ありふれない天の鎖の投影魔術師は世界最強 作:小説大工の源三
空と地上一杯のら魔人族と神の使徒がこちらを見ている。
「へぇ……個人個人じゃ勝てないから物量に変えたんだ」
「フン……貴様らに我々の全力、エヒト様の僕を差し向けるのは甚だ遺憾だが、それで貴様らを葬ることができればいい」
そういうフリードだったが、こちらを少し観察する何かがない事に気づいたような表情に変わる。
「む?ヴェアベルトの奴はいないのか。なんだ、裏切られたのか……クックックッ……ハッハッハッ!やはり裏切り者は所詮裏切り者ののようだなぁ!」
ヴェアベルトがいなくなり、何やら気分が昂ったのか笑い始める。こちらを完全に馬鹿にしているようだ。
「奴がいないのなら好都合だ。がしかし今回は殺し合いをしに来たわけではない」
「ふーん。んでどんな命令でももらったのかな?ボクらに殺される栄誉?それとも犠牲になってクソ神が対策を練る為の
士郎は煽り返した。
それに怒りが湧いてきたのか、額に血管が浮かぶ。が隣のノイントと同じ顔をした神の使徒が制することで落ち着きを取り戻した。
「……寛容なる我が主は、貴様等の厚顔無恥な言動にも目を瞑り、居城へと招いて下さっている。我等は、その迎えだ。あの御方に拝謁できるなど有り得ない幸運。感動に打ち震えるがいい」
「はぁ?」
何考えているのかわからない。いきなりこちらを殺さんばかりの戦力を差し向けているのにも関わらず、魔王城への招待をすると言うのだ。
「だったらテメェ一人で来いよ。それともアレか?一人でカミサマの神託を熟すのが怖いからみんなに見守ってもらってるのか?だとしたら、笑えるぜ?」
幸利も煽り始める。
「……挑発には乗らんぞ。貴様らには我が魔王様の偉大な目的を知ったところで無意味なのだからな」
「……偉大なる目的、か。さて、魔人族はどこまで踊らされているんだろうね」
「なにか言ったか?」
「いや別に?魔王様ご立派ご立派と褒めていたところだよ」
「……」
ボソッと呟いたハジメに、耳聡く気がついたフリードが尋ねるが、肩を竦めて軽口を返されて、流石に苛立ったようにこめかみをピクリと痙攣させた。
「まぁいいや。エヒトをぶち殺す前のウォーミングアップと行こうか」
「蹂躙だね?鼠1匹逃がさないよ」
「とりあえず皆殺しでOK?」
「当然!」
「……ん。招きに応じる理由もない」
「細切れにしてあげるわ」
「ぶっ飛ばして終わりですぅ!」
「……殺戮の時間だ」
「どてっ腹に風穴開けてやるわ」
「そも、招き方もなっとらんのじゃ。礼儀知らずには、ちと、お灸を据えてやらねばいかんのぅ」
士郎は銃剣・干将・莫耶を投影し、狙いを定める。
それに続いてハジメ達も武器を構え、今にも敵を殺さんばかりの圧を放っている。
「これを見ても同じ事が言えるか?」
フリードの前に鏡のようなものが発生して割り込んだ。訝しむ士郎達の前で、それは一瞬ノイズを走らせると、グニャリと歪んで何処かの風景を映し出した。
空間魔法の一つ。『仙鏡』──遠く離れた場所の光景を空間に投影する魔法だ。
仙鏡に映し出されたのは、荘厳な柱が幾本も立ち、床にはレッドカーペットの敷かれた大きな広間だった。そこからカメラが視点を変えるように映像が動き出す。
見え始めたのは、玉座が置かれている祭壇のような場所。やはり映っている場所は王城──それもおそらく魔王城の謁見の間なのだろう。高い天井に細部まで作り込まれた美麗な意匠や調度品の数々が魔王の威容を映像越しにも伝えてくる。映像は更に動き、その視点は玉座の脇へと移っていった。
そうして見え始めたのは、鈍色の金属と輝く赤黒い魔力光で包まれた巨大な檻。当然、中には何かを捕えているわけだ。
「チッ……」
幸利が舌打ちする。
ハジメも苦虫を噛み潰したような顔になる。
天之河達の動揺が1番酷かった。
「そんな……」
「いつの間に……!」
仙鏡に映し出されたのはクラスメイト達とと愛子、そしてリリアーナ姫だったのだ。
愛子とリリアーナは、大抵の生徒が膝を抱えて不安に表情を歪めている中で、力なく横たわっている生徒の幾人かを必死に介抱しているようだった。よく見れば、その倒れている生徒は永山のパーティーメンバーのようだ。他にも、玉井等愛ちゃん護衛隊のメンバーも永山達ほどではないが、苦痛に歪んだ表情で蹲っていた。
ハジメは、咄嗟に羅針盤を取り出し、愛子の居場所を探る。
「……本物か」
「ほぅ、随分と面白い物を持っているな、少年。探査用のアーティファクトにしては、随分と強力な力を感じるぞ?それで大切な仲間の所在は確かめられたか?」
羅針盤は南大陸の一点を指し示している。それは、愛子が間違いなく魔人領の魔王城にいるということだ。偽物の映像でないことを確信したハジメが舌打ちを漏らすと、フリードは羅針盤に興味を持ちながら、ここに来て初めてあからさまに感情を発露させた。言葉に、たっぷりと優越感が乗せられたのだ。
ハジメの態度から、士郎達も映像が本物だと察したようで苦い表情となる。
「なんとか……できないのか……」
天之河は悔しそうに歯軋りをする。叫ばなくなった辺り、成長しているようだ。
ドパパパパパン!
士郎、ハジメ、香織が銃弾をフリード目掛けて放つ。
だが、その弾丸は神の使徒の大剣に防がれる。
その大剣は粉々に砕け散る。
その隙に、フリードが冷や汗を流しながらも辛うじて表情は変えずに口を開いた。
「……この狂人が。仲間の命が惜しくないのか」
「黙ってたってどうせ皆殺し対象なんだから足掻くでしょ普通」
「威勢のいいことだ。これだけの使徒様を前にして正気とは思えんが……ここは、もう一枚、カードを切らせてもらおうか」
そう言ったフリードは愛子達を映す映像の視点を切り替えた。どうやら、愛子達を捕えている檻の横に、もう一つ檻があったようだ。同じ作りではあるが、かなり小さなサイズであるそれは、人を数人捕えるためのものだった。
そこに映し出されていたのは──
一瞬、冷たい殺気が辺りを覆う。
殺気を放っているのは士郎、ハジメ、香織、ユエ、シア、雫の迷宮組だった。その中でも士郎とハジメの殺気がフリードに集中していた。
「っ――っ――き、貴様等、あの魚モドキ共がどうなっても、いいのかっ」
フリードが、ともすれば止まってしまいそうな呼吸を意識して行いながら、歪めた表情で警告を口にした。既に、冷静さを装う余裕はない。
フリードが魚モドキと言った、3人の影はリーニャ、ミュウ、レミアだった。
「お前、人質取ったからって良い気なるなよ……良いか、人質ってのは強者が弱者使うから効果があるんだよ……弱者が使ったところで得られるのは逆鱗だけだ……!」
士郎は濃密な殺気をフリードに向ける。
ふらりと白竜から落ちそうになるもののすぐに体勢を立て直す。
「……まぁいいよ。招待を受けるよ」
「何?」
「招待を受けてやるって言ったんだよ。二度も言わせないでくれるかな?」
「っ……ふん、最初からそう言えばいいのだ」
繰り返された言葉と同時に、鬼気が徐々に収まっていく。フリードは呼吸を乱しつつも、余裕を取り戻した表情で嘲笑を浮かべた。そうして、気絶した灰竜の群れを変成魔法の一つで叩き起しながら、魔王城へのゲートを開くための呪文を詠唱し始めた。
ユエが首を傾げながらハジメを見上げる。
「……いいの?」
「……うん。クリスタルキーを使えば空間を繋げられるだろうけど、タイムラグが大き過ぎる。それに、空間転移系の力を保有していることは向こうも承知のはずだよ」
「なにか、対策をしてるかもってことですね」
「万が一があっては困るからのぅ。先生殿達と違って、ミュウたちでは、そのタイムラグを自力では稼げんからな」
ティオの言う通り、概念魔法のタイムラグをミュウ達がどうこうはできないのだ。
無理矢理やれば良いのだが、
「……さぁ、我等が主の元へ案内しよう。なに、粗相をしなければ、あの半端な生物共と今一度触れ合えることもあるだろう。あんな汚れた生き物のなにがいいのか理解に苦しむがな」
フリードのゲートが完成し、繋がった空間の向こう側に大きなテラスと眼下の町並みが見えた。どうやら愛子達のいる場所である謁見の間に直接転移するのではなく、王城の上階にある外部分にゲートを開いたようだ。
おそらく、王城の内部においては侵入を禁ずる結界でも敷いてあるのだろう。たとえ、味方であっても直接的な転移は出来ないようになっているに違いない。魔王城の防衛を考えれば当然の措置だ。
フリードの嘲りの言葉を端から聞いていなかったようにスルーしてゲートへ歩みを進めようとした士郎に、鼻白んだような表情になったフリードは、なにかに気がついたように口を開いた。
「そうだった。少年、転移の前に武装を解いてもらおうか」
「……」
ただ無言で静かな眼差しを返す士郎に、フリードは遂に優位に立った愉悦を隠しもせず、嘲笑を交えて言葉を繰り返す。
「聞こえなかったか?さっさと武装を解除しろと言ったのだ。あぁ、それと、この魔力封じの枷も付けてもらおうか」
それに対して士郎の返事は
「だが断る」
「何?」
「お前は何度も聞き返してくるけど耳が悪いのか?」
「……己の立場を理解できていないのか?貴様等に拒否権などない。黙って従わねば、あの醜い母娘が──『調子に乗るな』っ……なんだと?」
「頭も悪いようだな。お前は弱者、ミュウ達に何かしてみろ。この辺り一帯を不毛の大地にしてやるよ」
「なにが目的で招待なんぞしようとしているのか知らないけど、敵の本拠地に丸腰で乗り込むつもりはない。それではなにも出来ずに全て終わってしまうかもしれないからね。そんなことになるくらいなら、イチかバチか暴れた方がまだマシだ」
「……あの母娘を見捨てるというのか」
「見捨てない。ただ、ここで武器を失う方が、見捨てることに繋がると考えているだけだ」
「……貴様等は、やはり狂っている」
故に、フリードの抱いた感想はそういうものだった。自分が攻め手に回って優勢になっているときに、相手が拠点を放棄して逆に攻めて来る。しかも、その根幹にあるのが、どちらが先に相手を滅ぼせるか、というチキンレースのようなものなのだ。確かに、正気を疑っても仕方ないだろう。
「なら、その狂人が暴れないうちにとっとと案内しろ。今生きてるのは……これ以上言わなくてもわかるよな?」
幸利は不気味な笑い顔で言う。
フリードは主の御前に武装したままの敵を連れて行くというのは、敬虔な下僕として許容しかねるようだ。
そこへ、今の今まで一言も言葉を発しなかった神の使徒が割り込んでくる。
「……フリード。不毛なことは止めなさい。あの御方は、このような些事を気にしません。むしろ良い余興とさえ思うでしょう。また、我等が控えている限り、万が一はありません。イレギュラーへの拘束は我等の存在そのもので足ります」
「むっ、しかし……」
「私の名はアハトと申します。イレギュラー、あなたとノイントやフィーアンとの戦闘データは既に解析済みです。二度も、我等に勝てるなどとは思わないことです」
どうやら今度の神の使徒の名前はアハトというらしい。
武装しても無駄だと言いたいのだろう。
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クラスメイト達が囚われている場所に足を踏み入れる。
「パパーーーー!ママーーーー!」
リーニャがこちらに駆け寄ってくる。
「ごめんねリーニャ。巻き込んじゃって」
「大丈夫。パパ達ならぜったい助けに来てくれるって信じてた」
「僕達は負けないから。リーニャ達は待っててね」
「うん!」
士郎と恵里はリーニャの頭を撫でる。
近くではハジメとミュウ達も同様である。
玉座の背後から声が響いた。
「いつの時代も、いいものだね。親子の絆というものは。私にも経験があるから分かるよ。もっとも、私の場合、姪と叔父という関係だったけれどね」
玉座の後ろの壁がスライドして開く。そこから出て来たのは金髪に紅眼の美丈夫だった。年の頃は初老といったところ。漆黒に金の刺繍があしらわれた質のいい衣服とマントを着ており、髪型はオールバックにしている。
するとハジメとユエ、香織が一瞬目配せをしたのが士郎達の視界に入る。
「……う、そ……どう、して……」
「ユエ?」
「ユエちゃん?」
ハジメの呼び掛けにも気がついた様子なく、酷く動揺したような、有り得ないものを見たような掠れた声を漏らしたのはユエだった。その瞳は大きく見開かれており、真っ直ぐ魔王を貫いている。
ハジメは、明らかに尋常でない様子のユエに再度、声を掛けようとして妙な既視感に襲われた。ユエの金髪と紅眼。それは……
「やぁ、アレーティア……久しぶりだね。相変わらず、君は小さく可愛らしい」
「……叔父、さま……」
ユエの掠れた声音が響く。その瞳は普段になく大きく見開かれ、小さくたおやかな手は内心の動揺をあらわすが如く小刻みに震えている。
ハジメと香織の呼び掛けに気がつかないという、いつもなら有り得ない有様が、その動揺の深さを示していた。
そんなユエの様子を見て驚愕をあらわにする士郎達を尻目に、金髪紅眼の魔王は殊更優しく微笑みながら再度、士郎達には聞き慣れない名でユエに呼びかけた。
「そうだ、私だよ。アレーティア。驚いているようだね……無理もない。だが、そんな姿も懐かしく愛らしい。三百年前から変わっていないね」
現在アンケートやってるのそちらも