ミッドチルダの首都クラナガンの上空を余すことなく埋め尽くした、反管理局軍ミッドナイトの主力航空艦隊……その他のどの艦よりも物々しい物量の兵器が艤装されていて、巨大で豪奢な威容を見せつけている銀色の次元航行母艦が一隻、玉座のようにデカイ顔をして艦隊の中心を陣取っている。
ミッドナイト軍、主力艦隊司令母艦──
その眼下で自軍の放った秘密兵器であるオーバル・モスカと機動六課の前線攻略部隊が熾烈な交戦を展開している中、突然艦隊の更に上空に出現し、空間を燃やす二つの“灰色の炎”──
「──ふははは。 まったく、相も変わらず早い仕事をするものだ。 さすがは我が片腕にして我が親友、と言ったところだな」
その様子をガラハッドの中央に高く聳え立つ
その男の存在感は冥府の深淵よりも底が知れず、とてもじゃないが人の枠組みには収まりきらない、超級の怪物と呼んでもまだまだ表現するには足りぬ、埒外の化物であった。 身から発せられる気質は他人が見るからに凶悪な性質だが、しかし其処に孕まれた色はいっその事逆に全くの無邪気な程に清々しく純粋無垢で、それが輪をかけて人に途轍もなく悍ましい印象を抱かせる。 真下では征く手に立ちはだかる強敵を相手に勇敢に立ち向かっている
「これで三つの英雄伝説が一つに交わる夢の物語に相応しい舞台は整った。 絆の軌跡を空へと紡ぐ若き英雄達よ、死ぬ気の覚悟を炎に灯すアサリ貝の家族達よ、数多の海と星々を守護せし魔法少女達よ、さあ今こそ集うがいい。 おまえ達が倒すべき“魔王”は此処にいるぞ」
「うぉぉぉおおっ、リボルバーキャノン!」
「ラケーテンハンマー、くらぇぇええええッ!!」
床面全体に発生した
まずオーバル・モスカの体勢を崩すべく相手の前後からスバルとヴィータによる同時挟撃が仕掛けられた。
空中に青く輝く光の道を敷く特殊移動魔法──《ウィングロード》を相手の正面に向けて伸ばして道を作り、その上を両足に履いたインラインスケート型デバイスの《マッハキャリバー》を転がして高速滑走し、右手に取り付けた武装籠手──《リボルバーナックル》の手首部分に取り付けられている
それと同時に、“鉄の伯爵”の名を表す歴戦の鉄槌の騎士の長年の相棒たる鉄の戦槌──《グラーフアイゼン》の長い柄を小さな両手に強く握り締めたヴィータがその片方のハンマーヘッドを推進剤噴射口に変形させた《ラケーテンフォルム》で、馬力の凄まじいロケット噴射を利用した
『……ピピピッ』
「「なに──ぐあぁぁっ!?」」
しかし、完全に相手の急所へ打ち込んだかに思えた二人の息を合わせた挟撃は打撃が届く前に両方共打ち払われて返り打ちにされてしまう。 スバルとヴィータがそれぞれの
まるで暴れ馬から振り落とされるかのように勢いよく横殴りにフッ飛ばされた二人はそれぞれ個別のウィングロード上へと叩き付けられる。 だがしかし、二人が行ったそのアクションは後続の攻撃に繋げる為の囮であった。
「「隙ありだ(です)ッッ!!」」
上半身プロペラ回転攻撃を行った事でその間に完全な無防備状態を晒したオーバル・モスカの頭上を、高速機動に定評のあるフェイトとエリオが亜音速移動魔法《ソニックムーヴ》で強襲する。 フェイトは己の身よりも巨大な光の
『ピピッ、防御不可能ト計測。 回避行動ヲ選択──畜炎式三次元推進機動装置、
スカッ!
──嘘っ!?
──この完璧な隙を狙ったタイミングで放った僕とフェイトさんの攻撃が……躱された?
不意打ちが決まらずに虚しく空を切った自分達の
そして更には──
『──相手ノ性能ニ対シ適切ナ効果ノ
「うっ……これ……は……ッ!?」
「身体の動きが……鈍……く……」
攻撃を外してもめげずに自慢の高速機動を使って追撃を試みようとしたフェイトとエリオを対象にオーバル・モスカの妨害系
──まず……い。 このまま……じゃ……。
「させるものか──ッ!」
動きを鈍くされたフェイトとエリオに向かって四つの推進装置を全開で吹かし、全速馬力の飛翔突進を仕掛けて来るオーバル・モスカ。 だが、その両者の間に割って入って来たシグナムが手に携えたレヴァンティンで、オーバル・モスカの突進を受け止め、身動きを封じられた二人への攻撃を阻止する。 シグナムは背中の二人を同時に穿つ為に突き出されていたオーバル・モスカの両鉄拳に加乗された相手の推進馬力と何
「高町、ティアナ、キャロ、今が好機だ──ッ!!」
オーバル・モスカの突進を止めた状態のままシグナムが、自分から見て左方に飛翔し展開していたなのはと、丁度逆側の右方に敷かれたウィングロード上に構えていたティアナ、そして真上で立派な大人の竜へと《竜召喚魔法》を使用して変身させたフリードリヒの背中に騎乗しているキャロに、自分が敵を抑えている隙に遠距離から一斉攻撃を撃ち込めと叫んで促した。
≪白銀の飛竜≫──フリードリヒ
「ギャォォオオオオオッーーー!」
「フリード、お願い! ブラストレイーーーッ!!」
『ティアナ、合わせるよ!』
『了解ッ!』
「「クロスファイヤー──シューーーーート!」」
真上よりはフリードの口から吐き出された巨大な炎の
敵に回避の隙は与えない。 この四人と一匹のコンビネーション攻撃ならば今度こそ──
『──ピピッ、三方向カラノ魔法攻撃ニ対応。
そう誰もが疑わなかったが、
「グギュッ!?」
「「「きゃぁぁあああぁあああーーーーッ!!」」」
「高町! ティアナ! キャロとフリードまでも、そんな馬鹿なッ!! 三方向から放たれて来たAAランクの魔法を同時に跳ね返す程の強力な魔法反射効果を持つ防御結界を、こんなにいとも容易く──なっ!!?」
クレセントミラーで反射された自ら放った魔法攻撃が直撃し、成す術無くダメージを被って苦鳴を響かせた三人と一匹を傍目にしてシグナムが目の当りにしたその結果に信じ難い驚愕を露わにする。 攻撃反射効果を持たせた防御結界魔法を構築するのは高位の魔導師でも容易ではない。 況してやAAランク以上の威力がある強力な魔法を三つ同時に受けて難なく反射できるような強度と性能の高い結界を高速で展開するなど、もはや
「しまっ──」
泡を食った声を上げる間も無く、眼前に突き付けられた十門の砲口から『ゴォォォオオオーーーッ!』という凄まじい轟音を鳴らして膨大な熱量を孕んだ赤色の火炎放射が放出される。
シグナムはなのはの堅牢なラウンドシールドをも
『ピピピッ、敵ユニット《烈火ノ将》撃墜ヲ確認。 敵性戦力、残リ七人。 広範囲殲滅ニ移行』
シグナムがやられたのを見て気を動転させる暇もなく、マークを剥がして自由になったオーバル・モスカが上半身を回転させて両手の指砲を全方位に散っている機動六課前線攻略部隊残りの七人全員へ無差別に乱射してくる。 何もかもを
「う、うぁぁああああーーーッ」
「くっ、容赦がない……」
堪らず無差別に降り注ぐ“赤い炎”の雨から逃げ惑うなのは達。 しかし更には敵の殲滅行動はこれだけにとどまらず──
『──ピピッ、攻撃
「ちょっと、嘘でしょうッ!?」
『
オーバル・モスカはあろう事か“赤い炎”の弾丸全方位乱射を行いながらも同時に広範囲殲滅系の
「ふぇぇえええええっ!?」
「こんなのって、ありぃぃーーーっ!?」
「ふざけんなクソッタレェェエエエーーーッ!!」
「逃げろぉぉぉぉおおおおーーーっ!!」
数に物を言わせて広範囲を埋め尽くすように殺到して来る“赤い炎”の雨と、規則的に列を引いて疎らの集中箇所を引き裂くように飛んで来る白銀のレーザー光線。 それ等が空中全体を無差別容赦無く蹂躙し尽くし、地上の都市に降り注いでは街並みを破壊していく光景は、先のゆりかご決戦以上の大空襲かと思わせる程に凄惨であった。 空にも地上にも逃げ場など無く、これには百戦錬磨の魔導師であるなのは達も情けない悲鳴や汚い悪態を叫び散らして、容赦なく殺到してくる弾幕の隙間を必死に縫って逃げ惑うしかなかった。
「なのはさん! このままじゃヤバイですよ!!」
「うん、わかってるよスバル。 いい加減、此処で全員足止めを食っていたら作戦が台無しになっちゃうし、何か打開策を……」
しかし、敵の無差別全方位攻撃は止まる事を知らずに継続され、まるで手が付けられない。 時間を掛ければ掛ける程、電撃作戦の成功率は下がっていく。
「シグナムさん!?」
「高町! テスタロッサ! FW達を連れて先に行け! 此奴の相手は私とヴィータだけで十分だ!!」
地獄の底から舞い戻って来てオーバル・モスカと再び至近距離の迫り合いに持ち込みながら、シグナムは全身の酷い火傷を気にも止めない鬼気迫る瞳で腹の底から声を張り上げ、ここは副隊長である自分とヴィータに任せて先に行けと、呆気に取られている隊長二人へ指示を飛ばす。 しかしなのはは「で、でも……」と言い淀んで行動を躊躇する。 確かに電撃作戦の定石として、この難局を切り抜けるには誰か少数に撃破困難な難敵を抑えさせて目標へ急いだ方が妥当だというのは彼女も歴十年のベテラン魔導師として百も理解しているが、敵は未知の異世界の力を使用してくる強敵であるが故にたった二人だけに相手をさせて残して先に行くのは、とても心配でどうにも不安が拭えないのだった。 故に彼女を後押しするようにしてヴィータも飛び出して行き、シグナムと共にオーバル・モスカの動きを抑えだしながら、なのはへ必死の形相で告げる。
「いいから、とっとと行けよ! アタシとシグナムなら心配要らねーよ。 単騎無双の古代ベルカの騎士をなめんなよな!」
「そういう訳だ。 我らも此奴の事を片付けたら直ぐにお前達を追う。 故にテスタロッサ、高町とFW達の面倒は任せたぞ!」
「シグナム……うん、分かった。 任せて!」
フェイトはシグナムからの激励に力強く応えると、身に纏っている黒い軍服調のバリアジャケットをパージして防御力を犠牲にし超高速機動に特化した《真ソニックフォーム》になる。 彼女の瑞々しくスラリとした細身でありながらも扇情的に豊満の美極まった肢体の曲線と白い肌を丸々と曝け出した際どいレオタードに近い薄地姿になる為、
「なのは、それとみんな! 私が先陣を切って上空に浮かぶ《ガラハッド》への道を切り拓くから、急いで後を着いて来て!!」
「あっ、ちょっとフェイトさん!?」
フェイトはなのはとFW陣にそう伝えると、ティアナから呼び掛けられた制止を聞かず、オーバル・モスカに先征く仲間達の後を追撃させまいとして奮闘する女騎士二人を背にし、上空真上に待ち構えるミッドナイト軍主力艦隊の司令母艦ガラハッドヘと向けて、自身の持つ二つ名の通り
「そこをどけぇぇええええええええーーーーーッ!!」
そう吼え猛りながら司令母艦へと猛スピードで迫り来る美しき金髪紅眼の死神の接近に気付き、母艦の周囲を守り固めて遊弋していた飛行機能を備える機械兵器達が飛んで火にいる夏の虫が来たと言わんばかりに敵空戦魔導師を迎撃せんとして、大群でわらわらと彼女へ向かって殺到して行く。 しかし鈍足で飛行する戦闘ドローンや戦闘機ヘリの形を取った敵機械兵器達なぞ、マッハ1の音速で飛翔できる真ソニックフォームのフェイトにとっては取るに足らない雑兵に過ぎない。 行く手を阻むようにして眼前広くにバラ撒かれて来る導力機関砲やドンキーミサイルなどが入り混じる弾幕の嵐を物ともせずに突っ切り、道往く壁となって立ちはだかる飛行機械兵器の隊列を超高速で擦れ違う度に
そうやって幾らか機械兵器群の波を斬り払って行き、やがて敵防衛線の層が薄くなった箇所の隙間から敵軍主力艦隊の司令母艦であるガラハッドの荘厳な銀色の外観が見えてきた。
「もう少しで……っ!!?」
最終防衛線も無事に突破し、ガラハッドの船底が視界に近付いたあと一息のところで、フェイトは唐突に身体に凄まじい重荷が掛けられた感覚を感じ取り、急速に速度を低下させた……否、正確には
「しま……った。 また……ッ!!」
真ソニックフォームの音速機動を封じられたフェイトは先程のオーバル・モスカに続いてまたしても同じ
「く……そ……っ!!」
真ソニックフォームの装甲は音速の機動力の犠牲にしているが故に、近距離の収束砲なんて受けたら即蒸発は必至だった。 クロノブレイクに掛けられて機動力を極限に低下させられた所為でフェイトは逃げる事が出来ず、抵抗虚しく敵隊長機の
「──させない! レイジングハート、A・C・Sドライバー!!」
『
間一髪で追い付いて来たなのはが両手に握った自身の
「はぁぁあああああッ! エクセリオンバスタァァァアアアアアーーーーッッ!!!」
そしてそれだけにとどまらず、なのはは裂帛の気合いで導力砲に突き刺したレイジングハートをペイルアパッシュ本体にまで届かせるように豪快に抉り込んで突き上げると、そのまま続けて零距離の高火力砲撃魔法をブッ放ち、敵の巨大な機体にエグイ大孔を貫通させ、ペイルアパッシュを鉄の藻屑に変えた。
「はぁっ! はぁっ! ぜぇ、ぜぇ……ふぅぅ」
「なのは……ゴメン、助かったよ」
「気にしないで、フェイトちゃんが無事ならそれでよかった……えへへ」
「……」
そんな時、群に指令を出していた隊長機が撃墜された事で統率力を失った敵機械兵器群最終防衛線をようやく抜けたスバル達FW陣の四人と一匹が、後方から伸延されて来て目先に在るガラハッドの甲板上へと橋架けられたスバルのウィングロードや成長飛竜形態のフリードに乗って追い駆けて来る。
「なのはさん!」
「フェイトさんも、隊長二人だけで無茶しないで下さい!」
「確かにまだまだ僕等は未熟ですけれど、もう隊長達の足を引っ張るだけの頼りにならない新人の立場でいるつもりはありません!」
「わたし達だってお役に立ちたいんです。 危ない時はもっとわたし達FWを頼ってください!」
「キュォォオン!」
追い付いたスバル達はまず、自分達を置いて無茶に先走って行った隊長二人に対してカンカンに怒った表情を向けて全員で叱り飛ばしてきた。 上官に対して無礼千万な部下達の物言いだったが、その文句に含まれる彼女達の真剣な想いが感じられてくる。
「……ぁ……」
「……うん、そうだったね。 なのはの事は言えず、私も随分と焦ってたみたい。 悪かったよ、みんな……」
部下達からの厚い信頼を叱責と共に受け取った隊長二人は自分達の失態を認めて素直に謝罪し、なのはは自分が育ててきた教え子達の頼もしい成長をしみじみと感じながら、気を取り直して目先に浮かんでいる敵軍司令母艦を見据えた。
「コホンッ! それじゃあ、いよいよ目標の確保に乗り込むよ! みんな、力を貸してね!」
「「「「「「はい(うん)(キュク)ッ!!」」」」」」