『怨嗟断絶のディスコード』【完結】   作:OKAMEPON

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『邪竜と赤子』

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 ギムレーが『ソレ』を拾ったのは、単に偶然と言える様な気紛れによるものであった。

 

 ヒトの集落を焼き払い蹂躙し、命乞いする人々を丁寧に一人ずつ虫けらの様に鏖殺したその後で。

 取り逃した者が居ないか、一つ一つ物言わぬ骸を屍兵達に確かめさせながら付近を彷徨いていたその時に。

 古の神殿の跡地に、何やら己と同じ様に【竜】の力の、その片鱗を感じる小さな命の輝きを見付けた。

 適当に弄んでその命を吹き散らしてやろうかなどと思いながらその命に近付いて。

 そして近付いて漸く気付いた予想外な事実に、僅かに瞠目した。

 

『ソレ』は、ギムレーが思っていた通りに、漸く乳呑み子の時期が終わった程度の月齢のヒトの赤子で。

 しかし、心細げに眠るその赤子には、ギムレー自身とは較べるべくも無いが、ヒトとしては有り得ぬ程に、【竜】の力──ギムレーの力の片鱗が眠っていた。

 ギムレーの器を作る為の血族の末裔だろうか? 

 少し何かの歯車がズレていれば、この幼子がギムレーの器となっていたのかもしれない。

 そうギムレーにも思わせる程に、その赤子には見間違える筈など無い程の力があった。

 

 それはそれとして、親や大人の庇護が無ければ早晩死ぬ様な赤子が何故この様な場所に独り居るのか……。

 先程潰した集落にこの赤子の親が居たのだろうか? とも一瞬考えたが。

 直ぐ様、それは違うだろうとギムレーはその考えを捨て、人間の浅ましさを嗤う。

 ここは集落からは離れ過ぎているし、ギムレーの手からここまで逃げ延びる事が出来るヒトは居ないだろう。

 ならば何故この様な場所に独り眠っているのか。

 ……まあそう難しい話でもない。この様な世界情勢だ。

 手の掛かる赤子など育てられぬと親に捨てられたか、或いは親が野盗などに殺されたか……。

 若しくは、その身に眠るギムレーの力を疎まれたか。

 まあ何にせよ、この赤子には庇護する者もなく、他のヒトが訪れる事もないだろう廃墟で独りきりであると言う事だけが事実である。

 ここでギムレーが態々手を下さずとも、そう時を置かずして儚く消える命だろう。

 寧ろ苦しませる言う点に於いては、このまま放置して赤子が死ぬまでを眺めている方が愉しいかもしれない。

 

 が、しかし。

 この日偶々ギムレーはとても機嫌が良かった。

 だからこそ、その赤子を見て気紛れな思い付きを得た。

 

 ……それはある意味で、ここで死なせてやるよりも遥かに残酷な事になる思い付きであったのかもしれない。

 だが、元よりヒトの苦しみこそ悦びとする感性だ。

 この赤子が苦しみ絶望するのであれば、それはギムレーにとっては寧ろ望むところなのである。

 

 この赤子を、自分の子供として、育ててみようと。

 ギムレーは悪意と共にそう思い付いた。

 

 邪竜の『子供』としてギムレーに育てられた、ヒトでありながらもヒトを滅ぼす存在。

 だが何れ程邪竜の『子供』として在ろうとも、【竜】には成れず、ヒトの側にもギムレーの側にも属しきれない。

 何物にも成れない、何者でも在れない。哀れな命。

 ああ……それは何と憐れで。……それでいて、何と愉快で醜い存在だろうか。

 この赤子は、何時か自身の在り方に苦しむのだろうか、絶望するのだろうか、何にも成れぬ己を呪うのだろうか。

 

 ヒトでありながら邪竜の『子供』となると言う事は、その様な苦難と絶望と孤独だけが待つのである。

 ああそれは……ある意味で『死』そのものよりも恐ろしい事であり得るのかもしれない。

 自らが育ったその環境こそが、何時か自らを苛むのだ。

 何処にも逃げ場など無く、何の救いも有りはしない。

 その手を握ってやるだろうギムレーの手は、その身を千尋の谷に突き落とし嘲笑う悪意の権化でしかない。

 ああ、哀れだ。実に哀れである。

 だからこそ。

 

 

 

「お前を今日から我が『子供』として迎え入れよう。

 ヒトでありながらもヒトを敵とし、然れどもヒト以外の何者にも成れぬ者として生きるといい。

 ああ、なんと愚かで憐れで醜い……我が子よ。

 我だけは、何が在ってもお前の傍に居てやろうとも……」

 

 

 

 我が子となる赤子を傷付けぬ様にそっと抱き上げ、そう囁くギムレーの顔には、歪んだ笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 我が子とするべく赤子を拾ったギムレーであるが、ヒトの赤子とは放置して勝手に育つ様なものではない。

 故に、世界を滅ぼしていく片手間にではあるが、ギムレーは子育てに追われる事になった。

 

 ヒトの赤子とは、とにかく手の掛かる生き物だ。

 脆弱極まりなく、直ぐに体調を崩しては熱を出す。

 脆いクセに、何の道理も弁えていないから、危険な場所だろうと何だろうと躊躇無く行こうとする。

 ほんのちょっとした事でも命を落としかねないのに、「恐怖心」すらないが故にそれを避ける知恵も無い。

 少しでも目を離せば、何をしでかすか分からない。

 

 いっそここまでギムレーの思い通りにならぬ生き物と言うのも、最早この世には珍しかった。

 ギムレーの力で思い通りに動かそうとしても。強過ぎるギムレーの力では、それで却ってその命を奪いかねないので、それも出来ないのであった。

 いっそ笑える程に思い通りにならない。

 拾った赤子は、ヒトの子供として見るのなら、比較的手の掛からない子供であったのだろう。

 が、ヒトの子供を育てた経験など当然の事ながら有る筈も無いギムレーにとっては、降って湧いた「子育て」と言うモノが煩わしい事である事には変わりなかった。

 

 しかしそれでも、何れ程面倒だと思ったとしても、その赤子を放り出す事も、或いは戯れに絞め殺す事も無く。

 熱を出せばヒトの為の薬を与えて夜通し看病し、危険な場所に近付かぬ様に常に目を光らせ。

 ギムレー自身にはあまり必要の無い食事も、赤子には一度も欠かさずしっかりと与えていて。

 しかも、それも気紛れかつ雑に与えるのではなく、ヒトの赤子に必要な食べ物を適切な与え方で、手ずから与えると言う徹底っぷりだった。無駄に育児の知識が増えた。

 

 そこにどんな内情があったにせよ、傍目には邪竜とは到底思えない程に、実に甲斐甲斐しくギムレーは我が子としたその赤子を育てていたのだ。

 そうして赤子を育てる内に、そう言えばまだこの赤子には「名前」が無い事にギムレーは気が付いた。

 

 産みの親が付けた名があるのかもしれないが、それを示すモノをこの赤子は何も所持しておらず、ならばギムレーからすれば分からぬ名など無いも同然である。

 ギムレーが自らの傍に置くモノで生者はこの赤子のみであるのだから、判別の為の呼び名と言う意味でなら、一々「名前」など要らぬのかもしれないが。

 

『名前』とは、存在を縛る原初の【呪い】だ。

 その存在の在り方を規定し、時にその未来すら縛る。

 故に。ギムレーに【呪われた】この赤子が、如何様に歪み育つのか、そんな悪意そのものの様な興味を抱いて。

 ギムレーは赤子に直々に『名前』を与える事にした。

 

 

「『名前』など個を示す記号であれば十分とも言えるが、折角この我が直々に名付けるのだ。それでは些か味気無い。

 この際だ、素晴らしい【呪い】にしてやろう。

 ふむ……そうだな……」

 

 

 赤子を抱き上げあやしながら、ギムレーは思案する。

 すると、ふと。

 ギムレーの脳裏に『マーク』と言う言葉が浮かんだ。

 

 

「『マーク』……『象徴』、か。成る程、悪くない。

 お前の様な歪んだ存在にそう名付けるのも一興だろう。

 よし……、今日からお前は『マーク』だ。

 我が直々に『名前』を与えるなど極めて稀な事だぞ? 

 光栄に思うが良いとも、我が娘『マーク』よ」

 

 

 ギムレーの言葉に、幼子は無邪気に声を上げて笑う。

 自分へと伸ばされたその小さな手をそっと握ってやりながら、ギムレーはいっそ慈愛すら含まれる様にも見える笑顔を浮かべるかの様に、その口の端を歪める。

 だが、ギムレーに慈悲の心も、そして何かを愛する心も、そのどちらも存在する筈は無く。

 そこに在るのは純粋な「好奇心」と、破滅と絶望を愉悦とする「悪意」である。

 

 邪竜の娘は、どの様に歪み育つのだろう。

 ギムレーはマークの柔らかな髪を撫でてやりながら、その歪みが萌芽しマーク自身を苛むだろうその時を愉しみに待ち望むのであった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 ヒトの一生は、【竜】から見ればほんの瞬きの間の様に思える程に、短く儚い。

 それ故に、元より同じヒトから見てさえも成長の早いヒトの赤子であるマークの成長の速度は、【竜】であるギムレーからすればまさに瞬く間すら存在し無かったと言っても過言では無い程に駆け足に過ぎ去っていった。

 ほんのつい先日まで発語すらも覚束無かったと思うのに、今では「とうさん、とうさん」と舌足らずな呼び方でギムレーを呼んでは、その後を覚束ない足取りで一生懸命に追い掛けてこようとする。

 自分の後を雛鳥の様に付いて回ろうとする姿に、庇護欲を掻き立てられる事など別段ギムレーには無いのだが。

 だからと言って、煩わしさが全く無いとは言わないがそれでもマークを邪険に扱う事も無く、ギムレーはマークの自由にさせていた。

 膝上に登ってこようともそれを払い除けたりはしないし、マークが泣き喚いていたらあやす事だってある。

 が、ギムレーはただ意味も無く育て愛玩する為にマークを拾った訳では無い。

 何処までもヒトでしか在れないこの幼子が、それでいて本来己が帰属するべきヒトの世を否定し滅ぼそうとする、その滑稽な様を特等席で見届ける為だ。

 

 それに、手塩に掛けて育て上げれば、マークの素質を見るに、ギムレー秘蔵の精鋭の屍兵達ですらも足元にも及ばない程の、最高の手駒になる事は明らかである。

 屍兵は何れ程質が良いモノであろうとも、所詮は屍を邪法で動かしているだけに過ぎず、命じた事ならば遂行する事は出来るが「それだけ」である。

 臨機応変な対応など出来はしないし、「知性」と言うべきものも殆ど存在しない……ただの人形だ。

 裏を返せば、裏切りの心配や……或いは「情」による性能の劣化などの心配は無いと言う事でもあるのだが。

 しかし、そう言った手駒しか居ないと言うのは、思わぬ所に欠点が存在する事もあるであろう。

 ならば、このマークを、「知性」ある優秀な手駒として育てていくのは良い手であると言える。

 

 我が子として『愛情』を与えていれば、力でその心を無理矢理縛り付けて折角の性能を制限したりなどしなくても、マークがギムレーを裏切る事は無いであろう。

 ギムレーには理解し得ないが、「親子の情」とやらはヒトの子にとっては特別なモノであるらしい。

 それに満たされた子供は、「親」を裏切る事は出来ない。

 更にはギムレーが手塩に掛けて、「ヒト」のそれとは隔絶した価値観や倫理観を植え付けていけば、マークが「ヒト」に絆される様な事もあるまい。

 ヒトが『愛情』なるそれを感じる為の「刺激」をマークに与える事など、ギムレーにとっては造作も無い事だ。

 それが「中身」の伴わない空虚な茶番であるのだとしても、それを受け取る側がどう感じるのかは別である。

 

 だからこそ、ギムレーはマークに『愛情』を注いだ。

 

 毎日欠かさずマークに触れ合ってやり、事ある毎に言葉を掛け、意味の分からぬ喃語にも反応してやり、意味の通る言葉が多少喋れる様になれば止め処無い「なんでなんで」の言葉にも律儀に応えてやった。

 清潔な衣服を与え、十分な量の温かな食事を与え、温かな寝床を与え、日々の沐浴も欠かさず行わせ、夜を寂しがれば共にその寝床で寝て、……まるで「ヒト」の親がそうする様に本の読み聞かせなどと言うモノすら行った。

 理想的な「親」を演じる事など、ギムレーには容易い。

 マークに望む言葉を掛けてやる事も、望む事をしてやる事も、どれもギムレーにとっては簡単な事だったのだ。

 ただギムレーの心に「愛情」が無いだけで、甲斐甲斐しく……そしてこの『絶望の未来』では王侯貴族の子供ですら享受出来ない程の「満たされた」生活を与えた。

 そしてそれだけではなく。

 言葉を、文字を、知識を教え与えて。

 その思考能力を鍛え養わせ磨かせて。

 マークを、「知性ある者」として、ギムレーは最善を尽くして育てていったのであった。

 

 マークと過ごした日々の中で、ギムレーの心に『愛情』なるそれが芽生える事は無かったが……しかしやはり、手塩に掛けてここまで育ててきたのだと言う、一種の愛着の様なモノは芽生えていた。

 例え最終的にはその滑稽な様を愉しむ為であるとは言え、少なくとも途中で育てるのに飽いて棄てる様な事は露ともその思考の端にも過る事も無い程度には、ギムレーはマークの事を「大切」にしていたのだ。

 

 何れ程歪んでいるにしろ、そこにあるのはある種の「愛」であると言えるのかもしれなかった。

 そんなギムレーからの『愛情』を一身に受けたマークは健やかに成長し、ギムレーを何の疑いも曇りも無く『父親』として慕う様になった。

 そんなマークをギムレーはより優秀な手駒とするべく、言葉を覚え始めた辺りから、ヒトを殺し滅ぼす為の様々な知恵や技をギムレーはマークに仕込んでいった。

 

 それは牙や爪を持たぬ虫ケラどもがそれでも外敵や……時には同胞を殺す為に磨き続けてきた戦闘技術であったり、群れを指揮してより効率的に殺し合う為の戦術であったり、質の良い情報を得る為の拷問の仕方や或いは最大限の苦痛を与えた上で殺す方法、敵を籠絡する為の様々な権謀術数やヒトを扇動するやり方、ヒトが行使できる範囲の魔法や呪術等々……。

 ヒトに出来るだろうありとあらゆる技術を。

 ヒトが理解し得るだろうありとあらゆる知識を。

 ギムレーは惜しむ事無くマークに与えた。

 無論、それを教え込む為であっても、ギムレーはマークを虐待などしない。

 虫ケラどもの中には、幼子にそう言った技能を仕込む時に命を落とす程の虐待を加えていた者も居たと言うが。

 ギムレーには態々そんな愚かしい事をしてまで大切な『我が子』の性能を損うつもりなど無かった。

 暴力や恐怖で縛られた思考には結局の所柔軟性が足りず、それでは最高の手駒として調整してきたマークの折角の優秀な頭脳が宝の持ち腐れとなるのだから。

 ギムレーは無駄な事はしない、無意味な事はしない。

 

 そもそも、物心付くその前より邪竜の価値観に染まりきっていたマークを、今更そんな詰まらない鎖で縛って従わせる意味など無い。

 暴力だけで従わせるなど、所詮は理性無き「獣」の技。

 その様な事をせずとも、ヒトが産まれながらに欲する『愛情』で、過不足なくその心を満たしてやれば良いのだ。

 実際、『愛情』を与え続けたマークは、絶対にギムレーを裏切らず、自らの意志でヒトではなくギムレーを選び続けるだろう程にギムレーを一心に慕っている。

 狂信では無く、『親子の情』こそが最高の鎖だ。

 何れ程『愛情』の刺激を与え続けても、ギムレー自身は「愛情」などと言う曖昧模糊とした感情は根本的な所では理解し切れないものではあるけれど。ヒトがそれを感じる行動や刺激を模倣してやる程度は造作も無いのだから。

 結局『愛』だの何だのと謳った所で、受け取る相手がどう感じるかが全てであり、少なくともマークはその『愛情』とやらを感じている様なのでそれで良いのだ。

 優秀な手駒が育っていく様を見るのは、ギムレーとしても大層気分が良くなる事であった。

 

 更には非常に嬉しい誤算で、マークは非常に出来の良い生徒であり、教えた事は直ぐ様こなせる様になった。

 教えた事を時に実践させ、確かにそれを己のモノとしていくマークを見ていると。ヒトが絶望し破滅していくその有様を眺めている時に感じる「愉悦」とはまた違った……しかしそれと同等かそれ以上に、愉快さと同時に……鬱屈した気持ちが晴れる様な何かを感じる。

 ヒトがそれを「やり甲斐」や「充実感」などと言って持て囃していたのは知っているが、成る程これは悪くない感情であった。少なくとも、退屈しているより余程良い。

 以前はしょっちゅう感じていた「退屈」などと言う感情は、マークを拾ってからはすっかり消え去っていた。

 そう言う意味でも、ギムレーにとってマークは「お気に入り」の道具であるのだろう。

 そんな「退屈しない」日々を機嫌よく過ごしていたギムレーは、今日もマークを教え込んでいた。

 

 

「良いか? マーク。

 ヒトは脆弱で臆病な生き物だが、群れると厄介だ。

 我にとっては如何に群れようとも塵芥に過ぎんが、お前には群れた人間どもは危険極まりない存在だと思え。

 故にヒトを殺す時は、如何に奴等を分断し群れさせないかを常に意識すると良い」

 

「はい! わかりました、父さん!」

 

 

 ギムレーの教えに元気よく頷いたマークは、その少し後に実践にと放り出された戦場で、与えた最小限の屍兵を手駒として、見事にギムレーの期待に応えて見せた。

 ヒトの齢にして七つにも満たぬ幼子が、屈強な戦士達が守る街一つを、見事死の廃墟へと変えたのだ。

 

 老若男女の区別なく、腹の中の赤子まで丁寧に丁寧に鏖殺して見せたマークは、数多の同族を殺したと言うのにも関わらず、自らの戦果を誇らしげな顔をして、ギムレーの膝の上ではしゃぐ様に報告していた。

 これにはギムレーも満足して、その頭を撫でてやる。

 

 

「ほう、我に歯向かう者どもの拠点を一つ潰した様だな。

 見事だ。我もお前が誇らしい。 それで、どうだ? 

 同族をその手に掛けて、お前は何を思う?」

 

 

 マークが今更ヒトの屍を幾ら積み上げようが何とも思わないのを知りながら、ギムレーは敢えてそう訊ねる。

 

 

「何も感じなかったです。

 だって、あの人達は父さんの敵ですよね? 

 じゃあ、滅ぼそうとしている相手から殺されるのは、当然の事じゃないですか。

 父さんを殺そうとする人達は、みーんな、このマークちゃんが殺しちゃうんですから!」

 

 

 当然だと、そう答えるマークは曇りなど何処にも無い満面の笑みを浮かべた。

 

 ギムレーは知っている。

 マークは幼子である自らの容姿を最大限に活かして標的となった街へ潜り込み、そして内部でわざとヒト同士の対立を引き起こさせ、そしてそれを扇動する事でその対立を殺し合いへと発展させた。

 そしてヒト同士で相争い消耗していた所に、マークはギムレーが街を攻め落とす為に与えた最小限の屍兵を指揮して襲撃し、その場に居た者達を鏖殺したのだ。

 ギムレーが出した課題に、文句の付け様がない解答を実践で返したのである。

 そして、そのあまりにもヒトとしては壊れきった、それでいて何処までも純粋無垢なその在り方が、ギムレーにとっては堪らなく愉快であった。

 

 ああ、何と憐れで愚かで醜い……「ヒト」と言う生き物の業を煮詰めた様な存在であるのだろう。

 だからこそ、ギムレーはマークを抱き締めてやる。

 

 

「それでこそ『我が娘』だ。

 ヒトの身でありながら、その心はヒトに在らず。

 去れども【竜】には成れぬが故に、ヒトと【竜】のどちらとしても在れない、憐れで醜く愛しい『我が子』だ。

 さあ、ご褒美は何が良い? 

 お前が望むモノならば、何でも与えてやろう」

 

 

 そう言ってやると、マークは途端に喜び勇んでギムレーに抱き着きながら願い出る。

 

 

「わーい、じゃあ今日も戦術を教えてほしいです!」

 

「やれやれ、戦術なら何時も教えてやっているだろうに。

 全く、お前は無欲なのか強欲なのか分からんな。

 ああ、良いだろう。

 ならば今日は城の落とし方を教えようか」

 

 

 どうやら、マークは「戦術」に特に強い興味がある様で。

「ご褒美」として欲しがるものは、大体が戦術書などの「戦術」に関わるモノだった。中でも一番欲しがるのは、ギムレーから直接「戦術」を教授して貰う時間だ。

 ギムレーとしても、優秀な教え子であるマークに自らの知識を授けていくのは吝かではない。

 

 嬉しそうにはしゃいだマークの頭を撫でてやりながら。

 ギムレーは今日もまた、「ヒト」を殺す為の知識を、可愛い『我が子』へと教え込むのであった。

 

 

 

 

 

 

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