ありふれない天の鎖の投影魔術師は世界最強   作:小説大工の源三

49 / 125
僕のヒーロー

 

 

 

「ただいま……遅くなってごめん。そして……地獄から救いに来たよ」

 

士郎は振り返りながらそう言った。

その紫色の瞳は恵里を確かに安心させた。

 

「えっ?オニーサン!?えっ!?」

 

「あはは、まぁこんな見た目になってるからそんな反応になるよね」

 

更に上からハジメ達も降りてくる。

 

「天野先輩……!余波で吹っ飛ばされたんですけど!」

 

「「浩介!」」

 

「重吾!健太郎!助けを呼んできたぞ!」

 

「助けを呼んできた」その言葉に反応して、天之河達も魔人族の女もようやく我を取り戻した。そして、改めて士郎達を見る。

 

「香織とユエは彼処の連中を、シアは倒れている騎士の男を」

 

「「「了解(ですぅ)!」」」

 

「そこの魔人族、死にたくないなら帰ることをお勧めするよ」

 

左手に握る干将を魔人族の女に突きつける。

 

「なんだって?この状況を見てわからないのかい?」

 

「わかってるから言ってるんだけど?戦場での

判断はお早めに」

 

「殺れ」

 

前からアハトドが襲いかかるが士郎はそれを気にせず、右手に握る莫耶で何も無い空間を切りつける。するとそこから血がダラダラ垂れ出てくる。

そしてライオン顔のキメラが現れ、それは息絶えていた。

 

「不意打ちは辞めた方がいいよ?どこに居ようと見つけられるからね」

 

「くっ……」

 

そして士郎達は魔物を蹴散らしにかかる。

ハジメはその手に持つドンナー&シュラークで脳天を打ち抜き、雫と士郎は刀で切りかかり、ヴェアベルトは氷魔法で殺す。

あっという間にほとんどの魔物が士郎達の手によって殺されていく。

 

「何なんだ……彼等は一体、何者なんだ!?」

 

天之河が動かない体を横たわらせながら、そんな事を呟く。今、周りにいる全員が思っていることだった。その答えをもたらしたのは、先に恵里が逃がし、自らの意志で戻ってきた仲間、遠藤だった。

 

「はは、信じられないだろうけど……あの人は先輩、天野先輩だよ」

 

「「「「「「は?」」」」」」

 

遠藤の言葉に、天之河達が一斉に間の抜けた声を出す。遠藤を見て「頭大丈夫か、こいつ?」と思っているのが手に取るようにわかる。遠藤は、無理もないなぁ~と思いながらも、事実なんだから仕方ないと肩を竦めた。

 

「だから、天野先輩だよ。銃ぶっ放してるのは南雲だ。あの日、橋から落ちた人達だ。迷宮の底で生き延びて、自力で這い上がってきたらしいぜ。ここに来るまでも、迷宮の魔物が完全に雑魚扱いだった。マジ有り得ねぇ!って俺も思うけど……事実だよ」

 

「天野先輩って、え?天野先輩が生きていたのか!?」

 

「ああ、ちゃんとステータスプレートも見せて貰ったし」

 

周りはどこをどうみたらその人なんだと思うのだが、ただ1人だけ慌てている男がいた。

 

「う、嘘だ……あいつらは全員死んだんだ!そうだろ?みんな見てたじゃんか。生きてるわけない!適当なこと言ってんじゃねぇよ!」

 

「うわっ、なんだよ!ステータスプレートも見たし、本人が認めてんだから間違いないだろ!」

 

「うそだ!何か細工でもしたんだろ!それか、なりすまして何か企んでるんだ!」

 

「いや、何言ってんだよ?そんなことする意味、何にもないじゃないか」

 

遠藤の胸ぐらを掴んで無茶苦茶なことを言うのは檜山だ。顔を青ざめさせ尋常ではない様子で士郎達の生存を否定する。周りにいる近藤達も檜山の様子に何事かと若干引いてしまっているようだ。

そんな錯乱気味の檜山に、比喩ではなくそのままの意味で冷水が浴びせかけられた。檜山の頭上に突如発生した大量の水が小規模な滝となって降り注いだのだ。呼吸のタイミングが悪かったようで若干溺れかける檜山。水浸しになりながらゲホッゲホッと咳き込む。混乱する檜山に、冷水以上に冷ややかな声がかけられる。

 

「……大人しくして。鬱陶しいから」

 

その物言いに再び激高しそうになった檜山だったが、声のする方へ視線を向けた途端、思わず言葉を呑み込んだ。なぜなら、その声の主、ユエの檜山を見る眼差しが、まるで虫けらでも見るかのような余りに冷たいものだったからだ。

 

ドパンッ!

 

さらに香織の銃撃が檜山の顔のすぐ横を通る。

 

「黙っててくれないかな?かな?私ハジメくんみたいに百発百中じゃないから、次は当たっちゃうよ?」

 

「か、香織……?」

 

天之河は香織が容赦なく人に発泡するとは思わなかったからだ。

すると天之河達に魔物が襲いかかる。

 

ドパンッ!

 

「『蒼炎』」

 

しかしそれは香織の銃撃とユエの魔法によりあっけなく殺される。

また、恵里と鈴を狙ってキメラや黒猫が襲いかかった。しかしそれも士郎の投げた干将・莫耶によって切り裂かれ、壊れた幻想で爆殺される。

 

「ホントになんなのさ……」

 

力なく、そんなことを呟いたのは魔人族の女だ。何をしようとも全てを力でねじ伏せられ粉砕される。そんな理不尽に、諦観の念が胸中を侵食していく。もはや、魔物の数もほとんど残っておらず、誰の目から見ても勝敗は明らかだ。

魔人族の女は、最後の望み!と逃走のために温存しておいた魔法を手頃な位置にいる士郎に放つ。

 

「地の底に眠りし金眼の蜥蜴、大地に眠りし魔眼の主、宿るは暗闇見通し射抜く呪い「ああ、石化魔法なら意味ないよ」っな!」

 

士郎は詠唱の途中でどんな魔法か判別し、魔法の中止を促す。

魔人族に女は石化魔法を撃つことが察知されたことに驚き、詠唱を止めてしまった。

そしてコツコツと近づき、首筋に干将を当てる。

 

「チェックメイト……終わりだよ」

 

「既に詰みだったか……」

 

「その通りさ。殺す前に一つ二つ聞くことがある。この迷宮に来た目的は?」

 

「見ればわかるだろう?勇者一味を殺そうとしたんだよ。最初は勧誘したけど勇者が想像より厄介で、予定変更したのさ」

 

「まだ……いやそれが目的じゃないよね」

 

「……何が言いたい」

 

「勧誘するならもっと安全な場所で行う。それにこの魔物迷宮攻略の為に連れて来たのは火を見るよりも明らかだ」

 

士郎はある男がこちらに歩いて来て、隣に立ったことを確認すると、一度左足で音をコツコツと鳴らす。すると地面から鎖が生えてきて、魔人族の女と肩に乗っている白鳩を捕縛し、地面を天井にまでせり上がらせ天之河達から見えなくなる。

 

「さて、ここからは交渉タイムだ。じゃよろしく」

 

「ああ、任された」

 

士郎は一歩下り、次いで現れた男に相手をまかせる。

 

「久しぶりだな、カトレア」

 

「何故人間族の貴様があたしの名前を!」

 

「……そうだった、今、姿を戻す」

 

人差し指と中指を顳顬に当て、魔力を流し込む。するとベージュの肌が魔人族特有の褐色肌に変色していく。

 

「あ、貴方は……ヴ、ヴェアベルト隊長!?」

 

「私のことを覚えていてくれていたか」

 

「何故貴方が人間族と行動を……」

 

「それには色々と訳があってだな。聞いてくれるか?」

 

「あ、はい……」

 

ヴェアベルトはこれまでの経緯を話す。

 

「そんな事があったなんて……」

 

「信じてくれるのか?」

 

「はい、もちろん。貴方様が嘘を吐くような人ではないことはわかっていますから……」

 

「よかった……そうだな……」

 

ヴェアベルトはゴソゴソと胸ポケットの中を探る。そして取り出したのは一枚の紙切れだった。

その紙切れには何か特殊な紋章が手書きで書かれていた。

 

「ヴェアベルトそれは?」

 

「これは魂の紙切れ、変成魔法で作ったアーティファクトだ。これがあれば私の部下達が隠れている場所がわかる」

 

(○ンピースの命の○みたいだな……)

 

その紙切れをカトレアに手渡す。

 

「ミハイルにも伝えておいてくれ……後の問題というと、このままカトレアが帰るとなんの成果も得られず、どんな処罰を受けるか……」

 

魔人族は軍隊思想で成果を得られないのなら切り捨てられる可能性がないわけではない。

いくらヴェアベルトの部下の元に行くとはいえ、荷物をまとめる時間すら与えられない可能性もある。

 

「よし、私が生きていることをフリードの奴に報告すれば良い。そうすれば奴は私を捜索するだろう」

 

「いいのですか?ヴェアベルト隊長の身に危険が……」

 

「それしかないだろう。士郎殿ここからは……」

 

「別行動取るって?別に魔人族に襲われるのは問題ないからこのまま同行していいよ。どうせ世界を相手にするつもりだし、いつか魔人族と戦うことになるだろうからさ」

 

「すまない。我々魔人族の為に」

 

「いいよ、共通の敵がいるんだし。それとカトレアさんはとりあえずこの場で殺したことにしないといけないから、銃声を響かせるからその間に撤退してて」

 

「ああ、感謝するよ」

 

そう言ってカトレアは白鳩を連れて国に帰投した。

 

「んじゃまぁ適当に銃を投影してっと」

 

ドパンッ!

 

大きな銃声を響かせ、地面からせり上がらせた壁を元に戻す。

 

「士郎さん!」

 

「シア、騎士の男は大丈夫?」

 

「はい、渡された神水を使って治しました」

 

「よかった……メルド団長の代わりに変な教育係か就いたら大変だからね」

 

士郎はメルドが生きていることに安堵した。

 

「天野先輩、あの魔人族は?」

 

いつの間にか回復している天之河は魔人族がいない事を質問する。

 

「殺したよ」

 

「な、なんでだ……なんで殺す必要があったんだ……」

 

天之河はその事実(嘘)に愕然とする。

すると士郎の後ろから勢いよく抱きつく少女がいた。

 

「お兄ちゃん……色々聞きたいことはあるけど……ありがとう、僕達を助けてくれて!」

 

「ボクは君を守るって決めたからね。助けに行くよ。たとえ地獄だろうと」

 

そう言って士郎は恵里を抱きしめ返すのだった。2人の感動の再会に周りの人は何も言わなかった……とある人物を除いては。

 

「恵里、天野先輩から離れるんだ。何故殺したか聞く必要がある」

 

この場にいる殆どの人が天之河を非難するような目をした。

そんなことも梅雨知らずの天之河は士郎を問い詰めようとする。

 

「普通に嫌だけど。ていうかさ、なんで天之河はお兄ちゃんのこと睨んでるのさ。助けてもらったのに」

 

「そもそも恵里が引こうって言ったのに、自分がなんとかするって言って、やられて鈴達が死にかけた所をオニーサンに助けられたのに睨むのおかしいよ」

 

「それは感謝してるさ。だが殺す必要はなかった筈だ。つまり天野先輩は許される訳はない。王国に戻って話をするんだ」

 

全く感謝している様子のない天之河。恵里や鈴に言われた事も聞こえていないようだ。頭の中には士郎を問い詰めることしかない。

しかしそこでユエが割り込む。

 

「……くだらない男。士郎、ハジメ、香織、行こう?」

 

「そうだね。話を聞く気のない人と話しても無意味だし」

 

ユエが絶対零度ばりの冷たい声音で言い放ち、その場を去ろうとする。正しいはずの自分の言葉を無視する彼等に天之河が苛立ちを隠さず待ったをかける。

 

「待ってくれ。こっちの話は終わっていない。二人の本音を聞かないと仲間として認められない。それに、君は誰なんだ?助けてくれた事には感謝するけど、初対面の相手にくだらないんて……失礼だろ?一体、何がくだらないって言うんだい?」

 

 

またズレた発言をする。言っている事自体はいつも通り正しいのだが、状況と照らし合わせると、「自分の胸に手を置いて考えろ」と言いたくなる有様だ。ここまでくれば、何かに呪われていると言われても不思議ではない。

ユエは何言っても理解しないだろうと天之河に見切りをつけていた。会話する価値すらないと思っているようで視線すら合わせない。天之河は、そんなユエの態度に少し苛立ったように眉をしかめるが、直ぐに、いつも女の子にしているように優しげな微笑みを携えて再度、ユエに話しかけようとした。

 

「あのねぇボクは君の仲間じゃない。ボクがここに来たのは、恵里を助けに来たそれだけ。遠藤くんが命がけでホルアドまで突っ走って、ギルドで助けを求めて偶々ボク達がいたそれだけだよ」

 

「な、仲間じゃない……なんでそんなこと言うんだ!」

 

天之河の語気が強まる。

 

「なんでって……地球にいた時にハジメのこと、悪く言っててそれを謝らない。挙句の果てには檜山達が特訓とか言いながらハジメをリンチしようとした時も、君は檜山を庇った。ボクとしてはハジメを悪く言う人を仲間とは認めないね」

 

「な、なんで認めない理由になるんだ!俺は南雲が不真面目だから注意しただけだ!」

 

「色々酷かったけどね……なんだっけ?「不真面目だ、直せ」。別にハジメは校則を破った訳でもないよ?そもそも注意するのは檜山でしょ。一年の頃、ハジメをそこの取り巻き3人も一緒にリンチしようとしてたし」

 

一年の頃、ハジメは一度檜山達にリンチされかけたことがある。理由としてはハジメが香織と話しているのが気に食わなかったという、幼稚なことだった。されかけたと言うのは、士郎が本格的になる前に防いだからである。

その時、遅れて天之河が来て檜山が縋りつき、「何もしてないのに、士郎に投げられた」と言い、それを鵜呑みにした天之河が士郎を悪者だと決めつけた。

その後は愛子や士郎のクラスメイトが士郎の無罪を主張、更に恵里が証拠を持ってきたので、檜山達が逆に怒られることとなった。

 

「ぐっ……「よせ光輝」メルドさん」

 

メルドは天之河の言葉を遮る。

 

「お前達……………すまなかった………!!それから、お前達が生きていたことを本当に嬉しく思う」

 

メルド団長は土下座する勢いで頭を下げた。

 

「メ、メルドさん!?どうして、メルドさんが頭を下げるんだ?」

 

「当たり前だ…………俺はお前達の教育係……………『戦争』をする上で『敵を殺す』ことは避けて通れない問題だ…………本当ならもっと早く盗賊などをけしかけてお前達に『殺す覚悟』を教えるはずだった……………だが、お前達はこの世界とは関係の無い人間だ。俺達の世界の都合でそのような事を教えていいのかとずっと悩んでいて、自分に言い訳をしながら先延ばしにしてしまった………それが今回の結果だ。これは俺のミスだ。本当にすまなかった」

 

メルドもどうやら天之河達の扱いについて悩んでいたらしい。

騎士団長である自分と、メルド自身との間で葛藤していたようだ。

そうこうしている内に迷宮の外に出ることが出来た。そこで待っていたのは、

 

 

「「パパぁー!お帰りー!」」

 

と呼ぶ幼女2人だった。

 

「リーニャ?幸利達は?」

 

ステテテ〜と士郎の所に駆け寄るリーニャに質問する。

 

「幸利お兄ちゃんなら、そろそろパパ帰ってくるって言ったから迎えにきたの。幸利お兄ちゃん達は……」

 

「俺達ならここだ」

 

「幸利、リーニャ達のお守りありがとう」

 

「これくらいどうってことねーよ。ただな、2人に手ェ出そうとした馬鹿はいたからな……骨抜きにしてやったわ」

 

「何処にいるの?」

 

「そこで恍惚な表情浮かべて倒れてる」

 

幸利が後ろを指すので、そこを見ると、冒険者達が幸せそうな顔をして横たわっていた。

 

「料理食べさせたのね……幸利」

 

「おう、武力行使も良かったが久々に料理を大勢に振るいたかったからな」

 

─────────────────────────

 

幸利達side

 

「「清水幸利&園部優花のお料理コーナー!!」」

 

「今回作っていくのは、大人数で食べるのにもってこいの唐揚げよ!」

 

「用意するのは、ククルー鳥と片栗粉、小麦粉、酒などの調味料と卵、揚油だ」

 

「ククルー鳥を一口大に切り分けて、調味料に漬け込んで、揉み込む。今回は量が量なので、ティオの風魔法を使うわ」

 

「んで溶きほぐした卵をぶち込んで、更に馴染ませるように揉み込む。本来なら30分ほど放置するが今回は直ぐに揚げる為小麦粉と片栗粉をまぶして揚げる」

 

ジュワ〜〜〜

 

「揚げ色が足りない内に一度取り出して1分程置いておく」

 

「もう一度揚げる前に一度お玉で軽く叩いて亀裂をいれとくのがポイントだ。これを2、3回繰り返す」

 

ジュワ〜〜〜!

 

コンコンコン

 

ジュワ〜〜〜

 

コンコンコン

 

ジュワ〜〜〜

 

「そのうちに油を高温にして、もう一度揚げて完成よ!」

 

「そらぁ食いな!冷めてもうめぇ唐揚げダァ!」

 

─────────────────────────

 

「って感じだ」

 

「成る程……って幸利達の唐揚げ!?まだある!?」

 

ハジメは唐揚げを作ってたことに驚き、食いつく。

 

「今日の夜作るから我慢しろ……」

 

「やった!」

 

純粋に喜ぶハジメを見るのは地球以来だった。

 




おら!飯テロだ!腹を空かせるがいい!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。