リィンは己が最速の縮地と最高の鋭さで振るい放った会心の一刀をその片腕に携えた“黄金の剣”で軽々と受け止めた謎の青年の顔を極寒の氷中に閉ざされたかのような戦慄に震えさせた瞳で見上げる。
その青年はまるで森の草木を根こそぎ燃やし尽くした跡のような灰茶色の上着を前開きに着こなした長身端麗の美丈夫であった。 だがしかし、彼は一見優男のような風貌でいて相手を鋭い氷の針で刺すような怜悧な目付きをし、その左目の周りに刻み描かれている班目か幾何学模様の痣のような不可思議な模様の刺青と相俟って途轍もなく威圧感があり、睥睨する相手を蛇に睨まれた蛙の如く畏縮させる。 細かく癖毛が立つ頭髪は灰が混じる空色をしていて、英雄と魔王の双方を制したその身から放たれる“剣気”は近づく何者をも凍てつかせる絶対零度と共に遥か遠くの何者をも喰らい砕かんとして唸り猛る炎獅子の如き猛烈さという相反する温度の性質を秘め、纏う冷静沈着な雰囲気が歴戦の英雄達に何処までも深い“修羅の道”を征き阻む無限の宇宙を斬り裂く【剣の帝王】の姿を想像させた。
「お前は……ぐっ!?」
鍔競り合った謎の青年の素顔を見上げた瞳に映したリィンは何故だかその貌に見覚えがある含みの驚愕を漏らし、その直後に相手の剣に払われて仲間達の許へと打ち返される。 その剣圧は刃同士を重ね合わせて制止した状態から剣を握る片腕の膂力のみで押し放っただけなのにも拘らず一流の剣士であるリィンの太刀を持ち主ごと弾き飛ばし、同時に弾いた剣の刃が大気を斬り裂いて猛烈な衝撃波を生じさせてくる程の威力を持っていた。 その為かツナの眼前に背中を向けた片膝立ち着地で戻って来たリィンは謎の青年の“黄金の剣”に弾かれた《神刀【緋天】》を握り締めていた両腕を毒蟲に刺されたかのように痙攣させていて、彼はその場から立ち上がれずに堪らず太刀を足下に刺し、それを杖代わりにどうにか倒れかける身体を支えた。
「リィン!?」
「大丈夫ですか、リィン教官!?」
「どうにか……な。 ……だが、あの男は確実に俺達を助けてくれたわけじゃない。 何故なら、トールズⅦ組はあの男の顔と彼が携えている“黄金の剣”を知っている……!」
「ぇ……っ!!?」
動けない程に大きなダメージを受けた自分を心配して周りに駆け寄ってきた仲間達にリィンは痙攣する腕を庇いつつ、イノケントの腕を掴み抑えた謎の青年を厳しい視線で差して彼の事をトールズⅦ組が顔見知った人物だという確信を伝えた。 リィンが言った意外過ぎる通達に彼以外のトールズⅦ組勢一同が一斉に彼の視線が差した謎の青年を見遣ると彼の素顔を目の当たりにしてユウナが驚愕の声を叫んだ。
「あっ、ああーっ!! あの変な半面刺青のイケメン剣士はさっきの!!」
「なにィ? あの男を知ってやがんのか、エマ達!」
「うん……たぶんあの凄絶な修羅のような鬼気と氷の獅子の如き玲猛な雰囲気、そして彼がその手に持っている“黄金の剣”から視て、恐らく人違いなどではないかと思います。 あの人は──」
「──あの灰青毛のスカシヤローはボンゴレ組を次元世界へ強制次元間転位させやがった、得体が知れねー“灰色の炎”使いの剣士じゃねーか! あのヤロー、さっきはよくもふざけたマネしてくれやがって、絶対ただじゃおかねぇっ!!」
イノケントの腕をまだ掴んだまま無言の圧を放っている謎の青年を指差して最近とても嫌な目に遭わされて根に持っていた顔見知りを見つけたように大声を張り上げたユウナに続き他のトールズⅦ組のメンツも次々と謎の青年に視線を向けて剣呑な表情へと変えていく。 事情を全く知らない機動六課組を代表してヴィータがあの謎の青年と知り合いなのかとその相手へ大きな警戒を表わしはじめたトールズⅦ組全員に訊ねると、彼女に名前をあげられたエマが鋭い視線を謎の青年の方へと縫い留めながら答えようとする。 だがその前に、機動六課組と同じくトールズⅦ組の事情とは出身世界が異なっているが故に全く無関係の筈であるボンゴレ組の獄寺が何故だか彼女達と同じように謎の青年を見て顔見知りの敵手を発見したかのような怒声を発してアイツが自分ら三人を元の世界から次元世界に強制転位させたのだと張り上げだした為、彼の側でその憤慨の内容をハッキリと聴いたアッシュが信じられないと言わんばかりに驚愕を露わにした。
「なん……だと? おいゴクデラ、まさかテメェらもあの粋好かねぇ顔した氷野郎に次元世界へ飛ばされて来やがったっつうタチなのかよ!」
「その口ぶりからすると、トールズⅦ組もオレ達と同じように、あの超強えー剣士にボコされて異世界転移させられたってハナシかよ」
「ああ。 どうやらトールズⅦ組とボンゴレ組は全く同じ経緯を得て、次元世界にやって来たようだな」
「偶然……ではないでしょうね。 同一の存在が同時に異なる二つの世界に出現したという不可解な事象については一旦脇に置いておくとして、危害を受けた双方の目の前に事を行った張本人がわざわざ姿を現したのですから……」
矢継ぎ早にトールズⅦ組とボンゴレ組の間で御互いのグループと謎の青年との接点と次元世界に次元間転位されてきた経緯が交換された。 それにより双方のグループが同時刻に元の世界であの謎の青年剣士と戦って敗北し、彼の手によって次元世界へ次元間転位させられたのだという驚愕の事実が判明する。 ミュゼが口にした不可解な矛盾点や、過去に渡り世界を滅ぼせるレベルの強敵達と幾多と死闘を繰り広げて勝利を掴んできた歴戦の英雄たるリィン達トールズⅦ組とツナ達十代目ボンゴレファミリーがたった一人の剣士によって敗戦を喫した等、とても信じ難い話ではある。 しかし確かなのは、あの“黄金の剣”を振るう謎の青年はリィン達の味方などでは決してないという事であった。
全員が情報を共有し“黄金の剣”を携える謎の青年剣士を新たな敵存在と認めて三世界の英雄達が針のような視線を向けた先では、彼等の今宵の宿敵《次元魔王》イノケントが“白亜色の炎”を中指の指輪に灯し天に掲げた自分の左腕を掴み尋常ではない膂力で抑え付けてきた謎の青年に怒るでもなく寧ろ友好を向けるような微笑をもって迎えていた。
「おやおや。 クハハ、誰かと思えば我が【次元魔王軍】が誇る七名の最高幹部《七星勇士》の筆頭にして我が親友の“剣帝ジークレオン”──ジークではないか」
「悪い癖はその辺にしておけ。 今の時点の彼らにその《零の炎》を使うのはやり過ぎる。 お前はこんな最初で調子に乗って、《楽炎計画》を破綻させる気なのか、イノケント?」
次元魔王軍最高幹部《七星勇士》──灰の勇士≪灰氷の剣帝≫ジークレオン イメージCV:緑川光
「大体、お前は今何を創造しようとしていた。 俺の耳には未開発の宇宙衛星戦略兵器の名が聴こえたような気がしたのだが、聴き間違えか?」
「ハハッ、何を言うか。 人の身では絶対不可とされていた武道の“理”と“修羅”の両立を成しながらも双方共に“極み”へと至らせた《灰氷の剣帝》ともあろう男が聴き間違いなどする筈があるまいよ」
「確かに大馬鹿正直者には愚問か……無論忘れてはいないだろうが《楽炎計画》の完遂には三世界の英雄達は必要不可欠となる。 なのにお前は《PARAISO》の【究極上位導力魔法】や《零の炎》を用いて創造する近未来戦略破壊兵器などという果てしなく馬鹿げたものを叩き付けて、未だ《黄昏の七属性》の炎の一つも覚醒させてはいない彼らが無事で済むとでも本気で思っていたのか?」
「100億%無理であろうなぁ。 だがしかし、俺が憧れを抱く伝説の英雄達ならば、その勇気と絆の力で当たり前のように奇跡を起こしてくれる事だろう。 そう信じていた」
「……フッ」
駄目だコイツ、もう英雄達へ対する狂信の度が過ぎて自分の中の量りとブレーキを粉々に破壊してやがる……“黄金の剣”を振るう謎の青年剣士改め、《灰氷の剣帝》ジークレオン(以後“ジーク”と呼称する)は自軍の総大将である魔王様がほざいた超絶大馬鹿過ぎる妄言を聴き、失笑を浮かべながら取り押さえていた総大将の腕を解放する。 馬鹿に何を言っても無駄だと判断して諦めたようだ……。
「だが、さすがに今回はもう十分だろう、魔王様よ? 《TTO》の発令から展開される高位相次元空間領域内の“領域効果”下での特殊ルール戦闘に【究極上位導力魔法】の発動により発生する複数集団参加の魔導巨像解除戦闘……寧ろ初戦の小手調べとしては、随分と振る舞い過ぎだったな」
「ハハハハ! 言われてみれば確かに。 実際に生で間近に見る伝説の英雄達の輝きがあまりにも尊く煌びやかで素晴らし過ぎたから、俺もツイ童心に帰ってうっかりはしゃぎ過ぎてしまったな……名残惜しいが、今日のところはここまでのようだ」
やれやれと澄ました顔になって腕を組んだジークに初戦で手札を出し過ぎだと諫言されながら、そこまでやったのならいい加減満足しただろうと言われたイノケントはぐうの音も出ずにまいったと一笑。 そして魔王はまだまだ大好きな英雄達との戦いを愉しみたい気持ちを仕方がないと得物の《天魔刀【信長】》と共に懐に収め、興を冷ます。 単一次元宇宙にまで影響を及ぼしていたUNLIMITED級の魔人が放っていた戦意と霊圧が此処で治まり、星程の大きさの巨人の足に上から踏み付けられると例える程に途轍もなかった重圧感からようやく解放されたリィン達が急に身軽になった身体に吃驚し、いったい何故急に戦意を解いたのかと誰かが問う前にイノケントは《PARAISO》を手に取る。
「『天地崩界・神々の黄昏』──領域閉鎖」
『“Disaster Ragnarok” Close Add Territory』と《PARAISO》の表面電子画面に持ち主が淡々と発令解除したその言文を復唱するように表示される。 すると突然この終末の世界『天地崩界・神々の黄昏』の領域空間にテレビの放送受信が不安定化した際に起きる映像の乱れに似た歪みが生じ出し、次の瞬間に『ブツッ!』と映像が切れたような効果音が鳴ったと同時に大空全体を染め上げていた煉獄の紅黎が良く磨られた墨のように透き通る清涼な夜天の藍色に一瞬で塗り替えられていた。
「なっ……いきなり空の色が変わった……!?」
「空の色だけじゃない。 第一管理世界特有の二つの月も、管理世界の周囲宙域近辺に在る複数の天体も、いつの間にかキレイに元に戻っている……!」
「っ!? みんな足下を見てくれ」
リィン達は大空の色が藍色に移り変わり、その天蓋に姿を現した闇に輝く星々と朧気な白の光を纏った二つの月を見上げて目を大きく見開く。 この惑星から程近い宙域を周っている為に常人の肉眼で全体の形から地表まで観測できる天体が疎らに複数浮かぶ異想的な景観は紛れもなく本物のミッドチルダの夜空であり、まさかと思って咄嗟に足下のコンクリート床に回転翼機一機程度の大きさで書かれていた“H”の文字を見下ろしてみたツナが反射的に声を発して仲間達にも確認を求める。 英雄一同全員で足下のそれを見て驚きのあまり思わず眉根を固く寄せて上げた、彼らは現状身に起きている事象の確認を確信に至らせる為に続けて周囲の景色を見回す。
「嘘……この場所って、まさか“地上本部の屋上ヘリポート”じゃないの……!?」
大きな瞳に自分の見知った景色を映したスバルが動揺を表した。 ミッドチルダへ空襲した反管理局軍ミッドナイトを撃退する電撃作戦の為に夕刻時に雲の上まで伸びる超高層ビルの一階から百階を越える階段を駆け登って来た機動六課最前線攻略部隊が階段出入口の扉を開いた際に待ち受けていた敵軍の人型戦闘機動兵器の奇襲を受けた事で破壊された階段出入口扉の屋根とその巻き添えでその上に設置されていた貯水タンクも破壊されて其処に山積みになったそれ等の残骸、人型戦闘機動兵器との激しい戦闘の余波で刻み付けられたヘリポートの傷痕、敵軍が蹂躙する為に放った人形兵器と魔煌機兵の大軍と電撃作戦の陽動役であった管理局の地上部隊や首都航空武装隊による市街地戦でほぼ半壊状態となっていた眼下の街並み……終末の世界では主人公二人と次元魔王が繰り広げた超速三次元戦闘によって完全崩壊していた地上の法の塔の屋上の外観が次元魔王の創造領域展開が発令する寸前までの姿そのままの光景が其処には広がっていた。
「間違いない……俺達はあの『天地崩界・神々の黄昏』から本物のミッドチルダへと引き戻されたんだ。 イノケントが《PARAISO》を使って発令していた『TERRITORY ORDER』を経った今手動で発令解除したが為にな」
「その通りだ、リィン・シュバルツァー」
まるであの終末の世界など最初から存在しなかったかのようなミッドナイト軍撃退直後の第一管理世界ミッドチルダ首都クラナガンの惨状をそのままにした夜景が突然終末の世界を塗り替えるようにしてガラリと一変させ顕れたのを目の当たりにし、言葉を失って当惑に暮れる仲間達の中心でリィンがこの状況を頭で整理して得た確信についてを口にする。 そしてその直後、お前の言った事は当たっていると、終末の世界を消去した魔王の隣に立つ“黄金の剣”を携えた灰青毛の青年剣士ジークが三世界の英雄達の前へと一歩あゆみ出て答えてきた。
「我が《次元魔王軍》の“MULTIUNIVERSE式”近未来戦術オーブメント《PARAISO》の特色機能である多重因果律時空間干渉改変創造システム『TERRITORY ORDER』──通称《TTO》システムにはお前達のブレイブオーダーやアンチオーダーが持つ号令効果の持続制限時間は設定されてはいない。 号令により創造構築された戦闘領域は一度発令展開されたなら発令解除する方法は【号令発令者を戦闘不能にする】か【号令発令者が自主的に号令を解除する】の二つ以外には存在しない」
「お前は……やっぱり今朝ゼムリア大陸で俺達を襲撃してきた“灰色の炎”の剣士なんだな!」
「“可能世界”の英雄《灰色の騎士》リィン・シュバルツァーとトールズ士官学院第Ⅱ分校Ⅶ組特務科、“七輪世界”の英雄《ボンゴレⅩ世》沢田綱吉と十代目ボンゴレファミリー守護者……いや、それとも【ネオ・ボンゴレファミリー】だったか? 本体ではこれが初めましてになるかな? もはや現在時刻的に昨日の出来事になるが、お前達の元の世界では名乗りもせずに襲い掛かってしまい、無作法ですまなかった。 “次元世界”の英雄《エース・オブ・エース》高町なのはに戦闘機人《タイプゼロ》スバル・ナカジマと時空管理局古代遺物管理部機動六課の面々とはこれが本当の初対面だったか」
はぐらかしは一切許さないという凄みを込めた剣呑の双眸で睨みつけるリィンからの詰問に対しジークはほんの僅かすら動じずに自分とこの場に居る三世界の英雄達全員との関連を一つも偽る口調もなく受け答える。 彼が淡々と口にした内容と英雄達三組それぞれが記憶している過去遡る数時間前の相手との面識・出来事の概要が全て一致し、英雄達はこの灰青髪の青年剣士に対する認識を完全に敵と定めた。 再び得物を構えて新たに現れた敵のジークレオンへ警戒の視線を集めるリィン達……魔人級の魔王との激戦で全員満身創痍になっていながらも過去幾度となく危機を乗り越えてきた歴戦の戦気を全く弱らせる事なく放ってくる英雄達に、ジークは流石だという微笑を「フ……」と漏らしつつもその空気をひりつかせる程の気当たりをまるで涼しいそよ風を受けるかのように余裕綽々とした態度で彼らに向き合った。
「たった今我らの魔王様が勝手に人の素性を漏らしたのを聞いていたと思うが、一応自分の口から自己紹介しておくとしようか。 次元魔王軍最高幹部《七星勇士》筆頭、《灰氷の剣帝》ジークレオン。 以後、そう呼ぶといいだろう」
左手の“黄金の剣”を全員によく見えるよう腰の前に下げて少し気取らせた立ち姿を見せながら己の素性を明かしたジークにリィン達は油断せず何時如何なる時でも迎撃出来るように身構えている。 先程は《零の炎》を使って何かトンデモない攻撃を繰り出そうとしたイノケントをジークが止めていた為に一時彼ら二人は敵対する者同士かと思われたが、直後にイノケントの口からジークが自分の軍の最高幹部だという彼の素性が漏れ出した事で二人が仲間同士の関係であるとリィン達は強く疑っていた。 そして経った今嫌疑をかけられていた青年剣士本人の口から自身の素性が魔王の言ったそのままの通りであると明確に告げた事で、彼の嫌疑は真実だと確定された。
「【次元魔王軍】……やっぱり貴方、魔王の仲間だったのねッ!」
「《灰氷の剣帝》……“剣帝”だと?」
「なるほど……【勝利の獅子】か。 すると“ジーク”というのは貴殿の愛称なのか?」
「……些か不本意だが組織内でそう呼ぶ者は多いな。 まあ、お前達の好きに呼ぶがいい」
ジークが次元魔王の仲間である事が明確にされ、ユウナなどの直情的性格を持つグループが彼に対して激しい剣幕を向けたり、クルトなどの剣士衆が《灰氷の剣帝》という彼の者の渾名を聴いて眉根を寄せる反応を浮かべたり、その他の英雄達も彼に対する警戒の構えを益々厳しくしていく。 温度差が対極に離れた両雄の視線が間で衝突し夜の涼しい空気をピリつかせる緊張感の中、天然の正直者であるガイウスが先程からジークの背後で彼と英雄達の対立をまさに映画の盛り上がる場面の撮影を間近で見学している俳優ファンのようなウキウキとしたニヤケ面を曝している魔王が部下であり親友と呼ぶ眼前の背中の彼の事を“ジーク”という愛称で呼んでいた事へ何気なく突っ込みを入れ、それに相手が若干不服そうに顔を顰めて肯定するという間の外したやり取りがあって微妙に緊張感が崩れたが、直ぐに気を取り直しツナが真意に迫る表情でジークへ問い詰めた。
「ボンゴレファミリーを誘き寄せて並盛町から次元世界に無理矢理飛ばしたばかりか、トールズⅦ組まで同じ方法でこの場所に次元間転位させて集め、その上に機動六課まで巻き込むだなんて、いったい何を企んでいる!? 次元魔王軍は何者なんだッ!!」
「それと、とっととその剣返しやがれ、この墓荒らし野郎! それはレーヴェ兄ちゃn──……ハーメル村の剣士レオンハルトの墓標に祀ってあった、大切なものなんだからよ!!」
「オレらを誘い出す為に復讐者達を全滅させて奪い取りやがった“アレ”も当然持ってるよな? アレもオレらの世界に必要な大切なもんなんだ、返してくれねーか」
ツナに便乗してアッシュと山本が何やら盗った物を返せとジークに強く要求している。 どうやらトールズⅦ組とボンゴレ組は両者共に先刻元の世界で何か彼らにとって非常に大切だった物品をジークの手に奪い取られていたようだ。 性格上による温度差はあるものの二人が張り上げた声には共に灼熱と煮え滾った溶岩の如き憤りが込められていて、両組にとってその物品がそれ程までに大切なんだという事がよく伝わってくるが、ジークは微塵も悪びれようとする口も無く「フッ……」という嘲笑を一つ吐いてから何も握っていない右手を身に纏う灰茶色のコートの懐へと挿し入れる。 そして其処から取り出した“ドッジボール程の大きさがある球形硝子ランプのような物品”を左手に携えていた“黄金の剣”と共に高く掲げてやる事でリィン達全員の目によく見えるようにしてみせると、リィン等トールズⅦ組が“黄金の剣”を、ツナ等ボンゴレ組が“謎の大きな球形硝子ランプ”を目に入れて大きな反応を露わにした。
「──っ!! やっぱ見間違いなんかじゃなかったぜ……テメェ、よくもレーヴェ兄ちゃんの墓を荒らしやがったばかりか、アイツの遺品の《魔剣ケルンバイター》を盗み取って、まるで自分の物みてぇに振り回しやがって……!!!」
「予想的中だったな。 アイツ、オレらを負かして次元世界へ飛ばしたあの後にそのまま復讐者の連中へ返さねーで持って行ってやがったか。 アルコバレーノを“おしゃぶりの呪い”から解放する代わりに十代目ボンゴレファミリー守護者の炎で作った、新しい“7³”の器──《夜炎加速式7³半永久機関》をよ……!!」
「リィン君、ツナ君。 《魔剣ケルンバイター》とか《夜炎加速式7³半永久機関》とか言ってるけれど、いったいアレは何なの?」
「西ゼムリア大陸の武芸者が志す“武の理”の道とは対極の道に在る“修羅の武”を極めた剣士の頂点──《剣帝》の渾名を持っていた、今は亡きアッシュの生まれ故郷の村である【ハーメル】出身の青年剣士《レオンハルト》が振るっていたという、森羅万物を切り裂く異能を秘めし“黄金の魔剣”──《魔剣ケルンバイター》……それがあの剣さ。 でも、あの魔剣の異能は《剣帝》の死期と共に折れて失われていた筈だった。 一度は去年の【黄昏】の影響を受けて一時的に異能の力を復元させていたものの、俺達が“黒”を討ち倒して【黄昏】を終わらせた後には再び消失していた筈なんだ。 なのにジークの手に渡ったケルンバイターはどういう訳か、異能の力を完全に復活させている様子だった。 これは、いったい何が起きているというのだろうか……」
「あのジークという男が右手に掲げている大きな硝子ランプみたいな物が《夜炎加速式7³半永久機関》──“ペルマネンテ・トゥリニセッテ・ディ・アチェレラツィオーネ・フィアンマノッテ”っていう、かなり長ったらしくて覚え難い読み方をするから、みんな【7³半永久機関】と略して呼んでるんだけどね──なんだけど、オレ達には“超ヤバイ掟”があるから詳しい事は説明できないんだ。 だから簡単に言うけれど、もしアレの硝子の中に見える“虹色の灯”が消えたりしたら、オレ達の世界が滅びてしまうんだ。 一刻も早くジークの手からアレを取り返して元の世界に戻さないと、オレ達の世界が危ない!」
奪われた物品の返却を要求した二人が口端を切る程に強く歯を噛み締めながらジークの両手に掲げられた異様な存在感を放つ二つの代物──《魔剣ケルンバイター》と《夜炎加速式7³半永久機関(以後【7³半永久機関】と呼称する)》を怒りを孕む視線で睨みつけ、他のトールズⅦ組勢とボンゴレ勢も皆同様の怒りをジークへと向ける。 その両物に全く縁が無かった機動六課勢はジークが二つの代物を掲げてみせた途端に二つの異世界から来た頼もしい助っ人達が全員尋常ではない怒気を放ちだした事に一瞬驚き、困惑する六課前線部隊員達を代表してなのはが異世界転位陣のリーダー二人にジークが手に掲げた物は何なのかと訊ねてみる。 リィンとツナがジークへ嚇怒の炎を纏う刀剣の如き視線を伸ばすままに要点を絞って簡潔に事情を説明すると、敵の手にある二物が異世界から来た新しい仲間達にとってどれだけ大切な物なのかを理解したなのは達機動六課勢もまたジークへ対する敵意の目を厳しく強めた。
「フッ……皆、誰一人例外無く煉獄の炎よりも熱く重厚な怒気を放ってくるときたか……成程、流石は歴戦の英雄達と言いたいところだが──温いッ!!!」
発ッッッ!!
「「「「「「「な────ッッ!!!?」」」」」」」
カッ! と双眸を大きく見開いたジークの全身から猛烈な威力を伴う“圧”が放出され、一瞬にしてリィン達全員の怒気を押し返した。 獅子の咆哮の如く大気を震わせる荒々とした威力を持ちながら、絶氷の吹雪にも見紛わせる何処までも冷徹な空気の圧が半球膜状の形を持って勢いよく拡散し、百戦錬磨の英雄達を地上本部屋上丸ごとと飲み込んだ。
「「「「「「「ぐああああああっ!!! / きゃあああああっ!!!」」」」」」」
空気圧の半球膜に飲み込まれたリィン達は全身を氷の刃で切り刻まれたと錯覚する程の圧力を受けさせられ、その氷獄の如き精神的苦痛に耐えきれずに悲鳴をあげてしまう。 数秒後直ぐに空気圧の半球膜は霧散したが、刹那の氷獄の苦痛から解放された三つの世界の若き英雄達は一人残らず皆が屋上ヘリポートの床に膝を着いて酸素ボンベも背負わずに限界ギリギリまで素潜りをして水面に浮上した直後のように激しく荒れ果てた呼吸になっていた。
「ハァッ、ハァッ! ゼェッ、ゼェッ! チ……チキショウ!!」
「な……なんという……“剣氣”なん……だ……」
「と、とんでも……ねぇ……。 アタシ達全員の“威圧”が……たった一人の威圧で……ゲホォッ!」
歴戦の英雄達の誰しもが敵の前に屈し、乱れた呼吸で胸を大きく上下させながら今にも失神してしまいかねない程に枯れそうな喉で途方もない屈辱や戦慄に侵された声で呻いている。 《灰氷の剣帝》の二つ名に違わずジークの放った“威圧”は百戦錬磨の猛者の大勢を無力化する程にとんでもなかった。 魔王のものような物理的な破壊力は無かった為に足下の地上部隊本部や眼下の街に影響は及んでいないが、精神への攻撃力は計り知れないものだという事はリィン達全員が一瞬で無力化されたこの惨状を見れば誰でも理解できるだろう……。
「こんなものか……悪いが、この程度の気当たりで屈するような実力では、まだコレらを返してやる気はさらさら無いな……」
「クッ……!」
「そ、そんなぁ……」
無様に跪かされて惨めな醜態を曝す三世界の英雄達にゼムリア大陸の《剣帝》の墓標から奪い取ったという《魔剣ケルンバイター》の牙のような形状の切っ先で差しながら睥睨した新たなる剣帝が期待外れだと言って切り捨て、奪い盗った物品の返却を断った。 魔人級の魔王との激戦で限界まで力を使っていたとはいえど、言い訳にならない相手との実力の差を痛感させられたリィンとツナは心底悔しそうに呻く。
ケルンバイターはトールズⅦ組……特にアッシュにとっては生まれ故郷の村の亡き隣人の忘れ形見である為どうしても取り戻したかっただろうし、7³半永久機関に至ってはツナの話が事実ならば硝子ランプの中に灯されている虹色の炎が消されたりしたらツナ達の故郷の世界が滅亡してしまうなどという非常に重大な物であるので絶対に奪還しなければならないものだ。 どちらも取り返すのを早々と諦める訳にはいかないだろう。 床に膝を着かされ、圧倒的な力の差を見せつけられても尚食って掛かろうとする目で見上げてくる英雄達にジークは少しは見どころがあるようだなという澄まし笑いを浮かべて口を開く。
「フッ……そんなに返して欲しければ、精々この場に巡り合った別世界の力と技術を取り込み合いながら互いに鍛え上げ、より一層強くなって奪い返しに来い──
──“黄昏の七属性”とその炎を灯せし【ラダマンテュスリング】を持つ、俺達《七星勇士》に挑む勇気があるのならなッ!!」
リィン達へ向けていたケルンバイターの切っ先を下ろし、声に大きな期待の圧を込めて出来るものならやってみせろと彼らを焚付ける《灰氷の剣帝》ジークレオン。 ミッドチルダの夜風に乗って次元世界の果てまで響いていきそうな烈然とした気迫がこれまでに三つの世界で幾度となく起こされてきた異変や危機に立ち向かい解決してきた歴戦の英雄達の精神へと直接叩き付けられ、全員の魂が雷の如き衝撃に打ち震えさせられた。 そのあまりにも凄まじい気当たりを跳ね返せる程の気力はとうに尽き果てていた彼らは誰一人として相手の煽りに受けて立ち上がれはせず、一瞬視界がぐらついて目に映る景色が眩みかける。
「クッ……!!!?」
それでもリィン達は此処で負ける訳にはいかないと気をしっかり持って途切れかけていた意識を現世に繋ぎ留め、眩みそうになった視界をどうにか取り戻した……その時、彼らは目の前に映った連中を見て目を疑った。 森羅万物を断ち斬る黄金の剣を携えて泰然と立ちながら冷然として余裕と澄ました微笑をリィン達へと向けている剣帝ジークとその右斜め後ろに少し下がった位置から相変わらず素敵な笑顔で絶対不利となったこの状況下で必ず逆転できると信じて不屈と諦めず足掻こうとする英雄達の様子を実に尊く想っているような熱を込めた目で見つめてきている魔王イノケント──彼ら二人の背後に何時の間にか六人の新手が姿を現していたからだ。
「なっ! あの六人、いったい何処から現れたんだ……!?」
やってくる気配も無く唐突として其処に出現していた異様な雰囲気を纏う六人にリィンと仲間達は瞳孔を開いて大きな戸惑いを露呈する。 現れた立ち位置や目の前の二人の背中に襲い掛からず付き従うように立っているという状況から観て恐らくその新手の六人全員が魔王の軍門に付いている者達であろう。 六人全員がフード付き黒マントで全身を覆い正体を隠していて、彼らの素顔を隠すフードの陰から漏れ出してきている霊気はそれぞれも皆濃質でいて底が窺い知れず、何れも只者ではない事が誰にも理解できる。 だが、それよりも際立って異様な要素は──
「──十代目! あの変な黒マント共の手の指に嵌めている指輪、其処のイノケントが嵌めているブツと全く同じ形絵の彫刻が彫られてやがります!!」
「それと、アイツらのリングにそれぞれに灯されてる“六色の炎”、どれも全部ボンゴレが全然知らねー色と炎気が感じられるぜ。 たぶんアレらの炎が持つ属性と性質も未知のモンだろうよ」
黒マントの六人が唯一肌を曝している手の薬指にそれぞれ嵌められている“荘厳な二枚開きの門”の模りの金縁の装飾が施された指輪は、全体と金縁の門の中心に嵌めてある宝石の色こそ異なるがイノケントが先程《零の炎》を灯していた桁違いに神秘的な白亜色のリングと完全に同じ代物である事が、獄寺ら視力自慢の射撃手の目には見て取れた。 更に、その六つそれぞれの門のリングには、またまたボンゴレファミリーも今までに見た事がない“六色の死ぬ気の炎”が灯されていた。
“深淵”の底に妖しく揺蕩う湖水を連想させる【蒼色】の炎。
“煉獄”に燃え盛り永遠と罪人を焼き苦しめ続ける灼熱地獄を連想させる【緋色】の炎。
“闘争”の戦場に漂う無念と死の怨嗟を身に浴びながら殺戮に狂い敵兵を狩り続ける死神兵士を連想させる【紫紺色】の炎。
“鋼鉄”の鎧兜で全身を包み込みながら幾多の戦場を駆け抜けて剣傷の一筋も作らず返り血の一滴をも浴びずに無傷の完全勝利を持ち帰る至高にして無敵の英雄騎士を連想させる【白銀色】の炎。
“不滅”にして永久に消える事の無い理想郷の輝きを連想させる【黄金色】の炎。
“呪怨”と人の業に塗れた悪意を以て全ての世界を絶望に染め上げる無限の暗闇を連想させる【暗黒色】の炎。
そのどれもこれもツナ達の世界では未だ存在を確認できていない未知の属性であり、山本ら感の鋭い武芸者にはそれ等の炎にそれぞれとても計り知れない未知数の力が秘められている事が感じ取れた。 無論ツナの“超直感”にも。
──ヤバイヤバイヤバイ! あの人達がしている指輪の炎、どれももの凄くヤバイ感じがするものばかりじゃないか! 特にあの真っ黒な炎はバミューダ達の“夜の炎”がとても可愛く想える程に、絶望的なまでに悍まし過ぎる! 絶対に超ヤバいし、みんなイノケントとの戦いとジークの威圧でもう身体に限界がきている。 完璧に敵いっこないよ……!!
「もうダメだリィン……に……逃げなきゃ……! どうにかして隙を作って、みんな一緒に──」
「【蒼】【緋】【紫】【銀】【金】……そして【黒】──“黄昏の七属性”──成程、炎の属性とやらについてトールズⅦ組にはまださっぱり理解できてはいない上、この巡り合わせにどういう繋がりがあるのかは今は判らない……だが、やはり《七つの騎神》七騎と同じ色の炎が出てきたな!」
「──回れ右して退却しよう……へっ?」
また新たにやって来た敵が出してきた未知の六色の炎から直感的に因果律を狂わせそうなレベルで凄絶過ぎる力を感じ取れてしまい、途方もない恐怖で全身を震えさせて眼前の魔王達に敗北する未来を悟り逃げ腰になって隣のリィンへ逃走を提言しようとするツナ。 しかし隣の彼は敵軍の筆頭幹部の青年剣士が口にした“黄昏の七属性”という重要単語と彼の背後に控える黒マントの六人が指に嵌めている荘厳な門のリングに灯した死ぬ気の炎の六色の色分けに個人的な既視感があったようで、一人その場に呟いてこれ等の要素を統合し、その因果関係の一部について確信を得ていた。 それを聴いたツナは驚き呆けて思わず逃げの提案を止める。 考えを纏め上げたリィンがジークの威圧による金縛りを残った意志力を振り絞る事で解き、立ち上がると改めてジークへと向き合い、相手に確信した事を言う。
「すると、その“黄昏の七属性”の炎とやら……最後の一つはお前が今朝トールズⅦ組との戦闘や、話の流れからして恐らくボンゴレ組との戦闘にも使っていた【灰色の炎】なんだろ? ジーク!」
リィンは相手に緋色の刃を向け返して強気に問い詰めた。 その直後、彼の推理が正解である事を示すように一瞬口端を吊り上げて「フッ、御明察だ」と一言口にしたジークが右腕に抱えていた7³半永久機関をコートの懐にしまい(サイズ的に衣服のポッケに収納は無理じゃないかとツッコムでしょうが、RPG仕様の四次元アイテム袋補正となっておりますので、あしからず)、空いた右手の甲を顔の前に翳して、その中指に嵌めている“灰色をした門の装飾の指輪”をリィン達に見せつけた。 やはりそのリングはイノケントや黒マントの六人が“黄昏の七属性”系統の炎を灯したものと同じ代物であり、門の金縁の中心には一際艶やかな灰色に煌く宝石が嵌め込まれている。
…………点灯。
そしてそのリングに灯されたのは彼の背後に控える黒マント達の門のリングが灯している炎の六色に加える“七色目の炎”だった。
聖善なる光の世界と暗陰なる闇の狭間の“境界”の景色を連想させる【灰色】の炎が、《灰氷の剣帝》が掲げた指に儚く小さく、しかし煌く鋼の刀剣の煌きの如く燦然と燃えている。 リィンはその炎の聖にも闇にも染まらぬ色とそれに宿る巨いなる誇りに切ない懐かしさを感じ取り、三ヵ月前の逆しまの塔での決戦後から疼く事が無くなった胸の痕に哀愁深く左手を当てる。
「やっぱりそうか……“黄昏の七属性”の名は、ゼムリア大陸において約1200年過去から連綿と続いてきた“黒”の因果により昨年エレボニア帝国で引き起こされた大陸全土を滅びに向かわせる昏き終末の呪い──《巨イナル黄昏》から取って付け。 その炎の七色は【黄昏】の中で“黒”の因果に決着を着けるべくして執り行われた《七の相克》の参加者である“七人の起動者”──その彼らを選び共に戦った“七色の巨いなる騎士人形”──《蒼の騎神》オルディーネ、《緋の騎神》テスタ=ロッサ、《紫の騎神》ゼクトール、《銀の騎神》アルグレオン、《金の騎神》エル=プラドー、《黒の騎神》イシュメルガ……そして《灰の騎神》ヴァリマール──彼ら《七騎神》の七騎と全部同色で、更にはイノケントが先程俺達に使おうと灯していた《零の炎》の【白亜色】も三ヵ月前に俺達が《逆しまのバベル》で戦った七騎神全てが統合された究極の《零の騎神》ゾア=ギルスティンと同じ色だ」
「「「な──っ!!?」」」
「い……言われてみると、確かにリィン教官の言う通りだわ!」
「あの《相克》を競い合い、“黒”の討滅と共に消えていった騎神の七体それぞれの装甲の特徴を示す【灰】【蒼】【緋】【紫】【銀】【金】【黒】の七色に、その七騎の統合機体である《巨イナル一》を再現していた【零】のものと同色をした炎……【黄昏】の名を冠している以上、偶然という事は無いでしょうね」
「ええ、間違いなくあの騎神達と何か関連があると視ていいでしょう。 ジークさんと後ろの六人が指のリングに灯している七色の炎や先程イノケントさんが同じ装飾のリングに灯していた《零の炎》からは、それぞれと同じ色の騎神が放っていた霊力の性質とほぼ同じものを感じられましたので」
「それ等の炎を灯している門の彫刻が施されたリングもヴァリマール達に繋がる古代遺物ではないかと見受けられる。 貴殿は先程【ラダマンテュスリング】という名で呼称していたが……説明してはもらえるだろうか、《灰氷の剣帝》殿?」
敵が灯した“黄昏の七属性”の炎の所縁に当たり目をつける憶測を述べたリィンに、彼以外のトールズⅦ組の面々がまさかと驚愕を露わにした。 リィンのクラス生徒の中で最も聡明な頭脳を持つミュゼは教官の憶測を簡潔に纏めてみて彼の考察は凡そ正解だろうとし、話にあった《七騎神》にとても深い関わりを持っていた《魔女の眷属》の末裔であるエマは魔女の一族特有の感覚で“黄昏の七属性”の炎がそれぞれ同じ色を持つ騎神と同質の力を秘めている事を暴き、ゼムリア大陸の神秘や遺物について専門知識を持っている七耀教会関係者のガイウスは眼前の敵集団が指に嵌めて“黄昏の七属性”の炎を灯している門の装飾の指輪──【ラダマンテュスリング】が《七騎神》に関係を持った神秘の道具ではないかと思い至ってジークに駄目元で詳細の説明を要求する。
「まあ、俺個人としてはこの場で全て暴露してやっても構わないと思うのだが、“英雄の物語には謎と試練を与えよ”というのが我らが魔王大将の方針なんだ、悪いな。 王道漫画の主人公とその愉快な御仲間らしく、自分達で真実を探し当てるがいいさ。 お前達が過去に何度もやってきた通りにな」
「またしてもアタシ達が過去に経験してきた出来事の詳細を知っているような口ぶりを……ダァアアアアーッ!! いい加減にしやがれ!【次元魔王軍】だかフ○ーザ軍だか知らねーけど。 マジでいったい、テメェらは何者なんだよッ!!?」
ジークが灰色の炎──《灰の炎》を灯した右手の掌を肩の上にヒラヒラとやりながら、仕方がないだろうというスカシ笑いを浮かべて、ガイウスから投げられた要求を断る。 その際に、今宵の戦いの中で何度も何度も対峙した敵達が三世界の英雄達の過去の大きな出来事の顛末を実際に観てきたような口調で言ってきた為、煩わしさに我慢の限界がきたヴィータが感情の爆発の勢い任せで金縛りを解除し、立ち上がり様に目の前に立ちはだかる【次元魔王軍】へ向けてビシッと指差して、お前達の詳しい素性を明かせと怒鳴り要求する。 それを聴いて、さっきから配下の出番を邪魔しないように笑顔でやり取りを見守る事に徹していた魔王様がその言葉を待っていたという風に愉しく張り切ってリィン達の前に一歩踏み出てくる。 ジークも自軍の大将に出番を替わると空気を読んで英雄らの身体の自由を縛っていた威圧を収めて背後に立つ黒マント達の右端へと退がり、解放された彼らが全員立ち上がったのを確認するとイノケントが大仰不敵に哄笑を上げた。
「フハハハハハー! よくぞ聞いてくれたな。 ならば答えてやるのが世の情けだろうが、今はまだ全てを明かす時ではないのだ。 故に今はこう名乗らせてもらうとしよう──」
今はまだ物語のプロローグ、主人公達が対峙する宿敵の掘り下げをするにはまだ早い段階だろう。 イノケントは両手両足を大に広げて肩に羽織った憲兵衣装の外套を盛大にはためかせ、三世界の若き英雄達に向けて大声を張り上げた。
「我らは【次元魔王軍】! “空の女神の加護”を受けしゼムリア大陸の若き英雄達による絆の軌跡が伝説となり受け継がれてゆく《可能世界》。 “7³”という21個の至宝に灯る覚悟の炎が大空を照らす《七輪世界》。 “次元を隔てる海”を越えて無数に在る世界に科学と魔法が織り成す《次元世界》。 三つの世界に語り継がれる英雄伝説の輝きが失われる事を阻止せんが為、《楽園計画》を完遂すべくして、この《次元魔王》イノケント・リヒターオディンの名の下に多元並行宇宙中より集められた“勇士の軍団”なりッ!!」
「そして《黄昏の7³》の一輪である【ラダマンテュスリング】を所有する、この俺達七名が【次元魔王軍】最高幹部《七星勇士》──【蒼のラダマンテュスリング】を有する“蒼の勇士”、【緋のラダマンテュスリング】を有する“緋の勇士”、【紫のラダマンテュスリング】を有する“紫の勇士”、【銀のラダマンテュスリング】を有する“銀の勇士”、【金のラダマンテュスリング】を有する“金の勇士”、【黒のラダマンテュスリング】を有する“黒の勇士”。 そしてこの《灰氷の剣帝》ジークレオンが七星勇士筆頭にして【灰のラダマンテュスリング】を有する“灰の勇士”だ!」
「三つの世界に“勇気とキズナの光の伝説”を語り継ぐ若き英雄達の最強の敵として、我々【次元魔王軍】は立ち塞がろうッッ!!!」