ありふれない天の鎖の投影魔術師は世界最強   作:小説大工の源三

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前話に海人親子とハジメの対話を追加しました。


ただいまと言える場所

地上ではエヒトとの最後の決戦の行方を待っていた。

紫色に澱んだ空を誰もが見上げ、戦士達の無事を祈るように手を握っていた。

 

「……」

 

空が一際大きく輝く。

すると人影が三つほど現れる。

一人は長髪を揺らし、一人はウサミミを生やし、最後の一人は片腕を輝かせている。三人は金色の立髪の龍に乗っている。

 

「あれは……ハジメ君達だ!」

 

真っ先に声を上げたのは香織だった。

三人は着陸する場所を探していていた。

 

「……り〜!……え〜!」

 

ハジメの声が聞こえてくる。

 

「こっちこっち!」

 

龍は手を振る香織の元へと向かってくる。

 

「ただいま、香織、ユエ」

 

『香織様、ユエ。戻ったわ』

 

「…ん、お帰り」

 

「無事でよかったよ」

 

恋人達は抱きしめ合い、無事を喜び合う。

 

「シズシズ、オニーサンとエリリンは…?」

 

「二人なら大丈夫よ。」

 

「そうですよ!あの二人ですから、いちゃついて帰ってきますよ」

 

二人の安否を不安に思う鈴と反対に、無事だと信じている雫とシア。

待つこと1時間。澱んだ空が突然、なくなり、数十分経つと割れ、人影が二つ落ちてくる。

 

「士郎さん達ですぅ!」

 

ウサミミで落下する音を聞き取ったシアが、空を指差す。

 

─────────────────────────

 

「あー……どうする恵里?」

 

「魔力も尽きて何もできないよ…?」

 

無重力落下している二人は、ゲートを開くのに魔力を使い果たし、空を飛ぶことすら出来ずにいた。

恵里の背中の銀翼は力を失っており、輝きも失っていた。

 

「そういえばお兄ちゃん。僕、スカイダイビングしてみたかったんだよね」

 

「それはよかったけど……恵里、ちょっと口塞ぐよ?」

 

「ふぇ?…んむっ!?」

 

士郎は恵里の唇を塞ぎ、互いの体液──唾液を交換して魔力の回復を図った。

 

「…ふう。コレで少しは回復…恵里?」

 

「……あわわ、お兄ちゃん……!こ、こんな、アニメみたいなキスして!」

 

顔を真っ赤に染めて、グルグル目になって混乱していた。

 

「ほら、落ち着いて、魔法の準備して?」

 

「……ううう」

 

二人は手を重ねて魔法を発動する。

一つは重力、二つは風、三つは土、四つは水、五つは氷。

5種類の魔法をかけ合わせ、生み出された物は、

 

「「『雲海』」」

 

白くふわふわとした広範囲の雲海が広がる。

ボフン!と雲に落ちる。

本来雲を構成するのは大気中の水分や氷なのだが、自身等が乗る為に土や重力魔法を使っている。

 

「コレ、黄色だったら筋斗雲だね」

 

「染めちゃう?」

 

「いやいいかな。また落ちるんだし」

 

「そうだね。魔力も回復し始めてるから、翼も動かせるよ」

 

そう言って、座りながら背の翼を広げる。

 

「それじゃあ降りよっか」

 

そのまま雲からゆっくりと飛び降りる。

地上で大勢の人が手を振っていたり声上げでいる。その中から二人がこちらに跳んでくる。

 

「士郎さーん!恵里ー!」

 

「士郎さーん!恵里さーん!」

 

ポニーテールとウサミミ少女だ。

 

「雫!シア!」

 

二人が腕を広げているので、士郎達は二人に向かって飛び、抱き締める。

 

「お二人共お帰りなさいですぅ!」

 

「信じてだけど、ちょっと怖かったわ」

 

「ただいま」

 

「あはは、心配かけてごめんね」

 

そのまま四人で笑い合って地上に降り立った。

 

「みんな、ただいま!」

 

「「「「「お帰り!」」」」」

 

地上の戦士達全員が出迎える。

ボロボロになった戦士達だが怪我は殆どなく、香織達の魔法で傷は癒やされていた。

 

「パパァーーーー!ママァーーーー!」

 

降り立った2人に幼女が突撃してくる。

 

「ただいまリーニャ」

 

「ただいま」

 

「おかえりなさい!」

 

ぷにぷにの頬をスリスリと寄せる。

 

「心配かけてごめんね」

 

「心配だったけど必ず戻ってくるって信じてた」

 

親子の再会を噛み締めていると、ハジメが呆れながらも心配した顔で歩いてくる。

 

「真っ逆さまに落ちてくるから驚いたよ……」

 

「あはは……脱出に魔力使い切っちゃったからね……そうだハジメ、ちょっと右目失礼するよ」

 

士郎はハジメの魔眼石を媒介に、魔力を込め始める。

 

「どう?」

 

鏡を見せながらハジメに聞く。

 

「うわっ……目が治ってる……」

 

「嘘!?」

 

ハジメの目が目の色以外元に戻っていた。

 

「……治せる魔力があるなら、雲作らなくても良かったんじゃないの?」

 

「うーんとね。今こうして地に足がついてるから、地面に溶け込んだ魔力を吸い上げて回復は相当早いんだ」

 

「……なるほど」

 

「全く、無茶ばかりしやがって……」

 

「そっちもでしょ?両腕斬られたって聞いたけど」

 

「げっ……いつの間に知ったんだ……兎に角だ無事戻ってきてよかった。ほら、向こうでみんながお待ちだ!」

 

幸利に背を押されて、皆の所に送られ、揉みくちゃにされる。

人間族、亜人族、竜人族、魔人族の戦士達に振り回されて、肩を組まれ、色々された。

日が暮れる頃には宴が開かれた。

国中から集まった料理人達が料理対決をしたり、腕っ節に自身のある男達が腕相撲をしたり、組み木を中心に男女ペアになって踊ったりと、一晩中大戦の勝利に酔いしれていた。

 

─────────────────────────

 

「ヴェアベルトさん……隣……いいでしょうか?」

 

「愛子殿か……構わないぞ」

 

グラスに入った酒を飲み干して、暇を持て余したように踊る大衆を見ていた彼の隣に座る。

 

「こうして、この世界の人々が同じ釜の飯を食べているのを見ると……諦めずに戦って良かったと思える」

 

「そうですね……」

 

「愛子殿の世界はどうだ?……争いとは無縁と聞いているが」

 

「私達のですか……」

 

返答に困ってしまう。

日本では大きく人種差別は行われてはいないが世界規模で見ると、トータスと変わらない。

それを正直に話すか迷っている。

 

「……私が住んでいる国では殆どないです。ただ地球規模だと、戦争も差別も絶えません」

 

嘘はつけなかった。

 

「…そうか。だが我々の世界がこうなれた。だからそちらもいつかはなくなるだろうさ」

 

「そうですね……」

 

「そうだ」

 

「どうしましたか?」

 

するとヴェアベルトが立ち上がり、愛子の手を取り、燃える組み木の元へ連れて行く。

 

「この際だ、私達も踊ろうか…!」

 

「ええ!?わ、私踊りは!」

 

「大丈夫!私に合わせれば良い!」

 

二人は大衆の中に混ざり踊る。

ぎこちない動きで焦るようにヴェアベルトについてくる愛子とそんな彼女を余裕を持ってリードする。

 

「ぐぅおおおおお………愛子ぉ………」

 

「くそぉ……あの魔人族の男めぇ………」

 

「オレたちの愛子……」

 

悔しそうに踊る二人を遠目に見ているのは、かつてウルにて彼女の護衛を務めていた神殿騎士だった。

彼らも最終決戦を戦い抜いたのだ。

戦い抜いたのだが、その活躍は愛子の耳に届くことは殆どなかった。

踊りに彼女を誘おうとしたのだが、ちょうど目の前でヴェアベルトに連れて行かれていた。

 

「愛ちゃん、あの人といい感じだね…」

 

「そうだね……しかも愛ちゃんも満更でも無さそう」

 

「……このまま付き合っちゃったりしてな」

 

相川の一言に神殿騎士が反応し、愛子を誘おうと立ち上がるが、妙子の鞭によって拘束され、そのまま犬神家のように頭から地面に埋められた。

 

「全く。人の恋路に茶々出すやつは馬に蹴られて死ねばいいんだよ」

 

冷めた目で間抜けな姿の彼等を見る。

その間に愛子達は、大衆から離れており、誰もいない所へと移動していた。

 

「愛子殿?」

 

「ここなら誰もいませんね……」

 

「それはそうだが……こんな所まで来てどうしたのだ?」

 

愛子は深呼吸を何度もしてバクバクと高鳴る心臓の鼓動を胸に手を当てて落ち着かせる。

 

「ヴェアベルトさん……私は貴方のことが好きです。私の事を貴方の心の片隅に置くだけで大丈夫です…」

 

儚く笑う彼女は、そのままヴェアベルトの隣に座る。

彼もまた座る。そして彼女の肩を抱いて、返事を返す。

 

「……私は貴女の住む世界に着いて行くことはできない。簡単に会う事もできないだろう。それでも私の事を想って……くれるのだろうな」

 

ヴェアベルトは愛子の顎に手を添えて、そのまま唇を塞ぐのだった。

 

─────────────────────────

 

同時刻、誰もいないハイリヒ王国の屋上で、士郎と恵里は2人きりで夜空を眺めていた。

雫とシアの2人は踊り疲れたのか少し離れたところでスヤスヤと眠っている。その2人の間でリーニャが寝ている。

 

「すごいねお兄ちゃん……満天の星空」

 

「……そうだね」

 

星空に感動する恵里と対照的に何か暗いモノを抱えたいるのか、ぎこちなく笑っている。

 

「それでお兄ちゃん……伝えなきゃいけないことって何?」

 

「……報告事項みたいなモノだね。まず右腕だね」

 

差し出された右腕は、転移する前と違い、浅黒く焼けていた。

 

「……投影焼けしてるって聞いたけど、ここまで進んでたの!?」

 

「うーん……最初に投影焼けしたのは、オルクスのヒュドラ相手に是、射殺す百頭した時かな……流石に人間の身体でヘラクレスの絶技を再現したから……」

 

「でもそれ以降で焼けたことあった?」

 

「特にそんなことはなかったね。ただエヒトにトドメを刺す時は大丈夫だったんだけど、夜になってからかな……右腕が熱く焼けるような感覚がして、見たら右腕全部が焼けてた。おまけに前髪もメッシュ見たくなったし……」

 

月明かりだけとはいえ、暗視能力もあるので色がはっきりと眼に映る。

トータスに来る前は黒かった髪も変わってしまった。元に戻す事もできない。

 

「お兄ちゃん……」

 

「まぁ一度アレを投影したし、今後は大丈夫だと思うけど」

 

「そっか……まぁ僕も似たようなモノだけどね……」

 

恵里の髪は真っ白に色が抜け落ちており、元の色に戻そうと再生魔法を使ったのだが、効果が現れなかった。

兄妹2人は髪色が戻らなくなってしまった。

 

「お兄ちゃんとお揃いだね」

 

「先に言われちゃった」

 

投影焼けで褐色に変色した右手に白い肌の手が重なり、指を絡めて手を繋ぐ。

そのまま士郎の胸に転がり抱きつく。

 

「ねぇ……お兄ちゃん……多分僕たち簡単に死ねないよね……」

 

「そうだね……」

 

士郎はエヒトに身体を弄られ、恵里は魔物や天使、神を取り込んだ。

それの影響が寿命という概念を失ってしまっていた。大昔の人類が望んだ擬似的な永遠の命を、手に入れていた。

互いに詳しく調べなくても本能でわかっていた。

 

「ずっと……地球が、太陽系が、銀河が───宇宙が終わっても僕と一緒に居てくれますか?」

 

顔を埋めて問う。

 

「当たり前だよ……ボクは恵里を絶対に離さない……ねぇ恵里、顔を上げて?」

 

「うん……」

 

潤んだ瞳と上気した頬、小さな唇。ふわふわとした白い髪をゆっくりと手櫛で梳くように撫でる。

 

「ふわぁ……お兄ちゃんのそれ好き……」

 

「昔から何かあったらいっつも頼んできたよね……」

 

「うん……お兄ちゃんがあの日、僕の事を見つけてくれた日から頭を撫でてくれた時からずっと好き」

 

思い出されるあの日の事件。

その日が2人を結びつけたのだろう。

 

「んむぅ…れる…」

 

何度したかもわからないキスをする。

舌が絡み合う度に、2人が深く、広く、概念的に繋がっていく。

この時、起源の『鎖』と『執着』が混ざり合って、2人を引き離す事が出来なくなっていた。

離れたとしても、必ず再会が確約されていた。

神であろうと、悪魔であろうと何者も2人を邪魔をすることはできない。

 

 

 




戦いも終わったので、あと2話くらいで地球に帰還できるかな?
次回はあの男がとある人に勝負を挑みます。
次回!
〇〇〇vs〇〇!

絶対読んでくれよな!
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