享楽、懊悩。メンヘラおじさん 作:ちりぬる男
「うっす。じゃ、やってこっかな」
わこつ わこつ 今日どうしたの わこつ わこつ 久しぶり わこつ
弾幕が流れていく。
なんにせよ数ヶ月ぶり、というかそもそも仕事に就いてからというもの配信の頻度はまちまちで、ざらに一年とか空くこともある中での数ヶ月ってのは短いもんだと思う。
「よう、久しぶりだなクソカスども!」
酒を飲んだ勢いで初手暴言でも吐いてやれば
は? は? は? お前に言われたくない ようクソゴミ 炎上しろ は? は?
とか流れてく。
「残念、炎上するほどキャパ多くないんです〜〜。なんせ今の視聴者は……20人くらいの過疎配信だからなぁ!!」
笑いながらもう一度ビールを呷った。
「よし、今からSEIROやるわ」
空のビール缶を机に叩きつけながら、追加のビール缶をマイクの近くでプシュッと開け放ちおれはハードを起動させた。起動させながら横目でコメントを見てみると
りんご ごりら らくらい いかなご
とか言って勝手にしりとりをコメント同士で始めてやがった。
「ちょっと〜〜今からSEIROやるんだけど〜〜!」
あ、ごめん気づかなかった おれらはしりとりやってるから適当にやってて なんかおっさんの声がした
とか言われる。
「おれ、配信主、あんだすたん?」
え?コメントで遊ぶだけの枠だと思ってた はいしん、ぬし? 初めてみる配信者です!!
「ったく、お前らはよぉ」
酒をもっかい飲みながらおれはカラカラと笑った。
「って、あれ?OBSのやり方忘れたわ。誰か教えてくれよ」
そんなん知るわけねーだろ ほんとに配信者なの? 初めてみる配信者です!!
コメはあんまり有能じゃなく、そんなことが書かれてて
「しゃーねー。今日は配信終わり!!」
って言った途端に
ねぇ ねぇ ねぇ がんばって
って書かれる。
「君たちもうちょっと素直になりなさいよ」
そう言いながら枠を閉じた。閉じて数分後におれのTwitterの配信開始ツイの下には
メンヘラおじさんもっかいたのまい
さっさと再開しろ
あのさぁ
しりとりさせろ
と吊り下がってて、もう一回枠を取り直して配信を再開。しばらくミュートでだんまりを決め込みつつ、視聴者数が元に戻ったのを確認した瞬間
「君たちはバカだねぇ?そんなにやってほしいなら言ってくれればいいのに」
と大声で言う。
うっさ うっさ うっさ うっさ うっさ 鼓膜破けた メンヘラおじさんうるさいよ
って言われまくる。言われまくるっていってもそんなにコメ数は多くないけど。
「とは言え話すことはない。各自しりとりにでも励んでいてくれ!」
おれはミュートにした後、風呂に向かった。風呂でシャワー浴びながらなにやってんだろうなって思う。配信の内容とかじゃなくて、なんで配信をやってるんだってこと。
何を話すわけでも視聴者との雑談枠にしたかったわけでもない。ただ配信を始めたかっただけ。そういうことをいつからか繰り返していた。むかしはそれなりに視聴者はついていて、多いやつだと50万再生いった実況動画を上げたことだってある。あの頃は楽しかった気がする。
実況仲間とかもいてコラボ配信したらなんかコラボってだけで叩かれたり、有料コンテンツを始めた知らねー実況者の炎上を対岸の火事のように眺めてたり。そんなクソカスみたいな環境だったけどそれなりに充実はしてたはずで、実況だって楽しかった。
実況だけでは稼げるわけもないし、って思って就職。みるみる動画投稿も配信回数も減る中で、むかし仲良くやってたやつらはいまだにゲーム実況とか配信とかやってた。いい加減現実見ろよ、そんな人生の足しにもなんねーことやってんな。そう諭してやりたいくらいには悶々とした。
おれのモチベが減るごとにそいつらとの関わり合いも比例して減っていった。ついで上司の悪口を書くたびにフォロワーは減ったけど、それでいいと思った。
けれどなんでか数年のうちに実況の収益化がオッケーになっていた。金になんねーと見切りをつけたコンテンツでかつての同胞はたんまりと金を稼いでいた。せいぜいがゲーム実況するだけのチャンネルなのにガバガバと再生数も金も稼いでいる。仲良かったメンツはおれ以外で共同チャンネルをつくっていて、そいつもハネていた。
思うことがないといえば嘘になる。今からでもその中に入れるか?なんて言葉が頭の中で時折もたげる。んなダサい真似できるかよって即座に消し去る。決して険悪になったわけでもなくて、ただ疎遠になっただけ。それだけの違いでおれは今社畜をやっていてあいつらは好き勝手ゲームして稼いでる。
ぼんやりと風呂場の照明を眺めながら、今の自分を思う。だいじょうぶ、まだ、だいじょうぶ。言い聞かせる自分に気づいた自分に気づいた。あながちメンヘラってのも間違いじゃねえかもしれない。
タオルで拭き取り服も替えたら、ミュートを解除して、ドライヤーをかける。またうっさっていううっすい弾幕ができる。
乾かしながらぼんやりとコメでも見てたら
またテルニシたちと実況とらないの?っていうコメが見えた。
「うっせバァカ」
その声はドライヤーに邪魔されて、結局マイクに届いたのか届かなかったのか。そんなのは知らない。
ただおれの言葉に対するレスポンスがコメに現れることはなく、相変わらず視聴者どもは人数を減らすこともなくただただしりとりに耽っていた。
「ほんとにバカだねぇ……」
そう言っておれはドライヤーを切った。
「がんばってSEIROやるわ。まじで教えてくれよ誰か」
言いながらやり方をネットで漁り始めた。
生配信はできるのにゲーム配信はできない男
とか言って途中バカにされたっぽかったけど、それはしりとりだったらしくおれがブチギレたのは言うまでもない。
ようやくできたときには30分くらいかかったけど、明日早いから寝るわっていうコメのやつ、つまり視聴者は一人しか減ることはなくSEIROを始めた。
「はぁ、ほんとに……」
君たちはなんでこんなおっさんの配信に来てるのかね?
一番おもろいって信じてるから