獰猛不敵に覗かせた犬歯を光らせて戦友達に立ち塞がる全ての障害は己が壊してやるから安心しろと豪語し放った騎士ヴィータがその小さな両手に握り締めるドリルロケットハンマーを大独楽高速回転で巧みに操りつつ、己が身を赤い榴弾と化して竜王魔導巨像の背中のど真ん中へと突っ込む。
「【聖王のゆりかご】の駆動炉をもブッ貫いた、この鉄の伯爵最強の限界突破を、とくと食らいな! ツェアシュテールングス──ハンマアアアアアアアアッ!!!」
煉獄の天にその名を轟かせて、火花を散らし唸りを上げる超速回転掘削頭魔戦槌を大上段から豪快に振り下ろして叩き付ける。 ロケット噴射推進の爆発的な加速エネルギーも合わさって、突き刺さった一点から無限に自動修復する古代戦艦をも砕く途轍もない衝撃が竜王魔導巨像の内側奥底まで突き抜け、更には全身へと拡散して行き渡り破壊の限りを尽くした。
『グオォォォッ!!?』
不意を突かれて背中に叩き付けられた絶対破壊の鉄槌によりその巨体全身のあちこちが凄惨な暴発音を鳴らして崩され亀裂を刻み、まるで激痛に喘ぐような悲鳴を鳴らす竜王の化身。 特大のダメージが入った。
「アアッ、アッヂヂヂィィーーーッ!? ふー! ふー! ……んだよこのデカ竜、ギガクソ熱ぃ! ブッ叩いた瞬間にアイゼンがコイツの中の熱にやられて、ハンマーヘッドから柄まで真っ赤っ赤になりやがったし! お陰でアタシの手が焼けちまっただろうが、ボケーーッ!!」
現在放てる最強の必殺戦技で竜王魔導巨象のHPを一気に半分以下まで削り取る事に成功したヴィータだったが、変形できる四形態の内【リミットブレイク】の最大攻撃形態《ツェアシュテールングスフォルム》で打ち貫いた鉄の戦槌が巨像内部に流れていた灼熱の流炎に浸かってしまい、一秒経たず鉄は熱されたフライパンのような色に変えられて、溶岩の如く凄い熱さになった鉄柄を握り締めていた両手を火傷してしまったようだ。 焼けて真っ赤になった皮膚が剥けて凡そ1.3倍にまで膨張した自分の手に必死こいて息を吹き付けて冷ましつつ、頭からプンスカ湯気を出しながら足下の竜王魔導巨像をダダンッ! と踏みつけて罵詈雑言を吐くという、見た目通り子供の様相を全面に曝している歴戦の騎士が此処にいるww。
こんなとんでもなく熱いものに突き刺したままにしたら古代より共に数多の戦場を越えてきた己の相機がドロドロに溶かされて蒸発してしまうと思ったヴィータは持ち前の気合いとド根性で鉄焼ける両手の痛みを堪えながら、どうにか竜王魔導巨像からグラーフアイゼンを引き抜いて、巨像の上から離れる。 彼女は巨像が放出する熱気がマシに和らぐ距離まで一足跳びして、その辺りを漂っていた浮遊馬の背中に跨る。 そうしてグラーフアイゼンを一旦ミニチュアハンマーへと戻して、それを側に浮かんでいた洗面台の上にひとまず置いて熱を冷ます。 ……何はさておき、火属性の魔導巨像に直接触れる物理攻撃を仕掛けるのは非常に危ないという事は解った。
「ふむ……ならば私は、十分な距離から“大弓”で射るとしようか」
空飛ぶ馬に跨って火傷した両手を何故か給水管が千切れているのに水が出る浮遊洗面台の蛇口で洗うヴィータのなんともシュールな姿を上から見下ろして、思案顔で自分の首筋を触りながら次に到着したのはシグナムだった。
「という訳だ、レヴァンティン。 《ボーゲンフォルム》を頼む」
『了解』
「ああっ!? テメェ、後から来てそれは汚ねぇぞシグナム!!」
「ブヒヒww」
「ウルセェ嗤うな! それとテメェは豚じゃなくて馬だろうがぁぁ!!」
竜王魔導巨像に近接攻撃して手痛いしっぺ返しを受けたヴィータの失敗を見て接近するのはリスクが高いと理解したシグナムは剣を遠距離狙撃用の大弓形態に変形させる。 自分達の将の到着にようやく気付いたおマヌケな鉄槌の騎士が下でなにやらギャーギャー文句を言っているが、豚のように鳴き嗤って彼女の事を小馬鹿にしてきた浮遊馬とそれに跨る彼女が口喧嘩をし出したようなので、気にせず鞘と剣を連結して大弓に変形させたレヴァンティンの弦に魔力の矢を番える。 ヴィータの《ツェアシュテールングスハンマー》で大きなダメージを受け、六枚の灼熱大翼を振り回して周囲に火の粉を撒き散らしながら暴れ苦しんでいる様子を見せている竜王の化身。 烈火の将は奴の心臓(導力体である為、心臓など無いが……)に狙いを定めて弦を引き絞り、音速の矢を放った。
「あれだけ的が巨大ならば外す事はあるまい……翔けよ隼!」
『《シュツルムファルケン》ッ!!』
シグナムの凛然と透き通る掛け声が空高々とあげられてレヴァンティンのAI音声が戦技名を発したと同時に射出された魔力の矢は音の層を破って真空波を引き連れ、軌道上を遮る無数の浮遊障害物を塵へと変えながら山程巨大な的目掛けて直進する。 新手の存在に気付いた竜王の化身が背中を振り返り、文字通り一羽の光の隼と化した魔力の矢がその胸の中心に真っ直ぐ吸い込まれるように突き刺さった。
『グッ!? ギャアアアアアアアアアッ!!』
《烈火の将》が撃ち出した矢は巨大な的に命中すると突き刺さった鏃から発火して射抜いた敵を地獄の業火で燃やし尽くす鎮魂の聖杭。 衝撃波と共に竜王魔導巨像の胸元から首下にかけて鮮やかな紫炎が盛大に弾けて迸り、烈々とした熱波が煉獄の天壌を撫でる。 あまりにも刹那的で洗練を極めた一矢は鈍重な巨像では回避する事は適わない。 もっとも太陽よりも遥かに熱い爆炎を内包している竜王の化身に対してたかだが一人の魔導騎士の魔力変換で生み出される炎熱など腹の足しにすらならないのだが、音を貫く矢そのものの貫通力は鉄槌の騎士の絶対破壊の一撃によって半分以下まで減らされた奴のHPを削り切るには十分であった。
これで三回目だ。 しかし、それでも星を焼き尽くす竜王の化身を消滅させる為には、あと四回も撃破しなければならない。
「十代目、長々と御傍から離れてしまって申し訳ありませんでした! 後は右腕であるこのオレにお任せ下さい!!」
「獄寺君!?」
「真打の御到着だぜ! やられた分、利子付けてキッチリと返してやらぁ!!」
「アッシュもか!」
故に、更なる援軍の力が必要だった。 竜王魔導巨像が四回目のHPを回復したと同時に北西より浮遊デブリ群を経由して、獄寺とアッシュの不良コンビが参上。 それぞれのリーダーへとスカした笑みを向けて合流を報告すると、二人は早々に魔導巨像への攻撃に加勢して戦技を繰り出す構えを取りだした。
「覚悟しやがれよ、どんなに図体がデカかろうが十代目とボンゴレファミリーの敵は右腕の名に懸けて必ずブッ倒す! SISTEMA C.A.Iの中でも一番強力なのを、そのドテッ腹にお見舞いしてやるぜ!!」
「仕込みはバッチリだ。 そんなに熱いものが好きだってんならイイもんをくれてやるよ、このデカブツ火トカゲ野郎!!」
獄寺は右手の指に四つ嵌めている髑髏ヘッドを模った指輪の一つに緑色の炎を仄かに灯し、それを腰に巻いてあるベルトに複数ぶら下げている髑髏マーク入りの匣の内一個の上面に空けられている孔へと挿し込む。 すると指輪を挿した匣が開口されて、中から帯電する爪のような武器改造用外付け部品が取り出され、彼はそれを左手に装着した髑髏型火炎放射器《赤炎の矢》に手際よく取り付けて、雷マークが浮かびあがった射出頭を攻撃目標の腹部ド真ん中へ狙い向ける。 弾薬を装填し、緑色の電光が迸る髑髏の口から雷纏う赤色の豪炎弾が吐き出された。
「嵐+雷! 爆ぜ果てろ──《赤炎の雷》ッ!!!」
「剛撃省略版《ギルティーカーニバル》だ! たらふく食らいやがれぇぇっ!!!」
雷轟音と共に強大な破壊力を持つ遠距離攻撃戦技を放つ嵐の守護者の真後ろからアッシュが浮遊足場を蹴って高く跳び上がり、竜王魔導巨像へと向かって一直線に爆進して飛んで行っている《赤炎の雷》の後に続かせる形で、両手の指に挟んだ七本のダーツ(弾頭に特製の爆薬仕込み)を翔ける流星の如く投げ放った。
まずは軽量のダーツが《赤炎の雷》を追い越して先に攻撃目標に着弾。竜王魔導巨像の四肢と尻尾と背中の三対六の大翼の内左右一枚ずつに七筋の流星が突き刺さり、それぞれの部位がリズム良く爆破される。 そしてその直後に濛々と広げられた爆発の壁膜の中心に大きな風穴が穿たれ、其処を突き抜けて来た雷纏う赤色の豪炎弾が狙撃手の狙い通りに竜王魔導巨像の腹部ド真ん中を直撃した。
「おっと? ハハッ、獄寺達に先を越されたか。 アイツら随分と派手に暴れてるじゃねーか♪」
「だが、あの火力でも動きを止めるには少し足りてないようだ。 ここは僕達が追撃して畳み掛けるのが最善だろう」
「オーケーオーケー。 それじゃあ、いっちょ代打かましてやるか! いくぜ小次郎、そして《次郎》!!」
「ピュイ!」
「ワンッ!」
肌が痺れる爆風の波濤を正面に受けつつも怯む事なく、続く援軍が到着する。 獄寺の《赤炎の雷》が竜王魔導巨像に命中して天地へと響き渡る爆裂が鳴ると同時に、南西の地上から瓦礫の山が塞ぐ道を文字通り斬り拓いて駆けつけたのは、山本とクルトの若手剣士コンビ。
山程に巨きい魔導巨像を蔽い隠しながら濛々と上がった特大の爆煙を下から見上げて、獄寺が自分に先駆けて援軍に到着し早々と華々しい活躍をしているのを少し悔しがるような苦笑を漏らしながらも、彼等の爽快派手な戦技に愉快な気分を呟く山本。 しかし上空に蔓延した爆煙の隙間からは少ししか堪えた様子がない竜王の化身が覗けた為、押し切るには自分達の加勢も必要だと口にするクルト。 彼の提案に二つ返事で乗っかった山本は首に架けた《雨のネックレスVer.X》から雨燕の小次郎と一緒に、“三本の炎の小刀を背負った秋田犬”を出した。
≪雨犬≫次郎
「本気を出してやろうぜ、二人とも! 形態変化──全力解放ッッ!!!」
山本が不敵な笑みで全力を解放して形態変化しろと二匹の炎の相棒に命じると、小次郎と次郎が即座にビュッと動いた。 《雨のネックレスVer.X》に青色の炎が灯された直後、小次郎と次郎が同色の炎を纏いながら自分達の主人へと背中からドウッ! と体当たり。 すると二匹それぞれが一本ずつの立派な太刀へと形態変化した業物が山本の左右の腰に納められ、山本自身が纏う衣装も剣道の袴着のような風流を感じる格好へと変わっていた。
山本武、《小次郎Ver.X》《次郎Ver.X》全力解放形態変化──≪雨のVG≫
「っ!? 僕と同じ双剣……いや、双太刀か」
「さぁて、まずはオレがコイツで煙の中に隠れた奴の急所を見つけてやるとするかな」
刀で爆煙の中に隠れた敵の急所を見つけるって、そんなのどうやってやるんだ? クルトがそう訊き返してくるよりも素早く、山本は静かに右腰に差してある【次郎の太刀】の柄に左手を添える。 彼はそのまま重力崩壊のルールを利用して高々と上空へ跳躍し、左手に掴み取った太刀を抜く。
「な……山本っ!?」
「時雨蒼燕流──特式・十二の型“左太刀”、霧雨!!」
目立つ宙空に姿を現した雨の守護者の存在にようやく気付いて驚きの声をあげたボスの顔を一瞬横目に流見して親友の無事を確認し、それにより山本は心置きなく洗練された奥技を放つ事ができた。 抜刀した【次郎の太刀】から無数の真空刃が飛翔して、眼前に立ち込める爆煙の入道雲を切り裂いて中へと突入。 そして少し間を置いてから『ズババババッ!』という何かが斬り刻まれる音が一ヶ所から鳴り響いてきた。 耳に返ってきたその斬音の出所を記憶しつつ跳び上がった先に浮いていた岩石の下側を蹴って地上へと撥ね返りながら「見つけたぜ」と確信を得て口端を不敵に吊り上げてみせる雨の守護者。 空中で右腰に【次郎の太刀】を納刀しつつ片膝立ち着地を決めて地上のクルトのもとに舞い戻る。
「よっと! へへっ、お待ちどうな♪ 斬撃音が聴こえてきたと思うが、急所はアソコのようだぜ」
──煙の中に斬撃を飛ばしただけで何故判ったんだ? ……などと訊いている場合ではないか。
「そんじゃあ、アソコへ向かって一点集中攻撃だな。 一緒にデカイのをかましてやろうぜ!」
「承知!」
二人の双剣士は頷き合い、山本が放った《霧雨》の真空刃が探し当てた爆煙の中に隠れている竜王の化身の弱点予測箇所へ獲物を狙う鷹のような鋭い眼光を差す。 山本が左腰に刃を納めた【小次郎の太刀】の柄を右手で掴み、壮烈な青色の炎が足下に燃え広がる。 クルトが光のアーチを二つ頭上に描いて両手に取った二振りの剣が極光を纏いて銀河の如く輝き放った。
「時雨蒼燕流──特式・十二の型“右太刀”──」
「我が全霊を以って、光牙の一撃を為す!」
山本が放つ濃厚な殺気が右手で抜き放とうとしている太刀の内に宿る小次郎の意思と同調し、居合いに構える彼の周囲を足下から舞い上がった無数の燕の炎閃が夥しく高速旋回する。 クルトが極光の双剣を眼前へと十文字状に翳し、邪を祓う浄滅の聖十字架を顕現した。
「──斬雨ッ!!」
「光よ、滅せよッ!」
そして二人の双剣士は奥義を解き放った。 山本が抜刀した超高速の太刀筋が彼に纏わる無数の燕の炎閃を刹那の斬雨へと変え、散弾となって次郎が嗅ぎ付けてくれた目標の弱点予測箇所を目掛け爆煙の壁へと殺到。 その斬雨の中心にクルトが放った浄滅の聖光も並び、爆煙の壁を蹴散らして中の目標に命中して青白色の光撃を炸裂させた。 二人の攻撃が当たった箇所は、直前に獄寺が《赤炎の雷》を命中させた竜王魔導巨像の腹部中心だった。
「こぉぉぉ……奥義──」
どんなに相手が巨大でも間を置かさせず一ヶ所に集中して立て続けに強力な戦技を重ね当てたなら、塵も積もれば山となるように、その分だけ肉厚が削り取られて薄くなり脆くなるものだ。 故に竜王の化身が持つ星をも焼き尽くす熱量もその箇所だけは多少軽減されるのは当然の帰結となる。 クルトは休まずに双剣を極光の双刃剣へと変えた四刀流を構え、この刹那に出来た孔を突いて自ら弾丸突撃する。 聖光十字の四大刃を纏う事で熱から身を守りながら脆くなった竜王魔導巨像の腹部中心を貫いた。
「──天眼無双ッッ!!!」
『グギャアアアアアアアアアッ!!?』
結果、身体に火傷一つ無く無事に灼熱地獄を斬り抜けて竜王の化身の背後を破ったクルトは、丁度その先に漂っていた大型自動車の屋根に片膝立ち着地を決めつつ毅然と必殺戦技名を言い放つ。 その瞬間に彼が背中にした竜王魔導巨像が暗黒銀河に包まれて巨大な光十字によって裁かれるような錯覚を覚える程に凄まじい大爆発を起こした。 HP消滅を告げる竜王の悲鳴が煉獄の大空に響き渡り、奥義を炸裂させた二人の双剣士が天へと昇る爆発を挟んで決めポーズ。
「見たか、ヴァンダールの剣!」
「完全無欠最強無敵の時雨蒼燕流は伊達じゃねーぜ!」
四回目の撃破。 残すは後三回。
「雷鳴よ貫け! 《サンダーレイジ》──ッ!!」
「フリードも一緒にお願い! 《ブラストレイ》──ッ!!」
「キュオオオオオオーーッ!!」
山本とクルトが奥義を出し終えた直後、南東の空より一筋の雷撃と特大の火炎弾が飛来する。 爆発が晴れ、未だ消滅するまでには至っていないが度重なり英雄達の大威力の必殺戦技を受けて全体の綻びが目に見えて目立つようになってきた竜王魔導巨像が五回目のHPを全回復させた瞬間、飛んで来た雷撃と火炎弾が背中に命中。
『グギョ!?』
なんだぁ、今のはぁ? 不意を突かれて背中に感じた二発分の衝撃に対し、変な声が出てしまった竜王の化身。 振り向いて見ると、立派な白銀の飛竜──キャロの使役竜フリードリヒが《竜魂召喚》によって変身した成長竜体が美しい白翼を羽ばたかせて煉獄の空を翔けてやって来ていた。 その背中には竜の召喚士であるキャロが跨り、彼女を守護する小さき竜槍騎士のエリオもまたその背後でバランス感覚抜群に飛竜の背中の上に立ち乗りながらバチバチと迸る雷光を放つ槍の穂先を討つべき竜王の化身へと差し向けて勇壮に構えている様子を見せている。
「エリオ! キャロ! よかった無事で……」
「まさか、あれは匣兵器じゃねぇ本物のドラゴンか!? うっひょおおお、やべぇ! 異世界にはマジで伝説上の生き物が存在していやがるのか!!」
「うぜぇ。 幻獣見て興奮なんかしてんじゃねぇよ! ……しかし、あのガキ共、何かするつもりみてぇだが。 あんな俺達が立て続けに高威力戦技をブチかましまくってやってるのに、まだ解除できる気配がしねぇ、クソタフなデカブツ竜モドキを相手にいったい何を……」
ずっと離れ離れになっていて心配していた養子の子供達が無事に見つかって、フェイトが心からの喜びと安堵の声を漏らした。 神秘や幻想生物が大好物である獄寺も初めて見る本物の竜(因みに、瓜のような炎アニマルの“龍”なら嘗て彼等が敵対していたとあるファミリーのボスが使っているのを見ているが、それに関しては獄寺はインチキ扱いしている)であるフリードに興奮の声をあげ、それをすぐ傍に居たアッシュが鬱陶しがりながらも幼い子供であるエリオとキャロが竜王魔導巨像へ向けて妙な動きを見せている事に訝しく眉根に皺を寄せている。
「キャロ。 僕がちゃんと見守っているから、思いっきりやって!」
「うん。 エリオ君が傍に居てくれれば、わたしは何だってできるよ!」
頼もしい声で元気付けてくれたエリオに振り向いて満面の笑顔でやってみせると返事するキャロ。 大好きな男の子が傍で応援してくれれば女の子は無敵なのだという。 なんて、メルヘンチックな話だが侮る事なかれ。
「天地貫く業火の咆哮。 遥けき大地の永遠の護り手──」
エリオから勇気100倍を貰ったキャロは小さな右手を天高らかに上げて、微塵の恐れ無く自身の使役できる中で最も強大な“真竜”を呼び出す詩を詠い出した。
キャロ・ル・ルシエは嘗て【アルザス】という守護竜を奉る里の少数民族、その守護竜に選ばれた“巫女”であった。 しかし、彼女は生まれながら“白銀の飛竜”とアルザスの里で崇め奉られていた【大地の守護者】と呼ばれし“真竜”という強大な力を持つ竜を二体も使役可能な程強大な資質を秘めていた《竜召喚士》であったが為、彼女のその力が里に災厄を呼ぶ可能性を恐れたアルザスの部族によって里から追放されたという不幸な過去を持っていた。 その所為で心に深い傷を負ったキャロは管理局の保護を受けフェイトの養子になってから機動六課に入隊するまでの間、自分の力で他人を傷付けてしまう事を心の底から恐怖して竜召喚の魔法を発動する事ができなくなっていた。
「──我がもとに来よ、黒き炎の大地の守護者──」
己が力を恐怖し他者が傷付く事を憂う。 そんな優しくも力を使う勇気が足りなかった竜召喚士の幼き少女の傍らには自分と同じ歳でフェイトの養子となった騎士志望の赤髪の少年が在るようになっていた。 彼もとある不幸な事情により愛する両親のもとから引き離されていたが、それでも大切な人達を守りたいと強く願い、いつも一生懸命に守ろうとしてくれる……キャロはそんな彼の姿に心惹かれ、彼の事を誰よりも大切に想うようになっていた。 故に彼が敵にやられて谷底へと落下した時、キャロは彼を救うべく勇気を出して、再び“白銀の飛竜”を召喚する事ができたのだ。 自分の居場所である機動六課の拠点が敵襲によって破壊され襲撃者によって大切な彼が深く傷付けられた時も、暴走を恐れて呼び出す事をずっと恐れていた“真竜”を召喚して襲撃者を撃退した。
「──竜騎招来、天地轟鳴!」
キャロが辛い過去から恐れていた竜召喚の力を使えるようになったのは、いつだって傍らで自分を護ってくれる大好きな男の子が見守ってくれているからなのだ。
「来よ──《アルザスの真竜》ヴォルテェェエエエエル──ッッ!!!」
そして、幼き召喚士が召喚するその竜の真名を呼んだ。 その直後、選ばれし竜の巫女の呼びかけに応えるかのように彼女が跨る白銀の飛竜が羽ばたき滞空している宙空直下の地面に獰猛な眼光が『ピキィン!』と光ると、その周囲を半径約10m四方大に広げられた桃色の召喚魔法陣が囲い敷く形で展開される。 リィンやユウナ達トールズⅦ組はキャロが高らかに叫んだ直後『応っ!』という幻聴が聴こえてきて一瞬戸惑った様子を見せたが、その間に召喚魔法陣で囲った地面が盛り上がり出し地響きを鳴らしつつ高々と隆起し始めた。
「グオオオオオオオオッ!!」
しかしその隆起の正体は地上の岩や土ではなかった。 岩だと思っていたのは如何なるものも砕き割る爪と牙、土と見間違えたのは剣も大砲も傷付ける事適わぬ漆黒の竜鱗。 地上から約15m程せり上がって全貌を現したものは終末の世界全体を激震させる天災の如き咆吼を放つ、巨いなる黒竜であった。
≪アルザスの真竜≫──ヴォルテール
「な……っ! 黒い……竜……!?」
「さすがに目の前の《バハムートフレアボマー》と見比べると小さめに見えるが、それでもなんという巨きさなんだ……。 放たれて来る途轍もない霊圧の密度も共に、昨年の帝都ヘイムダル地下墓所に顕れた暗黒竜とほぼ同格と視ていいか……!!」
「真竜ヴォルテール……実際に見るのは初めてだが、聞いていた以上に凄まじい威圧感だな。 吼えた音を浴びただけで身体の芯まで震えさせられるようだ……!!」
キャロが召喚した真竜ヴォルテールの威容を前にツナ・リィン・シグナムといった歴戦の戦士達ですらも圧倒されている。 そしてそんな伝説の真竜よりも遥かに強大な竜王の化身に相対し、ヴォルテールは主たる竜の巫女の少女に仇名す敵だと認識した。 破壊を伴う眼光をもって殲滅対象を睨みつけ、大地を震わす唸りをあげて牙を剥く。 大地の守護竜の怒りに呼応するように崩壊した街中の地から魔力の光が浮かび上がり、それ等が大きく開けられたヴォルテールの口もとに向かって集束される。
「目の前の敵を殲滅しなさい、ヴォルテール! 《大地の咆吼》──ッ!!!」
そして白銀の飛竜に跨る召喚士の少女が精一杯の勇ましい声を張り上げてそう命じると、巫女の仰せのままにとヴォルテールが大地より分けて貰った高密度で莫大な量の魔力を強大なる敵を殲滅する火焔に変換し、大気を震わす咆吼と共に口から放出した。
「ピッギャオオオオオオオオオッ!!」
放たれた真竜の叫びは破壊の音津波となって周囲に漂う目障りな浮遊障害物を大小構わず粉塵に変え、邪魔するものを全て消し飛ばした。 真っさらになった敵との間を赫灼の大舌が舐め尽くし、高層ビルより高い山すらも丸ごと飲み込んで忽ち炭山化させてしまいそうな程に極大なる熱波の奔流が竜王魔導巨像に雪崩掛かる。 あっという間に標的を飲み込んだ火焔砲撃は半球形状に膨張し、数秒の間灼光の大渦を巻いて竜の唸り声を連想させるような鈍い流音を鳴り響かせると、それが一息に収縮して爆裂した。 吹き荒れる螺旋の爆風が地上の瓦礫も廃墟も全て蹴散らして粉々にしていく光景はまさに《大地の咆吼》と呼ぶに偽り無き破壊力であった。
「くっ……とんでもない威力だな……!」
「さ……さすがにこれならあのデッカイ炎のドラゴンでも消滅したんじゃn──」
『ギャオオオオオオオオオンッ!!』
「──ひいいいぃぃっ! やっぱりダメだったーーー!!」
天地構わず一切合切を蹴散らす真竜の息吹の猛烈な波濤の余波を正面から受けて堪らず顔面を両腕で守りながら呻くリィンを横目に、同じ格好でここまでやればいい加減に竜王魔導巨像を消滅させられたのではないかと一瞬期待しかけたツナだったが。 ところがしかし、現実とは厳しいものだ。 次の瞬間に崩壊都市を飲み尽くす勢いで増大していた爆裂の竜巻が竜王の怒号によって中から弾け飛ぶようにして消滅され、《大地の咆吼》は一瞬にして収められてしまった。 全身に受けていた亀裂や綻びはより大きく広げられたものの、依然にして健在な姿を現した竜王の化身を目の当たりにしてダメツナの残念な悲鳴が煉獄の大空に響き渡った。
「グルルルル!」
「嘘……だろう……?」
「そんな……ヴォルテールでも倒せないなんて……」
「キュルルル……」
主の巫女の敵を殲滅できなかった悔しさに唸る真竜の黒い壁のように大きな背中の後ろで、巫女の側を守護する竜騎士の少年も真竜を召喚した竜の巫女の少女も二人を背に跨がせて宙空に羽ばたいている白銀の飛竜も、皆一様に愕然とした表情を露わにしている。 やはり【究極上位導力魔法】の名は伊達ではない。
「──いいえ、そんなに気を落とさなくても大丈夫ですよ。 君たちの攻撃のおかげで、あの魔導像に大きな痛手を与えられましたので」
詰めを誤り攻め手を失った機動六課最年少魔導師二人は失敗した責任に押し潰されるように弱気になりかけたが、その時、子供達の頑張りを褒めて勇気づけるお姉ちゃんの質を纏った優しい声が後ろから掛けられてきた。 白銀の飛竜に跨りながら二人が肩から背中に首を振り返ると、異世界からやってきた眼鏡が似合いそうな三つ編みの美しい魔女が優しい微笑みを二人に向けていた。
「貴女は……」
「確か……エマさん……でしたっけ?」
「はい。 よく覚えてくれましたね」
経った今、白銀の飛竜の長太く揺れる尻尾の先に魔術で転移して来たエマは次元世界の魔導師が使用するミッド式やベルカ式のものとは全く異なる術式形体で構成される薄紫色の魔法陣を空中に展開し、それを足場に凛然とした佇まいで幼き魔導師の少年少女に慈しみの笑みで頷いてみせた。 母親代わりの保護者にも劣らぬ母性を放つ慈愛の魔女に、まだまだ母の愛情を欲している幼き少年少女は一瞬心奪われそうになったが、今は甘えている暇ではない。
『ギャオオオオオオオオッ!!』
「わわッ!?」
「あの竜、あれだけのダメージを受けていて、まだ息吹を放つつもりでいるの……!」
「あの魔導像はあくまで術を繰り出す為の導力エネルギー媒体に過ぎません。 そこに意思など無く、一定量のダメージを与えて消滅させるか、攻撃が繰り出される前に術者を倒さない限りは、止められないでしょう」
だが、天上に座す巨大方陣の上で完全防御の因果律結界に護られている術者を倒すのは現実的ではないだろう。 ならば方法は一つだけだ。
「君達の頑張りは私が絶対に無駄にしません。 ですので、私も三年ぶりに、この秘術を解禁するとしましょう!」
エマは子供達の意志を引継ぎ、彼らが力を尽くして削ってくれた竜王魔導巨像のHPを何としても削り切ってみせると約束して、手に携えた魔導杖を固く握り締める。 リィンの持つ《神刀【緋天】》や彼の生徒達が装備している武器と同様に故郷の世界で最硬級の希少鉱物を素材にして作られた最強の魔導杖──《命杖ユグドラシル》を毅然と構えた。
「天道を司りし、大いなる星々よ……! その神秘なる輝きを以って、我が声に応えよ──」
秘術を発動する為の呪文を唱えながら機敏な手回しで《命杖ユグドラシル》を右腰の横下へ持っていき、斜めに下げた魔導杖の先端上部分の円輪杖金属フレームの中心に取り付けられている球体の核にエマが練り上げた膨大な量の魔力が収束され、呪文を唱え終えると共に眩い魔力光を天上高くへと放った。 光は雲を突き抜けて紅黎く塗られた絵画に一筋の閃の軌跡を描いて天を突く。 まるで満天の星々が煌く宇宙の下にルーン文字で黄道十二星座宮を書き示した星図のような術式で極光の大魔法陣が描かれ、それに銀河の星々が次々と引き寄せられる。
「──《ゾディアックレイン》ッ!!」
星図の大魔法陣を導きの門として、宇宙より降りて来た無数の星々が次々と潜り抜けて七色の輝きを纏う流星へと変わる。 それ等は煉獄の大空を燦然と翔け下り、雨霰の如く竜王魔導巨像の頭上へと降り注いだ。
『グギャ!? ギャギャギャアアアアアアアアアッ!!!』
一番先に落下して来た赤い流星が脳天に直撃してオヤジの拳骨を頭に落とされた悪ガキのように片目を星にした竜王の化身へ畳み掛けるかのようにして無数の流星の雨が襲い掛かった。 忽ち七色の光の連鎖爆撃に巨大な全身を袋叩きにされた竜王魔導巨像は幼き魔導師達の攻撃によって大きく削られていたHPを一瞬で全て削り尽くされ、阿鼻叫喚をあげたのだった。
これで五回目の撃破だ。 残すはあと二回。
「ほっ……どうやら十分な手応えを与えられたようですね。 これで恐らくは後一息でしょう」
「す……凄い」
「な、なんていう魔法なんだ、隕石を落とすだなんて……!」
「キュクー!」
トールズ士官学院を短期卒業してから三年間封印していた秘術《ゾディアックレイン》を無事に出し終えたエマは空高く掲げた魔導杖を下ろし、隕石の爆撃を受けて外部の罅や剥がれなどといった破損個所が全体に濃く広げられ形を保つのもそろそろ限界に近い有様となった竜王魔導巨像を眺めて、自身の豊満な胸を撫で下ろしながら緊張で肺に留めていた息を吐く。 伝承の真竜の一騎たるヴォルテールの《大地の咆吼》にも全く引けを取らない破壊規模を叩き出した異世界の魔法使いの大魔法を目の当たりにして開いた口が塞がらない程に大きな瞠目を露わにした未成熟の幼き魔導師二人と彼等を乗せる白銀の飛竜が感嘆の鳴き声をあげている様を前に見ながら、彼女はまだ終わっていないと気を引き締め直す。
「ですが、私にできるのはこれまでのようですね。 後はお願いします──ガイウスさん」
「ハァァ……オオオオオオオッ!!」
焔の魔女が後を託した風の聖騎士は彼女の遥か後方に浮かぶ土岩の小島に長い脚を踏みしめて黄金の咆吼をあげた。 紅黎く塗り尽くされた空の中、空の女神の教えを守りし七耀の守護騎士が八席《絶空鳳翼》ガイウス・ウォーゼルは黄金の風衣に身を包み、大いなる理想を抱く者に力を与える黄金の十字槍《覇槍マクベス》を携えて約400アージュ(m)前方に舞い上がる竜王の化身を静かなる闘志を宿した視線をもって射抜く。
「《絶空鳳翼》の力……思い識るがいい!」
ガイウスは成人男性の平均値から視てもかなり高めである自身の丈よりも長い十字槍を片腕で軽々と頭上に持ち上げて振り回し、清涼なる緑の陣風を起こす。 それを身に包む内なる憤怒の黄金衣の上に纏う事によって猛る意志を自身の内の深淵へと沈め、其処に刻まれし七耀の守護騎士の証にして力たる《聖痕》を呼び覚ますのだ。
「我が深淵にて煌く、“金色の刻印”よ──」
一旦頭上から十字槍の穂を前へ下ろし、静寂に双眸を閉ざして自身の裡へと語り掛け、其処から偉大なる獅子の師より受け継いだ“黄金の聖痕”を引き出す。 黄金に輝く極楽鳥か又は聖十字にも見える、神々しくも猛々しい《聖痕》が背中に背負うような形で顕れると、彼が構える《覇槍マクベス》の穂が突然眩い光を放ち変化した。 それは背中に顕現した黄金の聖痕に瓜二つの形を持った大型の聖十字槍であった。
「──その猛き咆吼を以って、我が槍に、無双の力を与えよ──!!」
そして再び聖十字槍を頭上へと振り回し上げ、勇ましい槍投げの構えを取る。 だがしかし、その巨大な穂先は400アージュ前方で一兆度の爆炎息吹を放つ為の導力エネルギーを溜め込みしはじめた竜王魔導巨像へではなく、その真上から見下ろしている究極上位導力魔法の巨大駆動術式方陣の完全防御因果律結界に護られた安全空間内から次々と集結して来る英雄達の必死に抵抗する姿を観て児童が大好きなマンガやアニメを愉しむかのように笑ってやがるバカ魔王へでもなく、その更に真上の遥か先の天壌へと差し向けられた。 これに終末の世界も動揺したかのように領域全体を鳴動させる。 それでも震え出した世界に全く動じる事無く、ガイウスは閉じていた双眸をカッと見開くと、本気で天を突くと言わんばかりの勢いで大空高々へ聖十字槍を遠投したのだった。
「あれは、ガイウスか?」
「な、なんだぁ? アイツあんなところから何かを空へと放り投げやがった……!」
少し離れた空域に浮かぶ小島の上からガイウスが遠目からでも分かる輝きを放つ長物を空高くへと放った様子はシグナムとヴィータが目撃していた。 先程に最強の必殺戦技を繰り出した二人の魔力は飛翔魔法を維持する分を残して底尽きさせていた為もう視力強化も満足に使えず、彼が空へ放った長物が《聖痕》という次元世界の魔導師にとっては全く未知なる強大な力で創られた巨大な光の聖十字槍だとは判別できなかったようだ。 だがしかし、下手をすれば宇宙ロケットよりも凄まじい勢いで雲も空もあっという間に突き抜けた聖十字槍はその先の天壌をも貫いて、そのまま彼方へと消えて行ったかと思ったその直後、天壌に穿たれた槍の孔から降りて来るように姿を覗かせたそれを見上げた瞬間、百年以上古来より星の数程の戦場を経験してきた手練れの中の手練れである古代ベルカの騎士二人は過去に例の無い程の衝撃を受けて身体も思考も石膏を塗ったかのように真っ白く固まってしまった。
「「……は?」」
百戦錬磨の《烈火の将》と《鉄槌の騎士》が二人雁首揃えて天を仰ぎながら目を点にする。 彼女らの視界には今、山よりも巨きな翼を持つ天使か、それとも聖なる光輝を放つ巨大な鳳凰か、どちらにも見間違えそうな程に神々しい一本の超巨大聖十字槍が煉獄の天空を刺し貫いて現れるという超絶神秘的極まりなき光景が映されていた。 私達は夢でも見ているのか? 二人して開けたままカチコチに固まった口から変な声が漏れ出た。 《バハムートフレアボマー》の巨大駆動術式方陣と、それが展開する完全防御結界によって護られている術者と、その真下で術を繰り出す為の導力エネルギーを溜めている真っ最中である竜王魔導巨像を頭上から纏めて串刺しに出来る位置から断罪の切っ先を向ける巨大な鳥のような形をした十字穂には裁きの雷がバチバチと迸っている。 しかもその十字穂の大きさだけでヴィータのグラーフアイゼンのギガントフォルムの約5倍以上はあるだろう。 こんな寝言でしか語れないような超的規模のものを見せられたら誰だって絶句する他にはない。(現にガイウスの身内であるトールズⅦ組以外のメンツは超巨大聖十字槍が天から覗いた瞬間に見上げたまま全員時が止められたように硬直している有様)
「吼天、鳳翼衝──ッッ!!!」
黄金の聖痕の主が雄々しく高らかに必殺戦技名を叫ぶと同時に天から裁きの超巨大聖十字槍が雲を切り裂いて、神々が創りし星々を焼き払おうとしている不届き者の頭上へと落下した。 殲滅対象に光の穂が接触しようとする直前に《聖痕》の力が発揮され、『グーン!』というトーンを限りなく低くしたような鈍い風切り音を後に引きながらその周りの時を遅延させた。
『グ……ギャ……アアアアアアアアアアッ!!』
巨大駆動術式方陣を術者を護る完全防御結界ごと貫通して真下の竜王魔導巨像を悪魔のような頭から串刺しにした直後、後から引いていた鈍い風切り音が追い付いたと同時に聖十字槍の穂先から極大の十字衝波が発生し、魔王の火術を聖なる光で徹底的に焼き尽くした。 事前に全回復して上限満タンになっていた筈のHPがたった一撃の必殺戦技で全損させられた竜王の化身が発狂したように甲高い奇声を鳴らして喚き散らす哭き音が光の中から響いてくる。 烈風の如き衝撃波が吹き荒び、大地を穢す終末の世界に満ちていた瘴気を残さず祓った。
「とんでも……ないな。 聖槍が墜ちて刺し穿った敵の周囲の空間が遅延現象を起こしている……これがガイウスの最強の必殺戦技だというのか……!」
「バ……ババ、バカじゃねーのか……!? 隕石落としたエマも大概だけどよ。 あんなのもう反則だろ……っ!!」
ガイウスが星杯守護騎士の力を解放して繰り出した最強の必殺戦技──《極・吼天鳳翼衝》の規格外過ぎる規模と威力を目の当たりにし、驚愕のあまり歪に固められた表情を呈したまま堪らずにガチガチになった腕で目元を塞いで、眼前に発生した十字衝波が撒き散らしてくる凄絶な烈風と紅黎く染められていた終末の天地を清浄な白で眩く照らすその極光から視界を守らざるを得ない格好となった古強者共。 古来歴戦の騎士たるこの二人ですらも奥歯が詰まったようなぎこちない口になって心身に受けた衝撃の度合いを吐露している始末である。
ガイウスが自身の内に秘める静かなる憤怒を黄金の咆吼をもって引き出し生命力を対価に身体性能を大幅に強化する《真・黄金吼》から、広域範囲の攻撃対象に絶大ダメージと共に絶対遅延効果を与える秘奥義《極・吼天鳳翼衝》の繋ぎ合わせ戦技によって、遂に竜王魔導巨像の六回目のHPが消滅した。 これで残すはあと一回……そう、あと一回撃破できれば次元魔王イノケントの究極上位導力魔法《バハムートフレアボマー》は解除されて不発に終わらせられる──
「──くは、ふはははははははーーっ! 光がっ! 輝きがっ! 煌きがっ! 我がもとへと次から次へ集まってくる!! こちらがどれ程に圧倒的で強大な力を揮おうとも、たとえ一人や二人の力が及ばずとも、決して最後まで諦めたりはしない。 仲間達と繋がる金剛石よりも強固な糸で絆を結集し、惑星をも焼き払う外宇宙の竜の王にも食らい付き、何処までも魔王を追い詰めてくる。 不撓不屈なるその気概と執念こそ俺がずっと求めていた真の英雄の輝きだ! まったく、我が愛しの英雄達は何所まで素晴らしいのだろうか?」
「イノケント、やっぱり無傷だったか……」
『ギャオオオオーーーン!!』
「ひっ! そそそ、そんなぁ!? あの竜王魔導巨像も見た目はボロボロになったけど、みんなが集まって立て続けにあれだけ沢山Sクラフトをくらわせたのにも関わらず、まだ消滅させられないのかよ……っ!!」
《極・吼天鳳翼衝》の炸裂で生じた十字衝波が徐々に収縮されて消え去ると、清浄な白に照らされていた終末の世界に煉獄を思わせる紅黎の色が戻ってきた。 その途端、天にも轟く程の歓喜に満ち満ちた魔王の呵々大笑と御大層な賞賛を乗せた狂喜乱舞の声が英雄達全員の耳に打ち付けられてくる。 リィンは予想していたようだが、究極上位導力魔法の術者を護る完全防御の因果律結界は結局破壊できていなく、当然その内側に居る奴は全くの無傷でピンピンしている様子を見せていた。 先程は確かに《極・吼天鳳翼衝》の超巨大聖十字槍によって結界ごと貫かれたように見えていたが、因果律の効果は絶対の結果で帰結されるものである。 実はあの時、イノケントの頭上へ落下して串刺されたと思われた超巨大聖十字槍は彼を護る因果律結界によってすり抜けさせられて素通りし、そのまま真下の竜王魔導巨像に直撃したのであった。
その結果、六回目のHPを0にされた竜王魔導巨像はツナが奴の健在を見て顔を青褪めさせながら言った通り見るも無残な程ボロボロになっていた。 大山よりも巨きな全体には遠目でも視認出来る程に濃い亀裂が刻み込まれ、其処から体内に流れる灼熱の流炎が漏れて其処ら中から噴出されている。 悪魔の頭に生えていた捻じれ双角は右片方が折れ砕けて、右眼も大岩で打ち付けたように潰れ、業火を纏う三対六の大翼もズタズタに裂かれて蝙蝠が持つような汚い切羽と化してしまっている。 百戦錬磨の猛者達をも絶望を懐かせる竜王の化身の威容は今ではまるで割れ欠けた硝子細工のようになって、一度突けば崩れて壊せそうな脆い姿だった。
だがしかし、この竜王の化身はイノケントの持つ数多の並行宇宙より異端技術を集めたMULTIUNIVERSE式近未来戦術オーブメント《PARAISO》の力によって発動された【究極上位導力魔法】で召喚された魔導巨像、対界規模の魔法攻撃を放つ為に必要な膨大な導力エネルギーを充填して発射するだけの媒体装置なのである。 故に姿が崩壊しかけていても最後となる七回目のHPは回復されて、『天地崩界・神々の黄昏』から導力エネルギーを吸収し星々を焼き払う爆炎を充填しようとする。 最後のHPを0にできない限り、決して止められないのだ。
「……これは計算外だったかもしれませんね。 わたしに視えていた未来の盤面ではガイウス先輩の必殺戦技をもって《バハムートフレアボマー》を消滅できていたのですが、恥ずかしながら事前までの一手を読み間違えていたようです。 ごめんなさいリィン教官。 元《指し手》として申し開きもできない、大失態でした……」
「謝らないでくれ、ミュゼの所為じゃない。 ……しかし、非常に拙い状況になったな。 みんなが無事に集合できたのは良かったんだが、全員一通りに必殺戦技を使用して、もう迎撃の為の戦技を放つCPはみんな無くなってしまった事だろうし……」
「だ……だめだ。 こ、このままじゃ、みんなみんな竜王の炎で燃やし尽くされてしまう。 この前にみんなが散々傷付いて苦しんで戦ったあの《虹の代理戦争》をやっとの思いで終わらせて、アルコバレーノの呪いを無事に解放して、ようやく平穏(とは言えない相変わらずマフィア絡みのゴタゴタでメチャクチャな生活だけど)な日常に戻れたと思ったのに……嫌だ。 こんなところで諦めてやられるだなんて、オレは嫌だ──ッ!!」
「それは……俺も同感だ。 『己を捨てて他を活かすのではなく、己も他も活かすのを最後まで諦めるな』。 あの“黒”の呪いを討ち果たし《七つの相克》に決着をつけた時、“あの人”は女神のもとへと逝く間際に俺へそう言い遺してくれた。 『資格がどうこうの話じゃない。 俺は幸せにならなくちゃいけないんだ』。 三ヵ月前の《逆しまのバベル》での決戦の最中、俺は俺自身に向かってそんな偉そうな事まで豪語したんだ。 だから、俺自身も含め、みんなで生きて勝つ事を最後まで諦めたりはしない──ッ!!」
仲間達が持てる力を全て出し切り、それでも倒しきれない絶大な敵や力に絶体絶命に追い詰められて尚、英雄達は決して絶望しない。 彼等がこれまでに自分達の世界や掛け替えのない大切なものを護る為に幾度となく高い苦難や試練の壁を乗り越え、強大な力を持つ相手や組織と世界の命運を賭けて熾烈な死闘を戦い抜き、時には力及ばず敗北を喫して、その度に幾度となく立ち上がり身も心も強くなれたのだ。 故に今回も同じ事だ。 沢田綱吉は死ぬ気の炎で精神のリミッターを外していなければ脆弱な自尊心故に何をやっても自信の無さが足を引っ張り失敗ばかりして逃げ出してしまう事もあるダメダメ中学生だが、大切な友達の危機を前にしたなら迷わず守る覚悟が炎に灯る、その優しさと度胸を持っていたからこそボンゴレの血の運命に翻弄されながらも裏世界の死闘を何度も戦い抜いて日常を取り戻せた。 リィン・シュバルツァーは幼少期に義妹を魔獣に襲われて以来歪な程の自己犠牲精神を心に患い、三年前のトールズ士官学院生時代に勃発した内戦の末“とある悲劇”に見舞われてからは自己犠牲精神を更に酷く歪ませて脅迫的な義務感とするようになっていたが、三年間ずっと苦難や死闘を共にしてきた掛け替えのない仲間達や世界と愛する息子の未来を守る為に世界を滅ぼす呪いを背負い続けてきた“とある一人の父親”が遺した言葉などを切っ掛けに、自己犠牲よりも大切な仲間達と生きる道を諦めない選択をした。 活路でも奇跡でも覚醒でも、主人公の不撓不屈の精神こそが窮地を打ち破るものを呼び寄せるのだ。
「そうだね。 わたし達も同じ気持ちだよ。 たとえ敵がどんなに強くて理不尽な力を持っていて、わたし達の力の全てが通じなくても。 それでどれだけ傷付けられて断崖ギリギリに追い込まれたとしても。 心を折らずに諦めなければ、必ず勝機は掴めるんだ」
「だけど、それでも力が足りなくて相手に届かせられないというのなら、頼れる仲間が足りない分の力になります。 まだあたし達がいるという事を忘れてもらっては困りますよ?」
外側をボロボロと剥がれ落としながら再び長首を天上に伸ばした竜王の化身の悪魔の口が大きく開かれ、その中へと向かって終末の世界中から導力エネルギーが幻想的な光帯状の形を取って次々と吸い込まれ充填されていく……星々を焼き尽くす一兆度の爆炎の息吹──《バハムートフレアボマー》を発射する準備動作に入った竜王魔導巨像を諦めない覚悟を宿したその目に映し、二人の主人公は今度こそ“切り札”を使用する気で重い足を一歩前へ踏み出した。 その時、二人の背中に彼等と同じ不撓不屈の意志を持つ凛然とした二人の少女の声が届いた。 太刀を正眼に持ちながら意識を自身の裡の深層へ潜らせようとしたリィンと“不思議な虹色の丸薬”が入れてある透明ビンの蓋を開けようとしたツナが耳に聞き覚えのある二人の少女の声が入ってきた瞬間ハッとなって踏み止まり、二人同時に背後を振り向く。 すると二人が立っている浮遊足場の端で、青髪ショートヘアに白鉢巻を額に巻いたボーイッシュな魔法格闘少女が白歯を見せて生意気そうな笑みを浮かべていて、彼女に肩を貸してもらって治しきれていない片脚を引き擦っている長い栗毛ツインテールに白いロングスカートバトルドレスを身に纏った可憐な美女魔導師も共に戦うと言いたげに碧い目元を吊り上げていた。 そう、最後のトリは満を持して魔法の世界の主人公達の御到着だった。