ありふれない天の鎖の投影魔術師は世界最強 作:小説大工の源三
見渡す限り一面、青い海原で覆われており島一つ見つからない。
そんな中ボク達は潜水艇の上で黄昏ていた。
ハジメとユエは潜水艇の中で寝ている。移動の際にかなり神経を使ったので、休憩させた。
「お兄ちゃんの目……紫色に変わったんだね」
「突然どうしたの恵里」
「ハジメの目が赤くなったって香織から聞いたからお兄ちゃんの目が改めて気になったからさ」
「恵里それ本当?私が見た時は白緑だったわよ」
「なんですかそれ。士郎さんの目がコロコロ色が変わってるんですか……」
「やめてよシア。自分の目が不気味になってくる」
自分の目の色が変化している事実を知ったが、特に気にはしていない。既に自分の身体が化け物になっているので今更だ。
空を見上げると、海猫らしき鳥が飛んでいる。本当に何もない……釣りをしようとしたら魚が釣れそうだ。もっとも魚以外に魔物が真っ先に釣れるだろうが。
グリューエン大火山から脱出した時、道中でダイオウイカよりもデカいイカ魔物──クラーケンのようなものに遭遇、ユエの魔法や偽・螺旋剣を射出して撃退した。さらにはサメなどにも遭遇し、なんやかんやあって今に至る。
ちなみに何故か潜水艇が揺れたり、ゲッソリしたハジメとツヤツヤなユエは中から現れたりはしなかった。
「士郎さん、なんか来ます。魔物ではないようですが……」
『ザバッ!』と音を立てながら現れたのは、エメラルドグリーンの髪と扇状のヒレのような耳を付けていた。どう見ても、海人族の集団だ。彼らの目はいずれも、警戒心に溢れ剣呑に細められている。
「お前達は何者だ?なぜ、ここにいる?その乗っているものは何だ?」
その質問にボクは答えようとする。
「えっと、ボク達は冒険者です。グリューエン大火山から脱出した際に海に放り出されたので彷徨ってました。フューレンのギルドの依頼で海人族の子供2人を「貴様らがあの子達を誘拐したのか!」話聞いて?」
海人族は一斉に槍を構える。
「誘拐犯め!手足を切り落としてでも居場所を吐かせてやる!」
その声を皮切りに槍の一斉攻撃が始まった。
一難去ってまた一難ってこういう時に使うのかな……
とりあえずボクは三叉槍の穂を掴みそのままへし折る。『ベキッ』と音を立てて折った槍の先端を投げ捨てる。
「なっ……」
「話しを聞いてください……ハジメ、紙出して……」
「わかった……」
ハジメに頼んで、フューレンの依頼書を取り出す。それを受け取り、海人族に手渡す。手渡されたその紙を読む。
「……依頼の確認を承認する天野殿。手荒な真似をして済まなかった。こちらも同胞を2人も拐われ、冷静な判断が出来なかったことはわかってくれ」
ボク達は海人族に囲まれながら彼らの街『エリセン』へと向かった。
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「よく話を聞いてくれたね彼等。士郎がなんかしたの?」
海人族が話を聞いてくれたことに疑問に思ったハジメが耳打ちしながら質問する。
「ちょっとだけ威圧を使った。要は犬に命令するのと同じだよ」
海人族も亜人族だ。動物的生存本能を利用させてもらった。
すると後ろでシアがウサミミをピコピコさせる。
かわいい……じゃなくて……
「シア?」
「何か落ちてくる音が……こう、高いところから自由落下するような……」
自由落下ねぇ……
パパぁーーー!
キャーーー!
ハジメくーーん!
この声は……まさか!
ボクは上を見上げる。ハジメも聞こえたのか隣で見上げている。視界に入ったのは、とんでもない高度から落ちてくる幼女2人とそれを追いかけるように降りる香織の姿だった。
親方!空から女の子が!じゃない!てかなんかラピュ○ネタ多いな!
「香織!?ミュウ!?」
「リーニャ!?」
ボクとハジメは縮地と空力を使い跳ぶ。ボクはリーニャを、ハジメは香織とミュウを、キャッチする。ミュウは香織が抱き抱えていたのでハジメはその香織をキャッチする。そしてそのまま勢いを殺す為に下に一気に下降する。衝撃を完全に逃した為、下にいた海人族の兵の何人かがぶっ飛んだ。
コラテラルダメージだ気にしない。必要な犠牲です。わかりますね?
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「リーニャ、なんでこんなことしたんだ?危ないでしょ?」
「ごめんなさい……ミュウがハジメお兄ちゃんを見つけたら飛び降りちゃって、それを追って香織お姉ちゃんが降りて、慌ててわたしも落ちちゃったの……」
リーニャが説明する。どうやらそれは事実のようだ。隣ではハジメがミュウを叱っていて叱られたミュウが泣いていた。
「えっと、これで依頼は完了でいいかな?早くこの子らの親に合わせてあげたいから話はまた後で」
「……ああ、依頼の完了を承認する。ただ船のことや先程の黒竜のことを聞くから覚えておいてくれ。それとその子は母親の状態を?」
「いや知らない……けど薬も優秀な治癒師がいるから問題ない」
「そうか……では、落ち着いたら連絡してくれ」
そう言うと隊長は去っていった。
幸利がこちらに歩いてくる。
「お前らが無事でよかった」
「ええ、まだ帰れてないのに死ぬつもりはないわ」
「怪我とかは?」
「ほとんど士郎さんの鎖で共有した完全なる形で回復できたので大丈夫です」
「そう……それならよかったわ」
安堵した様子の優花。
「しかし……何故こんなにも海人族は優遇された土地にいる?樹海にいる亜人族と同じだと言うのに……」
ヴェアベルトがこの街の栄えようが疑問のようだ。それにハジメが答える。
「海人族が水産業を担ってるからだろうね。水中でも活動できるからそのところが優遇される理由だと思う」
「なるほど……格差社会のようだな……」
全くもって同意だ。結局はこちらの都合でしかないんだ。
「パパ、早くお家に帰るの……ママが待ってるの!」
「そうだね……早く会いに行かないとね」
ハジメの手を懸命に引っ張り、早く早く!と急かすミュウ。彼女にとっては、約二ヶ月ぶりの我が家と母親なのだ。無理もない。道中も、ハジメ達が構うので普段は笑っていたが、夜、寝る時などに、やはり母親が恋しくなるようで、そういう時は特に甘えん坊になっていたらしい。リーニャも寝る時そうだった。恵里をママと呼び始めてからそれがより一層わかりやすくなった。早く帰りたいのか手を『キュッ』と普段より強く握ってくる。
ミュウの案内に従って彼女の家に向かう道中、顔を寄せて来た香織が不安そうな小声で尋ねる。
「ハジメくん。さっきの兵士さんとの話って……」
「いや、命に関わるようなものじゃないらしい。ただ、怪我が酷いのと、後は、精神的なものみたい……精神の方はミュウとリーニャがいれば問題ない。怪我の方は香織が詳しく見てあげて」
「うん。任せて」
そんな会話をしていると、通りの先で騒ぎが聞こえだした。若い女の声と、数人の男女の声だ。
「レミア、落ち着くんだ!その足じゃ無理だ!」
「そうだよ、レミアちゃん。ミュウちゃんとリーニャちゃんならちゃんと連れてくるから!」
「いやよ!2人が帰ってきたのでしょう!?なら、私が行かないと!迎えに行ってあげないと!」
どうやら、家を飛び出そうとしている女性を、数人の男女が抑えているようである。おそらく、知り合いが2人の帰還を母親に伝えたのだろう。
そのレミアと呼ばれた女性の必死な声が響くと、ミュウが顔をパァア!と輝かせ、リーニャは泣きそうな顔になる。そして、玄関口で倒れ込んでいる二十代半ば程の女性に向かって、精一杯大きな声で呼びかけながら駆け出した。
「ママーー!!」
「ミュウのママッ!」
「ッ!?ミュウ!?リーニャ!?ミュウ!リーニャ!」
2人は、ステテテテー!と勢いよく走り、玄関先で両足を揃えて投げ出し崩れ落ちている女性──母親であるレミアさんの胸元へ満面の笑顔で飛び込んだ。
もう二度と離れないというように固く抱きしめ合う母娘の姿に、周囲の人々が温かな眼差しを向けている。
レミアさんは、何度も何度もミュウとリーニャに「ごめんなさい」と繰り返していた。それは、目を離してしまったことか、それとも迎えに行ってあげられなかったことか、あるいはその両方か。
2人が無事だった事に対する安堵と守れなかった事に対する不甲斐なさにポロポロと涙をこぼすレミアさんに、ミュウとリーニャは心配そうな眼差しを向けながら、その頭を優しく撫でた。
「大丈夫なの。ママ、ミュウ達はここにいるの。だから、大丈夫なの」
「うん……ここにいるよ……」
「ミュウ、リーニャ……」
まさか、まだ四歳の娘達に慰められるとは思わず、レミアさんは涙で滲む瞳をまん丸に見開いて、2人を見つめた。
2人は、真っ直ぐレミアさんを見つめており、その瞳には確かに、レミアさんを気遣う気持ちが宿っていた。攫われる前は、人一倍甘えん坊で寂しがり屋だった娘が、自分の方が遥かに辛い思いをしたはずなのに、再会して直ぐに自分のことより母親に心を砕いている。
驚いて思わずマジマジと2人を見つめるレミアさんに、2人はニッコリと笑うと、今度は自分達からレミアさんを抱きしめた。体に、あるいは心に酷い傷でも負っているのではないかと眠れぬ夜を過ごしながら、自分は心配の余り心を病みかけていたというのに、娘達はむしろ成長して帰って来たように見える。
その事実に、レミアさんは、つい苦笑いをこぼした。肩の力が抜け、涙も止まり、その瞳には、ただただ娘への愛おしさが宿っている。
再び抱きしめ合ったミュウとリーニャとレミアさんだったが突如、ミュウが悲鳴じみた声を上げた。
「ママ!あし!どうしたの!けがしたの!?いたいの!?」
「だ、大丈夫!?」
どうやら、肩越しにレミアさんの足の状態に気がついたらしい。彼女のロングスカートから覗いている両足は、包帯でぐるぐる巻きにされており、痛々しい有様だった。
「パパぁ!士郎お兄ちゃん!ママを助けて!ママの足が痛いの!」
「パパ!ハジメお兄ちゃん!お願い!」
「えっ!?ミ、ミュウ?リ、リーニャ?いま、なんて……」
「「パパ!はやくぅ!」」
「あら?あらら?やっぱり、パパって言ったの?2人とも、パパって?」
混乱し頭上に大量の『?』を浮かべるレミアさん。周囲の人々もザワザワと騒ぎ出した。あちこちから「レミアが……再婚?そんな……バカナ」「レミアちゃんにも、ようやく次の春が来たのね!おめでたいわ!」「ウソだろ? 誰か、嘘だと言ってくれ……俺のレミアさんが……」「パパ…だと!?俺のことか!?」「きっとクッ○ングパパみたいな芸名とかそんな感じのやつだよ、うん、そうに違いない」「おい、緊急集会だ!レミアさんとミュウちゃんとリーニャちゃんを温かく見守る会のメンバー全員に通達しろ!こりゃあ、荒れるぞ!」など、色々危ない発言が飛び交っている。
どうやら、彼女達は、かなり人気のある母娘のようだ。
そして一つ言いたい。
なんでクッキン○パパがトータスにあるの⁉︎
「「パパぁ!はやくぅ!ママをたすけて!」
2人の視線が、がっちりボク達を捉えているので、その視線をたどりレミアさんも周囲の人々もボク達の存在に気がついたようだ。ボク達は観念して、レミアさん達母娘へと歩み寄った。
「パパ、ママが……」
「大丈夫だよ、ミュウ……ちゃんと治る。だから、泣きそうな顔しないで」
「はいなの……」
「パパ……ママ……」
「大丈夫。ハジメ達に任せて」
「うん……」
ボクはリーニャを安心させる為に頭を撫でる。
「すいません、少し失礼します」
ハジメはミュウの頭を撫でるとレミアさんを抱き抱える。
初めて会う未亡人を何の恥じらいも無く抱き上げるハジメにボクは心の中で敬礼する。
それが普通にお姫様抱っこな物だから、背後で悲鳴と怒号が上がっていた。
ハジメはナチュラルにそれを無視すると、ミュウに先導されて家の中へと入っていった。
ボク達もその後についていった。