嗚呼 忙しなき日々よ   作:ノイフェル

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 いつもとは少し風味が違いますが、ご理解の上で閲覧ください




 いつか見た空

 

 

  自然の摂理とは残酷なものである

 

摂理の前に、自然の前に生き物は無力だ

 

如何に叫ぼうと、嘆こうと

その理不尽故に激昂しようとも覆る事は決してない

 

 

 

 

 

 

 

その異変に気付いたのは、やはり理事長だった

 

 

「どうしたのだ、ミリー?」

 

秋川やよいは寝起きに枕元にいない床に居るミリーに声をかけた

 

いつも仰々しい喋り方をする。さりとて、常にそうではない

ミリーの前では理事長ではないただの秋川やよいなのだ

 

 

 

「ミリー?」

 

「にゃう」

 

いつもならば、早朝やよいの枕元で彼女を起こすのが日課である

 

 

 

 

だが、今日は違った

 

 

 

 

 

 

 

この習慣はトレセン学園理事長に就任する前よりあった為に、かれこれ5年ほどになるだろう。その間、1日とて欠かさず行なってきた日課といえるもの

 

 

 

それが、この日初めて破られた

 

 

 

関わり合いの少ない者からすれば、普段通りに見える

 

だが、やよいは強烈な嫌な予感に襲われた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミリー?体調が悪いのか?」

 

 

 

サイレンススズカやダイワスカーレットのトレーニングも軌道にのり、ミリーが居る必要も無くなってから、半年

 

既にクラシック路線でスズカは頭角を現しつつあり、テイエムオペラオー、オグリキャップ、メジロライアン、ミホノブルボン等と鎬をけずりあっていた

 

 

ダイワスカーレットは未だデビュー前であるが、ゴールドシップと途中から参加したウオッカ。更に『皇帝』シンボリルドルフに憧れるウマ娘

トウカイテイオーが仲良く地獄を見ている

 

 

だが、トレーニングのコーチ陣であるカブラヤオー、アグネスタキオン、レイクスプリンター、マンハッタンカフェ達は微笑ましそうに見ている

 

「いつもの事」

彼女達からすれば、トレーニングで地獄を見るのは当たり前であり、限界など超えてナンボである

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食をとっても様子のおかしいミリーを見て、やよいは獣医に見せる事にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『余命一年』

 

ミリーに下された診断結果だった

 

 

 

 

やよいとたづなはこの世の理不尽を嘆き、悲しんだ

 

 

 

獣医に延命処置の有無を確認したが、一年は静養した上での事。普段通りの生活をするならば、短くなることもあり得る。との宣告をうけた

 

 

 

 

 

 

ミリーはやよいが秋川の家にいた頃からの家族であり、友人でもあった

 

 

妙に間の良い所や頭が良い事もあるが、それ以上に一緒にいる事が当たり前となっていた

 

安らぐとかではなく、一緒なのが当たり前だった

 

 

 

やよいがウマ娘に興味を持った時、ミリーも同じように興味を持った様に見えて嬉しかった。心強かった

 

 

 

 

 

 

 

シンザンを振り回していたミリー

 

シービーと戯れていたミリー

 

カブラヤオーとのんびり日向ぼっこしていたミリー

 

タキオンから逃げ回っていたミリー

 

シンボリルドルフが寒いダジャレを言うと、怒っていたミリー

 

エアグルーヴの花壇の側で休んでいたミリー

 

 

 

 

様々なミリーがいた

 

 

 

 

 

しかし、必ずミリーはやよいの元に戻ってきて、その身を休めた

 

 

 

 

嬉しかった

 

ミリーに助けられている自分がミリーの帰るところになっている事が

 

 

 

 

 

悲しかった

 

いつもトレセン学園内を彷徨いているミリーが見れなくなるのが

 

 

 

 

悔しかった

 

こんな時、ミリーに何もしてやれない自分の無力さが

 

 

 

 

泣き出したかった

 

いつも頭の上にいるミリーがもう、頭の上に登れないくらい弱っている事が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋川やよいは諦めたくなかった

 

 

やよいが学園設立の際に落ち込んでいた時には、傍に居てくれた

 

感情が昂った時には愚痴を聞いて貰った

 

心細い時には一緒に寝てくれた時もある

 

 

 

 

 

秋川やよいという人物にとってミリーは我が身同然

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やよいはこの日よりあらゆる手段を用いて、ミリーの治療方法を探し始めた

 

 

 

 

一方でミリーの日課ともいえる学園内の探検は1週間に一度にまで減らした

 

 

 

 

 

 

 

素人の考えであったが、それでもミリーを自分から離すのが怖くなっていたのである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、春が過ぎ、夏を経て秋を迎える

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイレンススズカのシニア路線、天皇賞秋

 

 

 

運命のレースを迎えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既にミリーの衰弱は身に見えて酷くなり、学園内はおろか、理事長室内ですら自由に動き回る事が出来なくなっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獣医の診断を受けたのが、前年の2月

 

 

診断通りならば、後4ヶ月でミリーの寿命は尽きる事になる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミリーの事を聞いたカブラヤオー経由からか、引退したウマ娘達がこの半年ほどでトレセン学園理事長室を訪れた

 

 

泣きながら縋り付くもの

涙を堪えながら、思い出話を語りかけるもの

何故こうなのか、と不条理を嘆くもの

 

 

 

様々なウマ娘が理事長室のミリーを訪ねてきた

 

 

 

 

 

 

やよいは如何に自分の大切なミリーがウマ娘達にとっても大切な存在になっていたかを改めて実感した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなミリーは頻りに天皇賞秋の記事を気にしていた様に見える

 

 

 

 

理事長室にはミリー専用の新聞や雑誌があり、ミリー専用スペースに広げて置かれている

 

ミリーが気になるものに爪を立てる為にミリーの興味を引くものがわかる

 

 

 

 

 

 

 

 

「天皇賞か、ミリー」

 

「にゃう」

 

この天皇賞秋はシンボリルドルフ、エアグルーヴ、ナリタブライアン、サイレンススズカ、ビワハヤヒデ、オグリキャップという豪華なメンバーが出走予定である

 

 

一部のウマ娘は先達に教えを請い、そして苦手環境を克服してまでのレース

 

 

 

 

今年の大一番になるだろうとの予測であった

 

 

 

 

 

「直接は見れない」

 

「にゃおぅ」

 

いくらミリーが見たいと言ったからとて、今のミリーをレース場に連れて行くなど無謀にすぎる

 

 

 

 

 

だが

 

 

 

「ミリー、ダメなものはダメなんだ」

 

「にゃ」

 

「だから」

 

「みゃう」

 

聞き分けの良いはずのミリーが妙に粘る

 

 

だが、やよいは退けない

ミリーの命が懸かっているのだから

 

 

 

 

 

 

 

「みゃ」

 

「良い加減にしろ!何故、どうしてわかってくれない!」

 

なおも不満そうなミリーにやよいの感情が爆発した

 

「ミリーが気にしているのはわかる。わかっているとも!だからといって、今のミリーにレース場なんて危険なんだ!

分かっているはずだ!なのに、どうして」

 

やよいは蹲る

 

「にゃ」

 

 

ペロッ

 

 

 

ミリーはやよいの頬を舐める

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かった上で、なんだな?」

 

 

やよいの涙声が小さく響く

 

 

「にゃう!」

 

 

 

「分かった。手配しよう」

 

 

 

 

 

やよいは後に語る

 

「諦観、あの時私は悟った。レースがミリーとの最後の思い出になると」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果のみ語ろう

 

 

天皇賞秋の盾はサイレンススズカが手にした

 

シンボリルドルフ以下のウマ娘の差しや追い込みすらもねじ伏せ、確かに彼女は『スズカだけの景色』を見る事が出来た

 

 

 

 

 

 

その裏で、一つの命が消えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奇しくも、天皇賞秋の天気は秋川やよいとミリーが出会った日の様に雲一つ無い空であった

 

 

 

それだけである






この話の補完は後の話でする事になるかと思います

ご一読ありがとうございました
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