「ぁ……ああ……」
燃え盛る橙色の炎に包まれてその岩山の如き巨体を崩しゆく《紫焔大将軍》スクルドと、それを背にして並び立ち勝鬨を上げた異世界の英雄の二人の雄姿を目の当たりに、次元世界の英雄は唖然と大きな目を見開き言葉を失う程に圧倒された。
──凄い……リィン君とツナ君……二人共、凄すぎる……!
操縦者のラコフが持っていた“雲属性の炎”の増殖特性によって、無限に強化され続けて最早誰の手にも負えない程に機体質量も力も強大になっていた《紫焔大将軍》スクルドに対し、無謀極まりなくも真正面から突撃していったツナは忽ち相手が放つ無限の炎弾によって為す術なく焼け墜ちるかと思われた……だがしかし、ツナは最悪の結末を見事に裏切り、彼の指輪から出てきた炎の小獅子と彼自身が持つ“大空属性の炎”の力によってスクルドを返り討ちに“石化”させる事で、驚きの大逆転を成した。
更にはそれだけに止まらず、リィンとツナは互いに初対面である事が改めて信じられなくなる程に、お互いの行動を完璧に把握した超神速の交代連携攻撃をもって、全長凡そ40m以上にまで達していた石像化したスクルドを丸ごと斬り刻んで燃やし尽くしてしまった。 しかもそれは文字通り、その光景を近くから目の当たりにしていたなのはの目が瞬く間にそれは行われたのだから、彼女の言葉が出なくなるのも当然だろう。
「ハッ!?……あ、あれっ? どうしてかツナさんが無事だ。 それに、紫色の炎の鎧で超デッカクなってた敵大将の魔煌機兵が何時の間にかツナさんの橙色の炎で火葬されてるし。 その前で何でか、ツナさんとリィンさんがカッコイイ決めポーズをしているし。 いったい何がどうなったの……!?」
ツナが無謀な突撃をしてスクルドに返り討ちにされる結末の想像に恐怖した為にキツく閉じていた両瞼を、恐る恐るながらもようやく開いたスバルもまた、宙に敷かれたウィングロードの上からその様子を見下ろして、自分がしていた最悪の結末予想に反して五体無事な様子のツナに安心半分、夜天高く燃え盛っている橙色の炎の中で石炭のように崩壊していく紫焔大将軍の眼前にてツナとリィンが並び立ちながら勝利のポーズを取っている絵面に大変戸惑った様相を浮かべていた。 仲間の一人がやられたと思ったら、自分が目を離している間の一瞬で形勢逆転して敵大将が倒されていたのだ、無理もない。
「リィン教官! 甲板に居た人形兵器達は全滅させましたので、今からそちらの援護に……って、もう敵の大将の新型魔煌機兵を倒しちゃったんですか!?」
「さっすが十代目! あんな巨大ロボットをもこうも簡単に撃破してしまわれるなんて、相変わらず見事な腕前ッス!」
「なのは! スバルも無事? よかった……」
そして経った今、ガラハッド艦上に展開されていた敵人形兵器群を余さず全て鉄屑に変えた仲間達が激しい戦闘で甲板中に燃え広がった跡火災の間を駆け抜けて続々とリィン達四人のもとに集合して来た。 文字通りに強大だった敵軍大将をこの短時間で撃破したリィン達を目の当たりに、皆それぞれ驚きや四人に対する賞賛や彼らが無事である事に安堵を浮かべたり、十人十色の反応を表している。 仲間達が誰一人欠ける事なく五体満足な姿で集まったのを見てリィン達の方もひとまずホッとして胸を撫で下ろした。
「みんな……無事に人形兵器達を片付けてきたみたいだな?」
「はい。 予想より敵の頭数が多めだったので少々手こずりましたか、協力者たちの助力のおかげで誰一人として怪我をせずに殲滅できました」
「まっ、何処の誰だか知らねー他人の手助けがなかったとして、俺らⅦ組だけでも十分余裕で倒せてたがな。 だがまあ、おかげで余計に疲れず済んだのは確かだな」
「それでリィン教官。 敵大将の新型魔煌機兵はその後ろの炎の中でしょうか?」
クルト達が自分達の教官であり指揮官であるリィンに戦果の報告を交えつつ、彼の背後に赫灼高々と燃え盛っている橙色の炎壁に視線を向ける。 獄寺達とフェイト達も同じようにその炎壁に注目を集める。 その中で今もツナの大空属性の炎によって機体全身を焼却され続けて徐々にその石像と化した巨体を焼け落とされていっているスクルドの様子が影になって映っている。
「これ……もしかして機体の中に居た操縦者も無事じゃあ済まないんじゃ……?」
「心配は要らない。 オレの“大空属性の炎”は人を傷つけずに精神だけを浄化できる。 だからこのまま燃やし尽くされたとしても、あの魔煌機兵の機体は跡形も残らず石炭化させるだろうが、その中に乗っている人間は五体無事に気絶だけで済む筈だ」
「それじゃあ、これで僕達はミッドナイト軍に勝ったんですか?」
橙色の業火に映るスクルドの機体の影はその凄まじい炎圧に嬲られて、先程までその機体全身に纏って巨大怪獣並に巨きく肥大化されていた雲属性の炎の鎧が今や石化して外側から炎に燃やされて炭になり剥がれるようにして崩され、元々の魔煌機兵の平均全長(約7m)になるまで削ぎ落されている有様のようだった。 スバルが心配そうに声を漏らしたように、炎のまたその背に高く聳え立っているこの艦の艦橋よりも巨大になった紫焔大将軍を丸ごと飲み込んではその大質量を全て石炭と化し崩壊させる程の熱量を持っているツナの“大空属性の炎”の真っ只中に居るなら、幾ら巨大で頑丈な魔煌機兵の装甲の中でも人間は無事では済まないだろう。
だがしかし、この炎を放った張本人が言うには“大空属性の炎”が持つ調和の特性によって生身の人間は燃やさないようにできるとの事だった。 それを聞いてエリオが非情事無く此度の戦いに勝利できたと思ってその幼げな顔つきをパァッと明るくし、他の仲間達も少なからず緊張を解かれるように気を緩めて歓喜の体を露わにしだす。
橙色の炎の中に映されていたスクルドの影も時間が経って段々と薄くなって消失していき、これでようやく一件落着かと思われた……その刹那、ツナの中の“超直感”が緊急警報を鳴らした!
「いや、まだだ──ッ!」
「ッッ!? 全員、避けろ!!」
直後、橙色の炎壁の中心を成人男性の四倍以上もある銃剣が全員密集したリィン達目掛けて突き破ってきた。 ツナがその不意打ちを察知してから0.2秒遅れにリィンが炎壁の内奥より放たれてくる殺気を感じ取り、一秒事前に張り上げられた彼の緊急回避指示のおかげで、間一髪全員一斉に後方へ大きく跳び退き、それを掠めるようにして彼らが直前に立っていた鉄床に巨大な剣が突き刺さった。
t単位の質量が鉄床を穿ち貫いた事で生じてきた突風の如き衝撃圧が殿に遠ざかるリーダー格二人を少々煽ったが、全員どうにか傷を負う事なく回避を成功。 十分な距離を空けて着地し、鉄床に突き刺した銃剣を引き抜きながら夜天高々と燃え上がる橙色の炎壁を引き裂くようにしてその中より出てきた“巨いなる紫焔の武士”を睨む。
「うへぇ、あの炎に丸ごと燃やされて装甲の表面が焦げ付いただけなんて、どれだけタフなのよ? あの新型魔煌機兵……」
「だけど、全身に纏っていた“雲属性の炎”は消えたのな。 これでもうあのサムライ巨大ロボは無限巨大化も永続パワーアップもできねーだろ?」
赤紫色だった甲冑装甲が焦げて少々黒ずんだ程度でピンピンしながらツナの炎の中から出てきたスクルドを目の当たりにして若干嫌になりそうに項垂れるユウナだったが、山本がしめた笑みを浮かべながら言ったようにスクルドの全ステータスを無限増幅させて天上天下無双の《紫焔大将軍》にし得ていた紫色の炎の鎧はツナの“大空属性の炎”で石化されてリィンとツナの二人によって砕かれた事ですっかり剥がれ落ちている。 もうこれでスクルドの奴はただの“紫焔の武士”に戻った。 形勢逆転だ。
『クッソ~! クソクソクソッ! クソォォォオオオオオッ!! さっきはあとちょ~っとのところで、にっくき管理局の英雄部隊、機動六課の小娘共をけちょんけちょんにフクロ叩きにして、管理局をブッ潰せたってところだったのにィ~! こぉの異世界のクソ虫けら共がぁっ! 【魔法技術の独占による武力支配】で非魔導師に不利極まりなき法を敷く悪逆非道の時空管理局をブッ潰して全次元世界を吾輩の手にするという崇高な夢を、悉く邪魔しやがりやがってェェ……』
「アンタって奴はどこまでいっても小悪党キャラよね? 逆恨みも甚だしい言い掛かりで管理局をアンタの汚れきった頭の中で都合のいいように捏造解釈して、ただの薄汚い底辺犯罪組織の親玉風情が崇高ぶってんじゃないわよ! このデカッ鼻!!」
「そうだそうだ~、ティアの言う通りだ~! だいたい【魔法技術の独占による武力支配】って何さ? あたしのお父さんだって非魔導師だけど、立派に三等陸佐の階級持ってて陸士第108部隊の部隊長の地位に就いているんだから。 管理局が非魔導師に不利な法を敷いているだなんて、でっち上げだ! このデカッ鼻が!!」
『ぬぁぁぁにおおおおーーッ!? 吾輩のスッとした鼻立ちをよくも“デカッ鼻”などと! 二十にも満たないガキの癖してムダに乳だけデッカくしただけの処○共が、偉そうに戯くんじゃあ~りませんわっ!!』
「あ……あんですってぇっ!!」
──何故ユウナさんが憤慨しているのでしょうか? それもエステルさんの口真似で……。
リィンとツナにやられたい放題にやられた事に、全身真っ黒コゲになったラコフが被っていた軍帽が燃え散って消滅した事で露わになった素頭から文字通り煙を出して激昂し癇癪を起こしながら、スクルドに地団太を踏ませる。 t級の体重機体の脚部で甲板を連続で力いっぱいに踏みつけた所為でガラハッドの艦体が地震のように大きく縦に揺れ、立つバランスを崩して鉄床に尻餅を盛大に叩き付けてしまったティアナとスバルが打ち付けた尻を手でさすりながら立ち上がっては憤慨の口で馬鹿殿の妄言に物申した。 語尾でコンプレックスにしていたデカイ鼻の事をネタに蔑まれた為に、ラコフは聞き捨てならず悪口を言ってきた陸戦魔導師娘二人に向けてセクハラめいた罵倒をやり返す。 だがその内容に身体的特徴が当て嵌ったユウナが自分に向かって悪口を言われたと勘違いし、元居た世界の知り合いである栗毛ツインテールの遊撃士の口真似で憤りを露わにする。 その傍で耳に入れて痛く反響する程の彼女の大声文句にアルティナが耳を両手で塞いで庇いながら心中疑問を唱えていた。 そしてラコフの素頭は円形脱毛症ハゲであったww。
このような子供の口ゲンカ染みたやり取りをして場の空気がシュールに混沌となったところで、ラコフが痺れを切らしたように汚い顔面全体を真っ赤に沸騰させつつスクルドに右手でビシビシと指差させて、リィンやツナら異世界の英雄達へと警告する。
『大体キサマ等、《可能世界》の“戦術オーブメント”と《七輪世界》の“死ぬ気の炎”を使ってくるっちゅー事は、大方それ等“次元世界外世界”の部外者なんだろーが!? フザッケンナ! この戦いは、この数多の次元の海で最も正当な力を持つミッドナイト軍がクソッタレな時空管理局が敷く独裁司法や魔導師優遇社会より全次元世界を解放すべくして起こした【聖戦】なんだよ! そして其処の魔導師の小娘共こそが劣悪なる管理局の手先なのだ! 故に吾輩が直々に制裁を与えなければならないのだ! 関係ない異世界の部外者共がこれ以上邪魔スンナ! 後ろにすっこんでろいッ!!』
「「ふざけるな──ッッ!!」」
『おのふっ!!?』
まるで自分が正義で時空管理局こそ裁かれるべき悪党のような物言いでいけしゃあしゃあと飛ばしてきたラコフの主張をリィンとツナが激しい怒りを露わに即答で一刀両断した。
「確かにトールズⅦ組はとある事情で次元世界に強制転移させられてきた部外者だ。 恐らくはツナ達も同じような境遇で俺達とは別の異世界から此処にやって来たんだろう。 なのは達とは先程ミッドチルダに来て知り合ったばかりだから、彼女達の事も、彼女達が所属しているという時空管理局という組織の事も、次元世界の事も、まだ全然よく知らないさ……」
「組織は巨大になる程に深い闇ができるという事はオレもよく知っている。 お前の言ったように時空管理局が腐敗しているのかどうかは、さっき別の世界からやって来たばかりのボンゴレやリィン達には到底判別不可能だろう……」
二人は慄く相手の顔面部分の赤い三つ目を強く睨みつけ、しかし自分達が異世界からやって来たばかりの部外者であるが故に次元世界の事情はまるっきり知り得ず、故にもしかしたら相手の機体の搭乗者が言っている内容が間違いではない可能性も否定はできない、とまずは語る。
二人の口から漏れ出た公比不確かな内容を耳に、なのは達機動六課前線攻略部隊の面々は少々不安の色が顔に浮かび出し、反対にラコフは機体越しに手応え有ったという不敵な笑みを浮かし出す。 ……だが次の瞬間、二人は目頭を大きく寄せて更にギッ! と相手を睨む強さを厳しくして迷いなく言った。
「「だが少なくとも、今此処で共に肩を並べて戦っている機動六課はお前が言うような悪い人間なんかじゃあ絶対にないという事だけは確かだ──ッッ!!!」」
二人の若き英雄の口から放たれた淀みない確信の言葉が衝撃波となって忽ち周囲へと広がり、彼らが立っている艦の甲板上一面に燃え広がっていた戦闘火災が跡形も残らず吹き消された。 奇跡的に倒壊寸前で留まった中央の艦橋だけを残して全焼し、まっさらに焦げた鉄床だけの殺風景と化した艦上に、この艦の司令官兼艦長であるラコフの驚愕が反響する。
『なななっ、ぬぁんだとーーーッ!!?』
「リ、リィン君……!」
「ツナさぁん!」
『ぬぁぜだぁぁ!? 何故キサマ達は異世界人でミッドチルダに来たばかりで、この世界の事情をちっとも知らぬにも関わらず、会ったばかりの魔導師の小娘共の事をどうしてそんなにも信頼できるってんだよォォーーーッ!!』
先程に出会ったばかりでまだ見ず知らずの関係である自分達の事を信じると言ってくれた異世界からやって来た助っ人達のリーダー二人に機動六課の魔法少女達が心嬉しい声をあげる中、その事をとても信じられないとしてラコフは相手の正気を疑うあまりに蕁麻疹を発症し、スクルドの動きとリアクションを同調させて激しく震える頭部を両手で抱えつつ夜空に仰いだ。 彼の管理局に対する弁は、実に見苦しく己の都合の良い改竄を盛沢山して醜悪なイメージを押し付けようとした完全なでっち上げであったものの、リィン達は次元世界の情勢を全然知り得ていない、故に言った事が真実なのかどうなのか彼等には判りようがなく、これで少しでも管理局へ対する疑念を異世界陣に持たせて相手の共闘意識を乱せるものかと期待したが、しかしその思惑に反し異世界陣はリーダー格の二人をはじめ誰一人としてこちらの揺さぶりに惑わされる事はなく、なのは達の事を疑う様子はこれっぽちも見られないどころか寧ろ彼女達へ対する信頼を皆益々と強固にしたようにキリッとした顔付になっていた。
それがどうしても納得出来ないラコフは発狂した金切り声で今一度異世界の若き英雄達へ問い質したが、そんなの聞くまでもないという素振りでリィンとツナが甲板の縁下へと視線を促し、逆に問い返す。
「この艦の遥か下に燃え広がる都市の彼方此方から聴こえて来る、鉄が鳴り響くような交戦音と、管理局の魔導師達が必死に街を守ろうとしてミッドナイト軍の嗾けた人形兵器の大群に抗っている声を聴けば簡単に分かる事だろう? 自律思考の共有によって無駄のない群体統制を成し、且つユニットの種類によって高火力の兵装を多種多様に揃え持ちながら、並の装備では傷一つ付けられない程に堅牢な外殻装甲を持っているのに加えて、強力な対魔法装備を幾つも積んでいる……そんな人形兵器や魔煌機兵が俺達の元居た世界にある【共和国】の首都並に広大な大都市全体を丸ごと蹂躙出来る程の途方もない大軍で襲い来るのを前にすれば、普通は誰だって絶望を禁じ得ない筈だろう……だが、この下で戦っている人達はそんな強大な敵を相手にして、此処(上空5000アージュ)から遠目で眺めて観ても明確な壊滅状態にまで追い込まれていながら、今も絶望せず、全く諦めようとせずに決死の抵抗をし続けている。 それも、それで残存戦力に余裕が無くなっているのにも拘らず、力無き一般市民を守って安全な都市の外へと逃がす避難活動をも併行してな……!」
「時空管理局とやらがもしお前の言った通り内側がどうしようもなく腐敗した最悪の独裁司法組織だったとしても、絶望的な戦力差で罪の無い人々が住む街と生活を壊そうとする敵から命懸けで戦う事の出来る機動六課とその彼女らの同志達が、悪い組織の手先である訳がないだろうが! 寧ろ悪党はどう見たってミッドナイト軍の方だろ? いったい何処で仕入れたのかは知らないが、RPGとかに登場する飛空艇のような巨大飛行戦艦とTVアニメなどに出てくるような巨大ロボット、その上リィン達の世界の技術を組み込んだ新型みたいだがオレ達の世界の人型戦闘兵器までも、一軍が作れる程大量に投入してこの世界を襲い、罪の無い人達が暮らす街を無差別に破壊して下に見えるような火の海へと変えている……これが悪の独裁司法組織の差別と圧政から力無き人々を解放する為の【聖戦】だと? 本気で言っているのならお前の方こそ、ふざけるなよ──ッ!!」
元居た世界の危機を幾度も救済してきた英雄たる二人は完全に激怒していた。 最低最悪の侵略者の何処までもミッドナイト軍の不当な世界侵略行為を御都合的な虚偽で意地汚く正当化しようとする醜悪極まった詭弁の限りは彼等の怒りを買うのには充分過ぎたのだった。 例えどんなに正当な理由があったとて、武力行使をもって一つの世界を襲撃し罪無き人々が暮らす街を無差別に破壊し尽くしてそこに住む無辜の民草を傷つけたならば、そこに義は無し。 まして、卑劣な侵略者から力無き人々を守る為に立派に立ち向かう少女達を悪の手先呼ばわりして自分達の侵略行為を俗に正当化しようとするばかりか、それを言い訳にして突然現れた事情を知らない異世界人を騙くらかそうとするなど、言語道断。 恥知らずにも程がある、悪者に間違いなし。
「今すぐにこの世界と管理局員への攻撃を止め、軍を街から退いて、おとなしく身柄を投降しろ!」
「お前が乗っている機体に組み込まれていた【畜炎強化システム】はオレの“大空属性の炎”の調和特性で完全に機能停止させた。 もう“雲属性の炎”で機体を強化する事はできないぞ!」
自分勝手にでっち上げた言い訳でミッドチルダと真摯に次元世界を守りたいと願って誇り高く戦う魔導師達を深く傷つけた侵略者に対して、迸る怒りが籠った闘気を纏わせた緋色の切っ先と敵を打つ覚悟の炎を燃え上がらせる拳を突き向ける二人の英雄……彼等が発する歴戦の戦意を受けて一秒持たずに圧倒された悪の親玉は竦み足でスクルドに一歩後退させるが、奴とて広大な次元の海の中心に浮かぶ法の船を底へと引きずり沈めてやらんとして反乱軍を立ち上げた、一総大将としての意地がある。 顔面積の四分の一を埋めるニキビだらけのデカッ鼻が千切れ飛びそうな勢いでかぶりを振る事で恐怖を振り払い、スクルドの右手でビシッ! と人差し指を憎き英雄達へと突き向け返して往生際悪く言い返す。
『だだだだ、黙れぇいっ! 数多の次元の海の広さを知らん異世界の青二才とクソガキ風情が、生意気に知った風な口を聞くんじゃあないわ! この世界を牛耳る管理局が創設された百年も昔から今まで、連中が正義を誇示し続ける為に裏でどれだけの不正行為を行ってきたのか、ちっとも知らん癖に、次元世界に正しい革命を起こそうとしている吾輩の崇高な聖戦を邪魔して否定して悪者扱いして、正義の味方ぶってんじゃねーやい! 顔がカワイイだけで清楚ぶりっ子した、クソ○ッチの集まる機動六課の小娘共なんかに唆されてんじゃねーよ、このヤリ○ン共がッ!!』
「誰がクソビッ○よ!? この悪の総統コスプレ趣味のデカッ鼻ハゲオヤジ!!」
「リィン教官は確かに毎度毎度、何処に行っても不埒なToLoveるを起こしますが、基本女性から向けられる好意に鈍い朴念仁なので、ヤリチ○という表現は大分的外れであると断言します。 訂正してください」
──フォローしてくれるのは有難いんだが……アルティナ、毎度毎度他人に誤解を植え付けるような言い方をするのは、いい加減に止めてくれないだろうか……。
残念ながら自分達の教官が女性からの好意に何処までも鈍い朴念仁だというのはトールズ士官学院第Ⅱ分校Ⅶ組特務科のクラス生徒五名全員の共有評価なのだから、もう諦めるがいい、リィンよ……www。
『ぬぇぇえええーーーいっ!! これ以上罵り合っても埒があかんわ!!』
ふざけるのもここまで。 いい加減に決着を付ける為、最後の激突と洒落込もうじゃあないか!
『炎なんぞに頼らずとも我が《紫焔の武士》はまだ此処に立っているぅぅーーっ! この機体が纏う“黒ゼムリア鉱”と精製度Aランク以上の炎製石を合成し開発した特殊耐炎合金板に対抗魔法防御素材コーティングを施した鉄壁の武者鎧装甲と、ゼムリア大陸の《エレボニア帝国》が軍事運用しているという“機甲兵”の隊長機《シュピーゲル》のものよりも遥かに高い反射性能を発揮する対攻撃反射防御結界【リアクティビアーマーA】──この完璧な防御力を持つ二重の鎧さえあれば吾輩の武士は絶対無敵なのじゃーーーい!! 壊せるものなら、んあっ、壊してみせやがーーーれぇぇええいっ!!!』
まるで最高潮の舞台に上がった歌舞伎役者の如く、スクルドを片足立ちさせて開いた右手を肩の後ろへ引き絞り左掌で正面に向かう憎き英雄共へ張り手を突き出して、粋に顎を回させながら、傾いた口調で自分の最強の武士を打倒できるものならやってみろと相手へ挑発を仕向けるは、ミッドナイト軍総司令官ラコフ・ドンチェル。
物の一切全てが焼却された甲板上の殺風景に夜風が靡き、焼けた鉄の臭いが戦いにおける最後の激突前に感じる特有の緊迫感を演出している。 その真っ只中で三つの世界より集いし若き英雄達と悪しき侵略軍の総大将たる巨いなる紫焔の武士が得物を構えて向き合い、激しく火花を散らす。
「こうなったら話し合いは無用か……」
「そうだね。 お話が出来ない相手にはいつも通り全力全開でぶつかって、叩きのめしてから“お話”するまでなの!」
「ハッ! 虫すら殺さなそうな善人面してんのに反して随分と物騒な提案をするじゃねぇか、白魔導師のネーチャンよぉ? ……だが、いいぜ。 そういうのはトールズⅦ組の得意分野だからな!」
「ボンゴレだって総力戦なら上等だ! 全員であの巨大鎧武者ロボをタコってスクラップにして、中で操縦してやがる変な笑い方するオッサンを引き摺り出してからシバいてやりましょう、十代目!」
「ああ、もちろんだ。 ……しかし、実際に敵が言った通り、あのスクルドとかいう魔煌機兵の外部装甲は途轍もなく堅い事に間違いない。 さっきもオレの“大空属性の炎”による調和特性で石化させた奴の雲属性の炎鎧を、オレとリィンの全力連携攻撃で粉々に砕いたはいいが、中身の本体は御覧の通り大したダメージも与えられずにピンピンしているからな……」
総力戦で最後の決着を付けに行く雰囲気にトールズⅦ組、ボンゴレファミリー、機動六課の三連合一同総員が意気揚々と最高の闘志を燃やす。 だがツナが言った懸念の通り、スクルド本体が纏う武士甲冑装甲の防御性能は鉄壁だ。 なのはとスバルによる合体戦技のWディバインバスターをも反射してしまう絶対無敵の防御結界《リアクティビアーマーA》も併せると、まさに難攻不落と言える。 百戦錬磨の戦士が百人や千人集まって攻撃したとしても、あの武者鎧には罅一筋すら入れる事はできないだろう……だが、リィン達トールズⅦ組は魔煌機兵の相手なら元居た世界で幾度となく相対し、その度に撃破してきた実績があった。
「そういう事なら、ここはトールズⅦ組に任せてくれ」
「リィン……?」
「何かスクルドの鉄壁の防御を壊せる秘策でもあるんですか?」
「ああ。 俺達が今まで、立ち塞がる強大な“壁”を幾度も乗り越えられてきた、“繋がりの力”のとっておきさ」
皆の前に踏み出て自信満々気にリィンはスクルドを倒せる“切り札”を自分らトールズⅦ組は持っていると言う。 そして彼の教え子達がその言葉を待っていましたと言わんばかりに、教官に続いて皆の前へ意気揚々と踏み出ると、トールズ士官学院第Ⅱ分校Ⅶ組特務科の担任教官とその生徒五名が威風堂々と横一列に整列して、機関砲剣を手に身構える巨いなる紫焔の武士の正面へと立った。 その際に六人全員が懐よりARCUSⅡを手に取り出してリィンとユウナ、クルトとアルティナ、アッシュとミュゼがそれぞれ足下同士を光の線で繋いで接続した。
『ほほぉう? この絶対無敵の《紫焔の武士》の前に整然と並び立つなどとは、キミタチは殊勝にも銃殺刑をお望みか──』
「ユウナ、号令を頼む!」
「了解です、教官!」
『──って、無視ですかいィィッ!?』
相手が煽ろうとしたのを完全スルーされて機体をズッコケさせそうによろめかせた隙に、ユウナがⅦ組の担任教官であり指揮官であるリィンに出された指示に従って、右手に持ったARCUSⅡの内面端末画面を開いて簡単に操作を施すと、『BRAVE ORDER Standby』と表示されたカバーディスプレイを前に翳しだした。 背中から見守るボンゴレファミリーと機動六課の面々から不可思議に思われる視線を集める中、彼女は凛々とした顔付で号令を言い放った。
「壊せ──『トールハンマー』ッッ!!」
その如何なる堅牢なモノをも破壊する雷神の大槌の名を冠する《ブレイブオーダー》が溌剌勇壮とした声で発令された直後、号令を出した本人を含むトールズⅦ組六名の手に握られているARCUSⅡがまるで共鳴するかのように全て同時に眩い輝きを発しだした。 それは深い奈落の闇をも照らし出すような“勇気の輝き”であった。
『キキキキ、キサマらぁぁーー! いったい全体何なんだ、その不愉快な感じがする“輝き”はあああぁぁーーーッ!!?』
「あのユウナっていうリィンの生徒の女の子が、さっきミュゼという生徒さんが重症だったなのはやみんなの傷を回復させる導力魔法を使った時にも取り出していた不思議な携帯端末を開いて掲げて、それで一言何かを叫んだ途端に、リィンと彼の生徒さん達の手に持った携帯端末が急に光りだして? ……もう、勘弁してよ……」
Ⅶ組陣の持つARCUSⅡが突然発しだした輝きを目に、ラコフは激しく戦慄を露わにしながらスクルドに震える右手の人差し指をリィン達へ指させながら発狂するように喚きだし、フェイトも本日最早何回目か数えるのも煩わしくなった異世界のトンデモ技術を目の当たりに辟易とする呻きを漏らしている。 狼狽えたい気持ちはこの場に立っているトールズⅦ組陣以外の他の面々も同じであった。
「い……いったいトールズⅦ組は何をやったんですか、十代目?」
「それはオレにも分からない……だけど」
「この光……なんだかとっても優しくて暖かい感じ……何故だか心の奥底からどんな強敵相手にも立ち向かえる“勇気”がどんどんと湧いてくるような気分になってくるよ、ティア!」
「そうね。 まるで号令を発した人を中心にして、ここに居る全員の夢や想い、勝利を諦めない希望などといったプラスの気持ちが一つに束ねられて繋がっていくような感覚……ア……レ……?」
ARCUSⅡの《ブレイブオーダー》システム……それは端末にインストールされてある号令を発令する事により因果律に一つのルールを書き加えるという、戦闘において格下が格上相手に一発逆転を可能にし得る“切り札”だ。 システムを開いて【BP】を消費し、カバーディスプレイに表示された号令名を高らかに叫ぶと、号令を発令した者自身と一定近くに居るアドレス帳に味方集団登録されてあるARCUSⅡの所有者同士複数が共鳴して一定時間号令に応じた“因果律的ポジティブ強化効果”がその全員に共有付与されるという仕組みだ。
この《ブレイブオーダー》システムの強みは味方集団全体に対して一声で様々なポジティブ強化効果を与えられるという概要にあるのだが、これはあくまでもARCUSⅡ同士の共鳴を介して共有を成す力である為、ARCUSⅡを所持していない味方には号令の強化効果を共有付与させる事が出来ないのである──
その筈だが……。
「ぇ……ええぇぇーーっ!? あたしのリボルバーナックルとマッハキャリバーのデバイス核まで、リィンさん達の携帯端末と同じように光り出したぁぁ!?」
「嘘、レイジングハートまで不思議な光を発しだした……!?」
更には……。
「おおうっ? オレの《雨のネックレスVer.X》も光りだしたってか? ナハハハハ、なんだか粋な感じじゃねーか」
「笑ってる場合じゃねぇよ野球バカ! どういう事だかオレの《嵐のバックルVer.X》までもが、トールズⅦ組が手に持ってるスマホに似た携帯機器のと同じ光を発光させてやがるし、十代目の《大空のリングVer.X》に至っても同じ謎の発光現象が発生してやがるし、どうなってん……ハッ!? これはオレの大好きな神秘の臭いッ……!?」
ユウナの《ブレイブオーダー》──【トールハンマー】が発令され、トールズⅦ組六人の持つ携帯端末が共鳴の輝きを発したと同時に、何故だか機動六課組の持っている得物の核とボンゴレ組が身に付けている装飾品の宝珠部分も同じ輝きを発しだし、その全てがトールズⅦ組の携帯端末のシステムへ強制的に重複接続されたのだった。
突然発生したその常軌を逸する現象はあまりにも埒外だった為、システムの概要を知らないボンゴレ組と機動六課組は無論の事渾沌の様相で大騒ぎになり、約一年前から今までゼムリア大陸で起きてきた大事件の数々での戦いで幾度も《ブレイブオーダー》を使ってきたトールズⅦ組の面々も流石にこのようなシステムの規格を超越し過ぎる異常を受けて大変な動揺を禁じ得ない様子を見せている。
「ちょっ!!? これどうなってるの!? あたしの号令効果がARCUSⅡを持ってない後ろの人達にまで共有されちゃってるーーーっ!!」
「そんな、有り得ない。 《ブレイブオーダー》システムによる集団強化はARCUSⅡを所持していない者には及ばない筈なのに……!?」
「システムの故障……とは考え難いですね。 機動六課組の所持する魔導杖に類似した機械仕掛けの武装だけならまだ解りますが、ボンゴレ組の非電子的装備品にまでも号令効果が共有されるなんて、どう考えても非科学的な事象ですので……」
「異世界転移した事といい、今回もまたまたオカルトの類かよ……まっ、《黄昏》やら《エリュシオン》やらで、もういい加減この手の摩訶不思議事象には馴れっこだけどな!」
「わたしの“異能”でもこのような常軌を逸した事象が起きる可能性は段々と視えなくなってきました。 これはそろそろ《千の指し手》の異名を返上しなければならない時かもしれませんね……」
普通ならば起こり得ない奇跡を前にして皆それぞれ狼狽や原因追及などといった思考の迷路に惑う。 しかし、何も恐れる必要はない。 これは三世界より集いし若き英雄達の軌跡が今此処に重なった事により、起こされた奇跡なのだから!
「ARCUSⅡを介して強化効果が共有される筈の《ブレイブオーダー》が、何故ARCUSⅡを持っていないツナ達やなのは達にまで発揮されたのかは分からない……だが、この誤算は寧ろ僥倖だな!」
「ああ! これならオレ達も一緒に戦える! リィン達六人にだけ、無茶はさせないさ!!」
この“奇跡”を千載一遇の好機と心得た二人の主人公。
頼もしいリーダー二人の言葉を聞き、仲間達もそれに応えるようにして一人また一人と目の奥に覚悟の炎を灯していく。
「各員戦闘配置に着け! オーダー効果を駆使し、敵新型魔煌機兵を撃破するッ!!」
「今度こそ、この戦いを終わらせてやる! 覚悟しろ!!」
英雄達は立ちはだかる巨大な敵を前に壮観と並び立つ。 その誰もが敗北の恐れなど抱いてはいなかった。
さあ、黒鋼の剣を取れ! 炎の拳を握れ! 魔法の杖を構えろ!
その勇気とキズナの輝きを一つに束ねて、醜悪なる野望を打ち砕き、絶望の闇を切り拓け!!
三つの世界の偉大なる英雄伝説に語られし希望の英雄達よ。 今こそその希望の力を結集し、新たなる壮大な“英雄伝説”の幕を上げるのだ──ッッ!!!