享楽、懊悩。メンヘラおじさん   作:ちりぬる男

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仲良かった女性配信者 ✳︎

最近ハマってるインディーズバンドの曲を配信で流しながら定例化したコメのしりとりをぼーーと眺めていた。不意にあるコメが目にとまった。

 

  漆野さくらはどう思う?

 

「漆野さくらって誰よ?」

 

  ナツメさんがVtuberになった姿  ナツメだよ

 

「ナツメってVtuberやってたの?いつから?」

 

  3年前くらいから 

 

「へぇ、ちょっと見てみよ」

 

Utubeを開いて検索欄に「うr」とうったタイミングでサジェストに漆野さくらという文字列が上がってきた

 

漆野さくら マイクラ

漆野さくら 切り抜き

漆野さくら 歌ってみた

漆野 米原 コラボ

 

上から順にこうなってる。ちょっとだけ驚きながらもチャンネル登録者数が110万を超えていることにさらに驚いた。

 

「めっちゃ登録者いるやん」

 

おれが就職してからもナツメが配信をずっとやってたのは知ってた。たいてい予告もせずに突発でニコ生開始するスタンスのくせにアクティブ平均500人を長年維持してたっていうのがどれだけすごいことか。

たしかに数年前からあまり通知に出なくなったなと思ってたけどVtuberになってたのか。しかもこんなに登録者が多い。

 

「……」

 

それに少し複雑な気持ちになる。正直Vtuberってのは逃げだと思っていたから。

なんの脚色もしないありのままの自分を表現すること。どれだけつまらなくとも利にならなくとも、それでも配信すること。それこそが生の醍醐味だと思い続けていた自分にとってVtuberなるものは常々「くっさ」と配信でも言ってきた。

それを知らないコイツらじゃないから、どうせお前の知り合いがVやってるけどどう思うん?みたいな反応をうかがいたいんだろう。

 

それにしても数年前からVやってたんならもっと早くおれに情報が来てもおかしくない気はするんだが。

 

コメには

 

  みんなで見ようぜ  うつして  見ようぜ   Utubeキャプチャして

 

とか出てる。

 

「よし、いいだろう。みんなで見てやろうぜ。で、どれ見ればいいの?」

 

  マイクラおもしろかったよ  アンテナ?  雑談枠でいいんじゃない?

 

とか入り乱れてる。

 

「アンテナってそれむかし配信でナツメがやってただろ」

 

  そうだっけ  もしかして: 初見詐欺  ま? いやむかしプレイしたことはあるって言ってたよ

 

「あー、なるほどね。じゃあアンテナ見よう」

 

再生ボタンを押すとOPムービーのあと、聞いたことある声にちょっとつくった感が付与されたわかづくりボイスが聞こえてきた。

 

「どうも、漆野さくらです!今回はアンテナやっていこうと思います!」

 

とかなんとか。思わず再生を止める。

 

「ナツメってもうちょっと落ち着いた感じじゃなかったっけ」

 

  ムリしてるんだよ  実況はじめたての頃はこんなだったよ   察してあげろよ  ナツメじゃなくて漆野さくらなんだよなぁ

 

釈然としない思いに駆られつつも、もっかい再生を押す。

 

この後も、いやこんなんじゃなかっただろ!とかむかしはこういうツッコミ入れてなかったっけ?とかさんざん難癖をつけつつ30分程度の動画が終わって癪にさわる広告が流れ始めた。

 

「うっせ」

 

Utubeを閉じる。

 

  どうだったよ  どう  どうだった  よかった?   愛しのナツメやぞ

 

「いや愛しのではないからな?あいつ彼氏バレしてたときあったじゃん」

 

  その彼氏の正体が??  あれお前じゃなかったの?   え?  え?

 

「おれじゃなかったぞ。そのときっておれが消えてたころだろ?そのときは働き詰めだったしいっつもふらふらよ」

 

  お前の声に似てるって話題になってた  お前だろ!!

 

「いやだから、おれじゃねえんだって。君たちは騙されちゃって、ほんとにバカだねぇ」

 

  うっざ  多分消えてなかったら炎上してたぞ  にしてもナツメの動画めっちゃ覚えてたやん

 

「あー。何回も見てたからな」

 

  あらあらまぁまぁ  愛しじゃん  

 

「だから愛しじゃねえんだって。でも向こうはどう思ってたかは知らんけど仲良かったときは一時期あったぞ。つっても他に実況者と比べて特別ってわけじゃないけど」

 

  ふーん そっか  

 

なんか微妙な雰囲気になってきた。若干の居心地の悪さを感じてしまい

 

「配信終わり!」

 

とあくびをしながら切った。ちょうどインディーズバンドの円盤の7曲目のサビ直前だった。

 

 

 

ため息をつく。

 

「Vtuber、ねぇ?」

 

それがすごいのかって話。

漆野のアンテナの続き、part2を見てみる。

 

初回とはうってかわって落ち着きのある感じで進めていた。ナツメのときと変わらない雰囲気で、そもそもあの初回はなんだったのか、首を捻る。

 

ああ、でもこの感じ。

 

「懐かしいな……」

 

的確かつ根本的なツッコミポイントを見つけ出し、それをウィットに富んだ言い方で難癖する。ただ嫌味な感じじゃなくて、ゲームと漫才してるような感じ。

 

「やっぱおもしれーな」

 

何本か続きをみたあと、パソコンをシャットダウンしようと思ったらなんかおかしい。まさかと思いスマホで放送ページに飛ぶとまだ配信中になっていて

 

  やっぱ好きなんすねぇ  にまにま  ニヤニヤ  

 

「ちょっと!!!」

 

パソコンで終了ボタンを押す。

 

この放送は終了しました。

 

という文字がスマホ側に表示されたのをみてようやく平静を取り戻した。

 

「ミスったぁ……」

 

色々めんどくせー。もう寝よう。

とはいえさっきの失態のせいかうまく寝付けない。

 

せっかくだからナツメのことを考える。Vを選んだってことは、ナツメであった過去も捨ててしまったということだろうか。ナツメの配信ページには数年前から更新がなくなっていた。それに少しだけ嫌な気分になる。

だからなんだって話。所詮おれはど底辺だし、ナツメもアイツらみたいにおれのことを思い出しもしてないだろうなぁ。

 

でも、それでいいんだ。みんな進んでる中で社会に適合しようと初めに一念発起したおれが一番その場所に立ち尽くしてるような気分になるのは理不尽だと思ってしまう。けど、世の中そんなもんだ。

今も配信してるのは縋り付く行為をしているだけで、こんなくそ配信をして視聴者がいなくなってきた頃にようやくおれは社会とちゃんと向き合える気がする。

 

この世界に居場所ができることもなくなることも、どちらもおれは望んでいた。




♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎



久しぶりに「ナツメ」のツイを更新しとこうかと思いログインをした。数年前頻繁にきてた「漆野さくらさんおっすおっす!」みたいなDMはなりを潜めていて、ここ1年はDM自体なかったんだけど最近になって久しぶりに来てた。どれどれと思って目を通すと、そこには「ガンジがナツメさんの話してたよ。ニヤニヤ」って書いてあって内心飛び上がる思いがした。

最近は忙しくて生の視聴ができてない、というか月単位でしか放送しない人と時間なんてどう合わせろっていう話。それに加えてあの人はTSさえ残してくれない。

「えー、見たかったなぁ……」

いい話?悪い話?どっちだろう。っていうかニヤニヤってなんなんだ。

頬杖つきながら私はそんな気分じゃなくなって結局「ナツメ」ツイの更新はすることなく、動画の編集の再開をした。
こういうときのBGMはガンジさんが放送で流してるバンドの曲に限る。ガンジさんのセンスはよくて、そのときはバンド名がほとんど知られてないくせに数年後に世間的な認知度も高く人気なグループになってたりする。
売れてないところにもずっと面白いものはたくさんあって、売れてる人たちとの違いはたいてい運でしかないことを知った。

そんなこんなで私は数年前を思い出す。バンドのライブ帰りの電車でふらっふらのガンジさんがいた。そのバンドはガンジさんが教えてくれたとこだからガンジさんも仕事帰りにライブに行ってたのかなとか思いながら近づいていったんだけど、すっごい酒臭かった。

「あのぉ、ガンジさん?」

と小声で声をかけると

「おお、ナツメじゃん」

と呂律の回らないままで言った。くっさいなと思いながらも隣に座って電車に揺られた。

「さっきテンプルテンパーのライブに行ってたんですけど」

「ああ、今日ライブだったんかぁ」

「よかったですよ。一緒にいつか行きません?」

「あーーー。いいね」

そこからまた無言になる。無言が続く中で居心地の悪さを感じて何話そうとか思ってるとガンジさんの様子がおかしくなってきて、どうしたんだろうと横目で見てると吐き出した。

「え、ちょ。ガンジさん??!」

周りの人は私たちから距離をとりはじめ、私は居た堪れなくなってしまってもう眠ってしまったガンジさんを死にそうな思いで電車から引きずり出した。私の服もゲロまみれで最悪だ。ガンジさんはふらっふらで一応引きずれば足を動かしてくれる程度には気を取り戻してくれた。
自分の家に引き入れたガンジさんはしばらくするとまたレジ袋に入ってた酒を飲み始めた。

「ちょっと、やめましょうって!!」

どれだけ私に迷惑かけるの!って言ってやりたいくらいには怒りそうになってたタイミングでガンジさんは泣き出した。
なんで泣いたのかも私はガンジさんなりの苦しみも話してもらったからわかったんだけど、その鬱憤を私が覚えておくことはガンジさんにとって失礼だと思ったからガンジさんの持ってたレジ袋からお酒を勝手にとって次々と飲み始めた。ガンジさんはそれを見てようやく笑ってくれた。

そのままお酒でベロベロになった二人で生放送をやり、コイツら付き合ってるのか疑惑が出て二人して炎上。ガンジさんはとっくに引退してたからほぼ無害だったけど私からするとワケのわからないアンチが増えて、次第に面倒になったこともあって生放送をやめた。理由の一つってやつ。

ガンジさんを家に入れた次の日の朝、恥ずかしくなった私は馬の被り物をして記憶の残っていないガンジさんに「荷物を持ってここからすぐさま立ち去れぃ!!」と追い出した。

ガンジさんとは違って私の記憶はうまく消えてくれなかった。ガンジさんに憧れてこの世界に入った私からすると、もうガンジさんにとってこの場所は良くない場所なんだろうなってことがわかった瞬間、配信への意欲が減衰した。
もういいやぁって生をやめる宣言したタイミングでVtuberになりませんかという誘いを受け、「ニッチなことやってんな〜、その意気やよし」という思いから承諾。結局私は配信という世界から抜け出すことができないロクデナシで唯一抜け出せるものがあるとすればそれはナツメという名前だった、というだけのこと。
それにしてもVという産業が思っていた以上の広がりを見せ始めて、「うっそ〜ん」って思ったり私のチャンネルが100万超えたり、世の中よくわからないことだらけだ。


最近ガンジさんの生の頻度がちょっとだけ上がった気がする。ガンジさんにいいことがあったのかなかったのか。何が原因か知らないけど、ガンジにはがんばってほしいなって強く思う。

「あ、そうだ!」

私はナツメのほうでするツイの内容を決めた。




「TS残せくそ配信者」
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