ありふれない天の鎖の投影魔術師は世界最強 作:小説大工の源三
現れた転移陣を踏む。
陣は問題なく起動して、ボクらは眩い光に包まれた。
光が収まり目の前に広がっていたのは──庭園だった。
空気は澄み渡り、体育館程度の大きさのその場所にはチョロチョロと流れるいくつもの可愛らしい水路と芝生のような地面、あちこちから突き出すように伸びている比較的小さな樹々、小さな白亜の建物があった。
そして一番奥には円形の水路で囲まれた小さな島と、その中央に一際大きな樹、その樹の枝が絡みついている石版があった。
ティオがスタスタと歩いて庭園の淵に行き眼下を覗き込む。
「ご主人様よ。どうやらここは大樹の天辺付近みたいじゃぞ?」
「だが、樹海にこんな高い物なんてなかったはずだ……」
幸利が言ったことはその通りだ。
フェルニルを使い、樹海を訪れた時もそんなものは何もなかった。
「おそらく、空間魔法と魂魄魔法の合わせ技だろう。我々が認識できぬようになっているから、なくても不思議に思わなかったのだ」
ヴェアベルトの説明に納得した。
魂魄魔法は魂だけではなく……いや、魂のように不定形で普通は目視できないような物に干渉する魔法なのか。
「あー、闇系統にはそんなのあったな……全く使わねーから想像つかんかったわ」
「いや、闇術師。専門じゃないのかよ」
「龍太郎くん。今までトッシーは闇の塊で魔物を爆殺してたんだから今更だよ」
「使い方がすごいわね……まだアタシ達はそこまで習熟してないから出来ないわ……」
足を進めていくとそこには水路で囲まれた円状の小さな島と、その奥に石版があった。
アーチを渡ると突然、石版が輝き、若草色の魔力が流れ込む。
「水路自体が魔法陣なんだね……」
「陣が描かれるならなんだっていいからね。水路が魔法陣になってても驚かないよ」
そしていつも通り、神代魔法を詰め込まれる。後ろでは2名ほど、呻き声を上げていた。
詰め込みが終わると同時に石版に絡みついた樹がうねり始める。
何事かと身構える。
樹は人の顔を作り上げ、ググッとせり上がり、肩から上だけの女性へと形を変える。
変化が終わり閉じていた目を開ける。
「まずは、おめでとうと言わせてもらうわ。よく、数々の大迷宮とわたくしの、このリューティリス・ハルツィナの用意した試練を乗り越えたわね。あなた達に最大限の敬意を表し、ひどく辛い試練を仕掛けたことを深くお詫び致します。しかし、これもまた必要なこと。他の大迷宮を乗り越えて来たあなた方ならば、神々と我々の関係、過去の悲劇、そして今、起きている何か……全て把握しているはずね?それ故に、揺るがぬ絆と、揺らぎ得る心というものを知って欲しかったのよ。きっと、ここまでたどり着いたあなた達なら、心の強さというものも、逆に、弱さというものも理解したと思う。それが、この先の未来で、あなた達の力になることを切に願っているわ。あなた達が、どんな目的の為に、私の魔法──『昇華魔法』を得ようとしたのかは分からない。どう使おうとも、あなた達の自由だわ。でも。どうか力に溺れることだけはなく、そうなりそうな時は絆の標に縋りなさい。わたくしの与えた神代の魔法『昇華』は、全ての『力』を最低でも一段進化させる。与えた知識の通りに。けれど、この魔法の真価は、もっと別のところにあるわ。昇華魔法は、文字通り全ての『力』を昇華させる。それは神代魔法も例外じゃない。生成魔法、重力魔法、魂魄魔法、変成魔法、空間魔法、再生魔法……これらは理の根幹に作用する強大な力。その全てが一段進化し、更に組み合わさることで神代魔法を超える魔法に至る。神の御業とも言うべき魔法──『概念魔法』に概念魔法──そのままの意味よ。あらゆる概念をこの世に顕現・作用させる魔法。ただし、この魔法は全ての神代魔法を手に入れたとしても容易に修得することは出来ないわ。なぜなら、概念魔法は理論ではなく極限の意志によって生み出されるものだから。わたくし達、解放者のメンバーでも七人掛りで何十年かけても、たった三つの概念魔法しか生み出すことが出来なかったわ。もっとも、わたくし達にはそれで十分ではあったのだけれど……。その内の一つをあなた達に。名を『導越の羅針盤』──込められた概念は『望んだ場所を指し示す』よ。どこでも、何にでも、望めばその場所へと導いてくれるわ。それが隠されたものでもあっても、あるいは──別の世界であっても。全ての神代魔法を手に入れ、そこに確かな意志があるのなら、あなた達はどこにでも行ける。自由な意志のもと、あなた達の進む未来に幸多からんことを祈っているわ」
リューティリスの長い話が終わり、話の最中に現れた台座に置かれている懐中時計──導越の羅針盤をハジメが手に取る。
「ユエ……一応聞くね。昇華魔法と羅針盤を使って空間魔法で世界は越えられる…?」
ユエは導越の羅針盤を使い必死にその可能性を探る。刻み込まれた知識と、間違いなく現代において最高最強の魔法使いとしての知識をフル活用する
「……ごめんなさい」
「そっか……」
昇華しただけの空間魔法には世界を越える力がなかった。それができれば解放者達もエヒトの所にすぐ向かうことができたのだろう。
「まぁあわよくばって感じだから」
「うん。帰り道の切符が手に入っただけでも大儲けだよ。ユエちゃんがそんな顔しなくていいよ」
「……ん」
すると庭園の一角に転移の為であろう魔法陣が現れた。
「あの……天野先輩……概念魔法が使えれば……」
「まぁ帰れるね。ひとまず全員連れて帰るよ。制限がなければだけど」
「そ、そうか……」
そう言って天之河は安心したような顔になる。
「とりあえずここを出て、少しゆっくりしましょう」
「そうだな……あのG軍団は軽くトラウマになるわ……二度と見たくねぇ……」
「うん……あれは人間が見ていい光景じゃない……恵里達に甘えたいよ」
「僕も香織とユエの2人に癒されたい」
「ふふふ……たっぷり癒やしてあげるからねハジメくん」
「……ん、いっぱいシテあげる」
「いいよ。いつも甘えてるから僕もお兄ちゃんを甘やかしたいし」
「わたしも、膝枕とか色々しますよ!その先だって!」
「……そうね。私も甘やかしてあげるわ」
「ご主人様よ妾が甘やかすのじゃ」
「アタシも甘やかしてあげるわ」
そんな甘い会話をしながら、ボクらは大樹の迷宮を出るのだった。
暗いナニカを抱える2人に気づくこともなく………