ありふれない天の鎖の投影魔術師は世界最強   作:小説大工の源三

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ちょっと作中時間が飛んでるので捕捉説明
恵里の機転でなんとか魔人族の襲撃から難を逃れて隠れている。


オルクス迷宮危機一髪

迷宮side

 

「……知らない天井だぁ」

 

「生きてるみたいだね鈴……」

 

「恵里も生きてて良かったよ……」

 

2人は互いの身を安じるも、ボロボロなのは変わりなかった。

 

「……いや〜結界が割れるのは想定外だったね〜」

 

「まぁ鈴のおかげで生きてるけどね」

 

いつも会話するように話すが互いの顔には疲労が現れていた。相当な魔力を消費した為、顔は青白く、目元にはクマが出来ていた。

 

「えっへん、もっと鈴に感謝したまえ……!」

 

「はいはい、ありがとう鈴」

 

2人で話していると後ろから天之河と坂上が心配するように声をかけて来た。

 

「鈴、目を覚ましてよかった。心配したんだぞ?」

 

「よぉ、大丈夫かよ。顔、真っ青だぜ?」

 

「そっちこそ大丈夫なのかい?若干肩で息してるけど」

 

「まぁこれくらい気合でなんとかするさ」

 

天之河は限界突破の反動でフラフラだ。そして天之河より耐久のある坂上がボロボロになっている。それが魔人族の攻撃がかなりのものだとわかる。

 

「あれ?1人足りないんだが?」

 

「遠藤くんでしょ?僕が先に逃した」

 

「はあ!?なんであいつだけ逃した!」

 

すると後ろから怒鳴り声が響く。

檜山だ。遠藤だけ逃したのが腹立たしいのか恵里に詰め寄る。

 

「遠藤くんは目立たないから先に逃げて貰って、助けを呼びに行って貰った。最善策だよ」

 

「あいつ1人で逃げれるわけねぇだろうが!何が最善策だ!」

 

「それじゃあ君は遠藤くんを訓練で見つけられた事があるの?この中でも誰かいるの?いないから任せたんだよ」

 

恵里の言う通り、訓練で遠藤を見つけることが出来た者はいない。

だからこそ彼に任せたのだ。

 

「それに騒ぐ元気があるなら囮にでもなってよ……」

 

「んだと!?」

 

売り言葉に買い言葉だ。檜山は先に逃した遠藤とそれを指示した恵里に対して苛立ち、恵里は撤収しようと提案したのに、調子に乗って却下したこと、士郎達を落とす原因になった存在である檜山に恨みしかなかった。更に言うなら無責任な発言をした天之河にも嫌悪感を抱いている。

足音がこちらに近づいて来る。全員それに気づき、声を潜める。足音は通り過ぎていった。

しかし恵里は何故か自身の警報が鳴り止まない。

 

「鈴、結界!」

 

「っ!わかった!『聖絶』!」

 

指示通り鈴は結界を張る。それと同時に衝撃が走り壁が破壊される。壁の残骸が弾丸となって襲いかかるも、張られた結界によって防がれる。

 

「戦闘態勢!」

 

「なんで見つかったんだ!」

 

突如襲いかかる魔物に天之河が聖剣で斬りかかる。龍太郎は弾丸の様に襲いかかるブルタールモドキの鳩尾を殴りつけ吹き飛ばす。

猫型の魔物が襲いかかるも鈴の結界に阻まれ後衛職に襲いかかることは出来ない。檜山達が結界に阻まれた魔物を斬り殺す。

だが、あまりの魔物の多さに前衛職が対応しきれなくなる。

 

「天之河!限界突破使って魔人族を討って!早く!」

 

「だが……「だがもクソもない!早く!」わ、わかった!『限界突破』!」

 

本日2度目の限界突破を使い、魔人族に斬りかかる。

しかし、ブルタールモドキに首根っこを掴まれたメルドが天之河の視界に現れる。

 

「メ、メルドさん……お前!メルドさんを離せ!」

 

攻撃を中断してしまい、動きが止まる。その隙を別のブルタールモドキが殴りかかる。咄嗟に左腕で防ぐも受け止めきれずに、壁に吹き飛ぶ。

 

「ガハッ!」

 

四つん這いに倒れた天之河に休ませる隙を与えずに攻撃が続く。

 

「ぐぅう!何、こいつの強さは!俺は『限界突破』を使っているのに!」

 

しばらく攻防を続けていたのだが、突然力ががくりと抜ける。

限界突破の効果が切れてしまった。

そのまま天之河は再び殴り飛ばされてしまった。

死にはしなかった……いや、殺さないよう手加減されたようだ。

しばらくして、恵里達が魔人族の前に警戒心たっぷり持って現れた。

天之河は馬頭の魔物にメルドと同じように掴まれた状態だった。

 

「うそ、だろ……」

 

「光輝が負けた……?」

 

数人が戦意を喪失している。

 

「ふん、こんな単純な手に引っかかるとはね。色々と……舐めてるガキだと思ったけど、その通りだったようだ」

 

恵里が、警戒した表情で、声に力を乗せながら魔人族の女に問いかける。

 

「……何をしたの?」

 

「ん?これだよ、これ」

 

そう言って、魔人族の女は、未だにブルタールモドキに掴まれているメルド団長へ視線を向ける。その視線をたどり、瀕死のメルドを見た瞬間、恵里は理解した。メルドは、天之河の気を逸らすために使われたのだと。知り合いが、瀕死で捕まっていれば、天之河は必ず反応するだろう。それも、かなり冷静さを失って。

おそらく隠れる前の戦いで光輝の直情的な性格を魔人族の女は把握したのだ。そして、キメラの固有能力でも使って、温存していた強力な魔物を潜ませて、天之河が激昂して飛びかかる瞬間を狙ったのだろう。

 

「……それで?僕達に何を望んでいるんだい?わざわざ生かして、こんな会話にまで応じている以上、何かあるんだろう?」

 

「ああ、やっぱり、あんたが一番状況判断出来るようだね。なに、特別な話じゃない。前回のあんた達を見て、もう一度だけ勧誘しておこうかと思ってね。ほら、前回は?勇者君が勝手に全部決めていただろう?中々、あんたらの中にも優秀な者はいるようだし、だから改めてもう一度ね。で?どうだい?」

 

魔人族の女の言葉に何人かが反応する。それを尻目に、恵里は、臆すことなく再度疑問をぶつけた。

 

「勇者は殺して僕達だけ魔人族国に連れて行くつもり?」

 

「ふふ、聡いね……悪いが、勇者君は生かしておけない。こちら側に来るとは思えないし、説得も無理だろう?彼は、自己完結するタイプだろうからね。なら、こんな危険人物、生かしておく理由はない」

 

「……そうだね。そいつには色々迷惑かけられたからね。でもそれは、僕達も一緒だろう?」

 

「もちろん。後顧の憂いになるってわかっているのに生かしておくわけないだろう?」

 

「今だけ迎合して、後で裏切るとは思わないのかな?」

 

「それも、もちろん思っている。だから、首輪くらいは付けさせてもらうさ。ああ、安心していい。反逆できないようにするだけで、自律性まで奪うものじゃないから」

 

「自由度の高い、奴隷ってところか。自由意思は認められるけど、裏切ることは出来ないっていう」

 

「そうそう。理解が早くて助かるね。そして、勇者君と違って会話が成立するのがいい」

 

「そいつと同じにされるのはごめんだよ」

 

恵里は情報を聞き出しつつ策を練ろうとしていた。しかし、あまりの状況に浮かぶものも浮かばない。

 

(参ったね……どう足掻いても死。せめて鈴達を逃がせればいいけど……)

 

すると後ろから諦めた声が上がる。

 

「俺は乗るぜ」

 

「んな、檜山テメェ!」

 

諦めた檜山に坂上は掴みかかる。

 

「坂上よぉ、もう俺たちは終わりなんだよ。ここで天之河と心中するより、生き残る為に従う方が安全だろ?」

 

檜山が魔人族側につこうとしてることがわかり、魔人族の女はニヤリと笑みを浮かべる。しかし呻き声か聞こえてくる。

 

「み、みんな……ダメだ……従うな……」

 

「光輝!」

 

「光輝くん!」

 

「天之河!」

 

声の主は、宙吊りにされている天之河だった。仲間達の目が一斉に、天之河の方を向く。

 

「……騙されてる……アランさん達を……殺したんだぞ……信用……するな……人間と戦わされる……奴隷にされるぞ……逃げるんだ……俺はいい……から……一人でも多く……逃げ……」

 

そして次いで呻き声がもう一つ聞こえた。

 

「ぐっ……お前達……お前達は生き残る事だけ考えろ!……信じた通りに進め!……私達の戦争に……巻き込んで済まなかった……お前達と過ごす時間が長くなるほど……後悔が深くなった……だから、生きて故郷に帰れ……人間のことは気にするな……最初から…これは私達の戦争だったのだ!」

 

メルドはその言葉を最後に、とあるものを発動させる。

メルドが全身から光を放ちながらブルタールモドキを振り払い、一気に踏み込んで魔人族の女に組み付いたのは同時だった。

 

「魔人族……一緒に逝ってもらうぞ!」

 

「……それは……へぇ、自爆かい?潔いね。嫌いじゃないよ、そう言うの」

 

「抜かせ!」

 

メルドを包む光、一見、天之河の限界突破のように体から魔力が噴き出しているようにも見えるが、正確には体からではなく、首から下げた宝石のようなものから噴き出しているようだった。

それを見た魔人族の女が、知識にあったのか一瞬で正体を看破し、メルドの行動をいっそ小気味よいと称賛する。

その宝石は、名を『最後の忠誠』といい、魔人族の女が言った通り自爆用の魔道具だ。国や聖教教会の上層の地位にいるものは、当然、それだけ重要な情報も持っている。闇系魔法の中には、ある程度の記憶を読み取るものがあるので、特に、そのような高い地位にあるものが前線に出る場合は、強制的に持たされるのだ。いざという時は、記憶を読み取られないように、敵を巻き込んで自爆しろという意図で。

メルドの、まさに身命を賭した最後の攻撃に、天之河達は悲鳴じみた声音でメルドの名を呼ぶ。しかし、天之河達に反して、自爆に巻き込まれて死ぬかもしれないというのに、魔人族の女は一切余裕を失っていなかった。

そして、メルドの持つ『最後の忠誠』が一層輝きを増し、まさに発動するという直前に、一言呟いた。

 

「喰らい尽くせ、アブソド」

 

と、魔人族の女の声が響いた直後、臨界状態だった『最後の忠誠』から溢れ出していた光が猛烈な勢いでその輝きを失っていく。

 

「なっ!?何が!」

 

よく見れば、溢れ出す光はとある方向に次々と流れ込んでいるようだった。メルドが、必死に魔人族の女に組み付きながら視線だけをその方向にやると、そこには六本足の亀型の魔物がいて、大口を開けながらメルドを包む光を片っ端から吸い込んでいた。

メルドを包む最後の忠誠の輝きが急速に失われ、遂に、ただの宝石となり果てた。最後のあがきを予想外の方法で阻止され呆然とするメルドに、突如、衝撃が襲う。それほど強くない衝撃だ。何だ?とメルドは衝撃が走った場所、自分の腹部を見下ろす。

そこには、赤茶色でザラザラした見た目の刃が生えていた。正確には、メルドの腹部から背中にかけて砂塵で出来た刃が貫いているのだ。背から飛び出している刃にはべっとりと血が付いていて先端からはその雫も滴り落ちている。

 

「……メルドさん!」

 

天之河が、血反吐を吐きながらも気にした素振りも見せず大声でメルドの名を呼ぶ。メルドが、その声に反応して、自分の腹部から光輝に目を転じ、眉を八の字にすると「すまない」と口だけを動かして悔しげな笑みを浮かべた。

直後、砂塵の刃が横薙ぎに振るわれ、メルドが吹き飛ぶ。人形のように力を失ってドシャア!と地面に叩きつけられた。少しずつ血溜りが広がっていく。誰が見ても、致命傷だった。満身創痍の状態で、あれだけ動けただけでも驚異的であったのだが、今度こそ完全に終わりだと誰にでも理解できた。

 

「まさか、あの傷で立ち上がって組み付かれるとは思わなかった。流石は、王国の騎士団長。称賛に値するね。だが、今度こそ終わり……これが一つの末路だよ。あんたらはどうする?」

 

魔人族の女が、赤く染まった砂塵の刃を軽く振りながら光輝達を睥睨する。再び、目の前で近しい人が死ぬ光景を見て、一部の者を除いて、皆が身を震わせた。魔人族の女の提案に乗らなければ、次は自分がああなるのだと嫌でも理解させられる。

檜山が、代表して提案を呑もうと魔人族の女に声を発しかけた。が、その時、

 

「……るな」

 

未だ、馬頭に宙吊りにされながら力なく脱力する天之河が、小さな声で何かを呟く。満身創痍で何の驚異にもならないはずなのに、何故か無視できない圧力を感じ、檜山は言葉を呑み込んだ。

 

「は?何だって?死にぞこない」

 

魔人族の女も、天之河の呟きに気がついたようで、どうせまた喚くだけだろうと鼻で笑いながら問い返した。天之河は、俯かせていた顔を上げ、真っ直ぐに魔人族の女をその眼光で射抜く。

突如、天之河の瞳が白銀色に光りだした。

得体の知れないプレッシャーに思わず後退りながら、本能が鳴らす警鐘に従って、馬頭に命令を下す。恵里達の取り込みに対する有利不利など、気にしている場合ではないと本能で悟ったのだ。

 

「アハトド!殺れ!」

「ルゥオオオ!!」

 

馬頭、改めアハトドは、魔人族の女の命令を忠実に実行し、魔衝波を発動させた拳二本で宙吊りにしている光輝を両サイドから押しつぶそうとした。

が、その瞬間、

 

カッ!!

 

天之河から凄まじい光が溢れ出し、それが奔流となって天井へと竜巻のごとく巻き上がった。そして、天之河が自分を掴むアハトドの腕に右手の拳を振るうと、ベギャ!という音を響かせて、いとも簡単に粉砕してしまった。

 

「ルゥオオオ!!」

 

先程とは異なる絶叫を上げ、思わず光輝を取り落とすアハトドに、天之河は負傷を感じさせない動きで回し蹴りを叩き込む。

 

ズドォン!!

 

そんな大砲のような衝撃音を響かせて直撃した蹴りは、アハトドの巨体をくの字に折り曲げて、後方の壁へと途轍もない勢いで吹き飛ばした。轟音と共に壁を粉砕しながらめり込んだアハトドは、衝撃で体が上手く動かないのか、必死に壁から抜け出ようとするが僅かに身動ぎすることしか出来ない。

天之河は、ゆらりと体を揺らして、取り落としていた聖剣を拾い上げると、射殺さんばかりの眼光で魔人族の女を睨みつけた。同時に、竜巻のごとく巻き上がっていた光の奔流が天之河の体へと収束し始める。

限界突破の終の派生、覇潰だ。通常は3倍のステータス上昇だが、覇潰は5倍の上昇になる。それと同時に反動への時間も短く重い。

そんなことも考えず天之河は怒り任せに、攻撃を続ける。

 

「お前ー!よくもメルドさんを!!」

 

「チィ!」

 

大上段に振りかぶった聖剣を天之河は躊躇いなく振り下ろす。魔人族の女は舌打ちしながら、咄嗟に、砂塵の密度を高めて盾にするが……光の奔流を纏った聖剣はたやすく砂塵の盾を切り裂き、その奥にいる魔人族の女を袈裟斬りにした。

砂塵の盾を作りながら後ろに下がっていたのが幸いして、両断されることこそなかったが、魔人族の女の体は深々と斜めに切り裂かれて、血飛沫を撒き散らしながら後方へと吹き飛んだ。

背後の壁に背中から激突し、砕けた壁を背にズルズルと崩れ落ちた魔人族の女の下へ、天之河が聖剣を振り払いながら歩み寄る。

 

「まいったね……あの状況で逆転なんて……まるで、三文芝居でも見てる気分だ」

 

ピンチになれば隠された力が覚醒して逆転するというテンプレな展開に、魔人族の女が諦観を漂わせた瞳で迫り来る光輝を見つめながら、皮肉気に口元を歪めた。

傍にいる白鴉が固有魔法を発動するが、傷は深く直ぐには治らないし、天之河もそんな暇は与えないだろう。完全にチェックメイトだと、魔人族の女は激痛を堪えながら、右手を伸ばし、懐からロケットペンダントを取り出した。

それを見た天之河が、まさかメルドと同じく自爆でもする気かと表情を険しくして、一気に踏み込んだ。魔人族の女だけが死ぬならともかく、その自爆が仲間をも巻き込まないとは限らない。発動する前に倒す!と止めの一撃を振りかぶった。

だが……

 

「ごめん……先に逝く……愛してるよ、ミハイル……」

 

愛しそうな表情で、手に持つロケットペンダントを見つめながら、そんな呟きを漏らす魔人族の女に、天之河は思わず聖剣を止めてしまった。覚悟した衝撃が訪れないことに訝しそうに顔を上げて、自分の頭上数ミリの場所で停止している聖剣に気がつく魔人族の女。

天之河の表情は愕然としており、目をこれでもかと見開いて魔人族の女を見下ろしている。その瞳には、何かに気がつき、それに対する恐怖と躊躇いが生まれていた。その光輝の瞳を見た魔人族の女は、何が光輝の剣を止めたのかを正確に悟り、侮蔑の眼差しを返した。その眼差しに光輝は更に動揺する。

 

「……呆れたね……まさか、今になってようやく気がついたのかい?『人』を殺そうとしていることに」

 

「ッ!?」

 

そう、天之河にとって、魔人族とはイシュタルに教えられた通り、残忍で卑劣な知恵の回る魔物の上位版、あるいは魔物が進化した存在くらいの認識だったのだ。実際、魔物と共にあり、魔物を使役していることが、その認識に拍車をかけた。

 

(あの馬鹿今になって気づいて怖気付いたのか!)

 

恵里は天之河が『人を殺す』ことを今の今まで知って戦っていなかったことに驚き、悪態を心の中で吐く。

 

「まさか、あたし達を『人』とすら認めていなかったとは……随分と傲慢なことだね」

 

「ち、ちが……俺は、知らなくて……」

 

「ハッ、『知ろうとしなかった』の間違いだろ?」

 

「お、俺は……」

 

「ほら?どうした?所詮は戦いですらなく唯の『狩り』なのだろ?目の前に死に体の一匹がいるぞ?さっさと狩ったらどうだい?おまえが今までそうしてきたように……」

 

「……は、話し合おう……は、話せばきっと……」

 

天之河が、聖剣を下げてそんな事をいう。そんな天之河に、魔人族の女は心底軽蔑したような目を向けて、返事の代わりに大声で命令を下した。

 

「アハトド!扇を持った女の近くにいる杖の女を狙え!そいつが一番厄介だ!」

 

衝撃から回復していたアハトドが魔人族の女の命令に従って、猛烈な勢いで恵里に迫る。

パーティーの中で隠れて指示を出していたこと、主要パーティーの中で体力などがまだ残っていたのがバレていたようだ。その頭脳が厄介だと見られて、真っ先に狙われた。

 

「な、どうして!」

 

「自覚のない坊ちゃんだ……私達は『戦争』をしてるんだよ!未熟な精神に巨大な力、あんたは危険過ぎる!何が何でもここで死んでもらう!ほら、お仲間を助けに行かないと、全滅するよ!」

 

自分の提案を無視した魔人族の女に天之河が叫ぶが当の魔人族の女は取り合わない。

アハトドは、唯でさえ強力な魔物達ですら及ばない一線を画した化け物だ。不意打ちを受けて負傷していたとは言え限界突破発動中の天之河が圧倒された相手なのである。

 

「あんまりこれはやりたくなかったんだけどなぁ……鈴!坂上くん!ちょっとでいいから時間を稼いで!」

 

「わかったよ!」

 

「任せろ!」

 

2人の気合いの入った掛け声を信じて恵里は詠唱を始める。

 

「英雄よ、数多の戦で散り、志半ばで息絶えた英雄よ、我が身体にその歴史を纏わせ給え、一つになり給え……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『憑依英雄譚』」

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