主人公はタグにも書いてある通り、『閃の軌跡シリーズ』と『
尚、自分、これが活動停止から復活してから初の新作ですので、本文にルビや傍点を振ったり等、色々と書き方を変えてみました。 作品の内容だけでなく、やっぱ自分自身も日々進歩しなくっちゃね♪
イメージOP『冥夜花伝廊』(TVアニメ『刀語』OP1より)
新たなる英雄伝説、開幕の前奏
果たして、ただ神や精霊といった超常的上位存在に選ばれて、力を手にすれば“勇者”か?
格好良い派手なコスチュームを身に纏い、悪党や怪獣などの人類社会の害敵をやっつけさえすれば、それだけで“正義のヒーロー”になれるのか?
……否、たとえ神に選ばれて光の力を手にしたとしても、それを己の欲望の為に振るったとしたら、その者は魔王よりも深い闇に堕ちる事だろう。 人々への自己顕示で見栄えの良い衣装を着て、相手の事情を欠片も汲み取ろうともせず自身の正当性を誇示する踏み台とせんが為に問答無用の武力行使で強制排除を行おうものならば、それは
輝かしく高潔な
……ならば、
【英雄足り得る心】とはどういったもので、それを手に入れるにはどうすればいい?
いったい
新暦75年9月中旬頃。 数多の次元世界の秩序と法の統制管理を行う司法組織──《時空管理局》の転覆とそれによる自らの科学力を中心とした世界支配を目論んだS級広域次元犯罪者《ジェイル・スカリエッティ》とその一味によって、管理局の法の中心である《第一管理世界ミッドチルダ》に未曾有の大空襲事件──《
《
……だがしかし、スカリエッティ一味の世界変革の野望はこれまでであった。 時空管理局が誇るトップエース級の魔導師である少女達が集った少数最精鋭部隊《古代遺物管理部機動六課》の決死の奮闘により、事件の首謀者スカリエッティと彼の配下であったナンバーズら全員の無力化に成功し、スカリエッティの切り札であった聖王のゆりかごも機動六課の尽力による時間稼ぎが功を奏して到着が間に合った管理局本局の主力艦隊の総砲撃によって撃沈された事で、JS事件は管理局の勝利に無事収束したのだった。
戦いで払った犠牲は決して少なくはなかったが、事件が解決した事で被害にあった街の傷跡や人々の暮らしは徐々に回復に向かい、事件解決の立役者である機動六課の戦乙女達も日常に戻って戦いの傷を癒しつつあり、これでミッドチルダと次元世界の平和は取り戻された……かに思えた。
新暦75年10月10日 時刻 14:00──第一管理世界ミッドチルダ中央区、首都クラナガン南市街エリア。
「だ、駄目だ……手が付けられないぞ!」
「クソッタレ! 反管理局軍の卑怯者が! ゆりかごの空襲で地上の防衛戦力が著しく低下したこの時を狙って奇襲を仕掛けて来るなんてよっ!!」
砲撃を受けて崩れたビルの残骸を背に地上部隊の武装隊員数名が敵軍の索敵から身を隠し、苦境に立たされた現状に阿鼻叫声を上げている。 陰から顔を少し出して覗いてみれば街中を敵軍が放った謎の自律機械ユニットや小ビル程の巨大甲冑騎士の姿をした有人ロボット等が闊歩して展開し、其処かしこに散って武装抵抗する地上部隊と激しく交戦を繰り広げている。
市街の奥に雲より高く聳え立つ塔の偉容を曝す【地上部隊本部】の上を見遣れば、空を埋め尽くす無数の航空艦隊と飛行ブースターを背中に装備した巨大甲冑騎士型有人ロボットが我が物顔で占拠し、次々に迫り来る首都航空隊魔導師を恐るべき火力と物量で威圧して近づけさせない、難攻不落の制空権を敷いているのが眺められた。
先のJS事件より一月経たずして、時空管理局の中心である第一管理世界ミッドチルダは再び管理局の法に仇名す者達による襲撃を受ける事態になっていた。 敵の名は約六年前に時空管理局の多次元世界に対する司法体制を「魔法技術の独占による武力支配だ」という言い掛かりを動機に起こされた反管理局軍《ミッドナイト》といい、連中は先のJS事件のゆりかご決戦の打撃の影響で経済インフラの停滞と管理局地上部隊の防衛戦力が消耗した隙に狙いを付けて、どこからか管理局の知り得ない未知の異端技術で製造された機械兵器どもを引っ提げ、昨日未明にミッドチルダに向けて総力を揚げた奇襲を仕掛けて来たのだった。
「戦況は芳しくないようね……」
この隊を率いる隊長と思われる青紫色の長髪をした少女隊員がミッドナイト軍の投入してくる戦力の物量と未知の異端技術兵器によって劣勢を強いられている状況に、額に手を当てて呻きを漏らした。 共に居る部下の隊員達も上官である彼女の言葉に同意を表すが、しかし誰一人としてその目に絶望の闇は無く、寧ろまだまだ諦めないという希望の光を宿している。
「なぁに、きっと大丈夫ですよナカジマ隊長。 我々は苦境を極めたあのゆりかご決戦をも乗り越えたのですからね」
「そうですよ。 それにあの決戦を我らの勝利に導いた機動六課が今回の作戦の主役を引き受けてくれているんですから、今度も絶対に勝てますって♪」
「そうそう。 確かにゆりかご決戦の直後に疲労が溜まっていたところに連続で襲撃されたのは勘弁でしたけど、あの管理局が誇る“奇跡の部隊”がある限り、ミッドナイト軍の腰抜け共が何を持ち出して来ようが、きっと敵じゃないですよ」
「まあナカジマ隊長は機動六課の事をここにいる他誰よりも信頼しているでしょうから心配する必要な無いでしょう? だって貴女はあの決戦の時、洗脳されて敵側に寝返ってたから、実際に機動六課と戦って無様に倒されてた訳だし☆」
「ちょっと、リブロ二士!? あの時の事は話さないでって言ったでしょう! アレは私の黒歴史なんだから……くすん」
「「「「「あっははははははは!」」」」」
苦境の真っ只中だというのに呆れる程に笑顔が絶えない戦場の武装局員達であった。
そう、どんな劣勢に立たされようと、彼らに絶望はない。 次元世界の危機を何度も奇跡を起こして救ってきた英雄である戦乙女達が必ず、明日への勝利を齎してくれると信じているからだ。
「スバル、フェイトさん、なのはさん……どうか、御武運を……」
首都クラナガン中央、地上部隊本部正面玄関道路。
「──ディバインバスタアアアァァーーーーッ!!」
「ジェットザンバー! ハァァッ!!」
砲撃音と爆発音と銃撃音が鳴り響く戦場の真っ只中を、生身で浮遊し高速で低空を翔けるツインテールの美女二人が、後方から走って付いて来ている武装した六名の部下の先頭を切り、それぞれ機械の杖と光の大剣を振るって立ち塞がる敵ユニットを撃破しつつ突破していく。 片や凜とした大きな碧い瞳を持つ穢れ知らずの白いロングスカートバトルドレスを身に纏った長い栗毛の美女が手に構えた黄金の槍のような形状の機械の杖の穂先から巨大な桜色の閃光を盛大に撃ち出し、片や宝石のように美しい真紅の瞳を持つ白いマントを肩に取り付けた黒い軍服風の戦闘服を身に纏った長い金髪の美女が斬馬刀サイズに巨大化させた光の刀身を天上高くから豪快に振り下ろして、目の前に見えた地上本部エントランス前に防衛線を張っていた自律機械兵器達を纏めて薙ぎ払い、内部へと突入していく。
【魔力】という自然エネルギーを用いて科学術式で自然法則や概念事象を書き換える、《魔法》という名の科学技術を使って戦闘を行う《魔導師》……何を隠そう、彼女達こそ次元世界の秩序と法を守護する使命に務める時空管理局の主戦力。 そしてこの二人の美女こそ、先のJS事件を解決に導いた“奇跡の部隊”──《古代遺物管理部機動六課》の前線部隊を率いる分隊長にして、管理局が次元世界に誇る二大エース──
≪エース・オブ・エース≫高町なのは CV:田村ゆかり
≪金色の閃光≫フェイト・T・ハラオウン CV:水樹奈々
「……どうやらミッドナイト軍は本気みたいだね、フェイトちゃん」
「うん……」
地上本部のエントランス広場に広がる惨状を目の当たりにしたなのはとフェイトは一旦足を止め、厳しい顔付きになって辺りを見回し確認。 二人互いに緊張感を共有したその時、丁度彼女達の背中に続いて追い駆けて来た後続の部下達がエントランス広場の玄関口から突入して来た。
「なのはさん、フェイトさん、お待たせしまし──なッ!!?」
白い鉢巻を額に巻いた青いショートヘアの少女を先頭にして隊長二人に追い付いた六名の魔導師……彼女達もエントランスに足を踏み入れた瞬間視界に飛び込んできたエントランスホールの惨状を見て全員が忽ち真っ青な顔に変えて絶句した。
≪機動六課FW≫スバル・ナカジマ CV:斎藤千和
「こ、これって……!?」
「いったい何が……」
「酷い……」
「人の死体が、こんなに沢山……」
「キュルルゥゥ……」
大きな瞳を揺らがせて動揺に全身を強張らせるスバルをはじめ、彼女の背後から場の惨状を眺めるオレンジ色のツインテールの少女、赤髪の歳幼い少年、白い帽子を被った桃色の髪の幼女とその腕に抱かれた純白の幼竜らもまた悲痛に表情を歪めつつ戦慄を口から漏らしていた。
≪機動六課FW≫ティアナ・ランスター CV:中原麻衣
≪機動六課FW≫エリオ・モンディアル CV:井上満里奈
≪機動六課FW≫キャロ・ル・ルシエ CV:高橋美佳子
≪使役竜≫フリードリヒ CV:高橋美佳子
彼女達機動六課
「……どうやら、完全に地上本部はミッドナイトの連中の手に堕ちてやがるようだな」
「ああ。 少なくとも一階から五階まで気配を探ってみて、生きている人間はいないようだ。 人質すら取らないとは……奴等は本気で管理局を相手に勝てる自信があると見えるな」
先行部隊の殿を務めていた歴戦の雰囲気を感じさせる、残りの真っ赤なゴスロリ調騎士服を纏った御下げ髪の幼女と背の高い女騎士然としたピンクブロンドポニーテールの女性の二人がなのはとフェイトの隣へと毅然と歩み出て、自分の見識から分析した地上本部の状況予想を二人に話す。 百戦錬磨のトップエースである隊長二人でさえも気分を害する程惨たらしいホールの惨状を見渡しても、この二人は少しも精神を乱さず冷静を保てる程に戦場慣れした歴戦の猛者のようだ。
彼女達はなのはとフェイト──機動六課の若き分隊長の二人の補佐である副隊長。 そして現在は珍しくなった古代ベルカ術式魔法の使い手で、単騎の戦においては天上天下無双とされている古代ベルカの魔導騎士──
≪鉄槌の騎士≫ヴィータ CV:真田アサミ
≪烈火の将≫シグナム CV:清水香里
「クソッ! 連中、ゆりかご決戦で
「うん……。 そこら中の死体には【質量兵器】によるものだと思う切断痕や弾痕以外にも、殺傷設定の魔法のものとは違う
ヴィータとフェイトが敵軍の戦力情報を確認し合っていると、突然此処に居る全員の意識に、此処には居ない若い女性の声が届いて来る。
『──機動六課、
聴こえてきた方言なまりの女性の声は、どうやらなのは達機動六課の総部隊長のもので、後方支援から《念話》を通じての定時連絡だった。
《念話》とは通信機器を使わなくても魔導師同士が魔力を精製する体内の幻想臓器──《リンカーコア》を通じ、直接脳の意識領域に
『うん、大丈夫。 みんな誰一人欠ける事なく、ちゃんと無事に付いて来てるよ』
『地上本部前の敵の防衛網が思ったよりも厳しくて、ちょっと突破するのに時間を掛けたけれど、なんとか順調に進めてる。 そっちはどう?』
『う~ん。 首都航空武装隊とギンガ達地上部隊の陽動がちょいキビシー感じかなぁ? ミッドナイト軍がクラナガン中に展開し放っちょる妙ちくりんな機械兵器ども、スカリエッティのガジェットドローンと違って
『確かあの敵軍の
『我々の方も敵軍が戦力に導入してきた異世界の異端技術についての情報は、未だに掴みかねています。 昨日の宣戦布告の放送で敵軍の司令官が語っていた情報が真のものなら、奴等に未知の技術を渡した“異世界の協力者”なるものが、今回の奇襲の裏で糸を引いた可能性が……』
『あーもー! 言われなくても分かっとる分かっとる! とりあえず一番厄介な敵のガ◯ダム……もとい魔煌機兵への対抗戦力は今クロノ君がゆりかご決戦の時と同様に本局の主力艦隊を連れてミッドに向かって来てくれとる途中やから、それまでなんとか踏ん張って持ち堪えてみるわ。 ミッドナイト軍の協力者については警戒しとるが、今のところは姿を見せへんようやし、敵を引き付けるので手一杯やから、今は作戦に集中するで!』
『それじゃあわたし達は手筈通り、そっちの陽動の隙に地上本部の内部から屋上に昇って、上空を占拠している敵軍航空艦体の中央から抜けて、ミッドナイト軍の総司令官──《ラコフ・ドンチェル》を確保しに、彼が乗艦して敵全軍に指令を出していると予測される敵軍の司令母艦《ガラハッド》へ乗り込みに向かうね』
『頼んだで、なのはちゃん達。 この電撃作戦の成功は君ら攻略部隊に賭かっとるんや。 ゆりかご決戦の疲労はまだ回復しきっておらへんから当然無理は禁物やけど、折角スカリエッティ達から苦労して守った次元世界の平和を、卑怯モンのミッドナイト軍なんかに壊されるわけにはアカン。 ギンガ達地上部隊の皆が頑張って敵を引き付けてくれとるし、 本局からの援軍もすぐそこまで来とる。 せやから皆、ここが頑張り所や。 気張って行くんやで!』
『『『『『『『『了解ッ!!』』』』』』』』
作戦確認を終えて全員念話越しに敬礼すると、部隊長との連絡が切れる。 するとなのは達隊長陣が真剣な面持ちでスバル達FW陣へと向き直った。
「そういう訳だから皆、屋上まで高いけれど、一息に走って行くよ!」
「こんな状況だし、たぶんエレベーターは使えないと思うから、非常階段を上って行く事になるけれど、焦って転んだり、無理はしないように気を付けてね」
「はやても言っていたが、先日のゆりかご決戦後にアタシ達は全員疲労と怪我で入院して、まだこの間に退院したばかりの病み上がりだ。 だけどそれを言い訳にして退く訳にはいかねぇ。 スカリエッティ一味との戦いで数多くの戦力を失った今の管理局にはアタシ達以外の主力は下手に動かせねぇ状況だからな」
「故にお前達、我ら機動六課の敗北は管理局の敗北と思え。 ここに居る全員と部隊長である主はやて、ツヴァイにシャマル、ザフィーラやヴァイスら機動六課全員の望む
「「「「はいッ!」」」」
隊長達に鼓舞されて、部下であるFW陣がそれに元気のよい返事で応える。 だがその直後、スバルが一瞬玄関口に振り向き、そこから覗く戦闘音が飛び交う戦場の街並みの遥か先を気に掛けて誰かを心配するかのように表情を沈める。
「大丈夫かなぁギン姉……」
「スバル、やっぱりギンガさんが心配なの? ……まあ、先日のゆりかご決戦では
「ううん、ギン姉はきっと大丈夫だよティア。 作戦前あの決戦以来久しぶりに顔を合わせた時はギン姉、すっかり立ち直って元気にドカ盛りのスタミナ丼をドカ食いしてた程に回復していたし、後方の作戦指揮を任されている八神部隊長だって、ギン姉に下手な無茶はさせないと思う」
ティアナに心配されたスバルだったが、自慢の逞しい姉を信じて気丈に笑顔を作り、自分の頬を両掌でパンッと叩いて気持ちを引き締める。
「だからあたし達は前を見て進もう。 このくらいの困難は今までだって何度もそうやって乗り越えて来たんだ。 きっと今回だって皆で全力全開の力を合わせれば、この先に何が待ち受けていてもきっと勝てる筈」
「うん、その息だよ」
スバルの前向きな意気込みを聞いたなのはがそれに感心してそう言ってから、最後に攻略部隊全員に向けて自分の意気込みを語りかける。
「大切な人達や夢と未来を守る為に、もう一度全力全開で頑張って行くよ! わたし達の背中を預けて後方で戦ってくれているはやてちゃんやギンガ達、縁の下でわたし達を支えてくてれているクロノ君やユーノ君やリンディさん達管理局の仲間、ミッドチルダに住まう善良な人達、そしてわたし達の帰りを待っててくれている“あの子”の為にも……この作戦を絶対に成功させて、この中の誰一人も欠けることなく全員無事に六課へ帰って来よう、みんな!」
「「「「「「「はい(うん)(おう)(うむ)ッ!!」」」」」」」
次元世界の平和と未来、それぞれの大切な知人を思う気持ちは皆なのはと同じだ。 機動六課前線メンバー八名全員、返事と共に心を一つにして、ひたむきに
「なのは、作戦前にもきつく言ったけれど、今回【リミットブレイク】は絶対に使用禁止だからね」
「……うん、大丈夫。 今回は使わないよ」
「本当に? 君が自分自身に向けて言う【大丈夫】はイマイチ信用できないからなぁ……。 先日のゆりかご決戦だって、そう言っておいて結局最終形態のブラスター3までも解放しちゃって、それで限界を超えるまで身体とシステムを酷使した挙句に、またリンカーコアに重い負担を……」
「にゃはははは。 ごめん。 あの時は“あの子”を絶対に助ける為に負けられない戦いだったから、ああやって約束を破っちゃったけれど、今回は頼れる皆が一緒だからさ」
「なのは……」
「それに自分の身体が負担でいっぱいで、これ以上の無理をやったら今度こそ危ないって状態なのは、自分が一番よく理解しているから……」
「……ふぅ。 わかったよ……でも本当に何があっても絶対に無茶しないでね、なのは。 君の身体が大切なのは君だけじゃないんだからね」
地上本部内部の区画通路を疎らに徘徊する敵の機械兵器達と交戦を繰り返しながら、百階を越える高さの中央棟屋上まで駆け昇って行くなのは達……。
「屋上の扉が見えたよ!」
「よし、全員覚悟はいいな? ……開けるぞッ!」
この半年間毎日基礎体力トレーニングを怠らず地道に身体の体力を鍛えてきたおかげで、息は絶え絶えになったがスタミナに余裕を持たせて屋上に出る扉に辿り着く事ができた彼女達は、戦う覚悟を決めて先陣を引き受けたシグナムが扉をバンっ!と勢い良く音を立てて開いた……その瞬間──
「──ッ!!? 全員、散れッッ!!」
敵が来るのを待ち構えていたのであろう
「「「「「「「きゃああああぁぁぁーーーッ!!」」」」」」」
「ぐぬぉぉっ!!」
アンノウンの推進力が乗った頭突きを咄嗟にシグナムが愛剣の《レヴァンティン》で受け止める。 だが相手の鉄頭の固さと推進力があまりにも強烈な威力を齎した為、一瞬の拮抗の末にシグナムは踏み留まれず突き飛ばされて出て来た屋上と内部階段を繋ぐ出入口を突き崩し屋上の縁を飛び出して宙へ投げ出され、更にはその余波によって一瞬前に彼女の指示に応じて全員それぞれ緊急回避の態勢を取っていたなのは達も吹き飛ばされ七人バラバラに離された位置に屋上のヘリポートを転がった。
「おのれ、姑息な真似をッ!」
「ランスターの弾丸をお返しよ。 喰らいなさい!」
しかしそこはさすが先のJS事件を解決した英雄部隊と言ったところであった。 全員直ぐに受け身を取るや浮遊魔法を使用して宙に止まるやで相手に追撃の隙を与えず体勢を立て直し、屋上の枠から少しはみ出た空中に滞空したシグナムが敵の不意打ちに対して憤慨し跡形もなく崩れ散った屋上の出入口の残骸山に頭から埋もれた敵アンノウンを見据えて悪態を吐くと、それを合図にティアナが双銃《クロスミラージュ》を両手に隙を晒した敵アンノウンのケツに魔力弾のグミ撃ち連射をしこたま撃ち込み、全弾命中。 出入口の崩壊に巻き込まれた貯水タンクの中身が雨となって魔法の戦乙女達の身に纏う魔法防衣──《バリアジャケット》を打ち濡らし、敵アンノウンが居た場所を包み込んだ粉塵と爆煙を剥がす。 だがそこには既に奴の姿は無かった。
「嘘、いない……一体何所に──」
「ティア、上だッ!」
「──え……っ!!?」
周りを見回して撃ち逃した敵アンノウンの行方を捜すティアナはスバルが呼び掛けた警告に反応してはっと空を見上げた刹那、眼前に迫る
──しまった!? 油断した、避けられない!
そう思って一秒後に業火球に飲み込まれてこの身を焼き尽くされる想像を思い浮かべ、死の恐怖のあまりキツく目を閉じるティアナだったが、何故か一秒以上経過しても身を焼かれる感覚どころか炎が放つ熱さすら感じなくなった。 寧ろ優しいように暖かいものを感じて恐る恐る閉じた目を開けると、視界に飛び込んできたのは熱波に棚引く艶やかな栗毛といつも自分が遠い目標に追い駆けてきた不屈のエースの背中だった。
「なのはさん……!」
「ティアナ、油断大敵だよ!」
自分を庇い立ってくれた誰よりも頼りになる隊長の背中を見て、ティアナは驚きと安堵を入り交じらせた声音を漏らした。 二重四角の魔法陣の模様をした大円盾の防御結界を展開して眼前に迫っていた業火球を、歯を食いしばって逞しく阻み立ちながら、なのはは背中に庇った大事な部下に注意散漫を叱咤しつつも、優しい微笑みを向けて気遣いを促していた。
ティアナが業火球に飲み込まれそうになる直前、15m程離れた位置に居たなのはがそれに気付いて咄嗟に高速移動魔法《フラッシュムーヴ》を使い、コンマの一瞬でギリギリティアナの前に割り込んで庇い、前方防御結界魔法《ラウンドシールド》を瞬時に展開して業火球を防いでいたのだ。
だがしかし、敵アンノウンの二段構えの不意打ちもこれで防げたかに思えたが……。
──な、何この赤い炎!? わたしのラウンドシールドが徐々に構築術式ごと削られて……いや、
「くっ……それだったら──バリアバーストッ!!」
ラウンドシールドに阻まれながらも消滅せず、それどころか意志を持つように結界に噛み付いて少しずつ体積を削り砕こうとしてくる業火球に、普通の炎とは違う異質な性質が秘められている事を読み取ったなのはは、このままでは数秒持たずこの炎に結界を破られてしまい、自分も背中に庇ったティアナも危険になると判断を下し、容量限界を超える魔力量を流し込みラウンドシールドを暴発させ、それに喰らい付く業火球を爆風によって吹き飛ばした。
「ハァ、ハァ……ゲホッ、ゲホッ!」
「な、なのはさん。 ごめんなさい。 油断した私を庇ったばかりに、大変な無理をさせてしまって……」
「ううん、ティアナが無事なら、わたしは大丈夫だよ。 ……それよりも、敵は」
「……あそこです」
ティアナは自分を庇ったが為に病み上がりの身体にムチを打って余計な負担を掛けさせてしまった上司に肩を貸しながら、空に視線を向ける。
ミッドチルダ随一の階層を持つ地上本部を駆け上がって来るのにかなり時間を掛けた為、現在時刻は既に16時を過ぎている。 その為、空はもう夕焼けに染まっており、ミッドチルダという世界特有のものである昼時にもクッキリと見れる二つの月が夕陽の光に照らされて色鮮やかな朱色に染まっている……のだがしかし、その風情高い黄昏の空模様は今は無骨極まりなく物々しい無数の空飛ぶ巨大な鉄の箱の夥しい大群が、そこに在る夕陽と二つの月を貪る羽蟲の如く群がり、夕焼け空のキャンパス全体をほぼ隙間なく薄気味悪い黒の斑点で塗り潰していた。 その正体は地上本部上空を不当占拠したミッドナイト軍の主力航空艦隊であり、その中心を陣取った一番星の如く一際巨大な偉容を構える航空母艦が、なのは達の作戦拘束目標である敵軍総司令官ラコフが乗艦していると予想される敵軍航空艦隊の司令母艦《ガラハッド》だろう。 次元世界にとって全くの未知である異世界の異端技術を存分に注ぎ込み量産した手駒達が地上の街中や艦隊の外側から飛び掛かって来て必死の抵抗を見せている管理局の魔導師達を、読んで字の如く高みの見物で嘲嗤っているかのような錯覚すら覚えてなんとも忌々しいが、ティアナが見据えたのは天空に座す鉄の玉座の下を守護するように、両脚と背中に背負った飛行推進装置で
“導力結晶回路機構、畜炎変換機能武装、
他の敵機械兵器とは明らかに一線を画した雰囲気、四つの推進噴射口から轟々と噴き出す“赤い炎”、眼元のあたりから『ピピピ』という計測音を小さく鳴らして地上本部屋上ヘリポートの自分達全員の能力を計視しているような様などは、魔法を封じられた無防備状態を晒して周りから一斉に無数の銃を向けられるよりも何十倍もの畏怖を感じ取れる……それ程の威圧を放つ敵アンノウン──オーバル・モスカの姿をなのは達八人全員は険しい目で見上げる。
「いったい何なんでしょうか、あの人型の敵機械兵器……今までのとは違う怖さを感じます……」
「うん、そうだね……。 二段構えの不意打ちができる高度な戦術AIと見掛けによらない高速機動力もそうだけど、それ以上にあの“赤い炎”が脅威的だ。 機動六課の中でもザフィーラと一二を争う防御力を持つなのはが展開した防御結界魔法を
「だな……。 しかし、勿論それもそうなんだけどよ……なんて言うか、アイツは他の敵とは規格が──」
『──ピピピッ、敵性戦力ノ解析完了。 時空管理局ノ保有スル暫定最高戦力、【古代遺物管理部機動六課】ノ前線主力部隊ト判定。 総合戦力脅威度認識ヲSランクニ引キ上ゲマス』
「──って、なにっ!?」
「喋った!」
『【畜炎変換機能武装】ノ出力設定ヲ上方修正。 並ビニ【導力結晶回路機構】ノ
警戒の姿勢を向ける機動六課前線攻略部隊を余所に、唐突とオーバル・モスカが明確な機械音声言語を発して彼女達を驚かせると、計測に出た相手戦力の脅威度に合わせて機体性能を引き上げる。 すると今度は自分の全身を覆うように、次元世界の魔導師にとっては全く未知の魔法術式を球状に展開し出した。 しかし、なのは達にはつい先程その様な術式を使用してくるモノに見覚えがあった。
「あの術式って……まさか、ここまでに交戦した敵機械兵器達も使用してきた
「みんな、気を付けて! 来るよ──ッ!!」
『
オーバル・モスカが詠唱駆動を完了させて自らを覆っていた青い魔法術式を消滅させた刹那、水属性中級導力魔法《ブルーアセンション》が発動し、防御姿勢を取るなのは達が立つ地上本部屋上ヘリポート全体が超高圧水流の渦によって蹂躙された。
一方その頃、機動六課の部隊長が全体指揮を務めている
「八神部隊長、大変です。 たった今、クラナガン上空に【次元震】の予兆と思われる、次元空間位相の“揺らぎ”を観測しました!」
「何やて工藤! 予測規模はどの位や!」
「私はルキノです。 それと予測規模自体は小規模程度なんですが……そのぉ……」
「ん? なんや、歯切れ悪いなぁ。 問題が有るんならハッキリと言ってくれへんか?」
「その……“揺らぎ”というのは余震というよりも……まるで
「……はいぃ!?」
観測通信士の意味不明な報告に戸惑いを漏らして呆然と可愛らしい大きな目を丸くする部隊長の女性。 彼女の手元にある空間小モニターに転送されてきた映像に映し出されたのは、クラナガン中央に在る地上本部の上空を陣取ったミッドナイト軍主力艦隊の丁度真上に出現した二つの“灰色の炎”が
数多の海を守護する叙情的な魔法少女達、覚悟を炎に灯すアサリ貝の家族達、そして空の女神の祝福を受けた大陸で絆の軌跡を紡ぐ英雄達。
三つの英雄伝説が交差する時は──近い!
いやー、軌跡シリーズ×REBORN!×リリカルなのはstsのガチクロスは、実はずっと前から書きたかったんですよー。 「この御時世だと何時どうなるか分からないから、やりたい事があるなら今のうちにやっておきなさい」という、親父殿の言葉が切っ掛けで、今年1月に入ってからプロット作成して、この『英雄伝説リリカルREBORN! 炎の軌跡』の投稿連載に思い切って踏み切る事ができました!!
この調子で未だに更新停止している作品も徐々に復活させていきたいですが、取り敢えず当分の間は『THE LEGEND OF LYRICAL 喪失の翼と明の軌跡』とこの作品の二枚看板で更新していきます。
次回こそ、主人公であるリィンとツナを出したいです。 てか絶対に出します! リリカル伝説の方みたいにずっと主人公不在になるなんて、もうやってたまるものかッ!!(決意)
尚、主人公の二人以外の軌跡とREBORN!キャラも続々と登場させていきます。 さ~て、最初に来るのは誰かな~?
では読者の皆様、応援よろしくお願いします!
イメージED『super survivor』(PS2専用ゲームソフト『ドラゴンボールZ スパーキング! メテオ』メインテーマより)