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神竜ナーガがルキナ王女を『過去』へと送り出したその軌跡を辿って、無限に交差しては流れゆく時の濁流を遡る。
ほんの一瞬であった様な、或いは幾度人生を繰り返しても経験出来ない程の無限にも等しい時間であった様な。
そんな狂った時間感覚が急に途絶え、時の回廊から弾き出される様な形で、マーク達は『過去』に辿り着いた。
その途端に五感に飛び込んでくる溢れんばかりの情報の奔流に、酔った様な心地さえ覚え。マークは暫し視界からの情報を遮断する様にその目をきつく閉じる。
だが。
傍らの父が苦し気に唸り、荒く息をしている事に気付いた瞬間。マークは慌てて父の様子を確認した。
荒く息をして、額から汗を流しながら頭を押さえて。
父のその様に弱った姿を、その生に於いて初めて見たマークは、動揺の余りに掛ける言葉を見失ってしまう。
父の荒い息は次第に収まってゆき、そして最後には頭を軽く振ってから深く溜息を吐いた。
「父さん……? 大丈夫ですか……?」
動揺で震えた声のまま、マークは父の身体を支えようとする。だが、父は片手でそれを制した。
「大丈夫だ、マーク。心配する程の事では無いさ。
……この時間に存在する『僕』と、一瞬存在が混ざり合ったみたいだね。……ただでさえ削られていた力が、少しばかり「あちら側」に持っていかれた様だ」
そう言いながら、父は己の状態を確かめてゆき、そして不機嫌そうに舌打ちをした。
「思った以上に力が削られている様だね……。
今のままでは、【竜】の姿に戻る事も難しいだろう。
贄を喰らって回復し切るのも容易では無い……。
ここはやはり、「あちら側」の『僕』を覚醒させて、そして一つになるのが一番早いな……」
どうしたものか、と。何やら策略を廻らせようとする父に、マークはおずおずと訊ねる。
「この時間に存在するもう一人の「父さん」と一つになったら、父さんはどうなるんですか……?」
喪った力を取り戻す為に、その力を持った「自分」自身と一つになる……。それは確かに合理的な方法なのだろう。
だが、そうして一つとなった場合、マークの父であるギムレーはどうなってしまうのだろうと。そう考えてしまう。
一つになると言う事は、当然もう一人の「父」……マークの父親ではない「ギムレー」の影響もある。
寧ろ、覚醒して力が溢れんばかりの状態であるのなら、父よりもその「ギムレー」の方が強いのだろう。
その状態で「一つになる」と言う事は、両者が平等に交じり合うのではなくて、一方が他方を吸収するに近しい形になってしまうのではないかと思うのだ。
そしてその場合、吸収される側になるのは、マークの父の方になってしまうのではないだろうか。
人ではなく【竜】である父にとって、「個」の概念やその捉え方は、マークとは違うのかもしれないけれど……。
そうやって吸収された場合、一つになった『ギムレー』は、果たしてマークの父であるのか……。
そんな事を、どうしても考えてしまうのだ。
マークの質問の意図が分からなかったのか、一瞬怪訝そうな顔した父であったが。「ああ」と、得心がいった様に呟くなりマークの頭を撫でた。
「気にしなくても大丈夫さ、マーク。
『ギムレー』として同じ存在である以上は、混ざり合い一つになっても、僕である事に何も変わらないのだから。
君が僕の娘である事実は何も変わらないよ」
そう言って微笑む父に、マークは頷くしかなかった。
それからのマークは、力の多くを喪った父の為にあちこちに奔走する事になった。
真っ先にこの時間の『ギムレー教団』に接触し、力を取り戻す「足し」にする為の生贄の調達などを協力させて。
父がかつて辿った様に歴史を動かすべく、各国に裏で働きかけ。それと同時に、ルキナ王女の行方を捜索し始めた。
少しでも早く力を取り戻したがっている父は、「歴史」を刻む時の針を少しばかり早める事にした様で。
その為の調整に、マークも色々と暗躍する事になった。
暗躍によって幾千万の屍を積み上げる事など、マークにとっては如何程の事でも無く。ペレジアとイーリスとの戦争で両国の民が幾千幾万の民が怨嗟の坩堝の中に消えても、それら全てが父の為の贄でしかなかった。
父の敵であるナーガを奉じる者達であっても、或いは父を神と奉じ祀る者達であっても。
マークにとっては全て押し並べて「人」でしか無く、ただの駒……或いは贄だ。人々を破滅へと突き落とす事に、マークは何も疑問を持たない。マークにとっての特別はこの世に唯一つ、父だけなのだから。だが、それでも。
マークにとって意識の片隅に引っ掛かる者は居る。
そもそもこうして過去に渡る原因となったルキナ王女の事は、探し出して始末せねばならない相手であると意識の端に留めていたし、そして。
過去の「父」……ルフレと言う名の人間として生き、そしてイーリスで軍師を務めている存在。
監視を付けて「父」の動向を常に探っているので、彼の事はよく知っていた。
イーリスの軍師として聖王と共に戦っている事、彼に過去の記憶が無い事などから始まり。どの様な策を立て、それをどの様に実現させたのか、どの様な人物とどう交流しているのか。果ては、購入した本の書名まで。
凡そ、調べる事が出来る事は全て調べ、そしてマークはそれら全てを把握していた。
だからこそ、戸惑うしかない。
彼は、余りにも父とは違い過ぎた。
「同じ」存在ではある筈なのだ。
彼もまた、父がそうであった様に邪竜ギムレーとして目覚める為の筋道を、本人はそうとは知らずに歩み続け、そしてその宿命はそう遠くない未来で結実する。
それは確定した未来であるのだ。
……しかし、「父」である筈の彼は、余りにも「人」であった。少なくとも、得られる情報から分析出来る事からはそうとしか言えない。
果たしてこれが本当に「父」と同じ様になるのだろうかと、そうマークの心に僅かに不安が過る程に。
何か「人」としての異常性を探そうとしても、精々が過去の記憶が無い程度で……そしてそれは父がこの時間に辿り着いた時に一瞬交わり合った影響が故の事。
それは異常とは言えない。
そして、彼はマークにとっては有象無象の「人」達と同じ様にしか思えなかった。
彼が無事に邪竜として覚醒したとして、そこに彼自身の断片が色濃く残されてしまっては。融け合い一つになった後の父が、自分の知る父ではなくなってしまうのではないだろうかと、そう危惧してしまう程に……。
しかし、だからと言って。
それで父の計画に異を唱える事など出来はしなかった。
父が力を取り戻す為の最善の方法がそれであると言うのなら、マークの私情でそれを阻む事など出来ない。
父の望みが、マークの望み。そうである筈なのだから。
己の心に落とされた小さな澱みの様な不安を父に悟られぬ様に、マークは己の心を隠した。
……きっと父には、マークのこの様な不安など、きっと理解出来ないだろう。
この不安はきっと、マークが「人」であるが故に感じてしまうものなのだろうから。
幾ら『邪竜の娘』として育てられてきたのだとしても、マークは竜には成れない。
竜としての心を完全には理解出来ない。
そして、「人」の心を完全に理解する事は、神の如き竜である父にとっても不可能な事であるのだろう。
そんな中、最低限の干渉だけを行い用心深くその身を潜め続けていたルキナ王女が、終に姿を現した。
だが……彼女はよりによってこの時代の聖王の庇護下へと加わってしまった。
今までは過去を変えてしまう大罪に慄く様に、臆病なネズミであるが如く逃げ隠れしながらほんの僅かな干渉だけに留めていたと言うのにここに来て何とも大胆な事である。
まあそれだけ、ルキナ王女の目には、マークと父の暗躍によって滅びへの道を誰にも悟らせずに最短で突き進み続けるこの世界の現状は、歯痒く見えたのだろう。
一度、その骨身まで絶望と敗北の苦汁に染め上げられているのだ。「二度目」は耐えられなかったのだと思う。
ルキナ王女の行方や動向を監視し易くなったのは紛れも無く僥倖であるのだが、しかし聖王の庇護下にある者を抹消する事はそう容易い事では無い。
下手に手を下せば、それ自体が邪竜ギムレーの復活に何かしらの差し障りを来しかねない危険性もある。
……最短で事が成る様に進めているが故に、予期せぬ因子が結果を大きく狂わせてしまいかねないのだ。
復活が遅れるだけならまだ良いが、最悪「父」が覚醒の前に命を落としかねない可能性もある。
無論、本人にその自覚は無くとも彼が竜である事には変わらず、覚醒していなくとも余人よりは「死」は遠い。
だがそれでも決して完全ではないのだ。
今の彼には父程の絶対性は無い。
死に難いと言うだけで、死なない……殺せない訳ではない。
もしルキナ王女に邪竜ギムレーの正体が露見でもしてしまえば、彼女は必ず彼を殺すだろう。
その力の無い神竜の牙でもその命に届く内に、何としてでも。
もしそうなってしまえば、この計画も全てが水の泡だ。
それまでにどうにかしてルキナ王女を排除出来れば良いのだが、表立って動いて殺害する事も、或いは闇に葬る事も、その何方もが現状では難しい。
居所が明らかになった時点でルキナ王女自体を殺す事は難しくは無いが、もしその動きの裏にギムレー教団の影がある事を突き止められてしまっては、元も子も無いのだから。
ならば現状最も適切な対応は、「父」への監視の目を強める事であろう。
監視は、当然の事ながらその動向を探る目的もあるが、同時に彼の命を「運命の時」まで決して絶やさせない為のモノでもあった。だが。
……ルキナ王女の脅威を排除する為には、今までの様な監視だけではなく、より近くでの「父」の監視とその護衛、及びルキナ王女の間接的な抹殺を図る必要があった。
……そう、こちら側の手の者を、イーリスの側に潜り込ませておく必要があった。
それも、末端の者ではなく、より中枢に……「父」に近付ける様な者を……。
そして。その為に最も有効な駒の存在に、マークは既に気が付いているのであった。
◇◇◇◇◇
「……君が、僕の『娘』だって言うのかい……。
その……ルキナ達の様に、未来から来た……」
マークを前にして戸惑った様にそう訊ねる「父」に、マークは戸惑いを装いながら頷いた。
「未来から来たって言うのはまだ信じられないけど、私の「父さん」がイーリスの軍師ルフレである事は間違いじゃないわ。
……それ以外は何も思い出せないけれど……」
頭を軽く抑える様にして言うと、「父」はまだ少し訝しみつつも、気遣わし気な眼差しを向けてくる。
そして、小さく溜息を吐いて、マークの身体を優しく抱き締めて来た。
そうしてマークの頭を撫でるその手には、まだ幼い子供を気遣う、「人」らしい感情に溢れている。
……ただそれは、父のそれとは余りにも違う物であった。
「……そうか、ごめんね、マーク。
記憶が無い君にこんな事を訊いて……不安がらせてしまったかな……?」
そうやってマークの瞳の奥を見詰める様な「父」に、マークは小さく頭を振る。
「ううん、いいの……。
私だって、記憶喪失の知らない子供から「お母さん」って呼ばれたら多分直ぐに信じるのは難しいと思うもの。
それに「父さん」は軍師だから……軍の皆の事を考えないといけない。
「父さん」は悪くないわ。
でも、私が「父さん」の娘である事は本当の事なの。
それだけは、絶対に……」
不安気に声を震わせて「父」の服を掴むと、「父」はその目を僅かに見開いて、マークを抱き締める力を強めた。
そして、幼子を安心させる様に穏やかに微笑む。
「大丈夫だよ、マーク。君は僕の娘だ。
君がどうしてこうやって「過去」に来たのかは今の僕には分からないけれど……君の居場所は此処に在る。
だから、心配しなくて良い、不安にならなくても良い。
今思い出せない記憶だって、焦らずにゆっくりと思い出せば良いさ。
僕だって、クロムに拾われる前の記憶は未だに全然思い出せないんだから……。
だからね、大丈夫だよ……」
よしよし、と。幼子をあやす様に、優しくマークの背を擦ってくれる「父」は……やはり父とは違う存在であった。
……ルキナ王女の脅威を排除する為、そして「父」の身の安全をより確固たるものにする為。
マークは、ルキナ王女達と同じく「未来」からやって来た「父」の娘を装ってイーリス軍に潜り込む事になった。
ルキナ王女がイーリス軍に加わった事を、父は直接的な排除には乗り出さずともそれなり以上に危険視していた様で、マークがその策を具申した所、特に咎められたりする事も無く、即急に実行に移すようにと指令が下された。
少なく無い生贄を喰らい、そして先の戦乱で死した者達の魂を多く呑み込んだ父は、その本来の力とは流石に比べるべくも無いものの、「過去」に跳んできた当初と比べると随分と力を取り戻していて。邪竜復活の歴史を辿らせる為の暗躍に、父自身が動ける時間も増えていた。
マークが「父」の護衛の為に抜けても、計画に大きな支障は来さない程度には回復していたのである。
だからこそ父は、「父」の身を「運命の時」まで守り通すと言う重要過ぎる大役を任せるに足る者として、最も忠実で最も強い手駒であるマークにそれを任せた。
その信頼に、何としてでも応えなくてはならない。
「父の娘」を装ってイーリス軍に潜り込む事は、そう難しい事では無い。ルキナ王女と言う実例が存在し、そして彼女と同時に共に過去へと跳んでいた有象無象どもも居る。
それ故に、「父」とて「娘」を自称する幼子を頭ごなしに拒絶すると言う事も無いであろう。その可能性が存在する事を知っているのだから。内心はどうであれ、ルキナ王女達を仲間たちの「子供達」として迎え入れている以上は、幾らその正体を訝しんだとしても放逐する事は出来ない。
更には、記憶喪失を装い、「父」に関する事以外の大半の記憶を「存在しない」様に装えば。「父」以外に寄る辺も無い哀れな時の迷い子を、合理的な判断がどうであったとしても、「父」は無碍に扱う事など出来はしないだろう。
邪竜としてまだ目覚めていない「父」は、「人」としての良心や善性や情を備えている存在であるのだから。
ならばその「甘さ」に付け込んで存分に利用するまでだ。
そうして、手駒として父から借り受けた屍兵達を使って屍兵達に襲われている風な芝居を打って、「保護」と言う形でマークはイーリス軍に潜り込む。
「父」達の動きに合わせた結果、そんな「演劇」の舞台がかつての【竜族】の遺跡の一つであった事は別に意図した事では無かったのだが、まあ大きな支障は無かった。
目下の所問題があるとすればルキナ王女の事である。
彼女と行動を共にする有象無象共は、どいつもこいつも父やマーク達に捕捉されていた訳でも監視されていた訳でも無いと言うのに、過去に遡って来てから今の今まで何一つとして「過去」に干渉する事もせず漫然と時を過ごしていた様な愚物でしかなく脅威でも何でもない。
だが、やはりルキナ王女自身は油断ならない存在だ。
彼女等が『絶望の未来』と呼ぶあの世界……マークが父に拾われ、そして娘として育てられてきたあの時間。
そこへと至った原因として既に幾つか目星を付けている様で、実際マーク達の計画に大した影響は与えていないとは言え、彼女の「干渉」は既に、イーリスから『炎の台座』と『白炎』が奪われる事を結果として防いでいる。
そして、彼女が変えようとしているもう一つの「過去」とは、間違いなく聖王クロムの死であるのだろう。
そして、彼女が父親を殺した「裏切者」と最も疑っているのは、「父」の事である様だった。
それは何の間違いも無く全く以て正しい疑いである。
事実として、彼女の父親を殺したのは父……正確にはまだ覚醒していなかった状態で操られた軍師ルフレだ。
だがまあ、まだその確信は得られていないようで。
ルキナ王女の眼差しはまだ疑惑程度に留まっている。
しかし、このまま「裏切者」として疑わせ続けていればいつ何時連鎖的に「父」の正体……『邪竜ギムレーの器』であると言うそれを悟られないとも限らない。
父はその姿を見た者をマーク以外を悉く殺していた為その容姿についての情報をルキナ王女が持っているとは思えないし、そもそも彼女にとっての邪竜ギムレーとは、父のあの強大にして絶対的な【竜】としての姿だろう。
しかしそれでも、「父」の右手に刻まれている『証』は見る人によっては何者であるのかを雄弁に語るモノだ。
幸いこの軍にはギムレー教団の中枢に居た者は居ないが、あの『証』が邪竜ギムレーに関係する「何か」である事には、少しでもギムレー教団の事を知っていれば容易に想像出来るモノである。「父」は記憶を失くしたが故にそれが何であるのかを理解出来ていないのであろうに、本能的になのか或いは無意識になのかは分からないが、『証』を隠そうとしている様で、それを直接目にした者はそう居ないのだろう。それでも万が一に警戒しなければならない。
その為には、「娘」としての立場を最大限利用して、「父」を守らなければならないのだ。
しかし、現段階では無事に「父」に受け入れて貰えたとは言え、まだ障害は残っている。
先ず第一に、ルキナ王女達だ。彼等は当然、見た事も聞いた事も無い、『軍師ルフレの娘』を名乗る者に対して警戒し、積極的或いは間接的に排除しようとするだろう。
彼等の無為な質問攻めを効果的に回避する為にも、『記憶喪失』であると言う建前は有効である。
何を聞かれようが、「知らない」「分からない」「思い出せない」を貫き続ければ良い。
当然、それだけでは彼等の疑惑の目を振り切る事は出来ないだろうが、決定的な証拠や矛盾を見付けて疑念を確信に変えられてしまう前に、その心を掌握してしまえば良いだけだ。
寧ろ「疑惑」と言う形で関心がこちらに向いている分、墜とすのは容易である。
その為の手練手管は父からしっかりと教え込まれているし、それを実践した事は幾度もある。彼らの心に付け入る為のその心の隙は予め分析済みだ。その為の時間さえ稼げれば、どうにでも出来る事ではある。その時間を如何に稼ぐかも大切だった。
次に、何らかの呪術によってマークの「偽り」を暴かれてしまう事にも注意しなければならない。イーリス軍に在籍している呪術師は、ペレジア側から加わった二人のみ。
どちらも腕は確かで、油断して良い人物では無い。
ただ、『軍師ルフレの娘』である以上、彼等がマークに対してその身を損なったりしない範囲で行える呪術は限られているし、そこで覗ける範囲も限られる。
そして、そう言った呪術で心を覗かれても決して「偽り」が暴かれない様に、マークは入念に備えていた。
己の記憶や心の一部を呪術的に弄り、表層的に見えている部分とそれ以外の部分を完全に独立させたのだ。
「父」以外の事は何も覚えていない「娘」としての部分と、そして本来のマークとを。
ともすれば自我が矛盾に耐え切れず崩壊しかねない危険な行為ではあるが、マークは父から与えられた「守り」によってそれを完璧に成し遂げていた。
万が一心を覗かれたとしても辿り着けるのは殆ど空っぽな「娘」の記憶だ。
より厳密に調べられてしまっては何か違和感を感じられてしまうかもしれないが、そこまで本格的な呪術を行うのは、高度な呪術を行使するに適した安定した環境を構築出来ない行軍中では不可能だ。
後は、如何に演技でボロを出さないかが重要になる。
だがそれも全て、問題無く成し遂げられるだろう。
「運命の時」まではまだ暫しの猶予がある。
それまでの間、何としてでも「父」を守らねばならない。
父の為に……。それが父の為になるのだから。
決意と共に、マークは「父」にしがみつくのであった。
◇◇◇◇◇