提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
100人中100人が諦めると言う状況があるとしよう。
この世は大多数の意見が尊重される世の中だ。
そこで1人が諦めないと言えば…そいつは変わり者と揶揄されるだろう。
仮に99.99%どうにもならない状況だと言われた時に
「諦めない!」と言える人はどのくらいいるだろうか?
ましてや、自分の命、財産が賭けられた時としよう。
そう
居ないのだ。
一部の…ほんの一握りの手の上に残った砂を…更に手を両手流水で払って払って手に残った砂ほどの奴を除いて…。
神崎 救の処刑騒動から月日が経った頃のお話…。
私は今…とある島に居る。
簡単に言うと拉致された……情け無いけど。
私を拉致した彼女は言った。
「一番強い奴ヲ…アノ島へ…ソコニ居る!提督ハそれまで預カル!!」
その日も上機嫌で帰ってきた武蔵。
「提督〜帰ったぞー!資材がたくさ…」
ここでいつもならお帰り〜と麗の声が聞こえるはずなのに…今日は静かだ…。
辺りを見回す…。
武蔵は愕然とした。
「お前達!?!!」
目の前には打ち込めされた仲間
割れた提督の机
散乱した書類
どこにも居ない相棒。
「おい!提督は!?麗は!?」
近くにいた長門に喋りかける武蔵。
「姉さん……ごめんなさい…私達…」
隣の伊勢が答えた。
「何があった!?敵襲か!?」
「…提督は連れて行かれちゃったよ…」
「どこにだ!?生きてるんだな!?」
「多分…気を失ってただけだと思う…」
「場所は……」
と、壁の地図を指さす。
そこには乱暴に、とある島に丸がつけられていた…。
「ここは…」
そこは武蔵には嫌な思い出がある島だった…。
「一番強い奴を出せ…だって」ううっ
「私達…全く歯が立たなかったよ」 ぐすっ
「ごめんなさい…」
皆が消え入りそうな声で言う。
彼女達は体だけでなくプライドもズタズタだった。
奴は鎮守府に単身殴り込みに来て鎮守府をめちゃくちゃにした。
その日は遠征ということもあり、鎮守府には余り艦娘が居なかった事もあるが…それでも精鋭揃いのはずだった。
なのに
練度も高いはずなのに…負けた。
手も足も出なかった。
為されるがまま壊される艦娘。
提督が人質に…?
違う。
提督が連れ去られたのは最後の最後だった。
全員がボコボコにされた後…ソイツはため息をついて言った。
「…アイツがイルノに…この程度カ」
「燃えナイナラ燃やシテヤロウ」
と、麗を連れ去ったのだ。
悔しさと…不甲斐なさで泣く艦娘達。
「分かった…私が行こう」
と、武蔵は言う。
「武蔵姐さん!」
声を掛けてきたのは電だった。
「電!休んでろ…お前…ボロボロじゃないか…」
「このくらい平気です……私…嫌な予感がするのです…武蔵姐さんを行かせちゃいけない気がするんです」
少し困った顔をしながら武蔵は言った。
「ハハハ…大丈夫だ。すぐに戻ってくる…その頃には皆の入渠も終わってるだろ?そしたら…皆で飯にしよう」
「でも……」
「心配するな!私に任せろ!!」
ポン…と電の頭を撫でる。
分かっている…。
コレをやったのは相当な手練れだと。
私も無事では済まないと…。
地図にも載っていない小さな島…
無論、人は居ないし今は私と彼女だけ。
「あなたは何?私を…どうするの?」
「…べつに?タダ、強イ奴をぶっ殺シタイ」
「それで単身…乗り込んできたの?!」
「ソレ以外アルカ?手っ取り早イダロ?」
「……あなたの目的は…?」
「時期ニ分かル」
「マァ…来なかっタラ…お前と、残りヲ殺スダケ…」
冷たくて…どこまでも深い闇に染まる目
本気の目だ…。
それだけはわかる…。
「フン…怖がリもシナイか…」
暫くたった後、艦娘が1人やってきた。
当然やってきたのは…武蔵だった。
「…来たぞ」
「来たナ!?」
「ヤハリお前カ!武蔵ィ待っタゾ!!」
「サァヤロウ!!」
目の前に居るのは戦艦仏棲姫ー。
自分でもわかる
コイツは…今迄のどんな敵よりも強い。
麗にも…異様な強さがわかる。
だが…武蔵が負けるはずないという確信はある。
武蔵とはずっと……一緒に居たから分かる。
きっと勝つ…と。
「仲間と提督の借りは…返させてもらう!!」
武蔵は砲撃した。
ズドドドォ!と轟音が鳴り響く。
「む…?」
砂煙に紛れて姿を見失う。
「……」
砂煙が晴れても棲姫の姿が見えない…。
…
…
「後ろッ!?」
バキィ!!と振り向きざまに裏拳を叩き込む!!
「グッ…」
見事に顔面にクリーンヒットした!
「少しハ…ヤルね?ソウデナイとね」
ガシャン…ガシャンと艤装を外す戦艦仏棲姫。
武蔵はニヤリと笑うと同様に艤装を外す。
「ヤットだ…ヤット本気を出セル相手ガ…!!!」
「ふはははははは!!!!」
と、いきなりのパンチを繰り出す武蔵。
「フン…」
と、尻尾らしきものであしらい、武蔵を弾く。
が
その尻尾を掴みぶん投げる!!
「ヌオ!?」
が棲姫も負けてない。
近くの壁を蹴りその反動で武蔵へと飛び蹴りをお見舞いする。
「ぐうつっ!!…やるな…!!」
「モットアソビましよ??」
「楽しいなッ」
「昔を思い出してしまうな!!」
顔面に拳が当たる。
額が切れ出血する。
しかし、どうという事もない。
相手に拳が突き刺さる。
相手の拳が腹に突き刺さる。
ひたすら打ち合う。
時を忘れる勢いで…。
体が熱い…。
この島は…昔に少しの間、謹慎場所に連れてこられた島だ。
そう…
私は昔は荒れていた。
とある提督を殴ってここに飛ばされた…
当時はここは深海棲艦の溜まり場になっていて…そこの掃討作戦も兼ねてのことだった。
敵にやられても…まぁ仕方ないで済ませられるしな…。
だが、当然皆殺しにした。
向かって来る者も全て…。
逃げられたやつなんか居ない…誰1人として。
あの頃の私は…鬼と呼ばれていた。
「ククク…アハハハハハハ!!!」
武蔵は声高らかに嗤う。
「強イゾ!滾る…滾ル!」
「俺もだぁぁぁあ!!!」
体が熱いんだ!!
打ち合う打ち合う打ち合う打ち合う打ち合う打ち合う。
「グッ…ガッ!グフ」
「もっと
ラッシュの後に殴り抜く武蔵。
「ガ…ハァ…」
「返すゾ?」
同じようにラッシュを決められる…」
「グッ!うっ!ぐうっ…ガッ…グハァ……!!」
「もう1発!!」
と、良いのを貰ってしまう…。
「ぬうう…ぐうっ……」
「イイぞ?そのママ呑まレロ…お前ハその方ガお前ラシイ!」
「アノ時ノヨウナ!猛ル鬼ノヨウニ!!」
「殺すッ!!!!」
武蔵の様子がおかしい…!!
あれじゃまるで……
「武蔵の目が…口調か昔に戻ってる…あの時のような」
「武蔵!!ダメだよ!武蔵ー!!」
声が聞こえてハッとした。
私は…?
「マズい…呑まれかけた…」
武蔵の目は…いつの間にか元に戻って…
武蔵は平常心へと、戻った…
ホッと一安心する麗…。
しかし、それを気に食わないと言う奴がいた。
「貴様ッ!」
棲姫は麗の方へ物凄い形相で迫り…
「余計ナ事ヲ!!」
バチィ!!と、棲姫は麗を叩き飛ばす。
「キャっ!!」
打たれて転がる麗…。
「貴様っ!貴様の相手は私だろう!!」
麗の口元からは血が出る。
「武蔵!!大丈夫…だから!!」
「貴様ァァア!!」
相棒のそんな姿を見て激昂する武蔵。
「ダメ…武蔵!ダメーー!!」
逆に麗は武蔵を宥めた…
が
その声は届かない。
武蔵は怒りで我を忘れて棲姫に攻撃を続ける。
何より…2人が奇妙な笑顔で殴り合いをするのが怖かった。
「小娘…コイツハナ…コレが本性ナンダヨ…」
「忘レもしなイ…あの時…この場所デ!奴ハナッ、私ラノ仲間ヲ皆殺シニシタ!!」
「私ハ…怖クテ…何もできナカッタケド…覚えテイル」
「アノ強サハ…惚れルくらいニナ…」
「そろそろ…終わりにしようか…?」
「ソウダナ…」
お互いに血飛沫を上げて殴り合う。
「ム?」
棲姫は見た。
泥のように濁った目でなく…。
輝く武蔵の目を。
「麗!!私は大丈夫だ!!安心しろ!私は…呑まれていない!!」
武蔵は怒りをコントロールしていた。
一度は怒りに身を任せたが、何度も呼びかける麗に何とか答えたようだった。
「武蔵!良かった…」
また安堵する麗。
「……つまらナイ…」
全てに始まりがあるように
全てには終わりがある。
ドシュッ…
「う…?」
「コレは…」
「終ワリ…強かっタけど…オワリ……あの顔を…目をしナイ貴様ハワタシには勝てナイ……」
麗は見た
敵の手が…腕が
武蔵の体を貫いたのを
「嘘……」
腕が抜かれた途端に
真っ赤な鮮血が武蔵の体から…口から…出たのを
「ぐっ…ゴボッ……」
「……れ…ぃ」
勝利を信じて疑わない…最強の武蔵が
膝から崩れ落ち…倒れたのを
「モウ…立てナイノカ?」
「私の勝チだ……ツマラナイけど!」
棲姫は手につく血をペロリと舐めて言う。
全てが崩れ行く音が私達の肩を叩いた。
武蔵…。