享楽、懊悩。メンヘラおじさん   作:ちりぬる男

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隣に住んでる人 ✳︎

「今日の朝ゴミ出しに行ってさぁ……。人と出くわしちゃったんだけど、あれなんだったんだろうな。なんかじろじろ見られちゃって、軽いホラーだったよ」

 

身バレ?  チャック開いてた?   ちゃんとズボン履いてた?? で? お前の身バレは需要ない  露出癖があるのか で?

 

「お前たちの中の俺ってどんだけ破天荒なやつなんだよ。……身バレしてもダメージゼロなのは確かだけどな。あ、ちなみにズボン履いてたし、上も着てた。マスクしててあんまり俺のご尊顔も奴らには曝け出してなかったから、うっわ、あいつブッさ!!って内心罵られてはないと思う。さぁ謎を解き明かしてくれ探偵たち」

 

探偵たち(無能15人)     情報が少ない  やっぱりあのときのオッサンがガンジだったんだね

 

「まさかあのときのねえちゃんがこの配信に?!あ、隣のガンジです、よろしく」

 

身バレしてんじゃん  女だったのか   隣?   隣人?

 

「あー?ま、たしか隣の部屋に住んでる人だった気がするってだけ。だいぶ前に隣の部屋に入ってくの見た気がするし」

 

露出の次はストーキングかぁ   特殊性癖役満   トゥンク……!   ラブコメ  ラブキメ

 

「うるせぇ!役満、大三元だ!!」

 

大惨事!!(出頭待ち)     青一色!!(ガンジの顔が)

 

「大惨事だとか青一色だとか……。ぶふっ。ちょっと!コメ滑ってるよ〜!!!!」

 

うるさ   ねえ   うるせえバカ    ねえ   黙って  お前の返しも下手だった

 

「はぁ??!少なくともお前らには負けてないぞ!怒ったからコンビニ行って酒買ってくるわ。じゃあな、これで配信終わりだ、ばぁか!!」

 

[この番組は終了しました]

 

 

 

というわけで有言実行すべく、俺は今コンビニ目掛けて家を出るところだった。売り言葉に買い言葉でまさかコンビニ行きを宣言してしまうなんて自分で自分を信じられなかった。けれど言ってしまった事実を変えることなんてできないしせめてもの償いにストゼロを買うほかなかった。

明日は休みなので、もう日付が変わる頃ではあるけど寝酒しながらぼーっと時間を過ごすのも悪くはない。うん、悪くないどころかずいぶんよさそうに思えてきた。

若干の陽気さを携えたまま勢いをつけて鈍色の薄汚れたドアを開け、鍵を回してドアノブを軽く引っ張ってちゃんと閉めたことを確認。その後、ズボンのポケットに入れた。

 

「よしよし、財布も忘れてないな?」

 

尻のポケットに入れはずの長財布を一応手で叩いて確かめつつエレベーターを待っていると、足音。背後から気配を感じる。

うわぁ、こんな時間帯なのにエレベーターでかち合っちゃって気まずいなぁ。

エレベーターがようやく現在階に着いた頃には背後の誰かさんは俺の後ろ1メートルくらい後ろで立ち止まっているようで、これから始まるだろうエレベーター内での沈黙の十数秒を覚悟した。

別に不思議なことでもないけど俺がエレベーターに入るとその人も続くようにエレベーターに入ってきた。

なんとなく顔を合わせるのを忌避してしまい右手に常備していたスマホに目を向けた。あなたには興味ありませんよアピールによって誠実さを見せつけるという大学の電車通学のときも多用していたスキルだった。

 

チラッと目線がバレないように気をつけて誰がいるのかを見てみると件のゴミ出し場のときの女性だった。その人も俺と同じようにスマホに目を向けており、同じような目線の動きのもとで目が合った。お互いにやばいと思ったのだろう、目をよそに向けようとしたのだけど、背けた先が2人とも鏡で、鏡越しにも目が合ってしまった。

俺は頭を抱えそうになったが向こうはそうじゃなかったらしく、かえって覚悟を決め、朝の怪訝な表情を朝以上の忌憚なさでぶつけてくる。つうっと背筋を伝うものがあった。謂れのない悪意を直接ぶつけられるというのは気持ちのいいもんじゃない。

何ですか?と。何が目的なんだ?と。俺は聞くべきなんだろう。しかし口を開きかけて、エレベーターに『1階です』という到着アナウンスが響いて、やめた。

今度は先に出た女の人を俺が追うような形で密室から解放される、という想像をしていたのだが、前を歩く女がエレベーターを出た瞬間くるっと振り返った。

 

「あの!」

 

エマージェンシー!!エマージェンシー!!脳内の赤いランプが明滅を繰り返す。緊急事態を告げるアナウンスがけたたましく哮り正気を塗りつぶし始めていた。

わずかに残された冷静であるところの自分がついに謎が犯人自身によって種明かしされるときが来たのだと分析していた。真実は、いかに。俺はゴクリと、エレベーターにこだまするかと錯覚するほどの大きな音を立てて唾を飲み込んだ。

 

「夜中なのに大声出されて迷惑なので、もうちょっと気をつけてください!!」

 

呆気なかった。

それだけ言って、彼女は駆け出していった。呆然とした俺のことが見えていないのかエレベーターはまだ出もしていないのに閉まってしまった。

 

しばらくして再起動した俺は2階にいて、乗り込んできた2階の住民とともに再び地上に降り立った。そいつも怪訝な表情を俺に向けていたけど理由のわかる暴力は理由不明のそれよりも幾分優しかった。

 

 

 

そして、俺は明日も生放送をすることに決めたのだった。




ちなみに行った先のコンビニでも出くわしてしまい、もっと気まずくなったのは言うまでもないことだろう。コンビニの、もう寒くなり始めているにもかかわらず冷房をなんでか吹かせてくることに疑問を抱きながらも、再び背中の汗腺からじわじわと滲み出す汁を感じていた。
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