ありふれない天の鎖の投影魔術師は世界最強 作:小説大工の源三
恵里達が神域に向かった頃、地上は神域での戦いと違い静寂が辺りを包んでいた。
「……静かですね」
リリアーナは何も起こらないことに、不気味さを覚えていた。
『だが、警戒を解くわけにはいかん。確実に地上を一掃する何かがあるはずだ』
念話石端末からヴェアベルトからの声が聞こえる。
すると、空にヒビが入り窓ガラスが割れるように砕け散り、情報にあった通りの姿の使徒が現れる。
『使徒出現!総員戦闘体制!』
伝令からの声を皮切りに、地上待機組は持つ武器を抜刀し詠唱を始める。
「一体一人で相手をするなよ!袋叩きにして確実に仕留めろ!」
士郎によって面白ピエロ姿に改造されてしまったガハルドが基本指示を出し、自身と部下複数人で使徒一人を取り囲み袋叩きにして確実に殺す。
帝国兵が勇猛果敢に攻め込むのを見たハイリヒ王国の兵士達も負けじと突っ込む。
「帝国兵に遅れを取るなー!」
「我らもガハルド陛下に続け!」
「真の戦士の名を知らしめるのだー!」
かき集められた冒険者達も一つのギルドパーティで使徒を囲んでいる。
近接戦で使徒を仕留める中、空中から使徒による砲撃の不意打が行われる。
しかしそれは杞憂に終わる。
「大結界起動!」
リリアーナの声により、強固な半球状の結界が展開され、砲撃が完璧にシャットアウトされる。
大容量魔力タンクのお陰で、結界を維持する魔力は尽きることはない。
「聖歌隊!あなた達の歌で、御使いを自称する人形共を堕して差し上げて下さい!」
覇堕の聖歌により使徒の力を半分以上落とす。
恵里から伝えられた使徒の動きを停止させる
人間の戦士達が使徒を確実に仕留める中、ヴェアベルト率いる魔人竜騎士組も空中で使徒を竜のブレスで消しとばしている。
竜人族も3人1組で使徒を仕留めていき、順調にことが運んでいる。
亜人族も地上で使徒を袋叩きにしていた。(特にハウリア達兎人族が)
「順調ですね……」
「そうですね……不安が絶えませんが……」
そう不安がるリリアーナと愛子。その背後では、機械騎士達がミュウ達を護るように立っていた。
『まだ、オレ達の出番はないみたいだな』
『ああ、人間達が犠牲なく戦えている。私達が見守るだけでいられるのは安心していられる』
『だが、我らのリーダーが敵のようなものなのだろう?このままというわけにはいかないであろうよ…』
槍の騎士達は相手の出方を伺っていた。
そんな心配を他所に、戦況は地上の戦士達優勢で進んでいる。
「お前らっ!このまま押し切って、天野士郎を見返してやるぞ!」
ガハルドが更に攻めの姿勢を取る。
帝国兵も気合いを入れて使徒の攻略に入る。
ハジメお手製のアーティファクトによる戦力増強で被害なく戦えているのが大きい。
「よし……勝てる……勝てるぞ!」
地上の一人が声を上げた。
誰もがそう思った。あの士郎やハジメが苦戦した相手を倒すことができたのだ。
勝ちが見えたと思っても仕方がないだろう。
しかし、戦況がグラリと揺らぐ。
「ッ!?空が……また……割れる?……」
リリアーナは再びヒビの入った空を視界に入れる。
更に増援が来ると、身構える。
遂に割れて、ガラス片のような物が散らばり、開いた虚空から現れたのは、若干赤味がかった白い髪の竜騎士だった。
「なんだ……あれ?」
一人の冒険者がつぶやくと同時に純白の閃光に包まれ消失する。
「何が起きた!?」
叫んだ地上の戦士一人を皮切りにまた一人また一人と消えていく。
言いようもない恐怖が戦場を包む。
ただ1人気づいていた男がいた。
「まさか……既に改造が完了していたのか…っ!魔人竜騎士部隊!敵の増援部隊を狙え!!」
ヴェアベルトの指示に従い、魔人族の竜騎士は自身の騎乗する相棒竜に最大ブレスを放たせる。
「魔人天使兵とでも言う姿か…」
そして1番奥で指示を出しているであろう、3つ首竜に騎乗している1人に突撃した時だった。その3つ首に乗る魔人天使兵の顔を見た彼の表情が驚愕に染まる。
「……何故、お前が生きている……ッ!『カイラナ・シュバリオ』!!」
ヴェアベルトは戸惑いながら斬りかかる。
「何故?何故も何も私は死んでなどいないぞ?裏切り者のお前に殺されたことなぞ一度もな」
対するカイラナは何を言っているのか理解のできない表情のままハルバードで受け止める。
ヴェアベルトはあの時、仕留め損ねたのかと思ったがそれはないとすぐに否定する。
確実にあの時の彼女は絶命していたのを彼は確認した上に火葬までして死体すらも残さなかったのだ。
「何者なんだ……!?お前は一体……!」
「何者も何も私はお前に教えを乞うた弟子の1人、カイラナ・シュバリオだが?」
「戯言を!お前は
感情が先回りしているのか、ヴェアベルトの攻撃に全て無駄な力が入り、悠々と受け流されてしまう。
『ヴェア!オチツク!』
メルリアンは一喝入れる為に氷ブレスで頭を冷やす。それにより昇っていた血が段々と下がっていった。
「メル……っ!すまない……冷静でいられなかった……」
『イイ……ワタシモ最初ハ動揺シタ。でも臭イはカイラナト、バルディス、同ジダッタ』
「やはり本物なのか…!?」
カイラナの飛竜バルディスもクローンなのかと更に驚愕する。
意思を持つ魔物のクローンは作ることが不可能なのだ。
『ウウン……違ウ。臭イハ同ジダケド、ナルマデ?ミタイナノガ違ウ』
「過程が?どういうこと……っ!?まさか……?いや……そうか……」
ヴェアベルトは一つの研究を思い出した。
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それは彼が変成魔法を手に入れてか数ヶ月が経過した頃のことだ。
「……魔物を強くして引き連れても殺されては意味もないな」
そう言ったのは、まだ離別する前のフリードだった。
「そうだな。殺されぬよう立ち回るのが基本だが……何か良い妙案がないものか……」
2人が悩んでいると、1人の魔人族が手を上げた。
「む?何か案があるのかカトレア」
「はい。魔物を一匹強化したらその魔物の遺伝子情報などを複製して培養、そこから一から急成長させるのはどうでしょうか」
つまりはクローン技術で魔物の大量生産するということだ。
「なるほど……同じ魔物に同じ強化を施すより、その強化した魔物自体を複製する方が簡単だな……」
「まずはその技術を習得しなくてはな…」
そこからは研究が加速していき、遂にクローン方法による魔物の量産に成功し、魔人族と人間族の戦争の天秤が魔人族に傾くのだった。
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「ここにいるカイラナはこれだけでなく……控えているというわけか……」
だとしてもヴェアベルトは全てを殺すつもりでいた。
「この数の使徒を見ていると、クローン技術には邪神の手がかかっていたのか……」
神の使徒の余りの多さに自身の国でそのことが応用されていたと判断した。
「弟子の過ちは師が清算しよう……」
ヴェアベルトとメルリアンが一体化する。
「『人竜一体』!」
背中から竜翼が生え、爪も伸びて体内器官が変質する。
「出ましたね……奥の手。ですが軽く捻り潰してあげましょう」
(この姿は既に共有されているのか……)
王国で再会した時には知らなかった人竜一体を今回は知られていた。
ヴェアベルトは爪で刺しにかかるが、軽々いなされ、ハルバードの持ち手の部分で脇腹を殴られる。
「ぐっ……」
骨が折れたわけでは無さそうだが、ヒビ程度入っただろう。しっかりと痛みを感じ取ってしまい、多少だが動きが悪くなっている。
(その多少が……決定的な差になっている…!)
再生魔法を発動し、自然治癒を加速させてヒビを治す。
ヴェアベルトは防戦一方になり、魔力の消費も激しくなっていく。
「ふふふっ……師を超えるのは弟子の勤め。今ここで貴方を超えて、新世界で新たな魔人族の歴史を創るのです!人間族や亜人族なぞ不用だということを理解しなさい!」
バルディスの右の首から吹雪ブレスが放たれる。
メルリアンの擬竜の鱗によりブレスのダメージは大幅カットされているので、効いていない。
「ふふふっ足を止めましたね?」
不敵な笑みを浮かべたカイラナは左の首に火炎弾を吐かせる。
「やはりかっ!」
それを読んでいたヴェアベルトは吹雪ブレスから離脱して火炎弾をかわす。
「カアアアアッ!」
そのまま冷凍光線をバルディスの真ん中の首に向けて放つ。
「バルディス!溶かしなさい!」
真ん中首からは熱光線が放たれ、ヴェアベルトの冷凍光線とぶつかり合い蒸気爆発が起きる。
「チィッ……!」
蒸気に紛れて攻撃されることを避ける為に急上昇し、警戒をしようとした彼の目に映ったのは、
「あははっ……定石通り動きましたね?師匠?」
ハルバードの穂先を向けるカイラナの姿だった。
グサッ!!
「ガハッ……ぐっ……」
そのまま腹を貫かれ、地に落ちていってしまった。
(ああ……ここで終わりなのか……くそ……私は……オレは……何も……できないのか……)
段々と意識が暗くなり、一体化したメルリアンとも別れ、遠目から青紫のオーラを纏った何かが飛来するのが最後に見た光景だった。
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王国司令要塞で戦いを見守っていた愛子は空から青白く光るモノが落ちてくるのを見てしまった。
「アレは……まさか……」
戦況報告のためにハジメお手製の双眼鏡を使い、落ちてきたモノを確認する。
写し出されたのは、腹を貫かれ自由落下するヴェアベルトの姿だった。
「っ!?ヴェアベルトさん!?」
愛子は慌てて要塞を降りようとするが、
『何をしている畑山愛子』
オーディーンによって止められる。
「オーディーンさん……通してください!」
『あの男の下に向かって何ができる』
「傷なら治せます!魔力も譲渡できます!」
『それはお前でなくとも良いだろう?』
「それでもです!私は彼を助けたいんです!寂しい目をしていて誰にも助けを求めない彼に…!」
愛子はオーディーンの赤い眼を見つめ返す。
『仕方ない……アキレス、エルシオン、ペルセウス、イカロス兄弟。この場はお前達に任せるぞ』
根負けしたオーディーンはアキレス達に要塞の守護を任せ、愛子と共にヴェアベルトの元へ向かうことにした。
『おう。アンタはセンセーの護衛すんだろ?』
『うむ。ここまで言われてしまえばな……』
「それでは……」
そのまま要塞を降りて彼の下へ行こうとするとオーディーンは愛子を担ぎ上げる。
『貴女の足では遅い。我に乗ると良い。音速を超えて送り届けよう』
そのまま飛行形態に変形。その背に愛子を乗せ、飛び立った。
あまりの速度に愛子は吹き飛ばされそうだったが、必死にしがみつく。
「くうぅぅぅっ……!」
『あまり喋るなよ……舌を噛む。』
「は、はいぃぃぃ……!」
『ム!やはりこちらを狙うか……だが……遅い!』
オーディーンに向かって使徒や魔人天使兵が集まる。オーディーンは蒼く輝くのオーラを纏い、紫色のエネルギーを放出して突進。使徒達の胴体を容易く貫き、攻撃魔法やブレスを華麗に避け、仕留める。
『畑山愛子!無事か!?』
「な、なんとか……!」
『よし……目的地までまもなくだ!飛行形態解除!人型に移行、これより護衛と殲滅を開始する!』
人型に戻ったオーディーンはヴェアベルトを受け止め、地上に2人を下ろす。
双頭槍とビームシールドを起動。人型のまま飛び立ち、敵兵へと攻撃し始める。
「グァッ!」
「ギャァっ!」
あっという間に胴体を真っ二つにし首を刎ね、心臓を貫く。
「我等がこんなにもアッサリ……ふざけるなぁ!」
魔人天使兵の数人がオーディーンに向かって突撃しながら飛竜に火炎放射を吐かせる。
『貴様らの身体、我が神槍で貫いてみせよう!』
オーディーンは全身から橙色のオーラを纏い更に高く飛ぶ。そして双頭槍に赤いエネルギーを集中し、巨大な炎のドリルと化す。そしてそれを魔人天使兵に向け放つ。
「「「グワァァァァァァァァァア!」」」
地上では横たわるヴェアベルトに愛子が必死に止血をしている。
「ヴェアベルトさん!……しっかりしてください!」
意識のないヴェアベルトを起こそうと声をかけるが、ピクリとも動かない。
貫かれた腹の傷はそこまで大きくはないが、背中まで貫通しており、夥しいほどの血が地面に広がる。
「神水がありますから!お願いです!目を……いえ…口を開けてください!」
試験管に入った神水を飲ませようとなんとか口を開けようとするが、固く閉ざされ開けることがかなわない。
「こうなったら……ングッ!」
愛子は試験管の神水を口含み、そのままヴェアベルトの唇に自身の唇を重ね、無理矢理、神水を飲ませた。
「……ぐっ……ハッ!?……生きて……いるのか……傷もない……」
「ヴェアベルトさん……よかった……目を覚まして……」
「愛子殿……何故ここにいる!?要塞で戦況報告をしていたのではないのか!?」
「貴方が落ちていくのを見て……居ても立っても居られずに……ここまで来てしまいました……ですが後悔はしていないです。貴方と言う一つの命を助けられたのですから」
「……」
ニコリと微笑む愛子。その笑顔にヴェアベルトは後輩の姿を重ねてしまった。
命を慈しみ、全種族の和平を真っ先に願ったのも彼女だった。
(そうだったな……ラティス……私は……君の墓の前で誓ったことを諦めようとしていた……ダメな上司で師匠だ……)
フラフラと立ち上がる。
「ふう……愛子殿……すまない……私は……諦めようとしていた……だがもう諦めるのを諦めよう……私は私の夢を……望みを叶えるために……」
再び剣を構え、上で飛んでいるメルリアンを見る。満身創痍ながらも果敢にブレスの撃ち合いをしている。
「メルーーーーーーっ!」
「キュアァァァン!」
ヴェアベルトの呼び声にメルリアンは撃ち合いから急下降し、彼の横に着陸する。
『ダイジョウブ?』
「ああ。これからだ…!」
再び闘志を瞳に宿し、メルリアンに騎乗、再び空中戦へと向かった。
『もう、傷は平気か?』
「問題ない」
『そうか……では露払いはこの我に任せよ』
「頼む……!」
カイラナさんの武器と性格が違う?
いえ、これこそが本来の彼女です。
そして弟子だったり。
3つ首竜の名前はドラゴンクエストソードに出てくる裏ボス、竜皇帝バルグディスからとってます。
1発クリアはできませんでしたが、竜神王の剣でめった斬りにしてやりました。
今回オーディーンが使った必殺ファンクションはJETストライカーとグングニルです。
そして原作ではハジメに口移しされた愛ちゃんが、本作だとする側になるという。