女は難しい顔をしながら、カードを選んでいる。
「どどど、どうすれば・・・・・・」
悩んでいる、悩んでいる。ここがババ抜きの1番盛り上がるところだと言える。
どんなに大人数でも、最後の局面は盛り上がってしまう。そう、1番楽しいんだ。
悩んだ末に、彼女はカードを引く。
「こ、こっちです・・・・・・!ひっ・・・!」
「残念、そっちはハズレだ」
2分の1だ、2分の1だと思っていても、何故かJOKERは引いてしまう。この状況は意外と長く続く。
なんだかんだで、俺もかなり楽しんでいるようだ。ババ抜き自体が久しぶりだったし、何よりもビカラと遊べて楽しいんだ。
だから、熱が入ってしまう。勝とうとして、2分の1を真剣に悩む。
カードに手をかざし、悩む。うーむ、どっち・・・に、しよう・・・かな・・・!
彼女の顔を見てみると、汗がダラダラしていて、顔色が悪かった。
かざしている手を、別のカードに移し替える。すると、パァっと明るくなる。
・・・・・・分かりやすすぎるだろ。これは、カードをとっていいのだろうか?勝ってもいいのだろうか?
「悪いな、勝たせてもらう!」
「ああ、そ、それは・・・・・・!」
俺は少し悩み、顔色が悪くなった方を取る。それは、JOKERでは無かった。
揃ったカードを場に出して、俺の手札は無くなった。
「あがり、俺の勝ちだな」
「う、うぅ・・・負けました」
ビカラは最後に残ったJOKERを握りしめながら、項垂れる。
しまった。勝負だからと、勝ってしまったがここは負けた方が良かったのだろうか?
そっちの方が彼女は楽しめたのではないだろうか?
俺はそう考えていだが、どうやら彼女は違ったみたいだ。
「誰かと、あ、遊ぶって、とても楽しいんですね」
少し笑みを浮かべながら、彼女はそう言った。
ああ、良かった。そう思ってくれていたなら、良かった。思わずこちらも、笑顔になってしまう。
「おし、もっとやるか?」
「か、畏みです・・・」
ババ抜きは楽しいものだ。2人ではどうかと思っていたが、そうでもなかった。
それは、ビカラとやったからかもしれない。うん、その方がいいな。
ビカラも楽しんだようで、何よりだ。
俺は、もっと、もっと、彼女と色んなことをして遊びたいと思ったよ。
俺たちは、教室でしばらくババ抜きを楽しんだ。楽しみすぎて、授業に遅れそうになったのは、いい思い出だな。
次の遊びは何にしようか・・・