ありふれない天の鎖の投影魔術師は世界最強 作:小説大工の源三
髪の長さは肩下まで。きちんと食事が取れていたので、発育もしっかりしている。(あれの大きさはユエ1.5個分くらい)
遠くに町が見えてくる。周囲を堀と柵で囲まれた小規模な町だ。街道に面した場所に木製の門があり、その傍には小屋もある。おそらく門番の詰所だろう。小規模といっても、門番を配置する程度の規模はあるようだ。それなりに、充実した買い物が出来そうだと士郎は頬を緩めた。
門番に見られる前に、乗り物を『宝物庫』にしまう。見られた時に質問責めに遭うのは考えるまでもない。
「止まってくれ。ステータスプレートを。あと町へ来た目的は?」
「旅の途中でね。町へは物資の補給を」
ふ~んと気のない声で相槌を打ちながら門番の男が士郎達のステータスプレートをチェックする。
きちんとステータスの主な物は幸利の闇魔法で隠蔽してある。
「そこの彼女のステータスプレートは魔物の襲撃で紛失しちゃってね……で兎人族の彼女は……言わなくてもわかるよね?」
「成る程奴隷か。それにしても随分と綺麗所を手に入れたな。白髪の兎人族なんて相当レアなんじゃないか?あんたら意外と金持ち?」
ステータスプレートのないユエとシアに関しては、前者は紛失、後者は奴隷という形で納得させる。士郎としては仲間で恋人を奴隷呼びされるのは、あまり好まないが致し方ない。
門番の問いには肩をすくませるだけで士郎は答えなかった。
「まあいい。通れ」
「そうだ、素材の換金所……あとこの町のギルドってどこにあるか教えて欲しいな」
「それなら、中央の道を真っ直ぐ行った所にある。換金所の場所はそこのギルド職員に聞くと良い。そこでここの簡易的な地図をくれるから」
「おお、それは助かるな」
門番から情報を聞き、門を潜る。
ブルックの町、『ヨホホ』と笑う骸骨を連想する町の名前だ。
町中は、それなりに活気があった。かつて見たオルクス近郊の町ホルアドほどではないが露店も結構出ており、呼び込みの声や、白熱した値切り交渉の喧騒が聞こえてくる。
すると後ろでシアがプルプル震えながら士郎をジト目で睨んでいた。
「あの、士郎さん……」
「何、シア?」
「これです!この首輪!これのせいで奴隷と勘違いされたじゃないですか!うぅ酷いですよぉ~わたし達、仲間じゃなかったんですかぁ~」
「あのね?奴隷でもない亜人族、それも愛玩用として人気の高い兎人族が普通町で歩けないからさ。君の容姿とスタイルは抜群だ。人攫いにでもあったら……ってなにクネクネしてるの?」
言い訳があるなら言って見ろやゴルァ!と言いたげに睨んでいたシアだったが、その訳を聞く内に照れた様に頬を赤らめながらイヤンイヤンと言いたげに身体をくねらせ始めた。
毎度の事ながら始まった愛の暴走振りに香織達が冷めた目を向けたのは言うまでも無い。
「も、もう、士郎さん、こんな公衆の面前でいきなり何を言い出すんですかぁ。そんな、容姿もスタイルも性格も抜群で、世界一可愛くて魅力的だなんて、恥ずかしいでイタァ!」
「……公衆の面前。静かに」
「……ハイ、ズミマセン」
ユエが暴走したシアの脇腹を抓り咎めるのだった。
「それとその首輪、『
「わかりました!わたしと話したい時はいつでも良いですからね!」
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ギルドは荒くれ者達の場所というイメージから、ハジメと幸利は、勝手に薄汚れた場所と考えていのだが、意外に清潔さが保たれた場所だった。入口正面にカウンターがあり、左手は飲食店になっているようだ。何人かの冒険者らしい者達が食事を取ったり雑談したりしている。
士郎達がギルドに入ると、冒険者達が当然のように注目してくる。最初こそ、見慣れない三人組ということでささやかな注意を引いたに過ぎなかったが、彼等の視線が女性陣に向くと、途端に瞳の奥の好奇心が増した。中には「ほぅ」と感心の声を上げる者や、門番同様、ボーと見惚れている者、恋人なのか女冒険者に殴られている者もいる。
テンプレ宜しく、ちょっかいを掛けてくる者がいるかとも思ったのだが、意外に理性的で観察するに留めているようだ。足止めされることなく士郎達はカウンターへ向かう。
カウンターには笑顔を浮かべたオバチャンがいた。恰幅がいい。横幅がユエ二人分くらいある。いや、ユエが細いだけかも知れない。どうやら美人の受付というのは幻想のようだ。地球の本職のメイドがオバチャンばかりという現実と同じだ。世界が変わっても現実はいつも非情だ。ちなみに、士郎は美人の受付なんて期待していなかった。人が良ければいいと考えていた。ハジメと幸利はどうか知らないが。
「おやおや、男女比率が傾いてるわね?」
「あはは。そういうの、考えたこともなかったや」
「愛想尽かされないように、シャンとしなさいよ?」
「肝に命じておきます」
まさか初対面で説教されるとは思わなかったのか面くらいながらも応じたハジメの返答に「あらやだ、年取るとつい説教臭くなっちゃってねぇ、初対面なのにゴメンね」と謝ったおばちゃんという、何処かほっこりするやり取りが繰り広げられはしたが、即座に仕事モードに切り替わるのは流石にプロか。
「さて、じゃあ改めて。冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ。ご用件は何かしら」
「素材の買取を頼めるか?」
「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」
「「「「「?」」」」」
「ああ、そういえば冒険者だとちょっと買取価格上がるんだっけ。登録するから買取価格から、差っ引いてくれるかな?」
「可愛い子達がいるのに文無しなんて何やってんだい。ちゃんと上乗せしといてあげるから、不自由させんじゃないよ?」
オバチャンがかっこいい。士郎は、有り難く厚意を受け取っておくことにした。ステータスプレート所持者は登録する為にプレートを差し出す。ユエとシアのはないので登録は出来なかったのだが。
2人の技能が見てみたいが、公になるのはあまり望ましくないので、ステータスプレートの発行はやめた。
戻ってきたステータスプレートには、新たな情報が表記されていた。天職欄の横に職業欄が出来ており、そこに『冒険者』と追加されていた。
「ギルドと提携している宿や店は一~二割程度割引いてくれるし、移動馬車を利用する時も高ランクなら無料で使えたりするから、頑張りなさいよ?」
「なるほど……ありがとうございます」
「男なら黒ランク目指しなさいよ?お嬢ちゃん達にカッコ悪いとこ見せないようにね?」
「勿論だ。それで買取はここで出来るのか?」
「構わないよ。あたしは査定資格も持ってるから見せてちょうだい」
どうやら受付だけでなく、買取もできるようだ。優秀なオバチャンに士郎達は驚く。ハジメは、あらかじめ宝物庫から出してバックに入れ替えておいた素材を取り出す。品目は、魔物の毛皮や爪、牙、そして魔石だ。カウンターの受け取り用の入れ物に入れられていく素材を見て、再びオバチャンが驚愕の表情をする。
「こ、これは……!」
恐る恐る素材を手に取る。隅から隅まで丹念に確かめたオバチャン、緊張しきりな感じで顔を上げながら士郎に尋ねた。
とんでもない物を持って来たね。これは、樹海の魔物だね?」
「ああ、どうやって入手したかは……分かるでしょ?」
金目当てなら最もレアな大迷宮最深部に住む魔物の素材を出してそれに驚いた受付がギルド長を呼び出し、高額買取&即高ランク認定で大騒ぎ、となるだろうが流石にそれは無理がある。
何しろ『表向きの』オルクス大迷宮六十五階層に住まうベヒモスですら伝説の魔物扱いされているのだ、其処から更に奥深くに住まう魔物なぞ見た事も無ければ聞いた事も無く、文献にも掲載が無いに違いない、その強大さと未知さに即未確認生命体扱いされ、ドナドナされて終わりで済めば良いが、下手したら魔人族の手によって強大化した魔物扱いされた挙句、魔人族サイドのスパイとして捕まりかねない、魔力操作があるから余計にだ。そうでもなったらユエとシアの素性がバレるなんて次元では済まなくなる。
尤も樹海に住まう魔物も厄介極まりない存在、その素材も相当なレア物なのでどうした物かと一瞬躊躇したが、其処はシアの手助けがあったからと言い訳すれば問題ない。
「樹海の素材は良質なものが多いからね、売ってもらえるのは助かるよ」
オバチャンが何事もなかったように話しを続けた。オバチャンは空気も読めるらしい。良いオバチャンだ。そしてこの上なく優秀なオバチャンだ。
「やっぱり珍しいか?」
「そりゃあねぇ。樹海の中じゃあ、人間族は感覚を狂わされるし、一度迷えば二度と出てこれないからハイリスク。好き好んで入る人はいないねぇ。亜人の奴隷持ちが金稼ぎに入るけど、売るならもっと中央で売るさ。幾分か高く売れるし、名も上がりやすいからね」
オバチャンはチラリとシアを見る。おそらく、シアの協力を得て樹海を探索したのだと推測したのだろう。樹海の素材を出しても、シアのおかげで不審にまでは思われなかったようだ。
それからオバチャンは、全ての素材を査定し金額を提示した。買取額は四十八万七千ルタ。結構な額だ。
「これでいいかい?中央ならもう少し高くなるだろうけどね」
「この額で大丈夫です」
士郎は五十一枚のルタ通貨を受け取る。この貨幣、鉱石の特性なのか異様に軽い上、薄いので五十枚を超えていても然程苦にならなかった。もっとも、例え邪魔でも、士郎達には宝物庫があるので問題はない。
「そうだ、門番の彼に、この町の簡易な地図を貰えると聞いたんだが……」
「ああ、ちょっと待っといで……ほら、これだよ。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」
手渡された地図は、中々に精巧で有用な情報が簡潔に記載された素晴らしい出来だった。これが無料とは、ちょっと信じられないくらいの出来である。
その地図を士郎は解析魔術で解析し『結果記憶』で記憶する。
「いいんですか?こんな立派な地図を無料で。十分金が取れるレベルだと思うんですが……」
「構わないよ、あたしが趣味で書いてるだけだからね。書士の天職を持ってるから、それくらい落書きみたいなもんだよ」
オバチャンの優秀さがやばかった。この人何でこんな辺境のギルドで受付とかやってんの? と総ツッコミを入れたくなるレベルである。
「なら、ありがたく貰っとくよ」
「いいってことさ。それより、金はあるんだから、少しはいいところに泊りなよ。治安が悪いわけじゃあないけど、その二人ならそんなの関係なく暴走する男連中が出そうだからね」
オバチャンは最後までいい人で気配り上手だった。士郎は苦笑いしながら「そうするよ」と返事をし、入口に向かって踵を返した。食事処の冒険者の何人かがコソコソと話し合いながら、最後まで女性陣を目で追っていた。
「ふむ、いろんな意味で面白そうな連中だね……」
後には、そんなオバチャンの楽しげな呟きが残された。