提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
「行かせてくれッ!私は…あそこで!!例え沈もうとも!」
「ざけんなッ!!」
「お前に何が判るッ!提督!この悔しさが!2度も裏切られて!!」
「誰の悔しさだ!?今のお前か?昔のお前か?…ナガトか!?」
「判るかッ!!」
「テメェが奴と沈んだら…その誇りが満足すんのか!」
「前にも言ったが…お前だけ沈んだって何にもなりゃしねえんだ!!」
「どけっ!いくら提督で愛する人と言えど…」
長門は脅すように言う。
しかし、奴は退かなかった。
「やれや…」
「!?」
「死にたがりの攻撃なんぞ…効くか!」
「このっ!!」
カチンと来てしまった。
バシイイン!!
提督にビンタしてしまった。
上官に危害を加えるなぞ…やってはならない事なのに
頭が…
ナガトの無念を晴らす事でいっぱいになるんだ。
「ぐっ…」
ヨロっとしたが提督はそれでも退かない。
「退いてくれ…これ以上は……!?」
「っだらァァ!!」
右ストレートだった。
俺は…お前と喧嘩をしに来たんだ。
「ぐうっ!?て、提督?!本気で…?」
油断をした!まさか殴ってくるとは…。
「…沈みに行くなら…俺を殺してから俺の死体担いで行け…そして沈め!!俺もあの世へ一緒に行ってやる」
「馬鹿か!!そんな事出来るわけ…」
「その覚悟もねえなら…簡単に俺の前で死ぬなんて言ってんじゃねえ!!」
また渾身の右ストレート。
私はそれを受け止める。
「何がビッグセブンだ…何が…出られなかった者だ」
「テメェの気持ちなんか分かんねえよ!」
「でもな、今の俺らの気持ち…テメェに分かんのか!![
「テメェは沈んだら…はい終わり!誇りに死にました〜だろうけどよ」
「貴様ッ!バカにするのか!」
バキイ…と鈍い音がした。
長門の拳が…提督に…。
「…ッ!!」
やってしまった…。
もう引けない…。
「…ビッグセブンの戦艦長門様の拳ってのは…そんなもんか」
長門はゾクリとした。
「…長門!提督!もうやめて!!」
陸奥が叫ぶ。
それでも2人は止まらなかった。
私は今、恐怖している。
提督に…この人の目に。
「残される…俺らの気持ち…考えてんのか!!この死にたがりがぁあ!!」
提督は手を塞がれたまま…頭突きした。
「ぐっ…うっ!」
鼻血が…。
このっ!!
2人は取っ組み合いから殴り合う。
無論、提督へのダメージはデカい。
だが彼は一歩たりとして引かない。
逆に長門が気圧され始める。
そして…
「お前は…戦艦…長門だろう!!」
救は叫んだ。
「……!?」
「
2度も爆撃に…耐えた。
"不屈の…戦艦"
アメリカの軍人をして…海の古強者は…死せずって言われたんだろ?!
激動の時代の中で…
幾万の命を奪ったあの光にも…お前は沈まなかった。
まるで…今のこの国のように!!
俺は資料でしか見てねえけど…お前はすげえと思ったよ!!
2度目の後に…
その最期の姿を誰にも見せないように…逝ったんだろう?
決して納得の行く最期ではなかっただろう。
でも…俺はお前の最期は…
あの悪魔の光にお前が勝ったんだと思ったんだ!!!
お前の意地を!誇りを!!
未来にお前が示したんだと思ったんだ!!!
この国…そのものだと…。
お前は…
この国の誇りであり続けた…戦艦長門なんだろう?」
「俺の中でも…お前はカッコいい奴だったんだよ!その姿とお前の在り方がカッコいいって!!」
–––頭に声が響く。
「だから…弱い事言うなよ…なぁ…。こんな中でも…不敵に笑って…"暁の水平線に勝利を刻むぞ"って言うのが…ビッグセブンの戦艦長門なんじゃないのか?」
–––私の頭の霧を突き抜けて…響く。
「………」
提督か光って見えた。
彼の背に光源があったからかはわからない。
しかし…私には
彼が輝いて見えた。
「それが…そんなナヨナヨした姿が…ビッグセブンの戦艦長門なのか!!その指輪も…誇りも…ただの飾りか!!!!」
「奴を沈めるのがゴールじゃない…お前ならわかるだろう?」
–––––何処にこんな不器用な奴が居ようか。
『提督、暁の水平線に勝利を刻むぞ!』
『おう!長門!抜錨だッ!!帰ったら間宮のパフェご馳走してやる!』
『大盛り…でな』
『いいだろう!』
『…貯金をおろしておくんだな!』
提督も…ボロボロなのだろう…。
ポス…ポス…と私に力ない拳を当ててくる。
なのに…痛い。
心が……痛いんだ。
–––艦娘相手に…正面から殴り合いの喧嘩をしてくれる
眩しくて…表情が見えない。
「長門の悲しい運命だ?クソ喰らえだっ!!」
「そんな運命ぶち曲げて…ぶっ壊せ」
「さあどうする!長門ッ選べ!!」
「俺を殺してから行くか?それとも…俺と共に
有り得たかも知れない…。
私が…あの大戦を…駆け回り…活躍するのが。
私の最期は…決して納得の行くものではなかった。
この生を受けてからも……そう思っていた。
死に場所を…探していたんだ。
なのに…提督は…この私をカッコいい…誇りだと言った。
この国そのものだと。
こんな…
ちっぽけな人が…
弱い…人が
私を愛してくれる人が…
私が愛する人が
色ボケで
不器用で
優しくて
厳しくて
無茶苦茶で
私より危なっかしくて
暖かくて
寂しがりやで
ワガママで
私の愛する人が…
その小さな体で…私に全てをぶつけて来てくれる。
その大きな心で…私の全てを受け止めて…受け止めようとしてくれている。
–––あぁ…今なら分かる。
何故私が艦娘の長門として…今ここに居るか…。
私は…この時の為に…。
この提督は私達の艦旗…。
私達の希望の光…。
神崎 救と言う
このバカと…明日を歩む為に…。
これから多くを救う為に……。
ならば、ここで応えねば…なるまい。
このバカに報いる為に…。
そして、
ナガト…を救う為に。
もう私の頭はハッキリしていた–––
「バカ…だな」
「あん?!」
「私相手に殴り合いの喧嘩を挑むなど…歴史的に見ても居ないだろ」
「それが…お前を愛してると言うことなんだよ」
「前にも言ったが、俺は戦えない。それがどれだけ悔しいかわかるか?」
「俺が死んだら終わりじゃない…お前達が死んだ時点で…俺は戦場に立つこともなく椅子の上で死ぬんだ」
「……」
「そうだな……」
「ふっ……私の負けだ」
「いつも…提督には助けられる」
長門は頭を下げる。
「すまん…提督…処分なら後でいくらでも…」
「あん?ただの
「な…?!」
本当に…提督は喧嘩をしに来たのだ。
そこには…
上官も…提督も
部下も…艦娘も無く
ただ
「……そうか…本当にバカだ…」
––私達は心身を削って戦う。
––それは彼も同じだ。
––彼も同じ戦場に立っているんだ。
そして私は…私達はその想いを背負って戦場に征くんだ!!
––
「…その目つきなら…もう迷わないな?」
「あぁ…見ていてくれ」
「長門!」
「何だ?」
救は彼女の鼻血を拭く。
「笑えてくるからな…」
「これは提督が……!?」
塞ぐように唇を重ねられる。
「見送りはこれでいいか?帰ったらお前からしてくれ。そして…帰ってきたら間宮のパフェだ」
「特盛でいいか?」
「良いだろう!好きなだけ食わせてやる!だから、あの死にたがりに明日を見せてやれ!!
「忘れて………そうか…!!」
「長門さん!いつでも行けます!!」
大淀が言う。
長門が…立つ。
戦艦…長門
艤装…展開ッ!!
抜錨ッ!!!!!!
長門…
戦艦…長門。
その誇りは…決して沈まないッ!!!
決して
沈ませないッッ!!!!!
長門は見る
己の体から発される光を…。
む?何だ?この…線は…?
その線は…白露や大淀……皆へと続き、提督へと伸びている。
「…コレは…提督との…想いの絆…?」
伝わる。
「長門…行けッ」
体が更に光る
伸びた線が大きくなり、強く光る
「行けええええええ!!!」
「あぁ…見ていてくれッ––––この長門は…二度と沈まないッ!!!!」
何だ…あの光景は…
何だあの光は………
––感じる。
目障りな光。
「ヒカリガァア!!」
「消エナイ!消えナイイイッ」
お前達の光が…目障りだ!
ナガトから夕立と白露に向けて砲撃が放たれる。
が…
「うおおおああああッ!!!!」
砲弾は何者かに防がれた…どころか弾き返された!!!
「ヌウウウ!…長門ォ!!……」
「待たせた…ナガトよ…」
「長門…改ニ……抜錨したッ!!」
目の前には…長門 改よりも
凛々しく輝く長門 改二の姿があった。
「お前を明日へ導きに来た!!」
「アシタ…ナンカ無い!!」
長門が輝いている…?
「ヒカリ…ヒカリガ!!!」
「お前ナラ分かルダロウ!!同じ長門ナラ!!」
「消エナインダ!同じトコロ…目に浮カブンダ!」
ナガトは眼帯を外した。
ドス黒いほどの真っ赤な目がそこにあった。
「だからお前を…私を救いにきた」
「助ケテ……助けテみろオオオオ」
ナガトが長門へ飛びかかる。
が
長門はヒラリと躱して反撃する。
鮮やかな正拳突き。
「ガッ…ヤルヨウニナッタナ!!」
口元から血を滲ませてナガトが言う。
しかし
その後も
躱す 蹴る
躱す 殴る
躱す 投げ飛ばす
を長門は繰り返した。
同じ…長門のハズ…
同じ気持ちを抱いたまま生まれた…ハズ
なのに、なのに、どうして?
どうしてこうも違う。
何故、この長門の拳は…こんなにも重い?
熱いのだ?
長門から攻めてくる。
「お前のその無念も…私が背負って歩もう!」
ナガトは見た。
長門の姿を…
そこに夢見た理想の自分を…。
ドゴッ…
長門のストレートがナガトの顔面に突き刺さる!!
2人はその体制のまま時が止まったように…静止した。
ナガトは分かっている。
自分の中で何が1番憎いか。
ユウダチとシラツユが夕立に救われたことか?
ー違う。
艦隊計画が頓挫したことか?
––違う。
仲間に…人に裏切られた事か?
––少し当たりだが違う。
深海化して人に牙を剥くのが?
––違う。
ナガトは……自分だけの世界で思う。
「何度生まれ変わっても…
何度やり直しても
姿が変わっても…同じ事を繰り返すだろう。
だって…それが運命…私達の在り方だから…」
私がいつも自分を納得させる言葉…。
深海化してもそれは………
「違うッッ!!!!」
「!?」
誰だ?
「だから抗うんだ…!!
その運命だろうと…超えて行く…!!
お前が忘れたものを…大切なものを…お前に見せてやろう!!」
長門だ…と?!
コイツは…私の
「私達はここで沈むのが運命なのだッ!私は!お前の運命なのだ!!!!」
–否定してくれ
頼む、
ナガトは機銃を撃ち放った。
「…あぁ!見てろ!ここで私が死ぬと言うのが運命なら…お前が私の運命と言うのであれば!!」
長門はナガトへ向かい地を蹴る。
艤装を捨てて
「今ここで!それを乗り越えてやる!!」
弾は長門に掠るが…長門は怯む事も避けるそぶりも無く
–そうだ……頼む!!
–お前は…
「コレでも…抗うかッ!?」
ナガトは主砲を向け–––––
––お前は!
長門はもう居た。
「
––誇り高い長門なのだから!!
「くっ…それでいい!さあ」
「……」
そして長門は……
「何をする!!やめろ!長門!!」
ナガトが何も成さず……仲間に…人の手で沈むのが運命というのなら…
その本来の温かさを忘れたらと言うのならば…
その運命を…超えて、私に出来るのは…
夕立のようにシラツユの意思を継いで倒してやる事ではない。
長門としての誇りを無理矢理ぶつけてやることでも無い。
「もういいんだ…」
「お前を待つのは……悲しい運命だけじゃない…」
「分かるか?私の温かさが」
この…光を……この温かさを…伝える事。
長門は…ナガトを優しく抱き締めていた。
「あ…あぁ!!!!」
ナガトを包み込むのは…自分への憎しみでも殺意でもない。
長門の温もりだった。
期待された戦艦だった。
それが誇りだった。
沢山の仲間に愛された…
憧れられた…
それも誇りだった。
2度目の生こそ…皆と同じように
戦さ場で…最後を迎えたかった…。
人の温かさに触れながら…その為に命を散らせたかった。
だから…艦隊計画なぞにも協力した。
なのに…
なのに…
私の尊厳も誇りも…踏み躙られるような最後…
憎かった
ただ
ただ
憎かった
「もう…泣かなくて良い……
「……間違っていたの??……私は…」
「いや……知らなかった…いや、迷っていただけだ」
そう、彼女は艦娘になってから忘れていたのだ、知らなかったのだ。
人の温かさを…優しさを。
いや…
自分を…自分の在り方を信じ続けようとしたからこそ…
2度目に沈んだ時に裏切られた!…と、閉ざしてしまったのだ
優しさを、温もりを全てを…。
人や仲間のそんな所は無いはずだ…
コレは運命なんだ–––と、自分を納得させて。
「ほら、皆が待ってるぞ」
あぁ……陸奥…酒匂……………
「…皆……暖か……光が………」
「後は任せろ…私が…この海の平和を取り戻し新しい明日をお前達に届けよう」
「……期待していいんだな?」
「もちろん…何故だかわかるだろう?」
2人は言う。
「「誇り高きビッグセブンの戦艦長門だから」」
現実世界では…ナガトが光に変わっていった。
「…ソウカ……お前は…私の中にまで来たか…」
「……同じ長門だからな」
こんな終わり方も…あるのか…
………ナガトは見た
艦娘達が…提督が…
自分に向かって敬礼をしている姿を…。
現実か…夢幻か…
もはや彼女にはわからないが…
それでも…
彼女も震える手で最後に敬礼をした。
「……礼を言うぞ…」
「そして…お前を見守っている…」
さらばだ…。
ナガトは光になって消えた。
長門は真面目な時は…強い
安心してください!扶桑とゴーヤは出来つつありますから!
少しでもお楽しみ頂けたなら幸いです!