ありふれない天の鎖の投影魔術師は世界最強 作:小説大工の源三
士郎side
ボクは身体が何かひんやりとした布に包まれているのを感じる。とても懐かしい気分だ。日曜日の朝を思い出す。今ボクがいるのはおそらくベッドなのだろう。
ん?ベッド?
「ぐぐっ……ここは!?」
ボクは激痛と倦怠感の両方を感じつつ身体を起こそうとするものの中々身体が動かない。
そこは天幕のあるとても高級感あふれるベッドだった。純白のシーツに吹き抜けテラスのような場所、一段高い石畳の上にいるようだ。そして爽やかな風がボクの頬を撫でる。
そしてシーツの感触が身体全体にあることを段々と理解していく。
(もしや今ボク裸!?しかも上半身だけ!?)
そして左腕だけ何か暖かい温もりを感じる。それと同時に手放したくないほどの柔らかさを感じる。
ん?
つまりボクの左腕に感じられている柔らかさは、おそらく雫の胸だ……ラッキースケベなんて何処の主人公だよ……
「雫……起きて……起きてってば……」
左腕を出来る限り揺さぶり、雫を起こそうとする。
「んぅ?……士郎さん?」
「雫、おはよう」
「っ!士郎さん!」
雫は飛び上がり、ボクを抱き締める。
「よかった……もう目が覚めないのかと思ったわよ……!」
「ごめん……無茶し過ぎた……」
彼女を抱き締め返そうと思ったのだが、身体が思うように動かない。
「身体、大丈夫なの?」
「全然だよ……腕……特に左腕に激痛が走るのと、身体全体の倦怠感でまともに動かない」
「もう少し安静にしないといけないわね……」
「それよりここは?もしかしなくても反逆者の住処?」
「ええ、ハジメ曰く反逆者じゃなくて解放者らしいわ」
「何か訳がありそうだね……」
ボクはボロボロの身体に鞭を打つように動かす。
「ちょっと!まだ全快してないんだから安静にしないと……」
「それよりも知らないといけないこともある……まず雫、ボクなんで半裸なの?」
「えっと、身体汚れてたから拭くのに脱がしたわ……。それに服はボロボロで使い物にならなかったから捨てて、新しい服がそこに置いてあるわ」
雫が指差した所には白い服が畳まれて置かれていた。それを取ってもらい着る。かなり着心地が良い。
「……肩貸してくれるかな?」
「しょうがないわね……嫌って言っても這ってでも行くつもりでしょ?」
そう言いながら雫に起き上がらせてもらう。そして肩を借りながら移動する。
道中自分が寝てから何日経ったのか聞くとそんなに時間は経っておらず、3日で目が覚めたらしい。
その3日間、彼女はボクに神水を使い続けてくれたのだ。そのことにボクはとても感謝した。
「すごい心配したんだからね……」
「ごめんね……ここでアレをしないと不味いと思ったからさ……」
広間に着く。そこには色とりどりの料理が食卓らしいテーブルに並んでいた。皆も椅子に座っていた。
「「「「「士郎(さん)!?」」」」」
「おはよう皆。それと心配かけた」
「士郎、腹減ってないか?一応料理は雫から報告を聞いて作ったから結構あるが」
「うん、3日間何も食べてないからね……お腹空いて死にそう……」
ということでボクは出された料理を食べた。ハジメ達はヒュドラの肉を食べていたらしいので、頼もうとしたら「怪我人が喰うもんじゃねぇ!」って皆に怒られてしまった。当たり前だね。
身体の倦怠感は完全なる形で修復する際に体力と魔力をごっそり使っているからなのはわかるが。何故左腕の激痛が治らないのかがわからなかった。
左腕を見ると不規則に黒くなっていた。おそらくだが是、射殺す百頭を使った反動なのだろう。心当たりがそれしかない。
調べてみると身体の倦怠感は変容の反動、左腕は投影魔術が原因だった。ステータスプレートにこう書いてあった。
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変容について
限界突破の亜種技能
変容で上げたステータスはランクによって上がる時間と切れた後の反動の時間が変わる。
完全なる形でも修復不可
効果時間
E=増えないので無し
D=5分
C=3分
B=1分
A=30秒
A+=15秒
A++=10秒
反動
E=増えないので無し
D=限界突破と同じ
C=1時間
B=2時間
A=半日
A+=1日
A++=3日
投影焼けについて
投影能力を捻じ込まれただけなので、是、射殺す百頭のような物を投影すると腕から焼けていく。こちらも完全なる形による修復不可。
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そして気になる技能である回路接続はこうだった。
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回路接続
魔力操作の使える仲間に触れることで互いの能力を共有できる。
ただし完全なる形は欠損した肉体の修復が不可。
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結構面白い技能だった。
それからハジメに車椅子を渡され、それに座って、雫に皆がこの世界の真実を知った場所に連れて行ってもらう。
魔法陣の中心に行くと、ボクの目の前に骸と同じ黒衣を来た青年が現れた。
「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像でね、生憎君の質問に答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないということを」
そうして始まった大迷宮の創造者、オスカーの話。
それはボク達が知っている歴史やユエから聞いたものとは全くの別物だった。
狂った神とその子孫の戦いの物語。
神代は少し後、人間と魔人、様々な亜人は絶えず戦争を続けていた。争う理由は地球と変わらないものだった。その中でも1番の理由は『神敵』だから。というものだった。遥か昔種族も細かく分かれていてそれぞれが信仰する神がいた。その神の神託で戦争を続けていた。
それに終止符を打たんとする者───それが『解放者』という集団だった。
彼らには共通の繋がり、神々直系の子孫だと言うことだった。そのため解放者のリーダーは偶然にも神々の真意を知ってしまった。
何と神々は、人々を裏で巧みに操り戦争を促していたのだった。しかもそれは人を駒とした遊戯としてだ。耐えられなくなった解放者のリーダーは同じ志の人を集めた。
そして神域とも呼ばれる神々のいる場所を突き止めることに成功し、解放者の中でも先祖返りの強力な力を持つ7人を中心に神々に戦いを挑んだのだ。
しかしその目論見は破綻してしまう。何と、神は人々を巧みに操り、解放者達を世界を破滅させる存在『反逆者』だと認識させ、人々自身に相手をさせたのだった。次々と解放者は討たれていき、遂に残ったのは中心の7人だけになってしまった。
彼等はもう神々を討つことが出来ないと判断し、大陸の果てに散り、迷宮と試練を作り、それを乗り越えた者達に自分達の力を譲り、いつかこの神々の遊戯を終わらせることを願って。
長い話も終わり、オスカーは穏やかに微笑む。
「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」
そう話を締めくくり記録映像はスッと消えてしまった。同時にボクは頭に何かが入ってくる。それはまるでボクが初めてトータスに来た時のように。
神代魔法のようだ。生成魔法、物質に特殊性を持たせる魔法。オスカー・オルクスが得意とした魔法だ。
今ボクが地上に出たら、ハジメを無能扱いしていた連中に対して凄く嫌味な笑みを浮かべているだろう。なんせここで手に入る神代魔法はハジメ向きだったのだから。
ボクは魔法陣から出てみんなの所に行く。雫から聞いたのだが現在自分の力を上手く使う為に訓練をしているという。
「とんでもないことを知っちゃったね」
「ええ……貴方はどうするのかしら?」
「そうだね……みんなを集めてから言う。考えはまとまっている……雫は?」
「私は……早く帰りたい……お父さんもお母さんも心配してるだろうし……」
「そっか……」
訓練場に連れて行ってもらう。そこには皆が特訓をしている姿が見えた。
「士郎……その様子だと入手出来たみたいだね」
「ああ……それでみんなに話したいことがある。いつが良い?」
「夕食後だね……今は特訓していたいし」
「わかった……ボクも明日参加するよ。それと一つ聞きたい事がある」
「何?」
「その左腕……どうした?」
「ああこれ?実は──
ハジメ曰くオスカー・オルクスの工房にあった義手の設計図から、ハジメのアレンジを加えて制作した物らしい。
「完全にハガレンのエドじゃん……」
「言わないで……」
「今度フラメルの十字架の赤いコート、投影しようか?」
「やめて!」
その後夕食を取りボクはみんなにオスカーの話を聞いたうえで、今後の方針をどうするかを話す。
「これからどうするかなんだけど……正直言ってこの世界の為にエヒト……邪神を討つ事はしない。けれどこの世界から地球へ帰る為には邪神と戦うのは避けて通れない道だ」
「やっぱりか……」
「だから、今はここで出来ることをしよう。既にやってるけれど、この世界の誰よりも強くなって、誰も止められないようになる。そして大迷宮を攻略して、全ての神代魔法を手に入れる。それでいいね」
全員が同意するようにうなずく。
「頑張るぞ!」
「「「「「「おー!」」」」」」
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身体も治り、ボクも本格的に鍛錬を始める。食事にはヒュドラの肉を毎食食べ、ステータスの強化をする。次に派生技能習得や魔法の使い方を独学で慣らす。最後にハジメと幸利と武器の開発に取り組む。
そうしている間にふと思い出した、ユエが囚われていた部屋に隠されていた記録石のことだ。
「ねぇハジメ。今日は見たい物があるんだ」
「何?」
ボクはカバンに入れてある鉱石を見せる。
これに記録映像が残されていることと、おそらくユエの家族の誰か……彼女の叔父が残した物であろう物だと説明する。
ボクは鍛錬中にユエの固有魔法『自動再生』について聞いた時に、ユエの叔父は本当に権力目当てで彼女を封印したのか疑問に思ったのだ。
クーデターを起こし彼女を殺すならばあの蠍や一つ目巨人を使い再生出来なくなるまで殺せばいいのだから。
だからボクは今日夕食後再びみんなを集めて、この記録映像を見ることにした。
「それと一つ質問したいことがあるんだ」
「何、今度は?」
「ユエとも付き合ったの?妙に前より距離が近いみたいだけど」
ハジメはギョッとした顔を作る。
「うん……香織とユエと相談して付き合う事にした」
「そっか……ならちゃんと2人を大切にね」
「勿論だよ」
武器を作り終えて、夕食を食べ終えた。ボク達は記録映像を見る。
映し出されたのは、ユエに似た姿の壮年の男だった。
「叔父様……?」
「やっぱりか……」
映し出されたのはやはり、彼女の叔父だったようだ。
『アレーティア……久しい、と言うのは少し違うかな。君は、きっと私を恨んでいるのだろうから。……いや、恨むなんて言葉では足りないのだろう…私のしたことは……あぁ、違う。こんなことを言いたい訳じゃない。沢山考えて来たと言うのに、いざ遺言を残すとなると上手くまとまらないな……』
自嘲するように苦笑いを浮かべながら、彼は気を取り直すように咳払いをしてから話し出した。
『まずは礼を言わねばならないな……アレーティア。きっと君の側には君が心から信頼する誰かがいるのだろう。少なくとも、変成魔法を手に入れることが出来、真のオルクス大迷宮に挑める強者であって、私の用意したガーディアンから君を見捨てず救い出した者が』
ボク達は息をするのも忘れるほど、彼の話に聞き入っていた。
『……私の愛しい姪に寄り添う君よ。君は男性?それとも女性なのかな?アレーティアにとって、どんな存在なのかな?恋人、親友あるいは家族だったり、何かの仲間だったりするのだろうか?直接会って礼を言えない事は申し訳ないがどうか言わせてくれ……ありがとう。その子を救い出してくれて、寄り添ってくれて、ありがとう。私の生涯で最大の感謝を告げる』
ユエ、この場合はアレーティアと呼ぶ方が正しいのだろうか。彼女の隣に座るハジメと香織は、アレーティアの手を優しく握る。
『アレーティア。君の胸中は疑問で溢れているだろう。それとも、もう真実を知っているのだろうか。私が何故あの日、君を傷つけてまであの暗闇の底へ沈めたのか。君がどういう存在で、真の敵が誰なのか。君に真実を話すか否か、あの日の直前まで迷った。だが奴等を確実に欺くためには話すべきではないと判断した。私を憎めばそれが生きる活力にもなると思ったのだ』
本当は話したかったのだろう。あの部屋に長く居れば、彼女を封印した意味がなくなってしまう。それ故に王城でユエを弑逆したと見せかけ、話す時間もなかったに違いない。
その選択がどれほどの苦渋に満ちた物なのか、映像に映る彼の拳が血が出るのではないかと思うほど握られていた。
『それでも君を傷つけた事に変わりはない。今更許せなどとは言わない。だが、これだけは信じて欲しい。知っていて欲しい。愛してる。アレーティア。君を心の底から愛している。煩わしく思ったことなど一度もたりともない。それに君の事を私は────娘のように思っていたんだ』
苦しげな泣き笑いのような表情には、とても優しげで、慈愛に満ち、それと同時に、どうしようもない程のやるせなさ、悲しみに満ちた表情になって発せられていた想いを聞き、ボク達は涙を流さずにはいられなかった。
『守ってやれなくて済まなかった。未来の誰かに託すことしか出来なくて済まなかった。情け無い父親役で済まなかった。』
彼の目尻には光る物が映るもそれを流すことはしなかった。グッと堪えながら、愛娘へ想いを一心に言葉で紡ぐ。
『傍に居て、いつか君が幸せを掴む姿を、その瞬間を見たかった。君の隣に立つ男を一発殴ってやるのが密かな夢だった。その後に、酒でも飲み交わして頼むんだ「どうか娘をお願いします」と。アレーティアの選んだ相手だ。きっと、真剣な顔をして確約してくれるに違いない』
夢を見るかのように映る彼はどこか遠いところに眼差しを向ける。もしかしたらそこには昔の綺麗な服をまとった過去のアレーティアが、その隣にはハジメと香織と思わしき存在がいるのかもしれない。
『そろそろ時間だ。もっと色々話したい事が、伝えたい事があるのだが……私の生成魔法では、これ位のアーティファクトしか作れない。もう、私は君の傍にはいられない。だが、例えこの命が尽きようとも祈り続ける。アレーティア、最愛の娘よ。君の頭上に、無限の幸福が降り注がん事を。陽の光よりも温かく、月の光よりも優しい、そんな人生を歩めますように』
彼の想いを込めたアーティファクトもあと少しとなってしまったのか、別れの言葉を紡ぐ。
その直後、彼の視線が彷徨うように左右部屋に動いた。どうやら隣に寄り添う者にも伝えたい事があるのだろう。
『私の最愛に寄り添う君よ。お願いだ。どんな形でもいい。その子を世界で一番幸せ者の女の子にしてやってくれ。どうかお願いだ』
「はい……!必ず彼女を幸せにします……!」
「うん……!幸せにするよ……!」
遂にハジメと香織は声が漏れ出てしまった。
その声は涙で掠れてしまっていたが、2人の確固たる決意と意志が込められていた。
『さようならアレーティア。君を取り巻く世界の全てが、幸せでありますように』
映像の中の存在、2人の言葉届く筈もないのだが、彼は確かに満足そうに微笑み、虚空に溶けるように消えて行った。恐らくは遠い未来で自分の言葉にどう答えるか確信していたのかもしれない。此処は彼女の叔父といったところだろう。
「ヒッグ……叔父様……ディン叔父様ぁ……!」
ユエはかつて裏切られたと思った叔父の真意を知り、自身が愛されていた事に涙を流さずにはいられなかった。そしてハジメと香織と抱き合う。
ボクは彼の悔しさとユエへの想いに拳を力強く握る。雫も幸利も優花も声を漏らしながら泣く。
「みんな……前にエヒト討伐は帰る為のついでだって言ったよね……前言撤回だ……」
自分でも驚くような低く重い声が口から出る。そしてボクはあの時の方針をぐるりと変える。手のひら返しだと言われても構わない。それだけボクの心はざわついていた。声色も変えずに続きを言う。
「エヒトのやつを……ぶち殺してから地球に帰る……!そうでなきゃオレは後悔する!」
「ああ!士郎、俺もあのクソ邪神を許す事が出来ねぇ!」
「ユエの家族の……一族の未来を奪った邪神は絶対に倒す……!」
正直言ってこの話書いてる時泣きかけました……
ディンリードの話を胸に士郎達は強くなっていきます。
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