ありふれない天の鎖の投影魔術師は世界最強 作:小説大工の源三
七大迷宮の一つ、【ハルツィナ樹海】を前方に見据えて、兎人族の乗る馬車をハジメが車で牽引しそれなりに早いペースで進んでいた。
士郎の乗るシュタイフには雫とシアが乗っていた。
最初は馬車に乗るか提案したのだが、話がしたいと言い、雫もシアと話たかったので3人乗りして向かっている。
シアとしては初めて出会った、『同類』ともっと色んな話をしたかった模様。
初の人殺しはハジメと香織は何も感じなかった、他も似たような感じだった。
「あの、あの!皆さんのこともっと教えてくれませんか?」
「?ボク達のことはもう話したけど?」
「いえ、能力とかそう言うことではなくて、何故奈落?と言う所にいたのとか、旅の目的って何なのか、今まで何していたとか、皆さん自身の話が知りたいです」
ここの会話はハジメ達の乗る車に通信で繋がっているので聞こえている。
『……聞いてどうするの?』
「どうするというわけではなく、ただ知りたいだけです。……わたし、この体質のせいで家族には沢山迷惑をかけました。小さい時はそれがすごく嫌で……もちろん、皆はそんな事ないって言ってくれましたし、今は、自分を嫌ってはいませんが……それでも、やっぱり、この世界のはみだし者のような気がして……だから、わたし、嬉しかったのです。お二人に出会って、わたしみたいな存在は他にもいるのだと知って、一人じゃない、はみだし者なんかじゃないって思えて……勝手ながら、そ、その、な、仲間みたいに思えて……だから、その、もっとお二人のことを知りたいといいますか……何といいますか……」
シアは話の途中で恥ずかしくなったのか、次第に声が小さくなり、雫の背に隠れるように身を縮こまらせた。出会った当初も随分と嬉しそうな顔をしていたと士郎と雫は思い出す。色々ゴタゴタがあったのでちょっとしか話せていなかった。
確かに、この世界では、魔物と同じ体質を持った人なんて受け入れ難い存在だ。仲間意識を持つのも無理はない。樹海まで時間があり、それまで暇なので士郎はこれまでの経緯を語り始めた。
その結果……
「うぇ、ぐすっ……ひどい、ひどすぎまずぅ~、ハジメさんなんかは香織さんがいるにしても、幸利さんもユエさんもがわいぞうですぅ~。そ、それ比べたら、わたしはなんでめぐまれて……うぅ~、自分がなざけないですぅ~」
号泣してしまった。滂沱の涙を流して「わたしは、甘ちゃんですぅ」、「もう弱音を吐かないですぅ」と呟く。その涙を士郎が渡したマントで拭いていた。どうやら士郎達の境遇が自分以上だったことを知り、不幸顔していた自分が情けなく感じたようだ。
メソメソしていた彼女は突如決然とした表情でガバッと顔上げ、拳に握り元気よく宣言する。
「皆さん!わたし、決めました!皆さんの旅に着いていきます!これからは、このシア・ハウリアが陰から日向にお二人を助けて差し上げます!遠慮はいりませんよ!わたし達は指で数えれる仲間!共に苦難を乗り越えて、望みを果たしましょう!」
1人盛り上がっているシアにハジメが通信越しに冷たい声で答える。
『現在進行形で守られている君が何言ってるのさ。完全に足でまといだよ』
『……さりげなく《仲間みたい》から《仲間》に格上げしてる……厚皮ウサギ』
「な、なんて冷たい声なんですか……心にヒビが入りそう……」
意気込みに反して冷たい反応をされたシア。そんな彼女に士郎は追い討ちをかける。
「シアはさ、単純に旅の仲間が欲しいんでしょ?」
「!?」
士郎の言葉にシアはビクッと体が跳ねる。
「一族の安全が一先ず確保出来たら、君は彼等から離れる気なんでしょ?そこに丁度『同類』のボク達が現れたから、これを幸いに一緒に行くってことでしょ?そんな珍しい髪色の兎人族なんか、一人で旅は出来るとは思えないからね」
「……あの、それは、それだけでは……わたしは本当に皆さんを……」
どうやら図星のようで、しどろもどろになるシア。実はシアは既に一族の元から離れることを決意していたのだ。何としてでも士郎達の協力を得て安全の確保をして、自分は家族の元を離れようと。自分がいる限り、一族は常に危険にさらされる。今回も多くの家族を失った。次は、本当に全滅するかもしれない。それだけは、シアには耐えられそうになかった。もちろん、その考えが一族の意に反する、ある意味裏切りとも言える行為だとは分かっている。だが『それでも』と決めたのだ。
最悪、1人で旅立とうともしていた。それだと心配性の家族は追ってくる可能性が高い。しかし、圧倒的な強さを持つ士郎達に恩返しとして着いて行けば、割りかし容易に一族を説得出来て離れられると考えたのだ。見た目の言動に反して彼女は今も、『必死』なのだ。
勿論シア自身が、士郎達に強い興味を惹かれているというのも事実。士郎の言う通り、『同類』である士郎達に、理屈を超える強い仲間意識を感じていた。一族のことを考えると彼女にとって士郎達に出会ったのは運命的だったのだ。
「別に責めてる訳じゃないよ。それに君の優しさを否定するつもりはないし、嬉しい。でもね変な期待はしないで。ボク達の目的は七大迷宮を攻略すること。確実に奈落の奥は化物揃い。君じゃ瞬殺されて終わり。君の命を考えても同行はさせない」
「……」
士郎の容赦のない言葉にシアは落ち込んだように黙り込んでしまった。
シアはそれからの道中、大人しく後ろに座りながら、何かを考え込むように難しい表情をしていた。
─────────────────────────
それから数時間して、遂に【ハルツィナ樹海】と平原の境界に到着した。樹海の外から見ると、鬱蒼とした森にしか見えない。一度入ると直ぐに霧に覆われてしまうらしい。
「それでは皆さん、中に入ったら決して我等から離れないでください。皆さんを中心に進みますが、万一逸れると厄介ですからな。行き先は大樹の下で宜しいですな?」
「うん、聞いた限りだと、そこが本当の大迷宮と関係があるらしいからね」
当初、ハジメは【ハルツィナ樹海】その物が大迷宮かと思っていたのだが、よく考えたら、奈落クラスの魔物が彷徨っていることになり、亜人が暮らせる場所ではなくなってしまう。なのでオルクス大迷宮と同じように、何処かに真の迷宮の入り口があると推測したのだ。カムから聞いた『大樹』が怪しいと一行は踏んだのである。
「皆さん、出来る限り気配は消して貰えますかな。大樹は神聖な場所とされております。近づく者はさほどおりませんが、特別禁止されている訳ではありませんので、フェアベルゲンや他の集落の者達と遭遇してしまうかも知れないので。我々はお尋ね者なので見つかると厄介です」
「承知してる」
士郎達は『気配遮断』をユエは奈落で培った方法で気配を薄くした。
「ッ!?これは、また……出来ればユエ殿位にしていただけますか?我々でも見失いかねないとは……全く、流石ですな!」
元々、兎人族は全体的スペックが低い分、聴覚による索敵や気配を断つ隠密行動に秀でている。地上にいながら、奈落で鍛えたユエと同じレベルと言えば如何に凄いかわかるだろう。士郎達の気配遮断はその上を行ったのだ。
シアはその実力差を見せつけられ複雑そうな顔をしていた。
「それでは行きましょうか」
カムの号令で一行は、樹海に入り道なき道を進む。道中で魔物が襲いかかるも士郎達の手によって倒されていく。
「あ、ありがとうございます、ハジメさん、幸利さん」
「お兄ちゃん達、ありがと!」
その後も進み続け、数時間が過ぎた頃、今までにないほどの無数の数に囲まれ、士郎達は歩を止める。数も殺気も、連携の、練度も比べ物にならなかった。カム達も忙しなくウサミミを動かす。
そして何かを掴んだのか、苦虫を噛み潰したような表情を見せ、シアに至っては、その顔が青ざめさせている。
士郎達も相手の正体に気づいたのか、身構える。
その相手の正体は……
「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」
虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人だった。