「え……なのは!?」
「スバルも、どうして此処へ!?」
「決まってるじゃないですか。 あんな超デッカクてものすっごい力を使ってくるような強敵を相手にツナさんとリィンさんが二人でずっと頑張って、フェイト隊長達も加勢してみんな力を出し尽くして戦っているのに、あたしとなのはさんの二人だけ後ろでじっとなんてしていられませんよ。 あたし達にも手伝わせてください!」
「「……」」
「心配しないで。 此処へ来るまでに魔力を大分回復できたから、スバルと一緒ならあと一回強力な攻撃を撃てると思うの。 それと、まだこんな情けない見た目で来たけれど身体の怪我はもう大丈夫。 たぶんアルティナちゃんからもう聞いているとは思うけれど、イノケントにやられた負傷はアルティナちゃんの空飛ぶ黒いカカシ──「なのはさん、《クラウ=ソラス》です」──あっ、ゴメンねアルティナちゃん。 クラウ=ソラス君がマシに動ける程度にまで回復してくれたからね。 直接戦闘じゃない遠距離狙撃砲なら十分イケるよ!」
リィンとツナは経った先程にティアナからなのはとスバルは体力的に戦線復帰は厳しい状態であり後方待機していると報告を受けていた為、その二人がこの場に現れた事に驚く。 二人共重い身体を引き摺っていて何故戦場に来たのかと言うツナにスバルがなのはの肩を支えていない方の腕を上げて勇猛不敵に力瘤を作りながら自分達も攻撃に加勢すると申し出る。 しかし、なのはもスバルもさっきイノケントに手も足も出せずにこっ酷く叩きのめされて二人共これ以上の戦闘続行は到底不可能な程に手酷い重傷を負っていた事はその時その場で二人を助けに割って入ったリィンとツナは自分の目で実際に確認していた為、非常に彼女達の身体の具合を心配してしまってどうしたものかと訝しい目をする。 だが断りそうな空気を作りはじめたリィン達に対し、なのはが安心させるような微笑みを見せて自分達の魔力と負傷は遠くから攻撃を放つぐらいなら可能な程度に回復している事を説明して心配無用だからやらせてくれと訴え掛ける。
確かになのはとスバルが負わされていた重傷はアルティナと《クラウ=ソラス》の回復戦技によって大方回復させたとはティアナの報告と一緒にアルティナ本人から聞いていた(因みに、なのはは回復してもらった時に自身の十八番である「アナタのお名前聞かせて」を使用し、アルティナから名前を聞き出していたようである)ので、実際に一見して二人の外傷がほぼ軽症まで治されている事も鑑みて参戦させても大丈夫じゃないのかと思いそうになったが、そこへフェイトが身体に爆弾を抱えている親友が無理をして戦場へやって来た事に気付き、大慌てしながらすっ飛んできて彼女に必死の説得を試みようとする。
「だだっ、駄目だよなのは! 君の身体にこれ以上の負担は──」
『グォオオォォオオオオンッ!!』
なのは達の前に立ち塞がるように腕を大に広げて、これ以上危険な身で無茶をするのは止めてくれと語気を強くして十年に渡りずっと隣で付き添ってきた大切な親友へ厳しく警告するフェイトだが、悠長に話し合っている時間など無かった。 終末の世界全体を位相次元ごと激震させ煉獄の大空いっぱいに無数の罅が刻み込まれる規模の大絶叫。 現世の生物が到底出せるものではない異次元の咆吼が天も地も何もかもを戦慄させて猛烈と震え狂わし、歴戦の英雄らの魂をもあわや肉体から乖離させかねない威力で揺るがした。
三つの世界でそれぞれ幾多の試練や死線を潜り抜けてきた若き英雄達がこれまでに培ってきた強固な精神力をもって極寒の宇宙すらも丸ごと沸騰させそうな霊的熱エネルギーを孕む衝撃に耐えきり身体から剥がされそうになった魂を肉体に押し留めて、絶叫を放った竜王の化身へと戦々恐々の視線を集める。 そして、彼等全員の瞳に今宵最大の絶望が映し出された。
「な……ななななあっ、何しようとしているんだ!!? あのデッカイドラゴン炎を大量に吸い込み過ぎて、まるで破裂しそうな風船みたいに身体を膨らませてるーーーーーっ!!!」
「あれは……まさか自爆するつもりか!!」
「うう、嘘でしょう!? 追い詰められて自爆するって、ド○ゴンボールのセ○じゃあるまいし!!」
「ドラゴ○ボールとか○ルとか、フェイトさんが言っている異世界用語は分からないけれど。 アレが自爆なんてしたら、もしかして超ヤバイんじゃないのミュゼ!?」
「ええ、もしかしなくても超超超ヤバイですよユウナさん。 あの魔導像が内包している一兆度などという桁外れの導力エネルギー量はゼムリア大陸全土に眠る七耀石を根こそぎ搔き集めたとしても恐らくはまるで足り得ない事でしょうし、入れ物である魔導像がもし自爆してそんな果てしない熱量が中から外へ解放されてしまった場合……少なく見積もっても今わたし達が立っている惑星は一瞬で蒸発してしまうでしょうね」
ゴクリ! ミュゼが口にした竜王魔導巨像の自爆による被害規模予想を耳に入れ、皆が息を呑んでそのまま喉が張り裂けてしまいそうなレベルの緊張を表した。 《バハムートフレアボマー》を解除できる目前だったのに、それが突然自爆を敢行しようとするだなんて、悪夢以外の何物でもない。 これで逆にリィン達の方が崖っぷちに追い詰められたのであった。
「どうやら迷っている場合じゃなくなったようだね……こうなったら出し惜しみ無しの全力全開でやるよ、スバル!」
「了解です、なのはさん!」
もう後に退く事はできない。 なのはは気を引き締めて、機動六課スターズ分隊長として自分の肩を支えてくれている部下に自分と協力して竜王魔導巨像へ最終攻撃を仕掛けるぞと指令を下す。 今も追う憧れの背中であり絶対に護ると誓った恩師の命に一切の躊躇も無く溌剌と応じてみせるスバル。 大切な人が壊れそうな身体を引き摺って無茶をするならば、自分がその負担を半分背負ってあげればいい。 四年前の空港火災での邂逅を得てから同じ部隊の魔導師として再会を果たし幾星霜もの戦いを共に助け合って勝ち残り、師弟の絆で強く結ばれた二人はお互いを支え合いながら今度も絶対に勝つという意志を胸に、皆の前へと歩み出た。 もはや誰にも止められない。 三世界の若き英雄達の命運は彼女達二人の肩に懸けられたのだった。
「「ハアアアアアアアアッ!!」」
なのはとスバルは互いに寄り添って身体を支え合い、二人一緒に得物を前方に果てしなく巨きく映る竜王魔導巨像へと突き向けると同時に全力全開の裂帛を発しながら燦然と輝く魔力光を纏い出した。 二人の足下に桜色と水色を混ぜ合わせた薄紫色の魔法陣が展開され、決然烈々と力強く突き出して重ね合わされた杖槍と籠手に彼女らの持てる全ての魔力を注ぎ込んでいく。 忽ち両者の得物の先端に薄紫色の魔力球体が形成され始め、その周囲を激しく旋回する小さな台風が纏い出した。
彼女らが最後の攻撃に望み託したこの魔法は先刻撃退した侵略者の《紫焔の武士》に撃った二人の合体戦技《Wディバインバスター》だ。 その内容は時空管理局の最優の魔導師にして次元世界随一を誇る魔導砲撃士である高町なのはの象徴たる高威力遠距離砲撃魔法《ディバインバスター》を、本場の戦技を持つその本人と彼女の意志と技を受け継いだ愛弟子のスバルが互いの魔力を合わせて圧倒的超濃度の魔力大砲丸を作り放ち、それが高速螺旋回転で生み出す竜巻の吸引力をもって周囲の景色を巻き込みながら標的を轢き潰すという絶大な破壊力を秘めた必殺砲撃魔法である。 先刻は《紫焔の武士》が展開した対攻撃反射防御結界《リアクティビアーマーA》によって敢え無く返り討ちにされてしまったが、この強力な合体戦技が決まれば崩壊寸前の魔導巨像など必殺に等しい事だろうが──
「く……う″ぅっ──ッ!!」
当然、強力な戦技の対価に術者達の身体に掛かる負荷と疲労は相当なものであった。 《Wディバインバスター》が形成され始めた直後になのはが身体に抱える大きな負担が急激に増して非常に苦しそうな呻き声を漏らし出した。
「なのはさん、大丈夫ですか!!?」
「平……気……だよ! わたしの大切な人達とそのみんなが暮らす平和な世界を守る為にも……この程度の苦しみなんかで、わたしが引き下がる訳には……いかない……の……!!」
必死に魔力を練り上げながらレイジングハートを握り締める手に大汗を滴らせて凄く辛そうに顔を歪めているなのはを気遣うスバル。 優しい教え子を持って自分は果報者だと思うなのはだが、彼女は次元の海の守護者として甘える訳にはいかないと使命感に駆られ、もはや限界間近に迫っていた自分の身体に更なる鞭を入れて奮起する。
高町なのはは若干9歳の頃に魔法の力を手にしてから、数々の世界の理不尽やどうしようもない運命によって傷付き苦しんでいる人をより多く救う為、不幸や寂しい思いに泣いている子達の涙を止める為、やむを得ない事情や立場の違いで分かり合えない連中とぶつかって分かり合おうとする為、今日まで十年間管理局の魔導師として日夜年月魔法の戦技を磨き続け、次元世界の数多くの事件や戦いに身を投じてきた。 しかし、未熟な幼少から十年という長き歳月の中で負担が大きい高威力の砲撃魔法を酷使し続けた彼女の胸の内に秘めるリンカーコアには徐々に見えない傷が増えていき、それが原因で八年前に起きたとある雪の世界での戦いで不覚を取り撃墜された不幸な出来事を得て彼女のリンカーコアに目に見える大きな傷が刻みつけられてからは身体の内側に大きな爆弾を抱えるようになってしまった。
それから撃墜で受けた重傷を治して魔導師業に復帰してから彼女は魔法の出力を制御し持続性を重視した《アグレッサーモード》を標準使用して魔法戦闘の負担を軽減する事により長い間どうにかやれてこれたのだったが、先日のJS事件解決における“ゆりかご決戦”の際に事件の黒幕であったスカリエッティと戦闘機人達の手により誘拐されていたとある女の子を救出する為、彼女は魔導師の生命力を莫大な魔力に変換して限界を超える強化を行う【リミットブレイク】を極限まで使用して限界ギリギリの死闘を演じた事により、それまで抑え込めていた内側の爆弾の導火線にとうとう火が点けられてしまった。 それでも暫く安静に休めば爆弾の火は一旦消せたのかもしれないが、その後直ぐに管理局の戦力疲弊を狙い自身が組織した反抗勢力を率いてミッドチルダに侵攻して来た卑怯者の馬鹿殿と英雄達の輝きが見たいが為に自ら魔王と為って異次元より立ち塞がって来た手の付けられない大馬鹿者の所為で、御覧の通り彼女の身体の中の爆弾はもう爆発寸前だった。
「くっ! ……わたしは絶対に……負けない。 わたしが……みんなを……守らないと……」
身体の負担過剰により魔導師生命を狩る死神が大鎌を携えながらじりじりと背中へ迫って来ている中、失敗すれば敗北確定という名の重圧も加えて圧し掛かり、胸の激痛と極限に張り詰めた緊張を持ち前の不屈の精神で何処までも耐えつつ、限界を突破した集中力をもって魔力大砲丸を作りあげていく。 杖槍と籠手が狙い定めた照準の鼻先には煉獄の大空を蔽い尽くしてしまった程にまで膨張した竜王魔導巨像が大噴火直前の火山火口の如くゴゴゴゴゴーッ! という地響きに等しい沸騰音を鳴らし点滅する赤熱を表面に浮かびあがらせた全身の罅の内から太陽光のように凄まじく熱く眩い熱線が漏れ出している様子が目一杯に映されている。 もう一刻の猶予も無い。 早く撃たないと両方の爆弾が爆発してしまう。
「うあっ、ああああああっ!!?」
そう究極の焦燥に駆られた想いは破滅の糸となってエースの手元を狂わせる。 重ね合わせた二人の得物の前で術者達の全身の三倍の質量まで肥大化した薄紫色の魔力大砲丸が固定化される直前になって突然レイジングハートから放出されていた桜色の魔力光が鈍り出し、ここまで順調だったリボルバーナックルから放出される水色の魔力光との配合が乱れはじめ、忽ち制御不安定に陥って魔力大砲丸の形成に編み物の毛糸が解れるような歪みが生じた。 しまった、マズイ! なのはが心臓を鷲掴みにされてキリキリ握り締められるような耐え難い胸の苦痛と急ぎ焦る気持ちの板挟みに冷静を保てず一瞬魔力の制御を乱してしまった為、ここまできて魔力大砲丸の固定化作業が難航をきたしだしてしまった。
──魔導像が自爆するまでもう時間が無いのに、ここで《Wディバインバスター》が不発になったら、みんな仲良く一兆度の爆炎で蒸発して御陀仏になっちゃう! 今直ぐに魔法結合を修正して早く固定化しないと。 お願い、上手くいって──!!
ここまで繋いできた仲間達の奮闘を自分の失敗の所為で水の泡にする訳にはいかない。 なのはは上から更に背中へ圧し掛かってきた重大なる責任感に神経を磨り潰されて極限の焦燥に苛まれながら、即行で制御を取り戻してどうにか魔力大砲丸を形成し直そうと躍起になった。
集中、集中、集中、集中、集中、集中……。 常人の精神ならば即発狂を起こすレベルの極限集中領域に突入する。 自分以外の世界が色を失い、なのはの視界全体に映る全てのモノの動作が停滞した。 減速した時間を利用して彼女は魔力の制御を取り返し、魔力大砲丸の歪んだ部分を修正する。 集中、集中、集中、集中、集中、集中……。 脳が焼き切れてしまいそうな程の頭の激痛を耐えながら解れた糸を編み直すように修正箇所を滑らかにしていく。 集中の負荷が想像を絶するものにまで上昇し、眼球に走る血管が破けて彼女の水晶のような大きな碧い瞳から熱い血涙が流れ出す。
──あともう少し……もうちょっとだけ……っ!!
そうして遂になのはは超絶の負荷に耐えきり、魔力大砲丸の修正を完了させた。 そして時は動き出す──
「──スバル、今だよッ!!」
「はいっ!!」
「「Wディバイィィィン──バスタアアアアアアアアアアァァァァーーッッ!!!」」
世界に色が戻った瞬間、完成した薄紫色の魔力大砲丸が二人の戦乙女の勇壮なる号砲と共に、文字通り嵐が吹き荒れる轟音を鳴らして発射された。
砲撃手二人分の全体より約三倍以上もの質量を持つ大きな光の砲弾が高速螺旋回転してギャリリリリィィーッ!! という物凄い雑音を響かせつつ、触れる大気を削り巻き取って激しい旋風を纏い、迸る電光を伴いながら煉獄の紅黎の中を猛突驀進。 纏った竜巻で弾道上とその周辺空域に漂う山程の数の浮遊障害物と天空いっぱいに巨きく膨らんだ竜王の化身の全身に走った罅割れから溢れ出て来る鋼すらも一瞬の内に溶かしてしまいそうな赫灼の熱気を全部纏めて吸引し取り込んで、まるで小さな太陽を思わせる曙の輝きを放つ煌星へと成りながら、風も音も置き去りにして、そのまま一直線に竜王の化身へ向かい、カッ飛ぶ。
「「いっけえええええええええええええええええっっ!!!!」」
煌星の魔砲弾は超速回転数で撃ち出された巨大弾頭の如くに終末の世界が見上げる大空を爆走し、高速螺旋回転で標的の前に立ち塞がる大気圧の層と天を蔽い尽くした奴の全身から放たれる星々を焼き尽くすエネルギーの圧壁を纏めて突き破る。 そしてそのまま電光の尾を引いてグーンと伸び、極限まで膨張した全体から猛烈な光を放ち出してもう間もなく爆発寸前という様相を表わし始めた竜王魔導巨像の中腹ド真ん中を貫いた。
『グギャアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』
天を蔽い尽くす程に膨張化された体面積とその内部一杯に溜められた太陽を遥かに超える熱量に達した火の導力エネルギーの中を突破するのは難かと思われたが、超速回転により竜巻のドリルを装着する事で熱を撥ね退けて究極の爆炎をアッと言う間に掘り進み、煌星の魔砲弾は無事に竜王の化身の背中を突き破る事に成功したのであった。
『ガ……グ……オォォーーーーン……──』
竜王魔導巨像を撃ち抜いた《Wディバインバスター》が煉獄の彼方へと消えて行き、体内に溜めていた星々を焼き尽くす爆炎を根こそぎ削滅し尽くされた竜王の化身が自身の腹に空けられた巨大な風孔を見下ろして、とても悔しそうに遠吠えする。 そして、とうとう七回目のHPが0になった竜王魔導巨像は幻想的に巻き上がる火の粉のように赤い燐光を切なく発して、静かに天へと召されて逝くように消滅した。
罅……亀裂! ────割砕!!
魔導巨像が消え去った直後、終末の世界の天上の中心で展開されていた究極上位導力魔法の巨大駆動術式方陣が罅割れだし、術者の身の安全を護っていた完全防御の因果律結界ごと呆気なく木端微塵に割れて甲高い音を煉獄の天空中に響かせながら盛大に砕け散った。 つまりこれは、遂にリィン達はイノケントの究極上位導力魔法《バハムートフレアボマー》を解除する事に成功したのだという事だった。
「や……やったああああっ!!」
「「「「「「「おおおおおおおおおっ!!」」」」」」」
《バハムートフレアボマー》の竜王魔導巨像と巨大駆動術式方陣の消滅を見てようやっとのように我慢して溜めていた苦しい息を吐き捨てて歓喜の声を張り上げたツナの後に続き、英雄達の大歓声が終末の世界に響き渡った。 もし魔導巨像に攻撃を放たせていたら恐らくは抵抗も許されずに全滅していたであろう究極の攻撃導力魔法を何度も危うく詰みそうになりながらも諦めずに全員一丸となって死力を出し尽くして立ち向かった末に、やっとの思いでようやく阻止する事が出来た。 その喜びは、まだ戦いに勝利できた訳ではないにも拘らず皆が諸手を上げてしまうのも仕方がない程に大きなものであった。
「やった……なのはさん、やりましたよ! あのイノケントとかいうトンデモないオジサンのトンデモないドラゴンの魔法を、あたし達二人の合体魔法が撃ち消しましたよ! あははは。 やったやったー!」
「は……はは。 うん、やったねスバル。 でも流石にわたしは、もうダメかな……」
「え? ……ななっ、なのはさん!?」
UNLIMITED級の《次元魔王》が発動した対界殲滅規模の魔法攻撃を、自分が最も敬愛している師と力を合わせて撃ち込んだ合体戦技が決定打になって解除できた事に感極まったスバルもまた、支えていたなのはの身体を抱きしめてその喜びの大きさを敬愛する師に直接肌で伝え、はしゃぎに騒いでいる有様である。 なのはも約半年間面倒を視てきて今や一人前に成長した自慢の愛弟子と共に支え合って掴み取った大成功をとても嬉しく思った……が、やはり限界に近かった重い身体で限界を超えた集中力を使った所為で彼女の体力は今度こそ底を尽きた。 自分の腕の中でいきなりぐったりしだした師を見てスバルは驚いてはしゃぐのを止め、慌てふためく。 そこへ一早くフェイトが駆け寄って来て力尽きた親友に心配を掛けてきた。
「なのはっ! 大丈夫? 君はまたこんな酷い無茶をして……!」
「にゃはは……いつも凄い心配させちゃってゴメンね、フェイトちゃん……でも、わたしは本当に大丈夫だよ。 ちょっと……いや、正直凄く疲れちゃったけどね。 身体の方は問題無いよ」
「嘘だね。 君の身体の負担はもう危険値の域まで達しているって事は、見れば判り切っているんだよ。 なのはが自分自身に向けて言う【大丈夫】は信用できないって、言った筈でしょう?」
「う″っ……ごめんなさい」
「まったくもう……。 じゃあ君は今日はもうこれ以上絶対に戦わないで。 帰ったら大人しく部隊医師に身体を診てもらって、ちゃんと休む事。 わかった?」
「はい……」
「……」
無茶を重ね続けて体力の限界に至った身体に意識を朦朧としているなのはが、オロオロしているスバルの腕に抱かれたまま、腰を低くしてガミガミ説教をたれるフェイトに全く反論ができず面目無しに萎縮させた声で弱々と返事をしている。 しかし、一見微笑ましく思えるその様子を彼女達の後方から眺めるリィンが両腕を組みつつ口元をへの字に紡ぎ、やや訝しそうな表情を作っている。
──なのは……もしかして君は──
「──ククク、実に見事であった。 さすがは我が敬信する三つの英雄伝説の英雄らよなぁ」
「「「「「「「──ッッ!!!」」」」」」」
どうあれ、埒外級の魔王が所有する近未来戦術オーブメント《PARAISO》をもって発動された火属性究極上位攻撃導力魔法《バハムートフレアボマー》を辛くも打ち破れた事を戦勝気分になって喜び合う三つの世界の若き英雄達。 しかし皆忘れてはいけない。 大技の術を破ったところで肝心の魔王は倒せてはいないのだから、まだまだ気を緩めてはいられない。 粉々に割れ砕けた巨大方陣が無数の光粒と化して粉雪のように降り注ぐ煉獄の大空の中で、奴は心底嬉しそうに笑顔を浮かべていた。 『天地崩界・神々の黄昏』の領域内に創られた物体を自由自在に操作できるTTO領域下限定戦技『天覇星群』を用いて生き残っていた浮遊鉄骨を引き寄せ、それを足場に仁王立ちしつつ、紅黎の天上から星々が輝く宇宙のようにギラギラさせた瞳でリィン達を睥睨しながらも、盛大な拍手と共に最大級の賛辞を送ってきていた。 《次元魔王》イノケント・リヒターオディン、いまだ健在である。
「イノケント……!」
「ふはははは! しかし、星の数程の強敵を打ち破ってきたお前たちの絆の力を信じてはいたが、まさか俺が発動した究極上位導力魔法を解除してしまうとは、さすがに少し驚いたぞ? 実のところ、この導力魔法の本来の火力は概ね六千度程で、俺以外が発動するとその程度の威力で対界殲滅魔法攻撃が放たれるのだが、それが俺が使うとどういう訳だか火力が一兆度まで強化された爆炎が繰り出されてな。 それ故に本来はTTOの領域内のみの界域殲滅で済むものが火力が巨大過ぎてTTO領域を外側から囲っている高位相次元空間の位相境界遮断隔壁まで破壊してしまい、現実世界の惑星系列をも巻き添えにして何もかも焼き尽くしてしまうのだ」
「今更になってトンデモない捕捉説明してるんですけど、この人ーーーーっ!!?」
足下の浮遊鉄骨を念力操作して、全員一ヶ所に集合したリィン達と同じ高さまで降りてきたイノケントはちょっとしたお茶目をしちゃったと言うかのように軽快な笑いをしながら、今さっきリィン達が全員総力をあげてようやっと解除できた《バハムートフレアボマー》の概要捕捉を彼等に説明する。 いや~、まいったな~、とでも言うような感じで、さらっとその導力魔法の本来の火力は彼が発動した場合の埒外級火力よりもず~っと低く抑えられるものなのだと、揚々な口で超絶馬鹿な内容を語ってきた馬鹿野郎に、ツナがあまりに訳解らなさ過ぎて白目を剥きながら素っ頓狂にツッコミ絶叫を入れてしまった。 リィン達も驚愕の事実を教えられて全員唖然となり、ぽか~んと口を開ける。
「魔法攻撃力による威力上昇補正が働いたのか! ……道理で常識的に有り得ないような超火力になる訳だ」
「ええ。 数字的に視て通常の威力でも十分全滅必至の火力になるでしょうけれど。 さすがは魔王を自称するだけあって、あの方は人の想像よりも遥かに底知れなく規格外な能力値を持っているようですね……」
「ていうか、もしあたし達が解除に失敗してあの魔導像の竜に息吹を撃たせていたら、あたし達が全滅するだけに止まらず現実世界まで全部丸々焼き滅ぼされてたって言うの!!?」
「マジかよ……さすがに今回のは神秘や超技術の度を超えてやがるんじゃねぇのか……?」
「正しく【究極上位導力魔法】の名に偽り無し、という事ですか……高位相次元空間に所有者の思い描いた戦闘領域を創造構築する『TERRITORY ORDER』といい、凄まじく恐るべき性能ですね、近未来戦術オーブメント《PARAISO》とは……」
導力技術の出所であるゼムリア大陸において現在時点最新世代型の戦術オーブメントである《ARCUSⅡ》を長く所持し、その高い性能を使い熟してこれまで戦ってきたトールズ士官学院第Ⅱ分校Ⅶ組特務科のクラス生徒らも、敵の持つ未知の戦術オーブメントが秘める次元超越級の性能にはさすがに舌を巻かざるを得ないようであった。 そもそも所有者自身の性能が常識を超越し過ぎているだろう。 闘気を発すれば惑星丸ごと一つに生きとし生ける全ての生命を戦慄に震わせ、剣を一太刀振るえば鞘に刃を納めたままでも巨大戦艦を粉砕し、攻撃をその身に受ければ鋼鉄よりも頑強な防御力で弾き返す。 極めつけには内に秘める霊力も魔力も人を超越せし“魔人”の域であり、行使する戦技や魔術の威力と規模は通常の数万、場合によっては数億倍にも爆上げされる。 内容を並べてみて、改めて次元が違い過ぎると判る。 トールズⅦ組もボンゴレファミリーも機動六課も、皆が今度の敵の戦闘力の異次元さを実感し、トンデモねぇ奴が敵になってしまったと心身を底知れぬ戦慄に打ち震えさせて強烈な電撃を浴びたみたいに口を固まらせた。
「ククク。 そんなに瞠目する程のものではないだろうよ。 寧ろ英雄の光の未来への強い想いと仲間を信じる絆の力の方が魔王の暴力などよりも那由他・不可思議・無量大数倍は凄いと思っているのだがなぁ?」
「テ……テメェ、いい加減にふざけた事言ってんじゃねぇっ!」
「かはっ! いいや、俺は一言たりとも戯言なぞ言っておらんぞ、《鉄槌の騎士》ヴィータよ。 現に、経った今、位相の壁をも破壊して現実世界をも焼き滅ぼさんとしていた魔王の究極上位導力魔法を、お前達は繋がる仲間の絆を信じ全員の力を結集して見事に打ち破ってみせてくれただろう! まさにその結果こそが動かぬ証拠ではないかっ!!」
「──っ!!」
「フハ、フハハハハハー! これだ、俺が求める尊き英雄の輝きとはこれなのだ!! 愛する故郷や世界の為、掛け替えのない隣人や家族の為、叶えたい大きな夢に向かう輝く未来の為。 それらを何者からも守り抜く為に力を手に入れ、努力と修羅場を得て錬磨し、果てなき旅路の試練を超えて聖なる心と魂を胸に宿し、光の勇者へと至る。 光の道を同じくする同志達との出会い、彼等と苦楽を共にして仲間という名の輪を築き、道に立ち塞がる幾多の困難や死線の壁を一緒に手を取り合いながら乗り越えて絆の繋がりを強固のものとしてゆく。 その絆の力は星の数程の戦いの時を駆け抜けて、どのような深い闇や理不尽に相対しても絶対に負けたりせぬ英雄の輝きを生み出す! ん素晴らしい──ッ!! お前達は紛い無く極上にして最高の英雄だッ!! ふははは、ははははははは、はーっはははははーーー!!!」
それはまるで己が最推すアイドルを称えるかのように諸手を上げて英雄達をこれでもかとまで褒めちぎり、位相を越えて現実の宇宙遥か彼方にまで届けと叫ばんばかりの哄笑を轟かす光の魔王。 上下に引き千切れそうな程に大きく見開いた双眸を血走らせながら恍惚と陶酔しきった面を上げて三日月状に両端を吊り上げた大口でひたすら狂うように嗤い続ける眼前の宿敵に、リィン達は途轍もない寒恐ろしさを覚えて全身に鳥肌を立たせる。 いったい何なんだ、この男は? 百戦錬磨の戦士とて得体の知れない挙動を行う不気味な者を目の当たりにすれば顔面を引き攣らせて身を硬直させる。 加えてその者の全身から煉獄の大空に無数の罅が入る程に極大の霊圧闘気が放たれてくるならば警戒レベルは最大まで上げられるだろう。 脳裏に響く悲鳴を歴戦の気で殺し、全員武装を手に構える。
「切り札を破られて、まだ戦闘を続けるつもりなの!?」
「はははは! 《バハムートフレアボマー》が切り札とな? 次元世界中の誰もが認めると称されている最優の魔導師にしては随分と激甘な読み違いではないか、高町なのはよ」
「な────ッ!!?」
惑星系列を焼き滅ぼしてしまえる究極の導力魔法が切り札ではない? 空を持ち上げるように両腕を大きく広げてこちらに惚けたのかと言うように少々嘲笑いを浮かべつつ悪夢すら優しく感じるような衝撃的告白を何て事の無いようにブチ撒けてきたイノケントに対し、彼に問いかけたなのはは言葉を失った。 まさか、奴はまだアレ以上にとんでもない切り札を隠し持っていると言うのか!? リィン達は最悪の事態を予感してしまい、全員が武装を握り締める手に這い登ってきた絶氷の戦慄に凍えて焦点の揺らぐ視線をキツく強め、極寒にまで冷やされた空気感に耐えながら相手の挙動に注視を向ける。
「ククク。 究極上位導力魔法を打ち破ってみせた、真の英雄であるお前達にならば、いいだろう……」
まだまだ御楽しみはこれからだ。 イノケントがそう含み笑いを浮かべながら左手に着けていた群青色の手袋をリィン達によく見えるように前に掲げてゆっくりと外した。 露わにされた彼の左素手は実に男らしい岩のように大きくて硬質な太骨の甲であったが、反してその肌はうら若い子女すらも羨む程に真白く艶潤っていて、その反目的な形成にいっそ奇妙な神々しささえ覚える。 しかし、それよりも三つの世界より集いし若き英雄らが注目したのは、その中指と薬指に嵌められている神妙不可思議な指輪の存在であった。
「な……何だ、あの凄い妙な装飾の“リング”は──!!?」
ツナは此処に来てボンゴレファミリーが今までに見た事も無い未知のリングが目の前に出現して、瞳孔を小細く丸めつつ上擦らせた声をあげる。 イノケントがニヤニヤさせた顔の前に掲げて見せている左手中指のリングの装飾は恐らく二枚開きの門だろうと思われる物々しくて荘厳な模りの金縁が施され、その中心には底腹となく神秘的な無を感じさせる“白亜色”の宝石が嵌め込まれている。 それに並んで清廉な空色の金属で造られた薬指のリングも中心に嵌め込まれている“赤い石”が不思議な全知感を漂わせてきているが、それを気にできないレベルで中指の白亜色のリングの存在感は桁違いなまでに全能的であるのだ。 自分等のボスの動揺に触発されてファミリーの守護者である獄寺と山本も警戒の色を更に厳しく強め、リングの事をまだ詳しく知らないトールズⅦ組勢と機動六課勢も緊張の糸を肌が痺れる程まで張り詰めさせる。 あのリングに秘められる力は完璧に今までのものとは次元が格段に違うと、そう誰もが確信させられたその直後、時は来たれりと言わんばかりに《次元魔王》が天上の果てまで響き渡らせる大声量で叫んだ。
「さあ見せてやろう。 “黄昏の七属性”を統合せし、究極の創造を司る《零の炎》を──ッ!!!」
…………点灯。
「「「「「「「────ッッッ!!!!?」」」」」」」
その炎はほぼ無音と言ってもいいぐらいに小さな点火音を響かせ、圧倒的な虚無感を覚える程の静寂と共に発芽された。 イノケントの左手中指に嵌められた荘厳な門の装飾の指輪の中心に神々しく光る宝石と同じ色──“白亜色の炎”が其処に着火され、燦爛と美しい輝きを放ちながら荘厳と静寂を混ぜ合わせたような混沌を感じさせる程に厳粛と揺らめく。 その炎から放たれる霊圧はまるで果ての無い無限の宇宙を連想させる程に途轍もない濃縮密度を感じられ、百戦錬磨の英雄達は炎を目にした刹那の間に全員自分らが頭から塵化して消滅する錯覚を強制的に見させられた。
「が──は────ごほっ! はぁ……はぁ……いっ、今のは?」
「大丈夫ですか十代目!? どうやらあの三つ編み野郎が中指の趣味悪ぃ変テコなリングに灯しやがった謎の炎の所為のようですね。 畜生、いったい何なんだ、あのイタリアの実家に居た頃によく見た大理石のようにスゲェ気に入らねぇ小奇麗な色をした炎はよ!!」
自分達の存在が一切抵抗できずに跡形も残らず消滅するという一瞬の悪夢から解放され、その間に止められていた息を全員の最後に取り戻したツナが新鮮な空気を肺に取り込んで今見た錯覚の原因を何時の間にか自分の右傍に居た獄寺に尋ねると、一瞬前まで呼吸困難に陥っていたボスを心配する様子を見せる彼の右腕は状況的に考えて間違いなく眼前の敵が持つ荘厳な門の装飾のリングに灯された未知の“白亜色の炎”が原因だという推測を返答する。 自分がこの世で最も一番大事なボスに酷い目を遭わせた敵の左手中指に揺らめく謎だらけの炎へ直ぐにでも爆発させそうな猛烈な殺気を籠めた視線を向けて困惑を孕む怒りを叫ぶ嵐の守護者。 そして「其処は俺の場所だ!」と言ってきた彼によってツナの左側に退けさせられていたリィンはイノケントがリングに灯した炎の色と彼が発言した自分に因縁のある単語に加えて、【零】という最近になって聞いた名を冠する炎の名を聞いて、険しく驚愕していた。
「白亜色に【黄昏】と七の統合……《零の炎》……だと──ッ!!?」
彼はこれから先に何があろうと絶対に忘れる訳がない、今から約三ヵ月前にあの西ゼムリア大陸の英雄達が集結し皆の総力をあげて挑んだ《クロスベル再占領事件》の決戦の時、敵の決戦兵器であった《逆しまのバベル》の中枢にて対決した事件の真の黒幕が駆り出してきた【黄昏】の最終到達点──“巨イナル一”の再現たる【七色の巨いなる騎神】を統合した最強無敵の騎神──
『降臨せよ──原初にして究極の存在』
『《零の騎神》──ゾア=ギルスティン!!』
──まさか、あの《零の炎》にはあの時戦った《零の騎神》の力と同じ──!!?
「くは、ふはははははー! さあ、我が宿敵たる光の英雄らよ。 その勇気を示す覚悟はいいか?」
「だめだ! みんな、奴にその炎の力を使わせるな──ッッ!!!」
「リィン君!?」
「もう遅い! 星の外側より落ちよ、神の杖──ロッズ・フロム・ゴッ──」
「そこまでだ、イノケント」
「──dうぬ?」
「なに──ッ!?」
英雄達の覚悟の炎と勇気の輝きに多大な敬意を表し魔王として持てる最強の力で応えようと、遂に本気を出したイノケントが《零の炎》の力を使って大気圏外から何やらまた大馬鹿な規模のとんでもなさそうな物体を落下させてこようとした、その寸前の事であった。 “その青年”はまるで空間転移や瞬間移動をしてやって来たかのように何の足跡も予兆も無く、絶頂まで愉しみ過ぎて顔芸的なまでに歪ませた笑面で《零の炎》を灯したリングを天高く掲げようとしたイノケントの左傍に忽然と出現し、彼が上げかけていた左腕を強引に掴み取って止めさせた。 しかも驚くべき事にこの青年は、《零の炎》を大いに危険視しイノケントがその炎の力を揮うのを何が何でも阻止しようとして、全力全速の《裏疾風》を使い猛突進してきたリィンの放った神速の一太刀をも、イノケントの左腕を右手で掴んだと同時に左手に携える“黄金の剣”で軽々と受け止めたのだった。 もはや自分の意志では止められない程にはしゃぎ過ぎてひっちゃかめっちゃかやりかけていたのを急に現れた第三者に止められたイノケントは思わず間の抜けた声が出て興奮を冷まし、“黄金の剣”に突撃の勢いごと攻撃を止められたリィンも乾坤一擲で繰り出した渾身の秘技を片腕の剣でいとも容易く防いでみせた青年に瞳孔を収縮し双眸をはち切らんばかりに大見開いて最大の驚愕を露わしていた。
突然この場に出現し、三つの世界の英雄達が希望への未来を目指して諦めず戦い続ける限りこのまま何処までも止まりそうになかったUNLIMITED級の魔人と、数多の猛者と英傑が犇めく群雄割拠の西ゼムリア大陸で達人の名に連ねる一流の剣士を、両者共々に止めてみせたこの青年。 敵か? 味方か?