はじまりの個性   作:蒼三日月

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温めたネタを元に勢いで書きあげました

初投稿ですのでどうぞ宜しく


入学試験

 

 

 その日、耳郎響香は不思議な男を見た。

 

 

 雄英高校ヒーロー科の実技試験、今まさにそれが始まろうとしている時に、試験に備えてストレッチをしたり緊張をほぐす者の中にただ一人だけ、男は両手を上着のポケットに突っ込んで悠然と立っていた。

緊張のし過ぎでろくに動けないのだろうと初めは思った。しかし男は震えたり呆然とするどころか、非常にリラックスした状態で顔には笑みさえ浮かべている。緊張しいでは無さそうだ。

 

 

 どうしたらそんな自信ありげな表情ができるのか耳郎は気になった。そこで、自分の緊張を和らげるためにも彼女は思い切って彼に声を掛けることにしたのだ。

 

 

「ねえ、あんた」

 

「俺か?どうした?」

 

 

 振り向いた男は黒髪に紅眼、端正な彫りの深い顔立ちをしていた。身長は150cm前後の耳郎が見上げるほどに高く、到底中学校を卒業したばかりとは思えないほどの身体つきと異様な雰囲気を纏っている。少年、と言うよりかは青年と呼ぶほうが相応しいように思える外見だ。

 

 

「お節介かもしれないけどさ。あんた、身体をほぐしておいた方が良いよ。いつでも動けるようにさ」

 

「何、必要ない」

 

 

 せっかく勇気を出して忠告したのに、この男、一言でばっさり切り捨てやがった。ちょっとばかしカチンときた耳郎は、皮肉を込めて思っていたことを口に出した。

 

 

「あんたさ、随分と自信たっぷりだね。なに?もしかして受かる気満々なカンジ?」

 

「当然だ。俺が受かるのは既に決まったようなものだからな」

 

「はあーっ?」

 

 

 その言葉は耳郎のみならず、周囲にいた受験生達の反感を買った。当然と言えば当然である。緊張感漂うこの場で合格宣言をするこの男はとっても傲慢なのかはたまた空気の読めない大馬鹿者なのか。デリカシーが無いとも言う。しかも男はそれを堂々と言い切った。その清々しいまでの傲慢さが余計に耳郎の腹を立てた。

 

 訂正しよう。耳郎の中でこの男の評価は『不思議な男』から『いけ好かない野郎』へと降格した。

 

 

 とりあえずこのデリカシー皆無野郎に何か物の一つも言ってやらないとと耳郎が口を開いたその時、

 

 

『ハイ、スタート〜』

 

 

「また後でな」

 

 

 気の抜けるよな実技試験開始の合図と、声だけを残して姿を消した男の声が同時に響いた。

 

 

「ーーーーーーえ?」

 

 

 言葉の意味を理解するのに数秒、耳郎は我に返った他の受験生と共に慌ててスタートラインを飛び出した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 金色の光を全身に纏い、凄まじい勢いで空をかっ飛ぶ男が一人。先ほど合格宣言をぶちかまし、他の受験生のヘイトを集めまくった男その人だった。

 

 

『標的発見。排除シマス』

 

 

 迫り来る、いやこの場合は男自ら迫りに行っているのだ、仮想敵ロボットまで一瞬で距離を詰めた男は拳を固く握りしめ、突進の勢いも上乗せしたパンチをロボットに叩きつけた。途端にロボットが粉々に消し飛ぶ。拳撃の余波で、周囲の地面が抉れ、延長線上のビルのショーウィンドウが砕け散った。

 

 

「うわ、何だあのパンチ!破壊力やべえ!」

 

「ふむ。存外に脆いな。手加減が必要か」

 

 

 度肝を抜かれる他の受験生をよそに、男は一言呟いたのち地面を蹴って再び飛び上がり、2体目の仮想敵に接近、その頭部の真上に拳骨を落とした。今度は周囲への被害は抑えられたが、それでもロボットはスクラップにでもされるかのようにぺしゃんこに潰されていた。

 

 

 男はいびつな鉄板にでもなったかのようなその残骸を拾い上げ、力いっぱい投擲する。男の手から離れるその瞬間、男の体を包んでいたものと同じ金色の光が残骸を覆った。直後、残骸はまるで意思を持ったかのような軌道で宙を舞い、奥にいるロボットを次々に破壊していく。その様子を見た受験生達は焦燥に駆られ、我先にロボットを探さんと四方八方へ駆け出していった。

 

 

 その様を少しも、というか全く意に介せず、男はふわりと上空へ浮かび上がって受験会場を見下ろす。入り組んだ路地や所々にある拓けた場所では、既に他の受験生たちがロボットとの戦闘を始めたところだ。

 

 

「ふむ。手前の大通りと西側の広場、それから最奥の方に固まって群れているな。よし」

 

「【収束せよ】」

 

 

 男は左手を上に掲げる。街灯の【光】が、ビルの【照明】が、壊されたロボットが散らす【火花】が、そして太陽の【光】が。     

 辺りに存在する光源が放つ“光”が呼び寄せられ、彼の左手に収束されていく。

 

 

「こんなものでいいだろう。行け」

 

 

 瞬間、男の左手から幾十本もの光線が放たれた。それらは四方八方へ分散し、建造物を越え、路地裏を潜り抜け、直進し、曲がり、標的と定められたロボットの群れを破壊し、貫き、消し炭にしていく。突然出現した光線に自分たちの獲物(ポイント)を根こそぎ奪われたことに受験生たちは大いに戸惑い、混乱した。しかし、男はそんな様子も気に留めることもなく、虚空に向かってにかっと好戦的に笑う。

 

 

「さて、残りの雑魚を片付けるか」

 

 

 再び、声だけを残して男の姿がかき消えた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「262ポイント」

 

 

 上段回し蹴りの一撃、純粋な身体能力に“個性”を上乗せした力で大型の仮想敵を真っ二つに引き裂く。男はその残骸を蹴りつけ、地面スレッスレに直進する。彼の延長線上にいた仮想敵はすれ違いざまに全ての首を引きちぎられ、爆発四散する。その様を確認し、男は尚笑った顔を浮かべる。

 

 

「297ポイント」

 

 

 あまりの苛烈さに恐れをなしたのか仮想敵たちが逃走を図る。だが、それすらも許さないかのように男の乱れ打つ光線が鈍重な機械体に追い縋り(ことごと)くを焼き尽くしていく。

 

 

「ば、化け物だ……」

 

 目の前で繰り広げられる蹂躙劇に多くの受験生は恐れをなし、戦意を喪失した者さえ現れた。

 

 

 しかし、試験はまだ終わりではない。

今まさに雄英の教師たちによって、圧倒的に強大な敵に立ち向かう英雄(ヒーロー)が篩にかけられようとしていた。

 

 

 

 

 

 ドォォォォォン……

 

 

「何だこの音?爆発でも起こったのか」

 

 一体のロボットの首を引きちぎりながら男は音の発生源へ目を向ける。並び立つ高層ビル郡の奥から何かを破壊するような爆音と砂煙が立ち込めているそして砂煙の中から、巨大なロボットがその姿を露わにする。

 

 

「(ああ、事前の説明にあった0ポイントの巨大敵か。この際無視しても構わなーーーん?)

おい、どこへ行く」

 

 

 恐怖のあまり我先に逃げ出す受験生達とは逆方向へ、まるであの巨大なロボットに立ち向かうかのように駆ける一人の受験生がいた。男はそれを襟首を掴むことで引き止めた。息が詰まったその受験生は、後ろにひっくり返ってゲホゲホとむせ返った。

 

 

「む。よく見たら先程の女ではないか」

 

「げほおっ…っげ、さっきの傲慢男!何すんのよ!」

 

 

 男に引き止められた受験生の女子は、振り向いて男の顔を視認すると警戒心を露わに耳たぶのプラグを構えた。

 

 

「それはこっちの台詞だ。お前、アレに潰されて死にたいのか?俺の暴れっぷりを見て戦意喪失した者がいたのは知っていたが、よもや死ぬまで追い詰められていたとは。やめておけ、碌な死に方が出来ないぞ」

 

「はあ?……はあ!?違うし!ウチはあそこの逃げ遅れた子を助けようとしただけだっての!!」

 

 

 女、もとい耳郎が指差す方向を見ると、なるほど確かに瓦礫に身を挟まれて動けなくなっている一人の受験生がいた。

 

 

 それにしても。

 『助ける』、と耳郎は口にした。()()()()()男は、耳郎を試すような質問をする。耳郎という人間の本質を見定めるために。

 

 

「しかし、それでも助けに行けばお前もあの者同様に潰されるかもしれんぞ?」

 

「でも、何もしないよりかずっと良いじゃん。やらなくて後悔するよりか、やって後悔するほうが何倍もマシだし。それに目の前で人が傷ついていくのは、なんというか、その、夢見が悪いし…」

 

 

 言っていることに恥ずかしさを覚えたのか語尾になるにつれて尻すぼみになっていく耳郎を見て、男は口角を吊り上げる。ああ、こいつもしっかり()()()()()()

 

 

「くっ、くははははははははっ!!」

 

「な、何よアンタ……!」

 

 

 突然笑い出した男を見て、ギョッとした耳郎。若干引いた。それにも構わず、男は魔王のような高笑いをする。

 

 

「ははははっ、そうかそうか!お前もしっかり《ヒーロー》だな!名前を聞いておこうか!」

 

「はあ…?耳郎響香。耳郎って呼んで」

 

「そうか。光 王龍(コウ ワンロン)だ。好きに呼ぶといい」

 

 それと耳郎、と王龍は付け加える

 

「あの鉄塊の相手は俺がしよう、その隙に一人でも十人でも助けるといい」

 

「十人もいねーよ!てか、アンタ一人でアレをどうにかする気⁉︎むちゃだっーーー」

 

 

 言いながら耳郎はこれまでの王龍の戦闘を思い返す。光の如き超スピードでフィールドを縦横無尽に駆け抜け、たったの一撃でロボットを潰して回り、自在な軌道のビームを滅茶苦茶な軌道で撃ちまくるこの男が、巨大ロボットをどうにかできるなどーーーー

 

 

 いや、『勢い余って倒してしまったフハハ』とか言いそうなんだけど。会ってから十数分しか経ってないのに、こいつならやりかねないという確信めいたものが耳郎の中にはあった。

 

 

 

 

「終わったぞ」

 

 

 

 

 だからこの言葉を急に言われた時は訳が分からなかった。一瞬試験のことだと勘違いしてしまうくらい自然に言われたように感じた。しかし周りの状況や、何より一仕事終えた風の王龍の様子を見て、悟ってしまった。

 

 

「まさかアンタ、あのデカいやつの相手を『終わった』って言ったの⁉︎」

 

「そうだ」

 

「はあああっっっ……⁉︎ マジで⁉︎ あ、あっ、ありえないし!そんな一瞬で片付けるなんてっ」

 

「本当にそう思うか?」

 

 

 王龍が指をパチンと鳴らすと同時に、20mを超える巨体に拳で貫いたような穴が一斉に開いた。脚部の関節からは何かの部品が弾けるように砕け散り、唖然とする耳郎の視界で巨大仮想敵はみるみる内に崩れ落ちていく。

 

 

 

「…ふむ、時間を稼ぐまでもなかったな」

 

「アンタねえ…」

 

「それより、あいつを助けにいかなくていいのか?」

 

「誰のせいだと思って…ああもう!」

 

 

 

 耳郎は半ばヤケクソになりながらずっと放置されていた受験生の元に駆け寄り、そして肩を貸しながら歩いて戻ってきた。その受験生の足は、瓦礫で傷ついたのか、ざっくりと割れて大量の血を流していた。

 

「早く、止血しないと!あ、でもまず消毒か、消毒液は…」

 

「まあ待て耳郎」

 

 

 ごそごそと持っていた自分のポーチの中を探す耳郎を止め、王龍は手を受験生の患部にかざした。

 

 

 

 

「【光あれ】」

 

 

 

 

 王龍の手から春の陽射しのような暖かい光が溢れる。するとどういう訳か、脚の傷口があっという間に塞がった。耳郎は本日何度目か分からない目を剥いて卒倒しそうになった。

 

「あ、アンタ回復も出来るの⁉︎」

 

「まあな。耳郎も怪我は無いか?」

 

「無いし。(…やべえとんだチート個性じゃん)」ボソッ

 

「何か言ったか?」

 

「何も言ってないし。それより、ポイント稼がないとーーー」

 

 

 

『終〜了〜〜!!!』

 

 

 その時、タイミングよく(?)試験終了の合図が響き渡った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ーーーーー敵ポイント77点、救助ポイント0点!以上をもって爆豪勝己の採点を終了する」

 

「次はこの子だね。まー、色々な意味でやってくれた受験生だよ」

 

 雄英校舎内では教師達がヒーロー科の受験生一人ひとりの採点を行なっていた。

 室内の大型スクリーンには今年の受験生の中で人一倍教師の話題をさらっていった一人の受験生の戦闘映像と、顔写真が大きく映し出される。

 

「すげえスピードで動いたり、超パワーでロボット倒したり、ビーム撃ったり、回復もできてコイツなんでも出来るなオイ!」

 

「敵ポイントだけでも328ポイント。過去最高記録とは言え、会場内に配置されていたほとんどの仮想敵を独占した形だな」

 

「ソウナルト、他ノ受験生ガ不憫ニ思ワレル。中ニハ絶望感ヲ味ワッタ者モイルト聞クガ」

 

「確かにあの会場にいた子は可哀想さね。なんたって一人を除いて皆合格圏外になっちまったもの」

 

 教師たちは揃ってスクリーンに映る顔写真を見る。どこか自信げな表情の下の名前欄には『光 王龍(コウ ワンロン)』と記されている

 

 

 

「この子…中国人ね。留学生かしら」

 

「そのようだね。しかし《光》の姓を持つ彼は…そうか、そういうことか」

 

「校長先生、何かご存知で?」

 

 一人で勝手に納得し出したネズミ大の校長にスナイプが問う。

 

 

「では逆にみんなに聞こう。中国の生まれで《(コウ)》の苗字を持つ、光を操る個性の人物。これらの条件から思い浮かぶことはあるんじゃないかい?」

 

 

 

 

 

「……なるほど、『()()()()()()』ですか」

 

 

 

 

 

 それまで一切喋らなかったイレイザーヘッドが口を開いたことで、反射的にその場の全員が彼の方を振り返る。

 

 

「なあイレイザー、その『始まりの赤子』ってなんだっけ?」

 

「あのなあマイク、だからあれほど超常近代史はやっておけって言っただろう。はあ」

 

 プレゼントマイクに説明を促されるまま、話し出すイレイザー

 

 

 

「異能、今で言う『個性』を最初に発現させたのが中国の軽慶市で生まれた『全身が発光する赤ん坊』。この赤ん坊こそが後の“光一族”の初代当主でもある。この光王龍はその子孫で跡取り息子ってことだ。そうでしょう校長先生」

 

 

「そう、相澤くんの言う通りだ。ここまで来ればみんなもわかると思うけど、光一族は代々光にまつわる個性を持つ人間を世に出してきた一家だよ。いやはや、光一族から日本への留学生が来るという話は聞いていたが、これで合点がいったよ」

 

 

「どこでそんな話聞いたんですか」

 

「雄英の校長ならではの人脈というやつさ!人脈が広いほど様々な話が耳に飛び込んでくるのさ!」

 

 

 hahahaと笑ってお茶を濁す校長に肩をすくめ、イレイザーヘッドこと相澤はモニターに映る戦闘(蹂躙劇とも言う)を眺めて呟く。

 

 

「しかし(コウ)の系譜の者か。道理で同年代の人間より頭一つ分抜け出した個性(ちから)だ。まあ、世代が世代だからな、そういうこともあるだろう」

 

 

「世代…?あの子も第五世代じゃないんですか先輩?」

 

 

 個性を持って生まれる人間には、それぞれ世代という区分に分けられる。耳郎や爆豪たちの年代の子供は、ちょうど第五世代とされている。

 世代が深まるほど、それに伴い『個性』も色濃く深化して、出力も多様性も前の世代より上がるとされている。そういう違いをわかりやすく認識するために、人々は自分たちを『世代』に割り振るのだ。

 

 

 

 『頭一つ分抜け出した』と言いながら、『世代が世代だからな』と言っている。それではまるで、()()()()()()()()()()()()()物言いだ。先輩教師の迂遠な言い回しに13号はたまらず疑問を呈した。

 

 

 

「光一族初代当主は世界で最初に個性を発現させた人物だ。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「そう!そのため彼は同年代の子供たちと同じ世代には当てはまらないのさ」

 

 

「では彼は、(コウ)さんは一体何世代なのでしょうか?」

 

 

 相澤の言葉を校長が継いで話し、一旦話を区切って周りの教師を見渡す

 

 

 

 

「そうだね、彼は、確かーーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 光一族。代々“光を操る”強個性の持ち主を世界に輩出してきた歴史ある一家。

 

 

 彼らは常に、()()()()()()を走ってきた。

 

 

 

 

 

 そして現在の子孫、光王龍は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーー第七世代だよ」

 

 

 

 

 

 

 





光 王龍
『始まりの赤子』の末裔にして光一族の現当主

個性:光
光にまつわることなら大体何でもできるぞ!



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