『ホゲラア″ア″ア″ア″ア″ア″ア″ァァァーーーーッッ!!?』
爆発! 衝撃! 激震! そして夜天に轟く敵大将の絶叫!!
ツナが右手の《Ⅰ世のガントレット》で繰り出した《バーニングアクセル》は、まさに“究極の一撃”の名に違い無き途轍もない破壊力であった。
一体何が起きたのか? 一瞬そう思って気が付くと、ツナが炎の拳で殴った箇所から生じて爆発的な勢力をもって解き放たれた台風の如き衝撃波が、最大最低最悪の次元侵略犯罪組織である反管理局軍ミッドナイトの指令母艦《ガラハッド》を中心に周囲の空域に浮かぶ無数の敵軍主力艦隊を半壊させ、艦隊守備に徘徊する飛行型ユニット人形兵器群や魔煌機兵達その全てを一瞬で圧壊させる程の激震をクラナガン上空全体に齎していた。
拳の一撃だけで生じた余波で大空全体に多大な影響を及ぼす、そのような規格外な威力の技の直撃をまともに貰ったスクルドの機体は、内部構造を構成する材質がリィン達やツナ達の世界に伝わる伝説級のレアメタル同士で合成した超合金素材であったお陰で全壊は免れギリギリ人型の形にはまだ保てているものの、既に鎧の体を為せてない程酷い破損状態にあった外部装甲の方は衝撃で無数の破片が剥がれて弾け飛び、全体的に完全崩壊を喫した。
『ハラヒレホレハレェェ……』
そして当然、その中に居る操縦者は、それはもうズタボロだった。 ツナがスクルドに叩き込んだ《バーニングアクセル》による埒外の衝撃は機体内部に海底火山の大噴火の如き激振を齎し、それによって既に今までの戦いで酷いダメージを受けていたラコフの全身は大災害レベルの振動による圧迫と振り回しによって操縦席空間の周りにある内部壁面から袋叩きに遭ってしまっていた。 元々は痛々しい程に真っ赤で派手な出で立ちをしていた将軍服も今やダメージの蓄積によって擦り切れまくり最早半裸も同然の有様で、他の皆が認める山字形のデカッ鼻によって面積の四分の一を埋める奇形顔面に至っては巨大蜂の巣を突いてその巣主達に襲われた事後の如く無数の瘤が埋め尽くすようにして腫れ爛れさせられて葡萄のような顔形へ整形されてしまっている。 元が酷く不細工だった所為か、寧ろ今の葡萄面の方が美形かもしれないww。
無論、味方への被害も尋常ではなかった。 皆が乗っているこの艦の甲板上にて《バーニングアクセル》が炸裂した為、この艦そのものが震源地なのだ。 故に此処がこの空全体で一番大きな余波を受けていて、仲間達も皆激しい揺れに襲われた。
「きゃあああっ!!?」
「なななっ、なんて凄まじい威力なんだ! 衝撃波が最後尾にまで……っ!!」
「ツナがスクルドを炎の拳で一発殴り付けて生じさせた凄まじい余波が大気を伝わって、ガラハッドどころかこの空全体が激しく揺らされている!? とてもじゃないけど立っていられないわよ、こんなの!」
攻撃を仕掛けた前線のボンゴレ三人組を除く全員が空間すらも揺すられる尋常ではない大規模激震を受けて堪え難い様子を呈している。 特に戦闘の場数が他の面子よりも少ない機動六課FW陣は身体能力に優れるスバルを除く三人共々まともに立っている事すら儘ならずに完全に足を崩して転倒し、甲板から縁の外へ転げ落とされないように鉄床の砕けた出っ張り部分に手を引っ掻けてへばり付きながら悲鳴や驚嘆や難色などの声をあげて大騒ぎしている。
「おおっ! バーニングアクセルの威力、前のよりも遥かに上がってるのな♪」「さっすが十代目! あの《虹の代理戦争》が終わった後にも腐らせず益々腕を御上げになっておられるとは、大変感服したッス!」などというツナの究極の一撃へ対する絶賛の声も僅かにあがっているようだが、他にとっては堪ったものではないので常時ならばそんな味方まで余波に巻き込むような攻撃をするなと文句を言ってやるところだろう。
「だけど、敵の防御機能が今のツナ君の一撃で完全に崩壊した、今がチャンスだよ!」
「次は機動六課の番だッ! ティアナ、エリオ、キャロ。 揺れがキツくて厳しいだろうけれど、なんとか踏ん張って! 私達全員の拘束魔法でスクルドの動きを封じ込めるよ!!」
「「「りょりょ、了解っ!!」」」
杖槍の穂を鉄床に突き刺して柄を身体の支えに激震に堪えていたなのはによって機動六課が追撃に出る絶好の機を示され、魔力変換資質“電気”の魔法を応用する事で自らの両足裏を電磁力で鉄床上に固定し耐震を得る事によってなんとか直立の体勢を維持しながら険しい表情で光の双大剣を両手に構えるフェイトから強く鼓舞されて、ティアナ達三人共がそれに応えて奮起する。 前方より台風の如くこちらの顔面を殴り付けるように吹き荒れて来るバーニングアクセルの衝撃波にもめげずに、皆全身を激しく煽られながらも必死に耐えて自分の相棒を手に握り締め、余波が停止したと同時に機動六課全員が己の身体をロケットランチャーで発射するかのようにして勢いよく一斉に敵大将へ向かって飛び出して行く。 疾風怒濤。 風林火山の如く!
『ククッ、クッソゥ……吾輩はまだ……全ての次元世界を……この手中に入れるまで……諦めて……たまるもんk──』
「残念だけど貴方の野望は此処までだよ、ラコフ・ドンチェル! 《レストリストロック》!」
「「《ライトニングバインド》!」」
「なのはさん直伝、《チェーンバインド》!」
「我が求めるは戒める物、捕らえる物。 言の葉に答えよ、錬鉄の縛鎖。 錬鉄召喚! 《アルケミックチェーン》!」
『──って、のっほぉぉおおぉぉおおおーー♥』
ツナの究極の一撃をまともに顔面に貰ったスクルドは顔正面部全体をまるで隕石の直撃を受けたクレーターのように半球形状に大きく陥没させて、某大乱闘超ゲームキャラクター大戦の100%以上ダメージが蓄積したキャラクターの如く大きく吹っ飛ばされ、背後に聳えていた艦橋の真横を通過して艦尾の柵壁に背中から追突した。 そしてその柵壁に塞き止められて完全に砕け散った外部装甲の破片が大量に舞う中を山なりに跳ね上がった、その機体全身のありとあらゆる部位関節を、突貫して来たなのは達が放った無数の魔力の帯や鎖が縛り付けたのであった。(そして中の操縦者は機体越しに縛られて嬌声を出してしまう程の縛苦趣向的快楽主義者であったww)
「スクルドの身動きの封じ込めに成功! 今の隙にもう一発強烈なのをコイツに叩き込んでやりなさい、スバルッ!!」
「うおおおおおっ!!」
ティアナから大声で敵へ攻撃しろと投げ掛けられ、この艦に居る機動六課メンバーでただ一人だけ、最後尾に控えて突撃の身構えを取っていたスバルが助走をつけて、景気付けの雄叫びをあげると共に持てる全速力をもって駆け出して来た。 両足に履いたマッハキャリバーの車輪を超速回転させて鉄床に火線の轍を刻みながら一陣の風と為りて、前線に出た機動六課組と入れ替わりに後退して来たトールズⅦ組とボンゴレ組を横切るとあっという間に抜き去った。 魔力の帯や鎖で巨大な全身を雁字搦めにされて行動の一切を封じられた敵大将の《紫焔の武士》へと向かって、一気に加速を付ける。
──下の街でミッドナイト軍の主力の大半を引きつけて、必死に防衛線を守ってくれているロングアーチや地上部隊。 敵軍の総司令官の身柄の確保を任せて先に行かせたあたし等の背中を守る為に、強敵の番人の相手をたったの二人で引き受けてくれた、頼れる副隊長の二人。 次元世界にやって来たばかりで事情を全然知らなくて、本当ならこの戦いには全く無関係な筈なのに機動六課の事を信じて味方に付いてくれた、凄く心強い異世界の助っ人の皆さん。 そしてティア、エリオ、キャロ、フリード、フェイトさん、なのはさん──あたしが最も信頼する機動六課最前線攻略部隊の仲間達が今、あたしのこの一撃に勝利への想いを託し、ボロボロになった身体と尽きかけの魔力を全力全開で振り絞って、敵大将の機体の動きを封じてくれた……。
劣悪非道の次元侵略犯罪組織たるミッドナイト軍からこの世界を守る為、この電撃作戦の要である敵軍総司令官の確保役を機動六課最前線攻略部隊に託して作戦成功を祈ってくれている全ての人々の為に、スバルは今、黄金の意志を眼に宿し、“青き光の翼”を両脚に生やして空へと舞う!
「《ギア・エクセリオン》!!」
スバルの相棒たるマッハキャリバーの全出力機能解放形態──《ギア・エクセリオン》……彼女が最も憧憬を向けている時空管理局の最優の魔導師にして最も尊敬している上司である高町なのはの《エクセリオンモード》と同等の性能を発揮可能にする、正真正銘の全力全開。
「いくぞおおおおぉぉ──ッ!!」
ユウナの『トールハンマー』のカウントは数秒前に【0】を刻んだ事で味方集団全体に及ぼしていたブレイクダメージ増加の号令効果はとっくに切れてしまっているが、鉄壁を誇っていた敵大将の機体の外部装甲を完全崩壊に至らせた今となっては最早それも不要。 その“一撃必当”の破壊の拳を巨いなる紫焔の武士に叩き込む為、スバルは右手に装着された籠手の瞬間魔力増幅回転弾倉──《ナックルスピナー》を超速回転させ、その握り締めた拳を肩の後ろへと大きく振り上げる。 そして機動六課の仲間達が残り僅かになった魔力の全てを絞り尽くした拘束魔法の数々で巨大な全身を厳重に縛り付けられて身動き不能を無様に晒し、装甲を完全に砕かれた完全無防備状態の《紫焔の武士》へと、最短で、最速で、一直線に突貫して征く。
空を翔けて、銀色の矢に変わる!
『ふざけてんじゃねーよ』
「な──っ!?」
弾丸のように闇夜を貫き跳躍突撃して来たスバルが拘束されたスクルドを近接突入距離に捉え、振り上げていたリボルバーナックルを勢い強く引き絞ったその時だった。 突然スクルドの顔面の割れた三つ目の奥に赤黒い光が不気味に点灯しだし、戯れの一切も含まれていない冷徹な男の声が発せられてくる。
「うぅ……ダメ……もう……魔力……が……ッ!!?」
更にはその直後に、全身の身動きを完全に封じられている筈のスクルドが右腕を縛る他よりも魔力強度が脆くなっていた桜色の魔力枷を強引に引き千切り、それに驚愕して金色に染まった両眼を見開きながら懐へと飛び込んできたスバルを自由を得た大木の如き極太の質量を持つ右腕で叩き墜としてやらんとして、彼女の頭上へ平手角を振り下ろしてきた。 これでなのはは流石にもう完全に魔力を底尽きさせてしまい、これ以上は戦闘継続不可能だった。
『キサマのような矮小な戦闘機人の小娘風情が。 全多次元並行宇宙一最も高尚なる価値を生まれ持ち、貴く崇高な選ばれし人間である、このラコフ・ドンチェル大司令官様を打ち倒せるなどと、思い上がってんじゃねー、身の程を弁えろよ。 戦うだけしか価値を持たされねーで造られた人造培養生体兵器の分際で──っっ!!!』
「ッッ!!!」
容赦なく冷徹酷薄と投げ落とされたラコフの底知れない侮蔑が籠められた言葉の刃に、スバルは心臓を突き刺されたように血の気が抜けて、引き絞った一撃必当の拳を突き放てずに硬直させてしまった。 戸惑いに大きく見開かれた“黄金色の瞳”は彼女が人外たる力を行使する印であり、それは相手の言葉が紛れもない真実であるという証拠に他ならなかった。
ラコフの言った通り、実際にスバル・ナカジマという少女は普通の人間ではない。 それは人並み以上に高い魔力や才能を持つ魔導師だからとかいう理屈ではなく、真実として人の身として生まれていない、人外の存在なのだという事だった。 彼女の正体は“タイプゼロ”と呼称される鋼の骨格とリンカーコアに干渉するプログラムユニットを持った《戦闘機人》──先月の《第一次ミッドチルダ大空襲》たるJS事件の主犯であったDrジェイル・スカリエッティが生み出し主戦力として動かしていた十二人の戦闘機人の娘達、その元となった実験体なのである。
彼女の元々青色だった瞳が黄金色に変色した時は彼女の内に秘められた戦闘機人としての力である特殊戦闘固有技能《IS》を使用した印だ。 つまり今の彼女はその身も力も、言い訳のしようがなく正真正銘の戦闘機人──立ち塞がる敵を破壊し尽くすまで止まらない、人外の人造培養生体兵器そのものなのであった……。
『これから吾輩の支配する未来永劫の魔法無き人間の次元世界に、キサマのようなガラクタ人形なぞ要らんわい! これで鉄屑のジャンクになってしまえーーーいっ!!』
「ぁ……」
ラコフの死刑宣告と共に圧倒的な暴威を纏いつつこちらの頭上へと落ちて迫り来る《紫焔の武士》の巨腕を、戸惑いに勇気の輝きが消えて震え慄く黄金の瞳に映し、スバルは完全に怖気づいてしまって防御の構えも取れない。 無慈悲にも鬼の金棒の如き巨大な質量を持つ鋼鉄の平手角が小さな戦闘機人の少女を破壊せんとして勢いよく叩き付けられる……その直前──
「──そうは、させません! 煌け、『ノワールクリスタル』!!」
スクルドのカウンター攻撃がスバルに直撃するよりもコンマ1秒前、狙い澄ましたかのような絶妙なタイミングで後方から新たな号令が届き、半透明の菱形の黒結晶が絶体絶命の危機に瀕したスバルの身を包み込んで守る。 そしてまさにその瞬間直ぐにその黒結晶の外面にスクルドの大木の如き右腕が猛然と叩き付けられた。
カンッ!
結果、直撃した攻撃の質量の大きさの割には実に味気ない金属を軽く叩いたような鈍い音が鳴った。
「え……っ!?」
スクルドの右腕に叩き落とされる衝撃に備えて歯を食い縛り両目を強く閉じたスバルだったが、一寸先の闇になっても痛みも衝撃もまるで来なかった為、恐る恐る目を開いて眼前に再び映った相手の機体を見上げてみる。 そしたら彼女の黄金の瞳に驚くべき事象が映る。 なんと、こちらへ振るい落としてた筈のスクルドの右腕の平手角が、何時の間にかどういう事だか、奴自身の顔面部を突き刺していたのだ。
『ぐああああーーーっ!? ててて、手がっ! 手が撥ね返されて我が《紫焔の武士》の渋い顔がああああああーーーっ!! ついでにその衝撃に揺らされた所為で吾輩のイカスお顔も内壁に思いっきりぶつけてペシャンコにぃぃいいいいーーーっ!!』
「いったい、どうなって……そうか!」
中の操縦者が激痛に苦鳴を叫んでのたうち回るのに同機して、スクルドが顔面部に右手を突き刺したまま足掻き苦しむ挙動を見せている。 相手のその様に今度は一瞬の困惑を覚えたスバルだったが、そのお陰で心の落ち着きを取り戻す事ができた。 硬直から解放されて自由を取り戻した右手と両足に装着しているデバイスの核が再び勇気の号令の光を発しているのが確認出来て、彼女は相手のカウンター攻撃を反射して自身を守ってくれた、この半透明の黒結晶は、この背の後ろで自分を見守ってくれている心強い異世界からの助っ人達の中で不思議な携帯端末を持っているトールズⅦ組の誰かが発令した号令効果なのだと把握したからだ。
「スバルさんと言いましたね……正直言って、次元世界にやってきたばかりの余所者にしか過ぎない私には、その新型魔煌機兵の中の人が言った【戦闘機人】という存在の委細について、まだ全く知りません。 ……ですが、あなた自身がどういった存在であるとしても、自分の愛する大切な誰かを想う“意志と心”を持っていると認識できているのなら、あなたは紛れもない“人”に間違いありません」
その透き通るように綺麗な声が聴こえてきた背中を振り向くと“絶対反射”の号令『ノワールクリスタル』を発令した本人である黒い戦術殻を従える銀髪の少女──アルティナ・オライオンが一見希薄に見えながらも確かな力強さを宿した眼差しでスバルを見据えていた。 まるで彼女自身もそうであるかのように、他人から人ではない目で見られて拒絶される事に恐怖する気持ちに共感しながら、しかし人の身ではない誰かに造られた偽物の人間であったとしても確かな“意志と心”を持っている限り“人”なのだから「あなたは大丈夫」だと、そのような激励のメッセージを込めて伝えてくるかのように。
「そうよバカスバル! アンタはバカなんでしょう? だったら自分が戦闘機人だからどうとか、柄にもなくウダウダと考えてんじゃないわよ!! アンタの危なっかしい背中はいつだって私達が守ってやるんだから、アンタはいつも通り何も考えずバカ正直一直線に敵へ突っ込んで拳を叩き込めばいいのよ!!」
「戦闘機人とはちょっと違いますが、僕やフェイトさんも人の手によって造られた人造魔導師ですから、他人から人間じゃない事を軽蔑されて酷い事を言われる辛さは凄く解ります。 ですが、なのはさんやティアナさんをはじめとする機動六課の普通の生まれの人達は皆、人造魔導師の事を自分達と同じ“人”として、対等の仲間として接してくれています。 そんな普通の生まれじゃない人造魔導師を仲間として認めてくれた大切な機動六課の為になら、僕は例え他の誰に軽蔑されたって、どこまでも自分の境遇に負けたりせず戦っていけます! そしてそれはスバルさんだって同じの筈です!!」
「スバルさん、あなたを酷く言う人なんかに負けないで! 同じ機動六課FWの仲間として、私はスバルさんを信じています!!」
「キュククルルーーー!」
周りを見渡せば、これ以上ラコフの好き勝手にはさせまいとして、尽きかけの魔力を限界以上に振り絞って敵機体への拘束を必死になって強固にしている機動六課FWらが、スバルならやってくれるとどこまでも信じ、「負けるな! 頑張れ!」と応援を叫んでくれている。
「スバル……君は最初、なのはさんのように誰かを助けられる強い魔導師になる事が夢だと言っていたけれど……君はもう、誰からの悪意にだって絶対に負けたりしない、立派な“強い人間”になったと、少なくてもわたしは確信しているよ。 だって君は、スカリエッティに洗脳されて敵対する事になった自分のお姉ちゃんと正面から向き合って、乗り越えて助けてあげられたし。 攫われたヴィヴィオを奪還する為に厳しい連戦をし続けて、やっと戦い終わった時に魔力を使い果たした、わたしとヴィータちゃんが聖王のゆりかごの防衛再生壁によって聖王の玉座の間に閉じ込められてどうしようもなくなっていた時だって、君がその戦闘機人の力を使って助け出してくれたんだ。 だからスバル、他人を支配して自分の欲望を満たす事だけしか考えない相手なんかに、君は絶対に負けないって、わたしは信じているよ! 君はもう……強いッッ!!」
最早体力も魔力も底を尽き、さすがに立っているのもやっとといった疲弊の様相を見せながらも相変わらず不屈の姿勢を崩さず自分の相棒の槍杖を支えに立ち続ける、自分が憧れと尊敬を懐く師からも、彼女の教え子であるスバルが一人前に成長したという信頼と、先のJS事件の戦いで得た功績に自信を持てという鼓舞を貰った。
「スバル……まだ君達とは知り合ったばかりで君の事をよく知らないオレなんかが、君に言える事はこれだけだ……君にも絶対に守りたい大切な人達が居るんだろう? だったら君も、その覚悟を炎に変える事ができる筈だ。 臆する必要なんて無い。 ただ迷わず、大切な人達を脅かすスクルドに、死ぬ気で君の拳を叩き込め──ッッ!!!」
そして先程初めて出逢い、それなのに機動六課の事を信用してくれて、ミッドナイト軍を打倒する戦いにこちらの味方をして戦ってくれている異世界からやって来た助っ人達のリーダーの一人である、不思議で心暖かい橙色の炎を額に灯すクールな雰囲気に幼げな愛嬌がある顔付をしている少年──沢田綱吉が橙色の閃光となって闇を射抜くようにスバルの背中へと追って翔けつけて来ながら、元々は部外者である彼が今スバルへ向けて掛けてやれる最大限の助言と“覚悟”の出し方を授けてくれた事で背中が押され、戸惑いは完全に消失した。
──ティア、エリオ、キャロ、フリード、なのはさん。 それと助っ人の御人形みたいな銀髪の女の子(アルティナ)とツナさんも、みんな励ましてくれてありがとう! あたしはもう誰に何を言われようと迷わない。 あたしの大切な皆を守る為に、あたしは──
「──ありったけの想いと“覚悟”を込めたこの拳を、全力全開の死ぬ気でスクルドへと叩き込むッ! 最速で、最短で、一直線に──ッッ!!」
金色の瞳に再び勇気の輝きが戻り、その奥に大空の守護者から贈られた“覚悟の炎”が灯された。 機動六課の仲間達が最後の魔力を絞り出し切って強度を限界まで強められた幾重もの拘束魔法によって、今度こそ完全に全身の身動きを封じ込められた《紫焔の武士》の懐へと真っ直ぐ翔けて突貫する。
「IS《振動破砕》発動! 一撃粉砕──」
そしてスバルは遂に破壊目標を必殺攻撃圏内間近に捉えた。 まさに十万馬力を思わせる力強さで右腕を肩の上後方に大きく振りかぶり、結んだ絆は放さないと言わんばかりに強く握り締めた鋼鉄の拳に外付けされているナックルスピナーが青い放電を放つ程の超回転速度で回され、それに纏わり付く周囲の空間を歪曲させる程の超摩擦……否、振動を生じさせる。 “タイプゼロ”たるスバル・ナカジマが《戦闘機人モード》で振るうIS《振動破砕》は彼女の突き進む道に立ち塞がるどんな硬い壁をもその異次元の振動数を纏った拳の一撃のもとに粉砕する。
「──振動拳の発展技を、くらええええーーっ!!」
『まっ、待て待って! のわああああっ!!?』
「これがスバル・ナカジマの全力全開にして死ぬ気の拳」
集いし星が、新たな力を呼び起こす……Sクラフト開眼!
「A・C・Sブレイク──スクラップフィストォォォォーーーッッ!!!」
銀の矢が貫く……そして超速回転の威力と一撃粉砕の振動、更には背中から後方へ魔力放出を行う事でそれを噴射推進に爆発的な加速をも伴って、突き放たれたスバルの必殺拳──《スクラップフィスト》が、落雷のような破砕音を轟かせると共に《紫焔の武士》の腹のド真ん中を貫通して背中まで突き抜け、巨大な風穴を空けたのだった。
『アギャ……ア……ッ!!?』
そのあまりに暴威的な破壊力を受けて、破壊された機体の操縦席空間内部の敵大将は大した悲鳴すらも上げられないレベルの衝撃と共に茫然と果てしない絶句に襲われている。
《振動破砕》によって機体の内部機構を隅々まで破壊し尽くされ、空けられた腹部の風穴から覗く内側部の配線や骨組の断たれた箇所から漏電が起きているのが確認でき、その奥では背中に空けた穴から外へと光差す道を翔け抜けたスバルがリボルバーナックルを前方に突き出した体勢のまま空中で“開眼”できた新必殺技を成功させれた実感とそれで敵機体に決定的な致命打を与えられた事に盛大な歓喜を表している。
「よっしゃああああっ!! 敵機体の主動力を完全に破壊した! これでコイツはもう虫の息も同然ッ!! 最後のとどめは任せましたよ、ツナさんとリィンさん!!」
「「応ッ!!」」
スバルが半壊して罅割れだらけとなった艦尾の柵壁前に着地して、右拳を高らと夜天へ掲げながらとびっきりの笑顔で、敵大将にとどめを刺す役目を異世界の助っ人のリーダー二人へと託す。 今度こそ最悪の次元侵略組織の反管理局軍ミッドナイトの総司令官を倒してこの戦いに決着を着けてくれ。 三つの世界を越えて集った仲間達全員の想いに頼もしく応えて、二人の歴戦の英雄は鉄の地を焦がす灰色と闇夜を照らす橙色の閃光となって駆けつける。
──リィン。 アンタにオレの“炎”を預ける。 決めてくれ!
──分かった。 俺の“剣”と君の“炎”を合わせて、闇を切り拓こう、ツナ!
疾走と滑空で上下縦一列に並走する二人は互いを見合わせず、直接声を発して作戦を伝え合う事さえもしない。 有りとあらゆる先入観を排除し多角の視点から真実を見極める“八葉”の剣士たるリィン・シュバルツァーの《観の眼》。 ボンゴレファミリー代々のボスが継承する“ボンゴレの血筋”が齎す才覚により直感的に未来に起きる事象を予知する沢田綱吉の《超直感》。 この二つの予見技能を意識下で接続させる事で、この二人は計らずもARCUSⅡの戦術リンク以上の神速での思考の意志共有を行うという奇跡に等しい神業を為したのだった。
「いくぞ……!!」
“覚悟”はいいか? そう一言呟いたツナはその場を急上昇すると、前に先行して行くリィンへ向けて剛の如く凄まじい炎を放出するグローブを着けた左手を突き出し、同時に左よりも柔らかな炎を放出するグローブを着けた右手を左手と丁度対角直線になるよう合わせるようにして後方逆方向へと突き出した。
「オペレーション……X」
『了解シマシタ、ボス』
ツナの口から静かにそう命令が発せられると、彼の両耳に被されている【VONGOLA X】と刻まれたヘッドホンから機械音声が発せられて了解の意を示した。
『《X BURNER》発射シークエンスヲ開始シマス』
ヘッドホンの機械音声がそう言った直後、後方へ突き出されているツナの右手のグローブから放出されている“柔の炎”の出力が急激に高められて、後方に大きなエアバッグを膨らませるような形に勢いよく拡散逆噴射される。 彼のその動作は知らない傍から見たら意味が全く理解できず、それを目の当たりにしてツナの守護者である獄寺と山本以外は珍紛漢紛という反応を表した。
「え……ええっ、ツナさん!?」
「あんな空中に留まって、いったいあの人は何をする気なんだ?」
「ツナは《X BURNER》を放つ気なのな」
「え……?」
「形態変化不使用の通常状態で十代目が放てる最大威力のSクラフトだ。 あの御方の耳に装着なされているヘッドホン型の音声装置が両目のコンタクト型ディスプレイと連動していてな。 そのコンタクト型ディスプレイが映し出す、右手の“柔の炎”と左手の“剛の炎”の出力を調整する為の【スロットルバー】と砲撃を放つ敵に狙いを定める為の【ターゲット】を活用する事で、“柔の炎”による支えと“剛の炎”が放つ砲撃の両方の出力を完全に同じにする事によって、空中で姿勢を安定させながら最大威力の《X BURNER》を放つ事ができるって寸法なんだぜ」
「へぇ~、そうなの……って、砲撃──ッ!!?」
「ちょっと待って? それじゃあ何であのツナっていう子はスクルドにじゃなくて、リィン教官に砲撃を放つ左手を向けているのよ! まさかとは思うけれど、その《X BURNER》っていう凄そうな砲撃をリィン教官に向けて撃つつもりじゃあないでしょうね!?」
「さあ、どうだろーな? だけど全然心配しなくていいぜ。 ツナが何の考えも無く仲間を攻撃する筈ねーからな」
ツナが完全停止したスクルドではなくて、何故だか先行してそれに向かって駆けて行っているリィンの背中に“剛の炎”を集中している左手を向けている訳がまるで分からず疑問の声をあげた機動六課組とトールズⅦ組に山本と獄寺がツナが今から繰り出そうとしているSクラフト──《X BURNER》について詳細説明をする。 それは簡単に言えば物凄い砲撃との事らしく、それを聞いたボンゴレ組以外は当然そこで今度は何故ツナはそれを味方であるリィンへと向けて照準を狙い澄ましているのかと焦燥気味に疑問を懐く。 しかしツナの人柄についてまだよく知り得ていない異世界の新たな仲間達が浮かべた不安に山本は周りに安心させる微笑を浮かべてツナが何の理由も無く血迷って仲間を撃ったりなどはしないと断言して、仲間達を一旦落ち着かせた。 それでも彼等の不安は完全には拭えないが、今はツナを信じて見守るしかない。
『右手“柔ノ炎”。 35万FVデ固定。 左手“剛ノ炎”ノエネルギーヲ、グローブクリスタル内ニ充填』
周囲がそうこう揉めている内にツナは空中に滞空したまま、右手の“柔の炎”を逆噴射して背中へ形成した砲撃反動を抑える為の炎のエアバッグを完成させてその場に固定させると、敵大将に接近するまであと25mに迫ったリィンへ向けた左手グローブの甲の中心にある半球水晶の中に煌々しくも猛々しい橙色の極光を収束させていく。 もっと光れ、もっと輝け──ッ! そのような叫び声の幻聴が轟いて来そうな程に、どこまでも熱く、激しく、“剛の炎”を滾らせる。
『砲撃対象照準固定。 右手炎圧再上昇』
両眼のコンタクトディスプレイに表示された中心の照準が前下方を駆ける《灰色の騎士》の背中へ完全に固定され、右手の炎の出力を表わす上側の緑色のスロットルバーが最大値に向かって伸びていく。 これが表す最大値はツナが今現在の身体に無理な負担を掛けず扱える炎圧出力の限界量数を示している。 彼は元居た世界で幾多の強敵達との激闘を得た事により、以前最初にこのコンタクトディスプレイを“とある敵対ファミリーから味方に寝返ってきた炎工学技術師”から貰い受けて完全な《X BURNER》を完成させた当初の最大値20万FVよりざっと二倍の【40万FV】にまで増大させており、この炎圧出力数値で炎砲撃を放てばこの空域に陣取っているミッドナイト軍艦隊の半数以上を一発でクラナガンの夜空に灰塵と散らせられると予測できる。
先程ツナ本人が言っていたように彼の持つ“大空属性の炎”はその調和特性によって生物の肉体を傷付ける事はないのだが、その戦術兵器をも余裕で凌駕する破壊力の余波を生身の人間がまともに浴びたりすれば間違いなくひと堪りもないし、それにこの焼け落ち寸前である艦だって崩落を免れないだろう。 それこそ彼が今から撃ち放とうとしている最大出力の炎砲撃を全て取り溢さずに何かで受け止めでもしない限りは……。
『38万……39万……40万FV!! 左手炎圧上昇……39万……40万FV!!』
画面上側のスロットルバーが最大値まで緑色に染まりきり、同じように左手の炎の出力を表わす下側のスロットルバーも最大値まで赤色に染まりきった。 そうして上下のスロットルバーから中心の照準に向かって伸びる両出力のバランスラインが一直線に繋がったその時こそ──
『ゲージシンメトリー!! 発射スタンバイ!!』
ボンゴレ十世たる沢田綱吉のSクラフト《X BURNER》の発射準備が完了した合図だ。 コンタクトディスプレイの画面に大きく【X】の文字が表示され、振り向かずに前を駆ける《灰色の騎士》の背中へ狙い定めた左手の内に収束されし圧倒的な熱量の剛炎が今、解き放たれる!
「受け取れぇぇえええ! リィィイイイン──ッッ!!!」
X BURNER!!!
ツナの相手に届けという想いの叫び声がミッドチルダの夜空高くに響くと同時に、聴くに耳まで燃やし尽くされそうな程に凄まじい放射音を鳴らして彼の左掌から橙色の炎禍が放出された。 この大空の全てを呑み込み尽くすような膨大な炎エネルギーの奔流。 それはまるで大気の全てを焦がすような蒸発音を唸らせながら、天に挑まんとするバベルの塔の如く極太い一条の煌柱となって夜闇を照らし貫いて大穴を空けていくような壮絶な光景であった。
「キャアアアアアーーーッ!!?」
「ななな、なんっつうデカさの規模と熱量の砲撃だよ!? 発射の余波で生じた熱風が、此処から遥か遠くに離れた空域に広がっていた雲海にまで届いて、跡形も残さず吹き飛ばしやがった!!」
「嘘でしょう!? あの砲撃の巨きさは、完全になのはがフルパワーで放つディバインバスターを大きく超えている!!」
「あ、あんな規格外に膨大なエネルギーが生身の人間にまともに直撃したりしたら、まず確実に細胞の一粒も残らず塵と化して消し飛んでしまうわ! ……というか、あんなに巨きな質量を持つ砲撃が着弾時に生じてくる衝撃の規模を考えたら、今私達が立っているこの艦も粉々じゃ済まないじゃないのよ!!」
放たれた《X BURNER》より散布されてきた猛烈な熱風を浴びせられながら、周囲に散らばる仲間達の誰しもがその橙色の砲撃のあまりの規模の巨大さに何処までも果てしない戦慄や驚愕を露わにした。 その規格を度外視した勢力の余波の影響は、この首都クラナガン上空域の遥か果てにまで及ぼされ、砲撃発射地点となった艦の周辺を守り固めるミッドナイト軍主力艦隊やその間を哨戒守備していた魔煌機兵や飛行ユニット人形兵器の守衛部隊が熱風の荒波に圧し煽られて艦隊の守備陣形を大きく崩れさせた。 更には珍しく動揺を露呈させてアッシュが口にしたように此処から眺められる遥か果ての空域の一面に立ち込めていた雲海にまで猛烈な余波が行き届いて、その只中で壮絶な空中格闘戦を繰り広げていたミッドナイト軍の魔煌機兵飛行部隊とクラナガン首都航空隊の航空魔導師等ごと、全て纏めて吹き飛ばして壊滅させている。
発射時に生じた余波の影響範囲を見ただけで、ツナの《X BURNER》が底知れ無く絶大な火力を孕んだ砲撃である事が全員に理解できた。
「お願いリィン君、避けて──ッ!!!」
故に幾らその砲撃が生体へダメージを与えないのだとしても、それ程までに強力なエネルギーが生身の人間一人へ目掛けて飛んで行く光景を目の当たりにしたなら余程の人でなし人間でない限りは大慌てでその人間へ至急退避を呼び掛けるのが普通だろう。 現に撃ち放たれた《X BURNER》がロケット発進の如き凄まじい轟音をあげながら一直線に向かう先を、未だに全然後ろを振り向く素振りもせずに前方の敵大将をひたすらに見据えて全力疾走するリィンへ背後に迫り来る砲撃を回避するよう、一早くなのはが必死の叫び声をあげて呼び掛けていた。
「オオオオオオオッ!!」
だがしかし、美しくも可憐な白き戦乙女の声を聴いてすらも灰色の英雄は立ち止まらなかった。 斬るべき敵大将を眼前に捉えて腰に差した《神刀【緋天】》を右手に抜き、獅子の如き雄叫びを夜天高くに鳴り響かせて、背に幾人もの己の幻影を追従させる程の走力をもって、前へと駆け抜ける。 ただひたすらに、ただひたむきに、前へ。
──振り返らずとも背後に迫り来る途轍もない熱量は肌で感じられる。 これがツナの全力の“炎”なのか……なんていう凄まじいエネルギーなんだ。 単純な質量ならあの最強の《劫炎》には遠く及ばないが、この必殺戦技は想像を絶するエネルギーを一点に収束して一気に放出する事によって限りない破壊力を発揮しているようだな。 それに──
この“炎”は、なんだかとても温かい。 内側に込められた相手への優しさと思い遣りがしっかりと感じられる……だから恐れる必要は無い。 これは味方だ。
「八葉一刀流──参の型、業炎撃!」
前方の敵大将と後方の砲撃が同時に自分のもとの間近に迫った瞬間、リィンは右手に携えた《神刀【緋天】》の刀身に“暁色の業炎”を燃え盛らせる。 そしてこの世界の遥か夜空に向けて掲げたその業炎纏う刀身が、背中へ飛来した途方もなく巨大な橙色の炎禍をも糸状に束ねるようにして巻き取り、残さず全て吸収し尽くした。
「嘘……だろ? 今の十代目の最大出力である40万FVでブッ放たれたあの《X BURNER》を、炎の刀で全部吸収しやがった……っ!!」
「オオオオオオオッ!!」
集団の最後尾からその光景を遠視していた獄寺が、下手すれば大山をも消滅させれる最大火力で放たれたツナの《X BURNER》がリィンの太刀に吸収された事に思わず自分の目を疑い、そしてその驚愕は再び鳴り響いたリィンの雄叫びによってカッ消される。 そして彼が右手に掲げた太刀の刀身に、混ざり合った“暁”と“橙”の業火が互いに螺旋状に絡み巻き合うよにして激しく燃え上がり、煌々と輝きを放った。
「戦技同士の複合……これってもしかして、昔の特務支援課が使用していた合体戦技!?」
「す、凄い……!!」
「それにとっても綺麗な“炎”。 まるで夜明けから昇ったばかりの朝日が放つ曙光のように……」
ユウナやスバル、なのはをはじめとする周囲の仲間達はリィンが掲げる太刀に纏われた曙の如き光輝を激しく放つ煌炎を目に入れて、そのあまりの煌々しさに驚きを雑じらせながら、呆然と立ち尽くし見惚れている。
──ツナ……君の炎は、受け取った──!!
二つの世界の英雄の“炎”が合わさって、常夜を照らす“太陽”が創造された……今こそ、戦いの決着の時だ!
「これで最後だ……征くぞッ!」
リィンは満を持して小太陽を纏う太刀を脇に構え、一息に縮地で敵大将との距離を詰めて征く。 敵大将は絶対無敵の装甲を砕かれ、無限の“炎”も尽きて、今や崩壊寸前の動けぬ木偶の坊だ。 あとはミッドチルダの深い闇夜を切り裂くこの一太刀で、中のボロカスと化したクソッタレの野望諸共、一刀両断にするのみ。
『ま……まだだっ! 吾輩は……こんなところで……終わるような器じゃあ……ない……わ……! 吾輩が使えぬ魔法なんかを中枢に据えた世の中を作って、次元世界を我が物顔で牛耳ってやがる時空管理局なんぞに……お花畑の綺麗事とガキの甘ったれた理想を掲げて、無知蒙昧の民間人共にチヤホヤされているような英雄共なんぞに……絶対に……負けるものかよォォォオオオオオーーーッ!!!』
だがしかし、機体が崩壊寸前まで大破させられ動かせなくなっても、ラコフは諦め悪く最後の足掻きをしてくる。 自己への崇拝と狂信、己が生まれ持てなかった魔法という力へ対する忌避、それを次元世界の中心に敷いて自分の存在価値を貶めた時空管理局へ対する憎悪と妄執、そして自分の野望をどこまでも邪魔し人々から厚い信奉と憧憬を得ている英雄達へ対する嫉妬や敵愾心。 腹の奥にドス黒く渦巻くそれ等の底無しの邪念の全てを原動力に、奴はズタボロの身体をド根性で動かし、震える指先を伸ばして仮想鍵盤を打ち込んだ。
ガコンガコン! 幾つもの機械駆動音が重く鳴り響き、甲板上の至る所の床に続々と中正方形状の昇降運搬口が開かれていく。 それ等全てが開ききったその直後に奥底からゴゴゴゴ! という昇降機の駆動上昇音が徐々に近づいて来る。
「これってまさか、また甲板底の格納庫から予備戦力を出してくるつもり……ッ!!?」
『ドンッ、チェルルルーーッ! 大正解だぜぇ! キサマらのような烏合の衆なんぞに吾輩はやられはせんわい! たとえ最強無敵の我が武士がブッ壊されようが、この艦の甲板の下にはまだまだ大量の人形兵器やオーバル・モスカが残ってi──』
そして憐れにもこれで形勢逆転したと思い込んだラコフが勝ち誇った莫迦笑いをして言い終える前に各昇降機の全てが甲板上に到着する。 だがしかし、その上に乗っかっていた物はどれもこれも一ケ所の例外も無く、黒い煙と漏電を伴う全壊した人形兵器の山しかなかったのだった……。
『──……は?』
WHY? 穴が大きく空けられた操縦席空間の内壁正面越しに格納庫から表に上げた最後の希望が全て無惨に機械塵の山と化しているのを覗き見て、腫れ跡だらけの葡萄面をどうしようもない程に硬直させた。 いったい全体何故……何時格納庫に残していた予備戦力の自律機動兵器が破壊される場面が存在したというのだ……そしてラコフはその可能性があった時に遡って思い至る。
『ま……さか……!? この黒髪の青二才の剣士とコイツに“大空属性の炎”を撃ち渡しやがった茶髪のガキが……いきなり上空から現れて落下してきて、二人同時にスクルドへ不意打ちを食らわせやがった、あの時の衝撃が甲板下の格納庫にまで届いていたと……いうの……か……ッッ!!!』
そう……それは先程、なのは達機動六課前線攻略部隊を絶体絶命の窮地に追い詰めたその時に、突如次元世界外の二つの異世界より次元間転移されて上空に出現したリィン達トールズⅦ組とツナ達十代目ボンゴレファミリー、そして彼等がこの艦へ落下してきたと同時に、助っ人集団の先頭だったリィンとツナが最初にスクルドの頭部脳天に不意打ち気味の高威力戦技を叩き込んだ、その爆発的な威力の余剰分が攻撃を叩き込まれた機体が立っていた足下を通して甲板の床下の底まで伝播されていった為、其処の格納庫に予備戦力に残して待機させてあった人形兵器やオーバル・モスカがほぼ全部損壊させられていたのだ。 しかもその時は運よく辛うじて損壊を免れていたごく僅かな数のユニットも、リィンが達人の技巧を使って床下へ受け流したスクルドの機関砲剣による大質量打撃の衝撃や、《紫焔大将軍》モードを使用したスクルドが無限強化で暴れまくった影響で継続的に生じてきた振動余波などの巻き添えを受けて、一機残らずバラバラの鉄屑になっていたのであった……。
『嘘……だろ……!? 全次元並行宇宙で最も崇高な人間である、このラコフ・ドンチェル大司令官様が……こんなアタマ御花畑の理想を夢見て仲良しこよししているような……青臭い英雄共なんかに……チ……チクショオオオオオオォォォッッ!!!』
これでリィンとツナの炎の剣に抗える全ての手段が尽き果て、ラコフはどうしようもない悔しさの余りに何処からか取り出した白いハンカチを歯茎の血で真っ赤に染める程強く噛み締めて猛烈に癇癪を喚き散らすしか、もはや出来る事は無いのだった……。
「今が勝機だ。 決めてくれ、リィン!」
「ああ! ツナ、君と俺の力と思いを一つに重ね併せた、この炎の太刀で──」
ツナから“炎”を渡して敵大将への最後のとどめを託されたリィンは背中へ送られてきた彼の声に任せてくれと頼もしい応答を返すと、遂に太刀の攻撃圏内へ完全に力尽きた敵機体を収め、その瞬間に罅割れた鉄床を踏み砕いて敵機体の真正面へ加速跳躍。 全身をミサイルにして、低空を高速滑空しつつ両手に握り締めた炎の太刀を引く。
「──次元世界の闇夜を希望の明日へと切り拓く──ッ!!」
それは三つの世界より集い、新たなる一筋の軌跡となった見果てぬ先まで続いていく戦いの道、この先共に手を取り合ってその道を進んで征く事となる若き英雄達が、未来に掲げし誓い……リィンは皆を代表してその意気込みを言表わし、スクルドの腹部中心に先程スバルの拳によって大きく穿ち空けられた風穴へ突入すると同時に引き絞った炎の太刀を薙ぎ払った。
「合奥義・天空ノ太刀──ッッ!!!」
そして背中から外へと通り抜けて、その先の艦尾前で暖かな安堵の微笑みを浮かべたなのはと満身創痍の重体を引き摺る彼女に肩を貸しながら歓喜の笑みを表わして手を大仰に振るスバルに出迎えられる。 二人の手前に閃光の尾を引きながら流麗に着地を決め、刃に纏わる炎に被せて鎮火するように太刀の刀身を鞘へと納めたその刹那、背中合わせのまま立ち呆ける《紫焔の武士》スクルドの機体の胴部に横一文字の炎線が刻まれて、その直後に巨大な炎の塔が天を衝くようにして大爆発を起こした。
「ポナペティーーーーッッ!!!」
結果、その爆風によって機体は粉々に吹き飛び、全身ズタボロの真っ黒クロスケに成り果てた敵軍総司令官がヘンテコな悲鳴をあげながら夜空の彼方へと盛大に放り出されて行く。
「クククッソー! 今日のところはこれぐらいで勘弁してやるが、次は絶対にメッタメタのギッタギタにしてやるからなクソ英雄共が! これで勝ったと思うなよォォォォーーーッッ!!」
キランッ☆
ラコフは最後に、まさしくヒーローにやっつけられた小悪党の捨て台詞を全開で吐き捨てて、そしてそのお約束に倣うようにミッドチルダの夜空のお星様になったのであった……。