ありふれない天の鎖の投影魔術師は世界最強 作:小説大工の源三
ハジメ達が乗っていた車もこちらに停まり降りる。
「士郎、どうしたのその子?」
「魔物に追われていたから助けた」
「相変わらずのお人好しだな……」
「それで君はなんであの魔物に追われていたんだ?亜人族は樹海に住んでいて魔物に追われるような事がほとんどないはずだけど……」
「実は……」
シアの話によると。
シア達、ハウリアと名乗る兎人族達は【ハルツィナ樹海】にて数百人規模の集落を作りひっそりと暮らしていた。兎人族は、聴覚や隠密行動に優れているものの、他の亜人族に比べれば戦闘能力は皆無らしく、突出したものがないので亜人族の中でも格下と見られる傾向が強いらしい。性格は総じて温厚で争いを嫌い、一つの集落全体を家族として扱う仲間同士の絆が深い種族だ。また、総じて容姿に優れており、エルフのような美しさとは異なった、可愛らしさがあるので、帝国などに捕まり奴隷にされたときは愛玩用として人気の商品となる。
そんな兎人族の一つ。ハウリア族に、ある日異常な女の子が生まれた。兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、その子の髪は青みがかった白髪だったのだ。しかも、亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操る術と、とある固有魔法まで使えたのだ。
当然、一族は大いに困惑した。兎人族として、いや、亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。しかし、彼女が生まれたのは亜人族一、家族の情が深い種族である兎人族だ。百数十人全員を一つの家族と称する種族なのだ。ハウリア族は女の子を見捨てるという選択肢を持たなかった。
しかし、樹海深部に存在する亜人族の国【フェアベルゲン】に女の子の存在がばれれば間違いなく処刑される。魔物とはそれだけ忌み嫌われており、不倶戴天の敵なのである。国の規律にも魔物を見つけ次第、できる限り殲滅しなければならないと有り、過去にわざと魔物を逃がした人物が追放処分を受けたという記録もある。また、被差別種族ということもあり、魔法を振りかざして自分達亜人族を迫害する人間族や魔人族に対してもいい感情など持っていない。樹海に侵入した魔力を持つ他種族は、総じて即殺が暗黙の了解となっているほどだ。
故に、ハウリア族は女の子を隠し、十六年もの間ひっそりと育ててきた。だが、先日とうとう彼女の存在がばれてしまった。その為、ハウリア族はフェアベルゲンに捕まる前に一族ごと樹海を出たのだ。
行く宛もない彼等は、一先ず北の山脈地帯を目指すことにした。山の幸があれば生きていけるかもしれないと考えたからだ。未開地ではあるが、帝国や奴隷商に捕まり奴隷に堕とされてしまうよりはマシだ。
しかし、彼等の試みは、その帝国により潰えた。樹海を出て直ぐに運悪く帝国兵に見つかってしまったのだ。巡回中だったのか訓練だったのかは分からないが、一個中隊規模と出くわしたハウリア族は南に逃げるしかなかった。
女子供を逃がすため男達が追っ手の妨害を試みるが、元々温厚で平和的な兎人族と魔法を使える訓練された帝国兵では比べるまでもない歴然とした戦力差があり、気がつけば半数以上が捕らわれてしまった。
全滅を避けるために必死に逃げ続け、ライセン大峡谷にたどり着いた彼等は、苦肉の策として峡谷へと逃げ込んだ。流石に、魔法の使えない峡谷にまで帝国兵も追って来ないだろうし、ほとぼりが冷めていなくなるのを待とうとしたのである。魔物に襲われるのと帝国兵がいなくなるのとどちらが早いかという賭けだった。
しかし、予測に反して帝国兵は一向に撤退しようとはしなかった。小隊が峡谷の出入り口である階段状に加工された崖の入口に陣取り、兎人族が魔物に襲われ出てくるのを待つことにしたのだ。
そうこうしている内に、案の定、魔物が襲来した。前門の虎後門の狼状態でもう無理だと帝国に投降しようとしたが、峡谷から逃がすものかと魔物が回り込み、ハウリア族は峡谷の奥へと逃げるしかなかった。そうやって、追い立てられるように峡谷を逃げ惑い……
「……気がつけば、六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」
正直に言えば、ボクは彼女の家族を助けてあげたい。だが、今はそんな余裕もないのだ。いつ
「仮にボク達が助けたとして、君達は何を報酬にする?」
「え、えっと……」
「帝国に追われているわ、国から追い出されているわ。僕らにも目的があるからそんな時間も取れないんだ」
「そんな……でも、守ってくれるって見えたのに!」
「さっきも見えたって言ってたんだけど。もしかして君は未来視の能力を持ってるの?」
「え、はい!士郎さんの言う通りわたしは『未来視』と言いまして、仮定した未来が見えます。もしこれを選択したら、その先どうなるか?みたいな……あと、危険が迫っているときは勝手に見えたりします。まぁ、見えた未来が絶対というわけではないですけど……そ、そうです。私、役に立ちますよ!『未来視』があれば危険とかも分かりやすいですし!少し前に見たんです!貴方が私達を助けてくれている姿が!実際、ちゃんと貴方方に会えて助けられました!」
シアの説明する『未来視』は、彼女の説明通り、任意で発動する場合は、仮定した選択の結果としての未来が見えるというものだ。これには莫大な魔力を消費する。一回で枯渇寸前になるほどである。また、自動で発動する場合もあり、これは直接・間接を問わず、シアにとって危険と思える状況が急迫している場合に発動する。これも多大な魔力を消費するが、任意発動程ではなく三分の一程消費するらしい。
どうやら、シアは元いた場所で、士郎達がいる方へ行けばどうなるか?という仮定選択をし、結果、自分と家族を守る士郎の姿が見えたようだ、そして、士郎を探すために飛び出してきた。こんな危険な場所で単独行動とは、よほど興奮していたのだろう。
彼女はボロボロなのでひとまず適当なコートを投影して渡す。
これは普通にボクは驚いたと同時に疑問が一つ浮かんだ。
「未来視があるのになんでこんな状況になったのさ?危険を察知出来るならフェアベルゲンの人たちに追われる心配なんてなかった筈でしょ?もしかして自分で使った場合は、しばらく使えないとかあるの?」
ボクの指摘にシアは「うっ」と唸った後に目を泳がせてポツリと漏らした。
「はい……」
「で何に使ったんだ?」
「友人の恋路が気になって……」
「使い方ぁ!貴重な魔法をなに出歯亀に使ってるのさ君!」
「うぅ〜猛省しております〜」
「残念ウサギだな……」
それで彼女の家族を助ける事なのだが、一度シアに話し合うと告げて、相談することにした。
「それでどうする?」
「僕はあまり乗り気じゃないね……」
「やっぱり面倒事は背負えないから?」
「うん」
「ボクは彼女の家族を助けて、樹海を案内して貰おうと思う」
「……私も士郎と同じ意見」
「士郎、彼女達はフェアベルゲンの連中に追われてるんだぞ」
「正直言って敵じゃないでしょ?」
「まぁそうね。アタシ達より強いやつなんてそんなにいないと思うし」
「それに……」
チラリとボクはさっきから何も喋らない雫を見る。おそらくシアのウサミミを見ているのだろう。
「ここで見捨てたら雫が何言うかわからないし……」
「雫ちゃん、可愛い物好きだからね……」
ボクはシアに向き直る。
「とりあえず君の家族を助けたら、樹海の案内を頼みたいんだけど。いいかな?」
「はい!ありがとうございます!うぅ〜、よがっだぁぁ〜、よがったよぉぉ〜」
ぐしぐしとシアは嬉し泣きをする。それもそうだ。仲間を助けてもらえると安心したのだから。
いつまでも泣いてはいけないと、すぐに泣き止み移動の準備をする。
「雫もボケっとしてないで行くよ」
「へ?あ、うん」
「あの、よ、よろしくお願いします……皆さんの事はなんと呼べば良いのでしょうか?」
「そういえば名乗ってなかったね。ボクは士郎、天野士郎」
と順番に自己紹介していく。
ユエのことをちゃんづけで呼んだ時に「……さんをつけろ、残念ウサギ」と怒られた。おそらく外見でユエの年齢を判断したのだろう。吸血鬼で遥かに年上だと聞くと勢いよく土下座したのだった。
シアに車とシュタイフのどっちに乗るか聞いた所、シュタイフに乗ると言ったので、ボク、雫、シアの順番で乗ることとなった。
「あの……逃げるのに必死でつい流してしまったのですけど、士郎さんこの乗り物何ですか?あとあの狙撃、何をしたんですか?普通の狙撃ならダイへドアがあんなことにはならないでしょうし……」
「それについては道中で話すよ」
そう言ってシュタイフに魔力を込めて、走り出す。
悪路をものともせずに走るシュタイフに「きゃあぁぁあ〜!」と悲鳴をあげていたのだが
途中から慣れたのか、岩を避けるためにカーブした時にテンション高めの声できゃっきゃっしていた。
道中、シュタイフや車の事やここに来るまでの事、ハジメとボクがアーティファクト作れる事を簡潔に話した。するとシアは目を見開いて驚愕した顔になる。
「え、それじゃあ皆さんも魔力を直接操作出来て固有魔法が使えると……」
「そうだね」
「案外悪いことじゃないわよ」
しばらく呆けていたシアは何かを堪えるように雫の肩に顔を埋めた。そして突然泣き出してしまった。
「シア?どうしたのよ?」
「……わたしだけじゃないってわかって……」
シアは家族に嫌悪される事なく守られ、愛されてきたとはいえ、自分一人だけ『他の人と違う』ことに何処か寂しさを感じていたのだろう。ボク達のような人が現れたことで自分以外にもいたと安心したのだろう。
すると遠くで魔物の鳴き声が聞こえてきた。それもそれなりの数だ。
「!士郎さん!もうすぐ父様達がいる場所です!……魔物の声が近いです!父様達のいる場所に近いです!」
「それなら急がないと!雫!魔力借りるよ!」
「ええ!持っていきなさい!」
ボクは回路接続で雫の魔力を借り、シュタイフのスピードを上げてシアの家族のところまで急ぐ。
士郎は生成魔法と相性がよく、ハジメ程ではないものの使い熟すことができる。投影した変哲もない剣に特性を付与して魔剣を作ることも可能。
説明不足でした……