ひぐらしのなく頃に 休   作:シュガー&サイコ

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気が向いた時に書くシリーズの今日この頃。


鬼癒し編 其の一

「それじゃあ、ここで一旦お別れだ」

「ええ。……きっと、きっとまた会えますわよね?」

「可能性は高いと思うけど、……そうだね。一つ約束しようか」

「約束?」

「ああ。今度会ったときは僕はスペードのエースを渡すから」

「なら、私はダイヤのエースを渡しますわ」

「そこはハートのエースじゃないのかよ」

「それはまだ先ですわよ」

「はぁーー。それは果たして何百年後なんだか。ま、いっか。じゃあ、約束だぞ」

「ええ、約束ですわ」

 

そうして私たちはあの永遠のような時間から、元の世界へと戻っていった。

 

 

******

 

「ん、んっ」

 

薄い光を感じて目を開く。

ゆっくりと体を起こし、外の景色を眺める。

広がる景色には青々と生い茂る木々がゆらめていた。

 

「今、何をしてるんでございますか?」

 

今朝の夢を想う。

あれからおおよそ2週間程度だけれど、既に恋しく感じる自分にちょっと嫌気が差す。

前に進むと決めた筈なのに。

どうしても、後ろばかりを振り向いてしまう。

それを悪いことだと彼は言うだろうか?

いや、きっと言わないだろう。

最後に前に進めればそれでいいんだと、彼は言うだろう。

少し笑みを浮かべる。

 

「早く会いたいですわね」

 

その為には前に進まないと。

後ろには彼は居ないのだから。

そうして外を眺めていると、ドアをノックする音が聞こえる。

 

「どうぞー」

 

許可をすると扉はガラガラと響く。

そこから入ってきたのは、いつも綺麗な長い髪を持つ私の親友だ。

 

「おはよう。沙都子」

「おはようですわ。梨花」

 

ここは入江診療所の病室。

私は今、ここ入江診療所に入院中なのだ。

 

***

 

私が元々私が居た世界に戻ってきた時、最初に見たものは、

 

『沙都子、沙都子、沙都、、子っ!さとこさとこさとこ~~~~っ!』

 

思い切り泣きじゃくって私に抱きつく梨花の姿だった。

まるで加減を知らない抱きつきように相当苦しかったが、何故か手足が拘束されていて動くに動けず、声をかけても全く聞いてくれずにその声に気づいた監督が来るまでずっとその状態だった。

監督が来た時、鷹野さんも一緒に来て、監督は私が目覚めたことを喜んでいたようだけれど、すぐにハッとした顔をして、鷹野さんが梨花を引き剥がして、監督は私の検査をした。

その検査内容は私自身にも覚えのあるものなので、すぐに何の症状なのかは分かった。

一通りの検査を終えて、手足の拘束が解かれた後、監督に聞いた。

 

『監督、訊いてもいいですの?』

『いいですよ。何が訊きたいんですか?』

『私はどのくらい雛見沢症候群で寝ていましたの?』

 

監督は私の発言に驚いたようだったけれど、ゆっくりと一つ一つ説明してくれた。

私がエウアさんに出会ったあの日、エンジェルモートで私の連絡を待っていた皆はいつまで経っても連絡が来ないことを心配して、皆で雛見沢に戻って私を探してくれた。

結果、私は祭具殿の前で倒れていて、目を覚まさずに苦しそうであった為すぐに入江診療所に運び込まれたそうだ。

そこで監督が検査したところ、雛見沢症候群のL5、つまり末期症状で昏睡していることが分かった。

客観的な立場から言えば、にーにーと同じような状態になっていたようだった。

その状態で私は一ヶ月ほど眠っていたようだった。

そうして、目が覚めた現在、症状は大分回復はしているものの、現状はL3。

つまりは小学生のあの頃と同じような、いつぶり返してもおかしくない状態であること。

また、一ヶ月も眠っていたことによる筋肉の衰えで、しばらくはリハビリが必要であることもあり入院している。

 

「それにしても、別に梨花まで学校を休む必要はやっぱりないのではありませんの?」

「そんなことないわ。私が居た方が沙都子の容態は安定しやすいって入江も言っていたし。それに沙都子が頼み事をしたんじゃない」

「それはそうですけど。でも、やっぱり梨花に迷惑を掛けるのは私は嫌ですわ」

「迷惑だなんて、私は思ってない。沙都子が困っているなら、私はいくらでも助けるわ。あ、あと、ここ間違ってる」

「うげぇ」

 

入院中はこうして梨花に勉強を見て貰っている。

基本的にベットの上に居てやることがないからというのもあるけれど、それ以上にもう一度頑張ろうって決めたからだ。

でも、生憎と私一人の力では這い上がるのには足りない。

だから、梨花に教えて貰いながら勉強している。

……ここに居る梨花はあの永遠の惨劇の当事者ではない。

魔女であることを止め、人として生きることを決めている高校生の梨花だ。

あの最後の世界でお別れをした梨花はシャンデリアの梨花だ。

彼は罪悪感を感じるべきなのはあくまでその惨劇に巻き込んだ人達で、その世界以外の人に罪悪感を感じる必要はないって言っていたけれど。

しかし、どうしても罪悪感を感じてしまう。

ここの梨花もあの梨花もどちらも私のことをちゃんと思っていてくれたのに。

それに気づけずに惨劇を起こしてしまった自分がどうしても嫌になる。

いっそのこと、この事を話せたら楽になるんだろうか?

 

***

 

昼を終えて、リハビリの時間になる。

 

「今日は少し雛見沢を歩いてきたらどうでしょう?毎日、診療所の中に居るのも退屈でしょうし、いい気分転換になると思いますよ」

「えっ、でも……」

「大丈夫よ、私が付き添うから。私も久々に沙都子と雛見沢を見て回りたいし」

 

梨花のその言葉で反論も出なくなる。

確かにそろそろ外の風も浴びたかった所だ。

久々に入院服から私服に着替える。

そうして、久々に診療所から外に出ると転ばぬ先の杖ということなのか梨花の方から手を繋いできた。

それが少し嬉しくて、それ以上にとても怖かった。

久々に見て回る雛見沢は、徐々にあの頃の面影を失くしながらも綺麗な景色を残している。

村人も心地よく挨拶してくれる。

あの頃にはなかったものも悪くない。

ただ、分校が徐々に壊されている様子や元の家があった場所を見たときはとても苦しかった。

そうして歩いた先、いつの世界だったか綺麗な朝日の風景と共に梨花を説得したものの失敗した場所に辿り着いた。

時間は夕暮れ。

そろそろ、日が沈みまた別の美しさを持った景色が見られるだろう。

 

「沙都子はこんな場所を知っていたのね」

「ええ。色々と見て回りましたもの」

 

梨花を説得する為に。

出来ることはなんでもしようと歩き回っていた。

その結果にあるものを考えると、とても辛い。

その綺麗な景色は私に自分の罪を突きつけているようだった。

 

「沙都子」

 

梨花の声で梨花の方を見ると、梨花は私の両手を自分の両手で持って、真っ直ぐな目をしてこちらを見てくる。

その様子に気圧される。

 

「なんですの、梨花?」

「沙都子は今、何に悩んでいるのですか?何に苦しんでいるのですか?」

「べ、別に私は……」

「嘘なのです。目が覚めてから、ずっとずっと暗い顔ばかりしてるのです。手を繋いだ時も、雛見沢を見ている時も、ずっとずっと何か怖がるような顔をしていたのです」

 

そんなつもりはなかったけれど、随分と顔に出てしまっていたみたいだ。

そういう所は、梨花は上手に隠していた。

梨花は昔の口調で訊いてくる。

それが余計に私に焦りと恐怖を植え付ける。

 

「沙都子が困っているなら、ちゃんと言って欲しいのです。もう絶対に、あなたを一人になんてさせないから。私の言うことなんて信じられないかもしれないけど。それでも!」

「っっ!!」

 

梨花の言葉に泣きそうになる。

結局の所、違う世界だからと言い訳をして、本当はまだ梨花のことを信じきれていなかった。

でも、それじゃいけない。

信じること。

それは前に進む為に必要なことだ。

私は梨花のことを抱きしめる。

 

「沙都子?」

「梨花。私、長い、とても長い夢を見ていたんですの」

 

その言葉から、ぽつりぽつりとあの永遠の惨劇の話をし始めた。

シャンデリアによる心中のこと。

説得に失敗しては死んだこと。

そこで彼が現れたこと。

梨花の100年を見たこと。

そこから始まった惨劇のこと。

その先にあった結末のこと。

話している内にすっかり夜になり、私達は神社の椅子に座って話していた。

 

「これが私の見た夢ですわ」

 

話している最中はまともに梨花の顔を見なかった。

見たら、話を続けることは出来ないと思ったから。

……失望しただろうか。

裏切られたと思っただろうか。

もう関わりたくないと思っただろうか。

何を言われても仕方ない。

それだけのことを私はしたのだ。

どんな謗りや暴言を吐かれても仕方ない。

そう覚悟していた。

でも、帰ってきた言葉はそんな言葉ではなかった。

 

「ごめんなさい」

「……なんで謝るんですの。悪いのは全部私ですわ。梨花のことを信じられなくなったのも、惨劇を起こしたのも、全部卑屈になって駄々をこねた私ですわ」

「ううん。沙都子を追い詰めたのは他の誰でもない、この私だから」

 

梨花は夜空を見上げながら、懺悔するように言った。

 

「100年の惨劇を超えて慢心していた。この先は全てを掴むんだっていって、聖ルチーアに沙都子も誘ったけど。それが沙都子にとっての理想なのかどうかなんて考えてなかった。人それぞれで幸せのあり方もなり方も違う。そんな当たり前のことを忘れていた。正直ね、聖ルチーアに行ってからの沙都子を見ていて、どうして頑張らないんだろうって思ってた。校風に合わせようとせず、聖ルチーアに相応しい喋り方もせずにどうしてって。だから、沙都子と疎遠になったときに悪いのは沙都子の方だって、思ってた。けど、考えてみればその理由なんて明らかだった。沙都子にとってあそこは楽しい場所じゃなくて、誰にも相談の出来ない牢獄と変わらなかった。あそこは私の夢ではあっても、沙都子の夢ではなかった。そんな簡単なことにも気づけず、ただ沙都子が悪いなんて思った私が間違いだった」

「……それでも、進路を選んだのは私ですわ。選択肢を持っていたのは、私。だから、梨花が悪いことなんて……」

「違うわよ。沙都子の気持ちを汲む努力をせずに勝手に沙都子が悪いことにしたことが私の罪。私は沙都子のことを許す。だから、沙都子にも許して欲しい。私の罪を」

 

梨花は真っ直ぐとこちらを見て、そう言った。

しかし、こちらの答えなんて決まっているし、なんなら不釣り合いも良い所だ。

 

「そんなの許すに決まっていますわ。梨花こそ良いんですの?こんな私を許して」

「当たり前よ。だって、沙都子は私の親友なんだから」

 

そう綺麗な笑顔で言い切った。

あの梨花もそうだけれど、本当にお人好しで懐が深すぎる。

 

「物好きですわね。もし、私が梨花だったらきっと許したりしませんわ」

「ボクのお腹の中はいくらでも入れられるのです」

「あらあら、普段は少食の部類ではなくて?」

 

ぐぅ~~

 

「ぷっ、くくくっ」

「ぷふふふ」

「「はははははは!」」

 

思わず鳴ったお腹の音に二人揃って笑い転げてしまう。

 

「さて、帰りましょう梨花。お腹が空いてしまいましたわ」

「そうね。今日はかぼちゃの煮物にしましょうか」

「うぅぅぅ~~。意地悪ですわ」

「冗談よ。沙都子の好物を作ってあげるわ」

「それは嬉しいですわ」

 

今度は私の方から手を繋ぐ。

まだまだ先は長いけれど、それでも頑張っていこう。

また、彼に会うために。

 




元々はひぐらしでシリーズ書こうと思ったけど、上手くいかなかったので後日談に当たる部分をたまに書いていきます。
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