〈ユウキ〉
プリコネの主人公のデフォネーム。
ゲーム開始時に陥る記憶喪失のせいで精神年齢が幼く、ヒロイン達からもプレイヤーからも赤ちゃん呼ばわりされている。
〈クロエ〉
プリコネに登場するヒロインの一人。金髪ツインテのダウナーエルフ少女。
口は悪いがなんだかんだ優しい女の子。三人の弟がいるお姉ちゃん。
あざとい。毒婦。と散々な言われようだが実際ただの萌えキャラなので仕方がない。
…………む。
さっきも同じような光景を見たな……。
もしかして迷ったのだろうか?
物珍しくて一人で出て来たが、やはり都会は同じような建物が続いて分かりにくいな。やっぱりタマについて来てもらった方がよかったか?
いや、ランドソルは城塞都市だから分かりにくいだけだろう。こういう町は攻め入られた時に、敵を混乱させて惑わせたりする工夫が凝らされていると授業で学んだからな。
もう一度歩いてみてダメだったらさすがに一旦帰るべきだろうか。サレンディア救護院という所でクリークが手伝いをしているそうだから、いざとなったら頼ろう。
さっきはこっちの道に行ったから今度はこの道に……
…………⏱…………
……また戻って来たのか?
それとも同じような見た目の所に来たか?
いや、あの店はさっきも見たからな……焼きたてのクレープの香り、間違いない。
食べていきたいが日本と違ってトゥインクルシリーズが無くて収入がないから、困ったな……。
「どうしたの?」
それにこちらは魔物と言う生き物がいて、荷馬車を襲ったりして流通に影響しているらしい。そのぶん食費が高くつくそうだ……港町に居た時は食べ物の心配はなかったから、そこは良かったな。
「もしもし」
ん? もしかして私に話しかけているか?
いや、すまない。こちらには来たばかりでな。こっちに知り合いはいないから私の向こうにいる誰かに声をかけているのかと思ったんだ。
「困ってそうだったから」
そんな顔していただろうか。ああ、いや、迷惑という訳じゃない。困っていたのは本当だから、助かる。
それで……君はいわゆる騎士という者だろうか? 本や映画でしか見た事のない恰好をしているが。
「ユウキです」
ゆうき……すまない、この国ではそう言うのか?
……なに? 君の名前?
そうだったのか。重ねてすまない。タマが……私の友達がいたら『分かるやろ!』とツッコまれそうな事を言ってしまった。
私は日本という国から、最近このランドソルに来たばかりなものだから。こちらの事情にはまだまだ疎くて、知らない事だらけで呆れるだろう?
ここには一応仕事のつもりで来たんだが、どうも上手くいってないみたいで、軌道に乗るまではこの国に滞在するつもりだ。
騎士の君にはよそ者が増えて面倒をかけるかもしれないが、よろしく頼む。
「騎士じゃない」
何? 君は騎士じゃないのか? そんな甲冑にマントまで纏っておいて?
こちらのファッションという事だろうか。……こんな事ならタマと同期のゴールドシチーに世界のファッション史について聞いておくべきだったな。
「それで、何で困ってたの?」
ああ、そうだったな。実はこれからお世話になる学校があって下見でもしようかと思っていたんだが、都会は分かりづらいからな、どうも同じような所を回っているようで困っていたんだ。
「どこに行きたいの?」
聖テレサ女学院という所だ。
「ぷー……暇すぎて草超えて芝生い茂るわ」
古着屋のレジカウンターに頬杖を突きながらふっと、というよりもぷーっといった感じでうちは退屈を吐き出した。
あまりお行儀は良くないかもしれないけど、だって仕方なくない? メチャ暇なんだからさ。……いやホントに暇だな。かつてこんな暇だったことないくらいに暇だわ。
フツー休日ってなったらもっと服とか見に来ない? 別に買わなくてもいいからさ。それか迷子になって訪ねてくるとか。……今の特定の一個人を指し過ぎてんな。
「暇そうねクロエちゃん」
とかなんとか下らない事考えてたら店長が話しかけて来た。くるっと毛先を丸め気味に遊ばせて、派手派手なコートに身を包んだ個性派ファッションおじさん。見た目は“いかにも”だけど、うちの事情をほんのりと察してグチグチ言わずに雇ってくれてる所は感謝してる。
「そんなの店長が一番分かってますよね? 見てくださいよこの商品の陳列棚。暇すぎて整えまくったせいで鬼ピシッとしてますよ。角九十度っすよ」
「確かに新装開店したときの商品棚を思い出させるわ」
「急に自慢。いや自虐? まーいいじゃないすか。それだけ今までは忙しかったって事で。つっても中央通りの服屋とかみると寂しめな感じは否めなな感じですけど」
「ふうん」
「いや、良い意味ですから。ああいうゴチャついたの苦手系女子もけっこういがちっすから」
「クロエちゃん今日はもう上がりなさい」
「つよつよパワハラ振るわれてンすけどうち。やば。いやちょっとホント、口が過ぎましたサーセン。いや、すみませんでした」
「はあ? ……ああ、別に怒ってる訳じゃないわよ。ただ暇ならちょっと外に出て荷物を届けて欲しくてね。そこからまた店に戻ってくるのも手間でしょ? 届けたら直帰していいっていう話」
「あ、そーいう。何だうち軽口と共にお財布まで軽くなるのかと」
「クロエちゃんの口が悪いのは今に始まった事じゃないからね。そういう物と思ってアタシも受け入れてるわ」
「器でけー」
でけーのか、それか割れて垂れ流してっから無限に受け止められてンのか知んないけど。
「という訳でこの箱持って行ってちょうだい」
「いいすけど。何入ってるんすか」
「詮索は感心しないわね。けどいいでしょう。お客様が仕事で地方に行った子供のために、服の詰め合わせを送ってあげるそうよ」
「えフツーにいい話じゃん。……ん? ……いやいい話なんだけどそれで服送るってどうよ。母親セレクトの服は中学に上がる前に卒業しとかなきゃダメじゃん。センス二十年ずれ子ちゃんとして職場でヒソやかれても知んないけど。職場の服装マウントまでうちら面倒見れませんから」
「この服はそんなセンスとか通り越してるから大丈夫よ」
「店長センスでそれ言われるとすげー不安すね」
「シルバーじゃらじゃら付いた黒のロングコートだから」
「えっ! あの店内の一番奥に封印された裾ひらひらで袖ゴテゴテなあのロングコート……!」
「お子さんは職場で黒衣の
「でゅ……デュアルファング……! ふーん……、いいじゃん。……てか、いいじゃん」
「頼まれてちょうだいね。この紙持って一番近くの門の配達所に行けば分かるから」
「まあそれは、全然。いいすけど」
全然いいどころかむしろ楽勝? 時間分の給与が減るじゃんとかそんな事を思わないでもないけど。
「ちゃちゃっと終わらせますかぁ」
一息気合を入れて箱を持ち上げる……いや意外と重いなこれ。シルバーとかでジャラつき過ぎなんだよなあ。
「はい。では荷物の方承りました」
いや終わったわ。秒で終わったわ。秒で用事終わらされて
「どーすっかな」
今日は勤労少女クロエちゃんのつもりで予定立ててたから、これからの方向性が迷子っていうか。ここいつもの所からそこそこ離れてるから遊ぶにしても詳しくないんだよね。
帰って弟達の相手でも……つって、確かどっかに遊びに行くとか言ってたっけ。
ぷー……。しゃーない。ここらでちょっとブラついてみるかな。
外からの出入りが激しいここらは、中心街とは違った賑わいでバタバタしてる。余所の街から荷物を持って来た馬車でゴチャついて、馬がヒヒーンっつってもお構いなしの商売っ気のある熱気的な? そんな感じで溢れてた。
お、あのにーちゃん配達のバイトした時にうちをあいつの班に振り分けた人じゃん。そういえば最近あいつご無沙汰くない? 迷子になってうちのバイト先に飛び込んできたりしないし。
今日ここら辺で仕事してんのかな。
……いやいや、なんで今『ちょっと探してみようか』みたいな事思ったうち。久しぶりに会いたいめんどい彼女じゃん。会えない時こそアレがソレしてどうこうじゃん。きも。
そういうあれちゃーくて、ただいっつもピュア散らかしてるあいつが心配ってか。いちおギル活の面子だし……
「こんにちは」
「ひひゃあああ!」
「びっ……くりした……。あー、あんたか。てかいっつも言ってるけど急に声かけてくんなって分かんない? びっくりしてウマついた声でちゃったじゃん。経済動物の悲しい嘶きだったじゃん」
うちをウマつかせた『こんにちは』の声はさっきまで考えていたあいつの……ユウキの物だった。同い歳のはずなのに、丸い目の光が二桁にいってない弟達の目に宿っているのと同じピュアい感じで、なんかやたらと気になる男の子。……気になるっても違うから。
「で、今日はなに……いや別に怒ってないから。もうしない? ……はあ。だーら別に怒ってないって言ってンじゃん。今まで散々萌えキャラみたいな声上げさせといて何でここに来て殊勝になんの。友達に声かけるのに遠慮とかいらんから。……ん。そうしとき」
うちが突然声をかけられた事に怒ってるのかと思ったユウキが、シュンと素直に落ち込んでるの見るとさあ、なーんか許してあげたくなるんだよね。こういうの何? 母性本能ってやつ? つーか付き合った事すらないのに母とか。ウケる。バブみじゃん。ユニパイセンが爆釣じゃん。
「それで今日どした? 配達のバイトか何か?」
「困ってる子がいたから道案内してた」
「え、マジで言ってンの? 迷子クラスの皆勤賞みたいな迷子のくせして他の人案内できんの。……いやそんな悲しそうな顔すんなし。別に悪いとは言ってないから。むしろ心意気は立派だから。優しさ失われがちな現代社会に警鐘を鳴らす勇気ある若者だから。勇気のあるユウキってか。やかましいわ」
いい奴なのは間違いないんだけどね。ちょっと独特な感性の持ち主というか。ふわっとした自分の持ち主というか。具体的に言うと記憶喪失のせいで精神年齢五歳というか。
「それで、その困った子を送り届けた後な感じ? どこ行ったの。てか行けたの」
「テレサ女学院に行くところ」
「テレ女は五芒星の形したランドソル(☆)の上のとんがりで今いるの右下のとんがりだけど。……え、行くところっつった? その困ってる子連れまわしてたの? ていうか、してんの?」
「なかよしになった」
「いや聞いてないし。え、え、ちょっとまって意味わかんない。何でそんな充実感に満ちた顔が出来るの。目的は達成出来なかったけど仲良くなれたからオッケーですってならないから。その子見当たらないって事は怒って別の人の所行ったンじゃないの?」
「私の事か?」
「いやいるんかい。しかもこの声、また女子トモ増やして……」
こいつの友情遍歴ドソル編が女子に偏っているのは今に始まった事じゃないけど。しかも全員美人。
今度はどういうタイプの美人を……
「すまない。別に怒って黙っていたとかではなくて、仲が良さそうに見えたから黙っていたんだ」
そこにいたのはマジで頭抜けて美人の女の子だった。頭の上にある耳から獣人族って事が一目でわかる。
少し灰色気味の銀髪が腰の辺りまで伸びていて、耳の間の髪だけ少し黒い不思議な髪色をしていた。額の辺りにひし形が並んだカチューシャを着けていて、奇抜っぽいアクセだけどそれに負けてない顔立ちが嫌味なく体に乗っかっている。
「ん? ……私の顔に何かついてるのか?」
そう言ってちょっと不思議そうにうちを見つめてくる目の色は、青みがかった灰色でハンパじゃなく綺麗だった。彩度高すぎな。何なら虹色に光ってるんだけど。
しかもすらりと真っすぐな鼻筋に、心持ちへの字に閉じた口元が、瞳の色味と相まってクールで可愛い顔を演出しているし……。
いやちょっと待って。ヤバくない?
顔が良い。ただシンプルに顔が良い。七兆点。優勝。
「クロエちゃん?」
「ほんとあんたいい加減にしなよ?」
しかし凄いな女子に対しての人脈のエグさ。ここまで来ると人知を超えた何かを疑わざるを得ないんですけど。
「どういう事……?」
ユウキの首根っこ引っ掴まえて聞いて問い詰めてみるけど、返ってきたのはこいつのピュアい疑問の目だけだった。
……そうなんだよね。ユウキからすれば、困ってそうな人を助けようと思っただけなんだよね。
「あー、いや、何でもない」
こいつが他人に対して分け隔てなく優しいのは昨日今日の事じゃないし、それにうちも助けられたから、文句を言うのもナシでしょって話だけど。それにあの子だって親切な人が助けてくれたと思ってたら、いきなり物騒な顔した女が出て来て絡んでくるとか100困惑でしょ。いや誰が物騒だよ。ピュアだわ。100ピュアだわ。
とりあえず掴んだ首根っこを離して後ろにいる顔良少女の方をもっぺん見た。
あー……ほらやっぱポッカーンとしてンじゃん。この前チエルと街歩いてる時あいつの知り合いが急に話しかけて来てポッカーンしてたうちと同じ顔してンじゃん。
「悪いね、おねーさん。急に変な感じにしてさ」
なんか知んないけど軽く見られがちな、けどうちなりに謝意を籠めて銀髪のおねーさんに声をかけると、『ふむ』って感じで真っすぐ見られた。
やば。謎に緊張する。ミフユ姉さんを前にした時くらい緊張する。
「うん。仲が良さそうで何よりだ」
「いや呑気か」
何で言いがかりみたいな絡み目の前で見てその感想なの。呑気か。鈍感か。それか何でも鷹揚に頷いちゃう懐深い系女子なのか。
「今の会話の流れ見てどうしてそんな……いやあんたも喜ぶなし。え? 嫌なのって……そんな事言ってないじゃん。別に……その……なんだ、うちとユウキはけっこー色んな事してきた訳じゃん。そんなの仲が良くない奴とするほどうちもお人好しじゃないからさ。え? クロエちゃんは優しい? はあ。そうなんだ。ふーん……。きも」
「うん。やはり二人は仲が良いんだな。そういう人がいると自分の力になるからいい事だ。私も故郷で応援してくれているトメさんやシゲさんの事を思い出す」
あっ、もしかしてこの子、感性が独特な感じ? 天然?
「海の向こうの皆の為にも、早くこの地でもトゥインクルシリーズが出来るよう努力しないとな。まずは一歩目としてテレサ女学院に向かわないと」
「案内するよ!」
「ユウキ……頼もしい言葉だ。では案内を頼めるだろうか」
「もちろん」
「いやいや。何いい感じの話で締めて次の流れ行こうとしてんの。違うじゃん。うちに話しかけた事ガン無視だし。何より違うじゃん、道が」
「「?」」
「『?』じゃねーし。小首傾げやめな。可愛いかよ。何で真っすぐな足取りでランドソルから出ようとしてんの。そこにテレ女は無いンですけど」
焦るわー。歩きだしたと思ったら真っすぐ門の向こうに足向けてんだもん。こいつの迷子の才能ナメてたわ。
「しかし大外ぶん回しは力があるならゴールに向かうのに有効な戦略だ」
「街の反対側行きたいからって城壁の外ぶん回す人初めて見たわ」
何の話してるのこのねーさん。やっぱりアレか? 面白い子か? メタクソ美人のくせにちょっとおとぼけで親しみやすい子か? なんそれ最強じゃん。
「それに私は街中より、山とか外の方が迷わない質なんだ」
「迷子はだいたいそンな感じの事言うんだよなあ……」
言っちゃ何だけどテレ女ってドソルで二番目か三番目に行きやすい所だからね。一番はもち王宮。そこに辿り着けないような子が、大外回ってテレ女行くなんて出来る訳ないでしょ。
「おにーさん、そのホットドッグ三つちょうだい」
「クロエちゃん?」
「外から行きたいンでしょ? テキトーに何かパクつきながら行った方が良くない?」
「僕が払うよ」
「いーって。うちもお昼しようって思ってた所だし。ついでだから奢ったげる。おねーさんもどう?」
「いいのか……! ありがとう。君は良い人だな」
「クロエ」
「くろ……?」
「うちの名前。おねーさんテレ女に用あるんでしょ? うちそこの生徒だから、何かあったらこの名前出していいよ。ま、いい顔されるか分かンないけどね」
けっこー頑張って溶け込んでるつもりだけど、なかよし部ってやべー奴扱いがデフォなとこあるから。
「そうか。君はテレサ女学院の生徒なのか」
「そーだけど。何? 文句あんの?」
「いや。私は運がいいなと思っただけだ」
「なんでよ」
「私は今度からテレサ女学院に留学生としてお世話になる、ギルド『URA』の一員なんだ」
……え。
URAって確か、チエルがこの前言ってた……テイオーっつったっけ? その子が所属してるギルドじゃん。それに今度テレ女に来るっていう……。
「こんなに早く知り合いが出来て嬉しいよ。これからよろしく、クロエ」
「はあ。……えっと」
「む。そうだった。自己紹介がまだだったな」
「オグリキャップだ。よろしく頼む」