ありふれない天の鎖の投影魔術師は世界最強 作:小説大工の源三
リーニャに『パパ、ママいってらっしゃい』と送り出されて、エリセンから北西に遠く離れた大迷宮『メルジーネ海底遺跡』に向かう。そのために荷物確認をする。
士「それでは只今より荷物の確認を行う」
ハ幸香「「「おん!」」」
「ハジメ製酸素ボンベ持ったか?」
「「「おん!」」」
「宝物庫持ったか?」
「「「おん!」」」
「隠し武器持ったか?」
「「「持ってるわ!」」」
「反抗期か!」
ハ「時期的は反抗期だけどね」
士「それ言ったらアカン」
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と、ふざけた持ち物確認を終わらせて、メルジーネ海底遺跡のある場所まで進む。
グリューエンの証と月に従えとのミレディの教えに則るしかなかった。
取り敢えず方角と距離だけを頼りに大海原を進んできたのだが、昼間のうちにポイントまで到着し海底を探索したものの特に何も見つけることは出来なかった。海底遺跡というくらいだから、それらしき痕跡が何かしらあるのではないかと考えたのだが、甘かったらしい。
ひとまず、月が登るまで待つことにした。
色々と投影しておき、宝物庫に仕舞い、いつでも取り出せるようにしておく。
あと、偽・螺旋剣は空間魔法を生成魔法で付与して、空間を削ぎ、抉る力を強化した。
シアの星砕きの調整をする。整備は怠ってはいないが、少々ガタが来ていたので修理した。
修理の終わった星砕きを手渡す。
シアは先程までシャワーを浴びていたので、水色の髪が少し湿っている。
「シア、星砕きの調整終わったよ」
「士郎さんありがとうございます!」
「他のみんなは?」
「船内でシャワー浴びてます」
「そっか」
しばらく夕陽を眺めていると恵里がこちらにやって来た。
「どうしたのお兄ちゃん?」
「恵里。いや、ちょっと日本を思い出してね……こういう景色は同じなんだなぁって」
「確かに……なんでこんなことになっちゃったんだろう……」
ポツリと恵里はそう言葉をこぼす。いつも通りの日常、それを人一倍大切にしていた彼女にとって、現状は辛い物となっている。
そんな彼女の頭をいつの間にか撫でていた。
「早く帰らないとなぁ。父さん達、心配してるだろうし」
「うん……」
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やがて日も落ちて、月が昇ってくると、ハジメはグリューエン大火山の攻略の証であるペンダントを取り出し、月に翳してみる。
ペンダントは、サークル内に女性がランタンを掲げている姿がデザインされており、ランタンの部分だけがくり抜かれていて、穴あきになっている。
暫くそうしていると、ペンダントに変化が訪れた。
「わぁ、ランタンに光が溜まっていきますぅ。綺麗ですねぇ」
「ホント……不思議ね。穴が空いているのに……」
シアが感嘆の声を上げ、香織が同調するように瞳を輝かせる。
「昨夜も、試してみたんだがな……」
「ふむ、ご主人様よ。おそらく、この場所でなければならなかったのではないかの?」
おそらく、ティオの推測が正解なのだろう。やがて、ランタンに光を溜めきったペンダントは全体に光を帯びると、その直後、ランタンから一直線に光を放ち、海面のとある場所を指し示した。
「……なかなか粋な演出。ミレディとは大違い」
「全くよ。すごいファンタジーっぽくて私ちょっと感動してるわ」
それから、真っ暗な海をペンダントの光が指す方向に潜水艇を進める。
辿り着いた場所は海底の岩壁地帯だった。
「やみくもに探しても見つからない訳だ……」
「俺達はアホだったな」
昼間の捜索が無駄だったとわかったハジメと幸利が残念そうに溢した。
「まぁいいじゃない、異世界で海底遊覧なんて、貴重な体験ができたんだし」
「優花ちゃんの言う通りだよ」
「ん……暇だったし、楽しかった」
落ち込んだ2人と対照的に3人は楽しんでいたようだ。
ボクも勿論、楽しんだ。見たこともない魚だったり、似たような魚もいた。
「ふむ、海底遺跡と聞いた時から思っていたのだが、この〝せんすいてい〟?とやらがなければ、まず、平凡な輩では、迷宮に入ることも出来なさそうだな。我々魔人族にはこのような物を作る知識はなかった」
「……強力な結界が使えないとダメ」
「他にも、空気と光、あと水流操作も最低限同時に使えないとダメだね」
「でも、ここにくるのに【グリューエン大火山】攻略が必須ですから、迷宮を攻略している時点で普通じゃないですよね」
「もしかしたら、空間魔法を利用するのがセオリーなのかもしれないわね」
それぞれが普通の人達がこの場所に来るためにどういう方法があるかと推理を始める。
「ユエや幸利位の魔法適性があれば重力魔法なんかで海に穴開けた方が手っ取り早いかもね」
「んな魔力ねぇよ……」
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さらに海中を進んでいくと、海流の流れが変わって潜水艇が大きく揺さぶられたり、魚の魔物に襲われるなどのアクシデントもあった。
ペンダントの光は放出されず、ただ光が灯るだけになった。
「うわぁ〜士郎さん今窓の外を死んだ魚のような目をした物が流れて行きましたよ」
「シアよ、それは紛う事無き死んだ魚じゃ」
「改めて思っけどハジメの作るアーティファクトって反則ね」
さらにしばらく進むのだが、一向に景色が変わる気配がなかった。
「なんかさっきから同じところをぐるぐる回ってる気がする……」
「そうみたい……ここさっき通ったよハジメくん」
どうやら円環状の洞窟を一周してしまったようだ。
なので今度は何か目立つような物、それこそ先程の光るメルジーネの紋章のような物を探して周る。
その結果、五つの紋章を見つけることが出来た。
紋章にペンダントの光を注ぐ。注ぐ度に光が弱まっていく。
全てに注ぐと円環の洞窟から先に進む道が開かれた。『ゴゴゴゴッ!』と轟音を響かせて、洞窟の壁が縦真っ二つに別れる。
特に何事もなく奥へ進むと、真下へと通じる水路があった。潜水艇を進めるハジメ。すると、突然、船体が浮遊感に包まれ一気に落下した。
「おぉ?!」
「おぉっと?!」
「うわっ?!」
「ぬぅ?!」
「きゃあ?!」
「ひゃぁ?!」
「んっ?!」
「ぬおっ?!」
「はうっ?!」
「わぁっ?!」
「なっ?!」
「きゅう?!」
全員が悲鳴をあげる。
直後、ズシンッ!と轟音を響かせながら潜水艇が硬い地面に叩きつけられた。激しい衝撃が船内に伝わり、特に体が丈夫なわけではない恵里がうめき声をあげる。
「……いっつつ。恵里、大丈夫?」
「う、うん……なんとか……ここは?」
潜水艇の壁にぶつかる前にボクが庇うように恵里の下に回ったのでそこまでダメージを受けなかったようだ。
恵里が水晶でできた窓の外を見ると、海中ではなく空洞になっているようだった。取り敢えず、周囲に魔物の気配があるわけでもなかったので、船外に出る。
潜水艇の外は大きな半球状の空間だった。頭上を見上げれば大きな穴があり、どういう原理なのか水面がたゆたっている。水滴一つ落ちることなくユラユラと波打っており、どうやらボク達はそこから落ちてきたようだ。
「どうやらここからが本番みたいだね……」
「……全部水中じゃなくてよかった」
すると、前方から水蛇のような魔物が、天井から圧縮された水のレーザーが襲いかかるが、香織の結界に阻まれ、ユエとティオの炎魔法によりすぐさまやられる。
ほとんどのメンバーが怯むことなく立っていた。
しかし、恵里だけは違った。
「うわぁ!?」
「恵里、大丈夫?」
余りに突然かつ激しい攻撃に、思わず悲鳴を上げながらよろめく。傍にいたボクが、咄嗟に、腰に腕を回して支えた。
「……ごめん、お兄ちゃん」
「問題ないよ」
ボクはそう言うのだが、彼女の表情は浮かない。おそらく恵里とボク達の実力差がハッキリと分かったことで何かしらの“劣等感”を抱いているのだろう。こればっかりはボクが何を言っても逆効果になるだろうと思い、何も言うことはしなかった。
海水の中を歩くのは少し面倒なのでヴェアベルトの氷魔法で凍らせて歩いて進んでいる。たまに氷を砕いて魔物が現れるもののすぐに瞬殺するのでそこまで厄介ではなかった。
「……弱すぎやしないかな?」
「……ん、オルクス迷宮の魔物の方が厄介」
「まぁミレディ曰くオルクスは最後に行く所らしいからね……」
あまりの弱さにハジメ達も少し拍子抜けしている。
大迷宮の敵というのは、基本的に単体で強力、複数で厄介、単体で強力かつ厄介というのがセオリーだ。だが、ヒトデにしても海蛇にしても、海底火山から噴出された時に襲ってきた海の魔物と大して変わらないか、あるいは、弱いくらいである。とても、大迷宮の魔物とは思えなかった。
とはいえオルクス大迷宮は全ての迷宮を制覇した実力者が行くのだというのだから強さが違うのは当たり前である。
いずれはヴェアベルトがオルクス大迷宮に向かうと言っていたので、彼は順番通り攻略するのだろう。
大迷宮を知らない恵里以外は、皆、首を傾げるのだが、その答えは通路の先にある大きな空間で示された。
「っ……何だ?」
ボク達が、その空間に入った途端、半透明でゼリー状の何かが通路へ続く入口を一瞬で塞いだのだ。
「私がやります!うりゃあ!!」
咄嗟に、最後尾にいたシアが、その壁を壊そうと星砕きを振るったが、表面が飛び散っただけで、ゼリー状の壁自体は壊れなかった。そして、その飛沫がシアの胸元に付着する。
ちょっとエロい。ゲフンゲフン。
「ひゃわ!何ですか、これ!」
シアが、困惑と驚愕の混じった声を張り上げた。ボク達が視線を向ければ、何と、シアの胸元の衣服が溶け出している。衣服と下着に包まれた、シアの豊満な双丘がドンドンさらけ出されていく。
「シア、動くでない!」
咄嗟に、ティオが、絶妙な火加減でゼリー状の飛沫だけを焼き尽くした。少し、皮膚にもついてしまったようでシアの胸元が赤く腫れている。どうやら、出入り口を塞いだゼリーは強力な溶解作用があるようだ。
「っ!また来るわ!」
優花がそう叫ぶ。
警戒して、ゼリーの壁から離れた直後、今度は頭上から、無数の触手が襲いかかった。先端が槍のように鋭く尖っているが、見た目は出入り口を塞いだゼリーと同じである。だとすれば、同じように強力な溶解作用があるかもしれないと、再び、香織ユエが障壁を張る。更に、優花とティオが炎を繰り出して、触手を焼き払いにかかった。
「正直、4人の防御と攻撃のコンボって、割と反則臭いよな」
「これにヴェアベルトと幸利も加わったら手を出す隙なんかないわね……」
鉄壁の防御と、その防御に守られながら一方的に攻撃。幸利と雫がそう呟くのも仕方ない。それを余裕と見たのか、シアがボクの傍にそろりそろりと近寄り、露になった胸の谷間を殊更強調して、実にあざとい感じで頬を染めながら上目遣いでおねだりを始めた。
「あのぉ、士郎さん。火傷しちゃったので、お薬塗ってもらえませんかぁ」
「……今、迷宮攻略中だよ?」
「あうっ」
そう言って一度シアの頭に軽くチョップを入れる。
ボクは彼女の肩に触れて回路接続で完全なる形を発動し、シアの赤く腫れた部分が治っていく。
「着替えが必要なら着替えてね」
「はーい……」
残念そうに返事をするのだった。
「む?……ハジメ、このゼリー、魔法も溶かすみたい」
ユエから声がかかる。見れば、ユエの張った障壁がジワジワと溶かされているのがわかった。
「ふむ、やはりか。先程から妙に炎が勢いを失うと思っておったのじゃ。どうやら、炎に込められた魔力すらも溶かしているらしいの」
ティオの言葉が正しければ、このゼリーは魔力そのものを溶かすことも出来るらしい。中々に強力で厄介な能力だ。仮に氷魔法で凍らしたとしても氷を溶かすのだろう。まさに、大迷宮の魔物に相応しいな。
そんなボクの内心が聞こえたわけではないだろうが、遂に、ゼリーを操っているであろう魔物が姿を現した。
天井の僅かな亀裂から染み出すように現れたそれは、空中に留まり形を形成していく。半透明で人型、ただし手足はヒレのようで、全身に極小の赤いキラキラした斑点を持ち、頭部には触覚のようなものが二本生えている。まるで、宙を泳ぐようにヒレの手足をゆらりゆらりと動かすその姿は、クリオネのようだ。もっとも、全長十メートルのクリオネはただの化け物だが。
その巨大クリオネは、何の予備動作もなく全身から触手を飛び出させ、同時に頭部からシャワーのようにゼリーの飛沫を飛び散らせた。
「ユエも攻撃して!防御は私が!聖絶!」
香織は、派生技能『遅延発動』で、あらかじめ唱えておいた聖絶を発動する。それにコクリと頷いたユエは優花、ティオと一緒に巨大クリオネに向けて火炎を繰り出した。シアも、星砕きを砲撃モードに切り替えて焼夷弾を撃ち放つ。
全ての攻撃は巨大クリオネに直撃し、その体を爆発四散させた。いっちょ上がり!とばかりに満足気な表情をするユエ達だったが、それにハジメが警告の声を上げる。
「まだだ!反応が消えてない。香織は、障壁を維持して……なんだこれ、魔物の反応が部屋全体に……」
ボクも解析眼を使用し、部屋全体を視る。
魔力の流れが部屋全体に広がっている?いや違う……これは、この部屋は……
「この部屋全体が魔物の腹の中だ……」
「さっきの魔物はそいつのエサかよ……」
腹の中だと分かると、幸利がげんなりとした顔をする。
「無限に再生されてはたまらんな……士郎殿、ハジメ殿魔石の位置は?」
「そういえば透明な身体なのに魔石が見当たらないですねぇ」
そう魔物にはあるはずの魔石がどこにも見当たらないのだ。
「……お兄ちゃん?」
恵里が不安そうにこちらを見る。
「「魔石がない……いや、こいつ自体が魔石なんだ……!」」
「んなっ!?」
「それじゃあどうするの?」
「とにかく燃やすしかないよ……」
そう言ってハジメは宝物庫から、火炎放射器を取り出す。それで壁を燃やし尽くす。メルリアンも火炎放射を壁に放つ。ぼろぼろと壁に擬態したクリオネの一部が落ちてくる。だが隙間から際限なく現れてくる。そして凍らせた床がどんどん上昇してくる。
「シア!床砕いて!みんなは酸素ボンベ!下に空間がある!どこに通じてるかわからないから気をつけて!」
ボクはみんなに指示を一斉に出す。
シアは星砕きで床の氷を砕く。全員がその穴に酸素ボンベを所持して飛び込む。
その際ボクは幻想の爆針を大量に投影し、クリオネを爆破する。
時間を少しでも稼げればいいが……
そう考えながらボクは海水の流れに身を任せて進むのだった。