ありふれない天の鎖の投影魔術師は世界最強 作:小説大工の源三
翌日、アレの事後処理を終わらせた士郎達は、ホルアドを出発する。
一方、王国では士郎の強烈な一撃で気絶した天之河が目を覚ました。
「……ぐっ……ここは……」
「光輝、目ぇ覚めたか」
「龍太郎……?」
「腹は痛くねぇか?」
「ああ……もう大丈夫だ……そうだ香織達は!?」
「もうホルアド出たとよ」
「っ!なら早く追わないと!」
「やめろ光輝」
天之河はベッドから飛び起きて、聖剣と鎧を取りに行こうとする。しかしそれは龍太郎によって止められる。
「龍太郎……?」
「光輝……聞きてぇことがある。オメーなんであの時、天野先輩達にあんなこと言ったんだ。家族じゃないって」
「……それは、2人は血の繋がりがないからだ……」
「そうか……」
龍太郎は一度顔を下げる。そして──
バギィッ!
拳で思いっきり天之河の頬を殴り飛ばす。
「龍太郎……何をするんだ……」
「光輝、一度俺とサシで勝負しろ」
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訓練場
何も遮蔽物のないこの場所には天之河と龍太郎、審判役にメルドが立っている。
天之河は聖剣と鎧を龍太郎はガントレットと軽い鎧を装備している。
「双方準備はいいな。ルールは技能の使用を禁ずる、己の経験のみで戦うこと!……模擬戦開始!」
真っ先に動いたのは天之河だった。ワンステップで近づいて龍太郎の頬を殴り飛ばす。その威力に龍太郎は後ろに飛んで行くが、身体を翻し着地する。
「……こいつで今朝の分はチャラだ」
龍太郎は6回飛ぶ。左右に揺さぶり、天之河に狙いを定めさせないためだ。龍太郎は天之河の腹に一撃を放つ。
それをかわして、反撃の斬撃を入れる。しかし龍太郎は地面に手を着き、膝で蹴りを入れるように受け止める。そのまま足を伸ばして側頭部に蹴りを放つ。天之河は首を逸らしてかわそうとするも、ギリギリ当たり蹌踉めく。
その隙を逃すまいと拳の連続攻撃が天之河の腹、鳩尾、聖剣を握る手、顎全てを的確に捉える。自身の耐久を上回る、筋力の一撃一撃にダメージが蓄積していく。
聖剣を握る手の力弱まったその時、龍太郎の回し蹴りが聖剣の腹を蹴り飛ばす。天之河の手から聖剣が離れ、訓練場の壁に突き刺さる。
「龍太郎……突然なんでこんな勝負をしたんだ?」
「光輝……なんであの時、先輩がキレたのか分かるか?」
「ああ……」
「ならなんであんなこと言ったんだ」
「間違っているからだ……」
「間違ってる?」
「ああ、家族じゃないだろう!血の繋がりがないのに、兄妹だなんて!」
バギィッ!
再び天之河の頬を朝と同じように殴り飛ばす。
「お前はなんであの時、魔人族を殺さなかった?天野の邪魔をした?」
「人殺しはいけないことだろう?」
「今は戦争中だ。俺だってあの時、殺すつもりだったぞ……」
「な……まさか龍太郎お前……あいつに洗脳されたのか……!」
「な訳ねぇだろうが!」
ゴチン!
龍太郎は鎧の襟を掴み勢いよく天之河の頭に頭突きをかます。
「俺は洗脳なんかされてねぇ!天野先輩も洗脳なんかする訳がねぇ!」
「うぐっ……!」
「俺の目を見ろ!これが洗脳された奴の目か!」
そのまま天之河を殴り飛ばし勝負が終わる。
「試合終了!龍太郎の勝ちだ」
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訓練場で3人は座っている。
長い沈黙の中、メルドが口を開く。
「光輝、お前は何故士郎に強くあたるんだ?」
「……だってあいつは、人を殺したんですよ」
「なら俺もお前に当たられると思うが?」
天之河は言葉に詰まる。メルドも戦争の中魔人族を殺して来た。それを言われなくともわかっている。
「光輝……あの時魔人族を殺すのを躊躇っただろ?あの時天野は悪態付いてたぞ。多分お前が人殺しを自覚して、それをやらなかったからだって」
龍太郎はあの時のことを思い出して話していく。
「光輝……正直に言えば俺もあの時あの魔人族を殺すつもりだったぞ?それがこの国に求められてることだと思ってるからな……でも人を殺す、それがどれだけ悪いことなのか理解してる。それは先輩だってわかっているはずだと思うぜ」
「ならなんで殺したんだ……」
天之河はまたもそこに行き着く。
「しなければならなかったんだろうな……あの人にとって大切な人を守るために交渉することは必要ないって判断したから。人間と魔人族が戦争してるし……」
「そうか……」
「まぁ今すぐに先輩を理解してくれとは言わねぇよ」
そう言って龍太郎は立ち上がり訓練場を後にする。メルドもそれに続いて立ち去る。その間際天之河に告げる。
「光輝、もし覚悟が決まったなら言ってくれ。迷宮で言った『人を殺す訓練』をさせる。龍太郎は覚悟が決まっている。なにすぐ人を殺せとは言わん。それに近いものを当てる。これからは心をオーガにしてお前たちを教育するつもりだ」
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その夜王宮の廊下にて
「龍太郎くん?」
彼を呼ぶ声がした。後ろを振り向くとそこには身長こそ低いもののやる気と元気のある2つおさげの少女──谷口鈴が立っていた。
「ん?鈴か……こんな夜に一人でどうした?」
「暇だから夜の散歩。それで……今日、天之河くんと勝負したんだね」
「なんだもう広まってたのか」
いつのまにか自分と親友のサシでの勝負が知られていたようだ。
「ううん、偶々鈴が見てただけ」
「そうか」
どうやら昼間の勝負を見ていたのは彼女だけのようだ。
「どうしてあんなことをしたの?」
「光輝の奴が先輩達を敵視してたからな……あのままじゃやばいと思ったからやっただけだ」
「別に龍太郎がやる必要はないと思うけど……それに前『信じれない』って言ってたし」
「信じる、信じないの話じゃねぇ……親友だからこそやらなきゃならなかったんだよ」
「親友だからこそ?」
「ああ、親友が間違った方向に進もうとするならそれを止めるのが親友だ……」
「変わったね龍太郎くんも」
「天野に色々と忠告されたこともあったからな……」
「そうだね……完全に脳筋だったもんね龍太郎くんは」
「今思うと俺って光輝に着いてくる金魚のクソみてぇだったな……」
龍太郎は窓から見える三日月を見上げて過去の自分を思い出す。
いつも天之河の後ろを着いて行き彼のすごい所を見ては、感動して更に彼を慕っていた。
そして士郎と出会った時のことも思い出す。
偶々ランニングしていた時、ルートが同じだったので一緒に走った。自分が空手をやっていることを話し筋トレの情報を交換しあったことがとても懐かしい。
「なぁ鈴……もし俺が間違ったことをしそうになったら……止めてくれねぇか?」
「鈴が?」
「ああ……これはお前にしか頼めねぇ……情け無い話だがな……」
鈴は顔を下げて少し悩んだ素振りを見せる。そして顔を上げる。
「任せて!もし龍太郎くんが間違えそうになったら鈴がガツーンって止めてあげる!」
「ああ……!頼むぜ!」
互いの拳をコツンとぶつける。すると鈴は『ふわぁ』と欠伸をする。
「そろそろ寝るか……また明日な」
「うん……おやすみ龍太郎くん」
二人はそれぞれの就寝する部屋に戻って行った。
「先輩……俺は強くなれてんのかなぁ」
彼の呟きに応えたのは風で揺れた窓だった。
しばらくは幕間が続きます