英雄伝説リリカルREBORN! 炎の軌跡   作:蒼空の魔導書

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ここから主人公二人(リィンとツナ)の初登場シーンまで長々と三万字以上も掛かってしまいましたので、本日三話に分けて連続更新いたします。




黄昏の空に翔け昇る戦乙女達

ミッドチルダの首都クラナガンの上空を余すことなく埋め尽くした、反管理局軍ミッドナイトの主力航空艦隊……その他のどの艦よりも物々しい物量の兵器が艤装されていて、巨大で豪奢な威容を見せつけている銀色の次元航行母艦が一隻、玉座のようにデカイ顔をして艦隊の中心を陣取っている。

 

 

ミッドナイト軍、主力艦隊司令母艦──SR(シスターレイ)級次元航行魔導空母≪ガラハッド≫

 

 

その眼下で自軍の放った秘密兵器であるオーバル・モスカと機動六課の前線攻略部隊が熾烈な交戦を展開している中、突然艦隊の更に上空に出現し、空間を燃やす二つの“灰色の炎”──

 

「──ふははは。 まったく、相も変わらず早い仕事をするものだ。 さすがは我が片腕にして我が親友、と言ったところだな」

 

その様子をガラハッドの中央に高く聳え立つ艦橋(ブリッジ)の屋根から見上げ、店のショーウィンドゥに飾られた大人気の玩具を眺める子供のようにワクワクと無邪気に、だが純粋故に人が見れば凶悪極まったニヒルな嗤いを浮かべている男の影がそこに在った。

 

その男の存在感は冥府の深淵よりも底が知れず、とてもじゃないが人の枠組みには収まりきらない、超級の怪物と呼んでもまだまだ表現するには足りぬ、埒外の化物であった。 身から発せられる気質は他人が見るからに凶悪な性質だが、しかし其処に孕まれた色はいっその事逆に全くの無邪気な程に清々しく純粋無垢で、それが輪をかけて人に途轍もなく悍ましい印象を抱かせる。 真下では征く手に立ちはだかる強敵を相手に勇敢に立ち向かっている次元(この)世界の英雄である魔法少女達。 遥か真上では一切の音を立てず不気味に粛々と、しかし【異次元にまで突き抜けて孔を空けてしまいかねない勢い】で煌々と燃え盛り、何かの到来を予感させる不可思議な“灰色の炎”。 尊き英雄伝説が魅せる輝き(ヒカリ)に焦がれ切った眼光でそれ等の光景を交互に見つめて、彼は今宵に始まる新たなる英雄伝説が幕を開けるその時を、今か今かと楽しみにする小童のような笑みを浮かべて待っている。

 

「これで三つの英雄伝説が一つに交わる夢の物語に相応しい舞台は整った。 絆の軌跡を空へと紡ぐ若き英雄達よ、死ぬ気の覚悟を炎に灯すアサリ貝の家族達よ、数多の海と星々を守護せし魔法少女達よ、さあ今こそ集うがいい。 おまえ達が倒すべき“魔王”は此処にいるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぉぉおおっ、リボルバーキャノン!」

 

「ラケーテンハンマー、くらぇぇええええッ!!」

 

床面全体に発生した超高圧水流の渦(ブルーアセンション)に巻き込まれてミキサーにされる前に、全員咄嗟に危険を察知して八人それぞれが持つ飛翔方法を使い、地上本部屋上ヘリポートから空中へと逃れる。 オーバル・モスカの面制圧攻撃範囲から緊急回避する事に間一髪成功したなのは達は、そのまま連携を組んで反撃へ出た。

 

まずオーバル・モスカの体勢を崩すべく相手の前後からスバルとヴィータによる同時挟撃が仕掛けられた。

 

空中に青く輝く光の道を敷く特殊移動魔法──《ウィングロード》を相手の正面に向けて伸ばして道を作り、その上を両足に履いたインラインスケート型デバイスの《マッハキャリバー》を転がして高速滑走し、右手に取り付けた武装籠手──《リボルバーナックル》の手首部分に取り付けられている瞬間魔力増幅回転弾倉(リボルバー式カートリッジ)を超速回転させてそれを全力で振り被り、馬鹿正直一直線に敵の正面へ突貫。

 

それと同時に、“鉄の伯爵”の名を表す歴戦の鉄槌の騎士の長年の相棒たる鉄の戦槌──《グラーフアイゼン》の長い柄を小さな両手に強く握り締めたヴィータがその片方のハンマーヘッドを推進剤噴射口に変形させた《ラケーテンフォルム》で、馬力の凄まじいロケット噴射を利用した垂直上昇機動(ヴァーチカルブースト)を敢行。 物凄い速度であっと言う間に敵の背後を取り、向こう側からスバルが突撃して来るタイミングに合わせて、自らの小さな身体を軸にロケット推進で大回転させる事で生み出した強力な遠心力を勢いに乗せたグラーフアイゼンのハンマーヘッドを、敵の背中に背負う飛行推進装置へとド派手に叩き付ける。

 

『……ピピピッ』

 

「「なに──ぐあぁぁっ!?」」

 

しかし、完全に相手の急所へ打ち込んだかに思えた二人の息を合わせた挟撃は打撃が届く前に両方共打ち払われて返り打ちにされてしまう。 スバルとヴィータがそれぞれの得物(デバイス)を振り被って前後より懐に突撃して来た瞬間、オーバル・モスカは胴部分を高速スライド回転させて丸太のように太い鋼鉄の両腕を横に広げながらプロペラのように上半身を回し、向かって来た二人を弾き飛ばしたのだ。

 

まるで暴れ馬から振り落とされるかのように勢いよく横殴りにフッ飛ばされた二人はそれぞれ個別のウィングロード上へと叩き付けられる。 だがしかし、二人が行ったそのアクションは後続の攻撃に繋げる為の囮であった。

 

「「隙ありだ(です)ッッ!!」」

 

上半身プロペラ回転攻撃を行った事でその間に完全な無防備状態を晒したオーバル・モスカの頭上を、高速機動に定評のあるフェイトとエリオが亜音速移動魔法《ソニックムーヴ》で強襲する。 フェイトは己の身よりも巨大な光の鉤鎌(ハーケン)を大根斬りの要領で大上段から振り下ろし、エリオは柄から魔力推進噴射を複数吹かせた槍──《ストラーダ》を突き出して、二人は文字通り稲妻の如く敵の頭上へと轟音を響かせて、さっきの仕返しと言わんばかりの不意打ちを落とした……が──

 

『ピピッ、防御不可能ト計測。 回避行動ヲ選択──畜炎式三次元推進機動装置、緊急放射(ブーストファイア)!』

 

スカッ!

 

──嘘っ!?

 

──この完璧な隙を狙ったタイミングで放った僕とフェイトさんの攻撃が……躱された?

 

不意打ちが決まらずに虚しく空を切った自分達の得物(デバイス)にフェイトとエリオは唖然と目を疑った。 なんとオーバル・モスカは敢えて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という高等回避法を使い、高速機動自慢の二人の不意打ちを躱したのだった。

 

そして更には──

 

『──相手ノ性能ニ対シ適切ナ効果ノ導力魔法(アーツ)ヲ選択……詠唱駆動(ドライブ)開始──《クロノブレイク》!』

 

「うっ……これ……は……ッ!?」

 

「身体の動きが……鈍……く……」

 

攻撃を外してもめげずに自慢の高速機動を使って追撃を試みようとしたフェイトとエリオを対象にオーバル・モスカの妨害系導力魔法(アーツ)が掛けられる。 移動速力を大幅に下げられてしまった二人は自慢の機動力を封じられ、その場に立ち往生を曝す事となった。 それによって逆に相手への絶好の隙を見せてしまった二人の頭上に向けて、今度はオーバル・モスカの方から流星落撃を仕掛けに飛んで来る。

 

──まず……い。 このまま……じゃ……。

 

「させるものか──ッ!」

 

動きを鈍くされたフェイトとエリオに向かって四つの推進装置を全開で吹かし、全速馬力の飛翔突進を仕掛けて来るオーバル・モスカ。 だが、その両者の間に割って入って来たシグナムが手に携えたレヴァンティンで、オーバル・モスカの突進を受け止め、身動きを封じられた二人への攻撃を阻止する。 シグナムは背中の二人を同時に穿つ為に突き出されていたオーバル・モスカの両鉄拳に加乗された相手の推進馬力と何t(トン)級もの超重量という、大型旅客飛行機に激突されるに等しい衝撃威力を女性の身一つで受けた事で、その瞬間に全身を粉々に粉砕されそうな破壊力が乗った反動に襲われるものの、全身に施した魔法筋力強化と身に齎される衝撃を空気中へと逃がす達人の防御姿勢、そして《ヴォルケンリッター》と呼ばれる誇り高き守護騎士団の将として仲間を守るという信念を極限まで振り絞り、どうにか弾き飛ばされる直前ギリギリで堪えて踏み止まる事ができた。

 

「高町、ティアナ、キャロ、今が好機だ──ッ!!」

 

オーバル・モスカの突進を止めた状態のままシグナムが、自分から見て左方に飛翔し展開していたなのはと、丁度逆側の右方に敷かれたウィングロード上に構えていたティアナ、そして真上で立派な大人の竜へと《竜召喚魔法》を使用して変身させたフリードリヒの背中に騎乗しているキャロに、自分が敵を抑えている隙に遠距離から一斉攻撃を撃ち込めと叫んで促した。

 

 

≪白銀の飛竜≫──フリードリヒ

 

 

「ギャォォオオオオオッーーー!」

 

「フリード、お願い! ブラストレイーーーッ!!」

 

『ティアナ、合わせるよ!』

 

『了解ッ!』

 

「「クロスファイヤー──シューーーーート!」」

 

真上よりはフリードの口から吐き出された巨大な炎の息吹(ブレス)。 左右よりはなのはとティアナが念話で息を合わせて撃ち放った六発ずつの魔弾。 シグナムと押し合う形でその場に足止められているオーバル・モスカへ、三方から強力な遠距離攻撃魔法が殺到して来る。 シグナムはこのままいけば自分も巻き添えを受けるかもしれない危険な位置に居るにも係わらず、仲間を信頼しているが為にその場で微動だにせず敵の動きを抑え続けている。

 

敵に回避の隙は与えない。 この四人と一匹のコンビネーション攻撃ならば今度こそ──

 

『──ピピッ、三方向カラノ魔法攻撃ニ対応。 導力魔法(アーツ)ヲ選択……詠唱駆動(ドライブ)開始──《クレセントミラー》!』

 

そう誰もが疑わなかったが、魔法戦闘(彼女達の世界の戦い)の定石など異世界の異端技術(チカラ)の前にはまるっきり通用しなかった。 三方向のなのは達が遠距離攻撃を撃ち放った途端にオーバル・モスカが導力魔法(アーツ)を使用。 高速詠唱駆動でほぼ一秒経たせずに詠唱を完了させ、己の周囲に展開した銀色の術式を発動させると同時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、その領域へ三方向から同時に衝突したなのは達の遠距離攻撃魔法が、それ等全て瞬く間に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだった。

 

「グギュッ!?」

 

「「「きゃぁぁあああぁあああーーーーッ!!」」」

 

「高町! ティアナ! キャロとフリードまでも、そんな馬鹿なッ!! 三方向から放たれて来たAAランクの魔法を同時に跳ね返す程の強力な魔法反射効果を持つ防御結界を、こんなにいとも容易く──なっ!!?」

 

クレセントミラーで反射された自ら放った魔法攻撃が直撃し、成す術無くダメージを被って苦鳴を響かせた三人と一匹を傍目にしてシグナムが目の当りにしたその結果に信じ難い驚愕を露わにする。 攻撃反射効果を持たせた防御結界魔法を構築するのは高位の魔導師でも容易ではない。 況してやAAランク以上の威力がある強力な魔法を三つ同時に受けて難なく反射できるような強度と性能の高い結界を高速で展開するなど、もはや特殊技能(レアスキル)の域だ。 そう驚く間も無しに、気が付くと愛剣(レヴァンティン)で受け止めて迫り合いしていた、シグナムの身の丈よりも巨大なオーバル・モスカの大岩並大の両拳が何時の間にか開いていて、大砲の筒のような五対十本の指先に空いた砲口が零距離でシグナムに突き付けられていたのだった。

 

「しまっ──」

 

泡を食った声を上げる間も無く、眼前に突き付けられた十門の砲口から『ゴォォォオオオーーーッ!』という凄まじい轟音を鳴らして膨大な熱量を孕んだ赤色の火炎放射が放出される。

 

シグナムはなのはの堅牢なラウンドシールドをも()()してしまう程に強力なオーバル・モスカの“赤い炎”の波動によって問答無用に零距離で飲み込まれ、そのまま炎の奔流と共に真下の地上本部屋上ヘリポートを貫通。 地上本部本棟の階層を幾つもブチ抜破る破砕音が鳴り続けて二秒後、空を揺るがす程の爆発音が響いてきた。

 

『ピピピッ、敵ユニット《烈火ノ将》撃墜ヲ確認。 敵性戦力、残リ七人。 広範囲殲滅ニ移行』

 

シグナムがやられたのを見て気を動転させる暇もなく、マークを剥がして自由になったオーバル・モスカが上半身を回転させて両手の指砲を全方位に散っている機動六課前線攻略部隊残りの七人全員へ無差別に乱射してくる。 何もかもを()()する“赤い炎”の弾丸。 それが無数に矢継ぎ早に雨霰の如く、首都クラナガンの空を縦横無尽に飛び散っては降り注いでいく。

 

「う、うぁぁああああーーーッ」

 

「くっ、容赦がない……」

 

堪らず無差別に降り注ぐ“赤い炎”の雨から逃げ惑うなのは達。 しかし更には敵の殲滅行動はこれだけにとどまらず──

 

『──ピピッ、攻撃導力魔法(アーツ)選択……詠唱駆動(ドライブ)開始!』

 

「ちょっと、嘘でしょうッ!?」

 

詠唱完了(ドライブ・オールグリーン)──《ガリオンフォート》!!』

 

オーバル・モスカはあろう事か“赤い炎”の弾丸全方位乱射を行いながらも同時に広範囲殲滅系の導力魔法(アーツ)まで使用してきた。 詠唱を完了させて銀色の術式を発動させた直後に使用者の頭上に銀色の魔法陣が展開され、そこからどういう訳か巨大な砲台塔が生えて伸びるように顕現する。 それが高々に聳え立った直後、塔の側面全方位に備え付けられた砲筒が一斉に作動して白銀のレーザー光線が無差別にブッ放されてくる。

 

「ふぇぇえええええっ!?」

 

「こんなのって、ありぃぃーーーっ!?」

 

「ふざけんなクソッタレェェエエエーーーッ!!」

 

「逃げろぉぉぉぉおおおおーーーっ!!」

 

数に物を言わせて広範囲を埋め尽くすように殺到して来る“赤い炎”の雨と、規則的に列を引いて疎らの集中箇所を引き裂くように飛んで来る白銀のレーザー光線。 それ等が空中全体を無差別容赦無く蹂躙し尽くし、地上の都市に降り注いでは街並みを破壊していく光景は、先のゆりかご決戦以上の大空襲かと思わせる程に凄惨であった。 空にも地上にも逃げ場など無く、これには百戦錬磨の魔導師であるなのは達も情けない悲鳴や汚い悪態を叫び散らして、容赦なく殺到してくる弾幕の隙間を必死に縫って逃げ惑うしかなかった。

 

「なのはさん! このままじゃヤバイですよ!!」

 

「うん、わかってるよスバル。 いい加減、此処で全員足止めを食っていたら作戦が台無しになっちゃうし、何か打開策を……」

 

しかし、敵の無差別全方位攻撃は止まる事を知らずに継続され、まるで手が付けられない。 時間を掛ければ掛ける程、電撃作戦の成功率は下がっていく。 並列思考(マルチタスク)を使って回避行動を取りながら打開策を練ろうとしても一向に良い名案が浮かばない。 いよいよ全員疲労が蓄積して集中力を使い果たし、根を上げそうになったその時、真下の地上本部屋上ヘリポートに先程の火炎砲撃で撃ち空けられた大孔の奥から轟々と炎の柱が立ち昇って天を突いた。 その中から飛び出してきた全身焼け焦げの女騎士が、空を蹂躙する弾幕を物ともせず被弾を浴びながら勇猛果敢に突っ切り、オーバル・モスカの回転無差別攻撃を炎の剣で止めた。

 

「シグナムさん!?」

 

「高町! テスタロッサ! FW達を連れて先に行け! 此奴の相手は私とヴィータだけで十分だ!!」

 

地獄の底から舞い戻って来てオーバル・モスカと再び至近距離の迫り合いに持ち込みながら、シグナムは全身の酷い火傷を気にも止めない鬼気迫る瞳で腹の底から声を張り上げ、ここは副隊長である自分とヴィータに任せて先に行けと、呆気に取られている隊長二人へ指示を飛ばす。 しかしなのはは「で、でも……」と言い淀んで行動を躊躇する。 確かに電撃作戦の定石として、この難局を切り抜けるには誰か少数に撃破困難な難敵を抑えさせて目標へ急いだ方が妥当だというのは彼女も歴十年のベテラン魔導師として百も理解しているが、敵は未知の異世界の力を使用してくる強敵であるが故にたった二人だけに相手をさせて残して先に行くのは、とても心配でどうにも不安が拭えないのだった。 故に彼女を後押しするようにしてヴィータも飛び出して行き、シグナムと共にオーバル・モスカの動きを抑えだしながら、なのはへ必死の形相で告げる。

 

「いいから、とっとと行けよ! アタシとシグナムなら心配要らねーよ。 単騎無双の古代ベルカの騎士をなめんなよな!」

 

「そういう訳だ。 我らも此奴の事を片付けたら直ぐにお前達を追う。 故にテスタロッサ、高町とFW達の面倒は任せたぞ!」

 

「シグナム……うん、分かった。 任せて!」

 

フェイトはシグナムからの激励に力強く応えると、身に纏っている黒い軍服調のバリアジャケットをパージして防御力を犠牲にし超高速機動に特化した《真ソニックフォーム》になる。 彼女の瑞々しくスラリとした細身でありながらも扇情的に豊満の美極まった肢体の曲線と白い肌を丸々と曝け出した際どいレオタードに近い薄地姿になる為、人目に毒極まりない(けしからん)格好ではあるが、先陣を切り拓くのには最適な戦闘形態(フォーム)である。

 

「なのは、それとみんな! 私が先陣を切って上空に浮かぶ《ガラハッド》への道を切り拓くから、急いで後を着いて来て!!」

 

「あっ、ちょっとフェイトさん!?」

 

フェイトはなのはとFW陣にそう伝えると、ティアナから呼び掛けられた制止を聞かず、オーバル・モスカに先征く仲間達の後を追撃させまいとして奮闘する女騎士二人を背にし、上空真上に待ち構えるミッドナイト軍主力艦隊の司令母艦ガラハッドヘと向けて、自身の持つ二つ名の通り()()()()()と為って飛翔して行く。 先程敵によって彼女の身体に掛けられていたクロノブレイクは少し前に時間経過による効力消滅によって既に自然解除されているので、今なら万全に彼女の全速力が出せる。

 

「そこをどけぇぇええええええええーーーーーッ!!」

 

そう吼え猛りながら司令母艦へと猛スピードで迫り来る美しき金髪紅眼の死神の接近に気付き、母艦の周囲を守り固めて遊弋していた飛行機能を備える機械兵器達が飛んで火にいる夏の虫が来たと言わんばかりに敵空戦魔導師を迎撃せんとして、大群でわらわらと彼女へ向かって殺到して行く。 しかし鈍足で飛行する戦闘ドローンや戦闘機ヘリの形を取った敵機械兵器達なぞ、マッハ1の音速で飛翔できる真ソニックフォームのフェイトにとっては取るに足らない雑兵に過ぎない。 行く手を阻むようにして眼前広くにバラ撒かれて来る導力機関砲やドンキーミサイルなどが入り混じる弾幕の嵐を物ともせずに突っ切り、道往く壁となって立ちはだかる飛行機械兵器の隊列を超高速で擦れ違う度に光の双大剣(ライオットザンバー・スティンガー)を振るう事であっと言う間も無しに切り裂いて次々と墜とし、背中を狙って放たれて来る攻撃導力魔法(アーツ)の群れを容易く離し振り切って、自分の背中に続いて追って来る親友と部下達が通る道を文字通り雷光の奔るが如くに切り拓いていく。

 

そうやって幾らか機械兵器群の波を斬り払って行き、やがて敵防衛線の層が薄くなった箇所の隙間から敵軍主力艦隊の司令母艦であるガラハッドの荘厳な銀色の外観が見えてきた。

 

「もう少しで……っ!!?」

 

最終防衛線も無事に突破し、ガラハッドの船底が視界に近付いたあと一息のところで、フェイトは唐突に身体に凄まじい重荷が掛けられた感覚を感じ取り、急速に速度を低下させた……否、正確には()()()()()()()()()()()()()()のだ、敵の最終防衛線を指揮している隊長戦闘無人機の《ペイルアパッシュ》が防衛線を突破しそうになった彼女を妨害するべくして仕向けた《クロノブレイク》によって……。

 

「しま……った。 また……ッ!!」

 

真ソニックフォームの音速機動を封じられたフェイトは先程のオーバル・モスカに続いてまたしても同じ導力魔法(アーツ)によってしてやられてしまった自分の迂闊さに、遅延された表情をぎこちなく動かして苦虫を噛み潰す。 すると今度は彼女の動きを封じた隙に回り込んで来たペイルアパッシュが導力エネルギー砲(オーバルキャノン)の照準を彼女へと間近で向けてエネルギーを収束(チャージ)し始める。

 

「く……そ……っ!!」

 

真ソニックフォームの装甲は音速の機動力の犠牲にしているが故に、近距離の収束砲なんて受けたら即蒸発は必至だった。 クロノブレイクに掛けられて機動力を極限に低下させられた所為でフェイトは逃げる事が出来ず、抵抗虚しく敵隊長機の収束(チャージ)が完了してしまい、もう駄目かと諦めかけて強く眼を閉じた、その瞬間──

 

「──させない! レイジングハート、A・C・Sドライバー!!」

 

突撃(チャージ)!』

 

間一髪で追い付いて来たなのはが両手に握った自身の愛機(デバイス)である槍杖──《レイジングハート》の黄金の穂に膨大な魔力を溜めて、それを桜色の両翼状に広げた光の突騎槍(ランス)へと変貌させて巨大化した穂先を自らの正面へ翳し、放たれた矢のように大気を真っ直ぐと貫いて、フェイトの真横をすり抜けて、今まさに解き放たれようとしていたペイルアパッシュの下部に垂れ下がる導力砲を深々と刺し穿ち、それによって導力砲から飛び出かけていた膨大なエネルギーが内に押し止められて行き場を失った事で導力砲が暴発して発射が不発に終わり、フェイトの窮地は救われた。

 

「はぁぁあああああッ! エクセリオンバスタァァァアアアアアーーーーッッ!!!」

 

そしてそれだけにとどまらず、なのはは裂帛の気合いで導力砲に突き刺したレイジングハートをペイルアパッシュ本体にまで届かせるように豪快に抉り込んで突き上げると、そのまま続けて零距離の高火力砲撃魔法をブッ放ち、敵の巨大な機体にエグイ大孔を貫通させ、ペイルアパッシュを鉄の藻屑に変えた。 上部の回転翼(ローター)を塵にして突き破った桜色の極太光線がグーンと伸びて、目先に在ったガラハッドの飛行甲板側部へとそのまま直撃して大きな爆発を起こすが、銀色の装甲には僅かな傷しか付いておらず、敵軍司令母艦の堅牢高さが窺えた。 どうやら魔導師個人の魔法で撃墜する事は難しそうだ。

 

「はぁっ! はぁっ! ぜぇ、ぜぇ……ふぅぅ」

 

「なのは……ゴメン、助かったよ」

 

「気にしないで、フェイトちゃんが無事ならそれでよかった……えへへ」

 

「……」

 

最優の魔導師(エース・オブ・エース)の二つ名が伊達ではない事を十分に示す猛威と火力を発揮し瞬く間に大型の敵隊長機を撃破してみせたなのはだったが、先程ティアナを庇った事に引き続き、病み上がりの身体で短時間の内に連続で無茶な仲間への庇護行動を取った負担が重なって、肩の息が尋常ではない様子だった。 撃墜される寸前の所を助けてもらった手前なのでフェイトは正直になのはへ礼を述べるが、自身の油断の所為で健康不全の親友の身体に無理な負担を掛けた事に大変申し訳ない負い目を含み、伝えた礼に対して振り向いた親友の明らかに無理を隠せていない下手な気遣いと笑顔を向けられて、彼女は口を噤んで内心自罰した。

 

そんな時、群に指令を出していた隊長機が撃墜された事で統率力を失った敵機械兵器群最終防衛線をようやく抜けたスバル達FW陣の四人と一匹が、後方から伸延されて来て目先に在るガラハッドの甲板上へと橋架けられたスバルのウィングロードや成長飛竜形態のフリードに乗って追い駆けて来る。

 

「なのはさん!」

 

「フェイトさんも、隊長二人だけで無茶しないで下さい!」

 

「確かにまだまだ僕等は未熟ですけれど、もう隊長達の足を引っ張るだけの頼りにならない新人の立場でいるつもりはありません!」

 

「わたし達だってお役に立ちたいんです。 危ない時はもっとわたし達FWを頼ってください!」

 

「キュォォオン!」

 

追い付いたスバル達はまず、自分達を置いて無茶に先走って行った隊長二人に対してカンカンに怒った表情を向けて全員で叱り飛ばしてきた。 上官に対して無礼千万な部下達の物言いだったが、その文句に含まれる彼女達の真剣な想いが感じられてくる。

 

「……ぁ……」

 

「……うん、そうだったね。 なのはの事は言えず、私も随分と焦ってたみたい。 悪かったよ、みんな……」

 

部下達からの厚い信頼を叱責と共に受け取った隊長二人は自分達の失態を認めて素直に謝罪し、なのはは自分が育ててきた教え子達の頼もしい成長をしみじみと感じながら、気を取り直して目先に浮かんでいる敵軍司令母艦を見据えた。

 

「コホンッ! それじゃあ、いよいよ目標の確保に乗り込むよ! みんな、力を貸してね!」

 

「「「「「「はい(うん)(キュク)ッ!!」」」」」」

 

 

 

 

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