ありふれない天の鎖の投影魔術師は世界最強 作:小説大工の源三
ヒロイン化するべきか否か……流石にオリ主ヒロインが増えるのもなぁ……
色々悩ましい
その日の夜、愛子は先程の事を思い出していた。
前から敵対した相手に容赦のなかった士郎がさらに容赦のかけらもない変化、それを容認している皆。あまりの変わりように彼女は戸惑いを隠せなかった。しかし士郎がウサミミ少女のために騎士へ怒った事に対しては、やはり身内への優しさは失われていないようでホッとしていた。
「先生、百面相してどうしたんですか?」
突然声が聞こえ、声の方を見るとそこにはモノクルをした少年、南雲ハジメが窓からこちらを覗いていた。
「な、南雲くん!?ど、どうしてここに、というかどうやって!?」
「僕は錬成師です。壁に足場を作って登るくらい容易いことです」
「それで何故ここに?」
「士郎から伝言……というか、僕達からの話かな?」
ハジメは一呼吸置き続ける。
「もし僕らのことが知りたいなら神殿騎士のいない所で詳しく話す……確かに伝えたよ。そろそろあの騎士も来そうだから帰ります」
そう言ってハジメは飛び降りて部屋に戻って行った。それと同時に勢いよく扉を開く音に驚く。入って来たのはデビッドだった。
「貴様!さっきの!」
どうやらハジメに気づいて入ったのだが、既にハジメは部屋に戻ってしまった。
愛子は先の話のことを考えていた。
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翌日
士郎達は依頼をこなす為に朝早くにウルを立つつもりで町の門まで歩いていた。
「士郎さんこんな朝早くから捜索するんですか?」
「時間をかければ生存率は下がるからね……生きてる方が返してもらえる恩は大きいし」
「ハジメくんあそこ……誰かいる」
そう香織が指刺したところには、なんと愛子達転生組が待ち構えていた。
「待ってましたよ皆さん!」
「先生……一応聞きますけどなんでここに?」
「皆さんは仕事でここに来たんですよね?それなら人数は多い方がいいはずです。それに騎士方がいない場所で話をするとも言っていたので、騎士方が目を覚ます前に来させていただきました。移動中に話を聞けば皆さんの時間もとりません。なので同行させてください」
「本当、先生の行動力はすごいな……」
幸利が後ろで感心していた。
「どうするの?これから向かう先は先生達じゃきついわよ……」
雫が耳打ちする。
彼女の言う通り、冒険者達が帰ってこない異常事態。そんな所に愛子達を連れて行くのは流石に気が引ける。だが幸利が言った通り彼女の行動力は半端ではない。
「うーむ……しょうがない……連れて行こう」
「ええ!?」
「ボクが騎士達のいない所で話すって言ってたからね……」
ということで先生達を車に乗せて、走れる所まで走ることにした。流石に全員は乗せられないので、何人かは荷台に乗ってもらった。
シア達トータス出身者の紹介も済ませ、走り出すのだった。ヴェアベルトのことは他言無用として正体を話した。当然驚かれたのだが、訳を説明すると、納得したようだ。
余談だが、車を出した時に男子陣が興奮しそれに火がついたのか、ハジメが色々説明していたので出発に時間がかかった。
「それで皆さんの目的とは……」
「大迷宮を全部攻略すること。そしたら地球に帰ることは出来る」
「そ、そうなんですか!?」
「ただ一つ問題があって。この世界の神、エヒトを倒さないと帰れなさそうなんです」
「え……?」
「まぁ先生が驚くのも無理もないわね……」
解放者達の話を先生にする。
「そ、そんなことがこの世界で……」
「このことも他言無用でお願いします」
「も、もちろんです!」
すると後ろに座っていた香織が何か思い出したのか、愛子に質問する。
「先生、私達がオルクス迷宮に行った時、ハジメくんに向けて撃たれた魔法、誰が撃ったんですか?」
少し圧を込めて香織が愛子に聞いた。
「檜山君です……」
「ありがとう先生……」
「檜山の同行には気をつけてください先生」
「ああ、恵里は今どうなんですか?」
「恵里さんですか?彼女は士郎君達を探す為に迷宮に潜っています……」
「無事、なのかな……」
「心配されるのも無理ないですよね。お2人は付き合っているのですし」
ガン!
士郎は勢いよくハンドルに頭を打ちつけた。
さらに魔力コントロールが変になり蛇行運転になり揺れが激しくなっていった。
「士郎!落ち着け!」
「深呼吸して!深呼吸!」
少しして落ち着きを取り戻した士郎は、愛子に再び質問する。
「何処でそれを……」
「偶々聞いてしまいまして……すみません」
「いや、先生は悪くないです……」
それからしばらくして車を止める。これ以上は車で進めないので、ここからは徒歩で捜索することにした。
「なぁ清水、どんな仕事なんだ?」
「遭難者の捜索だ」
「は!?こんな広い所どうやって……」
玉井が困惑したように驚く。流石にここら一帯から人を探すのは流石に困難だと思ったのだろう。
「ハジメ、あれの準備して」
「了解」
そう言って宝物庫から取り出したのは鳥の形をした、自律人形だった。
重力制御式無人偵察機『オルニス』
ミレディの使っていたゴーレムを参考に作ったもの。ゴーレムの映像はハジメのモノクルに送られるのだ。
「車の次はドローンかよ……」
「銃作った時もそうだけど、錬成師スゲェな……」
「その内LB○も作ろうかな……」
しばらくハジメがオルニスを使って捜索していると、何か見つけたようだ。
「ん?これは……盾?他にも色々と落ちてる……それに鞄……血の痕もまだ新しい!」
「行こうハジメくん!」
全員でその場所へ向かう。
そこには、戦闘に悲惨さを物語るように、焼け焦げた剣や盾、鞄、ペンダントなどが転がっていた。
それらを遺品として回収しつつ、辺りの様子を伺う。
「ハジメ、これ……」
ユエが足跡を発見した。
「この足跡………」
「うん、魔物だね。見た所身長が2~3mほどの2足歩行って所だろうけど……こんな破壊の仕方出来るか?」
ハジメの視線の先には川の支流が新しく作られたと思えるほどに深く抉り飛ばされた大地の後が残っていた。
「まるでレーザーで抉り飛ばしたかのような後だな…………」
「はぁはぁ、きゅ、休憩ですか……けほっ、はぁはぁ」
「ぜぇーぜぇー大丈夫ですか……愛ちゃん先生ぜぇーぜぇー」
「うぇっぷ、もう休んでいいのか?はぁはぁ、いいよな?休むぞ?」
「……ひゅぅーひゅぅー」
「ゲホゲホ、南雲達は化け物か……」
原因を探そうとしたのだが、愛子達の息が切れて、着いていくのがギリギリのようだった。
「ハジメ、先生達お願い、ボク達は気配感知使って探してくる」
「うん、わかった」
先生達はハジメ、香織、ユエの3人に任せて、士郎達は奥に進んで行く。
気配感知に反応があり、感知した場所へ向かうと気配がするのは滝壺の奥だった。
「うーん、とりあえずほいっと」
士郎は滝の流れを変える。洞窟らしき場所へ踏み込んだ。洞窟は入って直ぐに上方へ曲がっており、そこを抜けるとそれなりの広さがある空洞が出来ていた。天井からは水と光が降り注いでおり、落ちた水は下方の水溜りに流れ込んでいる。溢れないことから、きっと奥へと続いているのだろう。
その空間の一番奥に横倒しになっている男を発見した。傍に寄って確認すると、二十歳くらいの青年とわかった。端正で育ちが良さそうな顔立ちだが、今は青ざめて死人のような顔色をしている。だが、大きな怪我はないし、鞄の中には未だ少量の食料も残っているので、単純に眠っているだけのようだ。顔色が悪いのは、彼がここに一人でいることと関係があるのだろう。
「おい、起きろ、おい」
幸利が青年の身体を揺するのだが、中々目を覚まさない。なので強行手段に出た。
「ちょっ幸利!」
バチコンッ!
「ぐわっ!」
デコピンで起こされた青年は悲鳴を上げ、あまりの痛さに額を抑える。
「あんたがウィル・クデタか?」
「いっっ、えっ、君達は一体、どうしてここに……」
「いいから答えろ、あんたがウィル・クデタか?」
「えっと、うわっ、はい!そうです!私がウィル・クデタです!はい!」
「そうか、俺は清水幸利だ。フューレンのギルド長の依頼でお前を捜しに来た」
「イルワさんが!?そうですか。あの人が……また借りができてしまったようだ……あの、あなたも有難うございます。イルワさんから依頼を受けるなんてよほどの凄腕なのですね」
尊敬を含んだ眼差しと共に礼を言うウィル。先程、有り得ない威力のデコピンを受けたことは気にしていないらしい。もしかすると、案外大物なのかもしれない。いつぞやのブタとは大違いである。
そして先生達も追いついてきていた。
何があったのかをウィルから聞いた。
要約するとこうだ。
ウィル達は五日前、士郎達と同じ山道に入り五合目の少し上辺りで、突然、十体のブルタールと遭遇したらしい。流石に、その数のブルタールと遭遇戦は勘弁だと、ウィル達は撤退に移ったらしいのだが、襲い来るブルタールを捌いているうちに数がどんどん増えていき、気がつけば六合目の例の川にいた。そこで、ブルタールの群れに囲まれ、包囲網を脱出するために、盾役と軽戦士の二人が犠牲になったのだという。それから、追い立てられながら大きな川に出たところで、前方に絶望が現れた。
漆黒の竜だったらしい、その黒竜は、ウィル達が川沿いに出てくるや否や、特大のブレスを吐き、その攻撃でウィルは吹き飛ばされ川に転落、流されながら見た限りでは、そのブレスで一人が跡形もなく消え去り、残り二人も後門のブルタール、前門の竜に挟撃されていたという。
ウィルは、流されるまま滝壺に落ち、偶然見つけた洞窟に進み空洞に身を隠していたらしい。
ウィルは、話している内に、感情が高ぶったようですすり泣きを始めた。無理を言って同行したのに、冒険者のノウハウを嫌な顔一つせず教えてくれた面倒見のいい先輩冒険者達、そんな彼等の安否を確認することもせず、恐怖に震えてただ助けが来るのを待つことしか出来なかった情けない自分、救助が来たことで仲間が死んだのに安堵している最低な自分、様々な思いが駆け巡り涙となって溢れ出す。
「わ、わだじはさいでいだ。うぅ、みんなじんでしまったのに、何のやぐにもただない、ひっく、わたじだけ生き残っで……それを、ぐす……よろごんでる……わたじはっ!」
洞窟の中にウィルの慟哭が木霊する。誰も何も言えなかった。顔をぐしゃぐしゃにして、自分を責めるウィルに、どう声をかければいいのか見当がつかなかった。生徒達は悲痛そうな表情でウィルを見つめ、愛子はウィルの背中を優しくさする。ユエは何時もの無表情、シアは困ったような表情だ。
が、ウィルが言葉に詰まった瞬間、意外な人物が動いた。ヴェアベルトだ。ヴェアベルトはツカツカとウィルに歩み寄ると、肩に手を置きウィルの目を見て口を開く。
「生きていることの何が悪いのだ。生きてさえいれば、出来ることは沢山ある。今喜ぶことは人として正しいのだ」
「だ、だが……私は……」
「もし死んだ者が気になるのなら、生き続けるのだ。死んだ者の事を忘れるな……その者達の分まで生きろ。いつか生きていてよかったと思える度に、自分の身を守ってくれた者へ感謝するのだ」
「……生き続けて、感謝する」
涙を流しながらも、ヴェアベルトの言葉を呆然と繰り返すウィル。彼もまた戦争で友を仲間を失った。そんな彼だからこそ、声をかけずにはいられなかったのだ。
「ヴェアベルトさん……」
一行が下山しようとした時、何処からか何かの低い唸り声が聞こえて来た。
洞窟の外には、漆黒の鱗を全身に覆い、金色の瞳を持ち、翼をはためかせて空中に浮かぶ姿があった。