提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
『……響?ウチの響は改ニだぞ?』
『響?ヴェールヌイでなくて?』
『何だそりゃ?響は響だろ?救ちゃん』
「提督ッ!!」
「ていとく!!」
響と妖精さんが呼びかける。
頭を少し切ったらしい救が大丈夫だよと言う。
「そんな…私のせいだ…ごめんなさい…やっぱり…私は……」
「…響」
「ひびき、やろう!いましかないよ」
「こんなので…本当の改ニになったら……私は…私は余計に嫌われちゃうよ!!」
「ひびき…」
「私は私のままでいたいよ!あの名前は…私は嫌なんだ!!」
「きっと提督にも、皆にも見捨てられちゃうよ」
「響じゃない私なんて……」
「今のままでもいいじゃないか!!…ね?皆が来るまで待とう?」
弱気になる響。
「でも…もうそこまでてきはきてる!」
「いやだよ…私は…嫌われたく…」
「そんな事ないッ!!」
「え??」
「例え…お前がどんなだろうと…お前には変わらない」
「名前が、国籍が変わろうとも俺はお前から離れないッ!!」
「あ……」
あの真剣な眼差しだった。
私の大好きなあの表情が私に向いていた。
敵が少しずつ近付いてくる。
私は……
「ひびき…」
ふわりと近付いてきたのは妖精さん。
「妖精さん!!!」
救が焦ったように言う。
妖精さんは鎮守府運営の要なんだ。ここで怪我させるわけにも、失う訳にもいかない!
「…きいて、てーとく」
妖精さんは真剣に俺に問いかけた。
「ほんとに…てーとくはきにしない?なにがかわっても…」
いきなりの質問に戸惑いながらも、俺は真剣に返した。
「当たり前だ」
「そう」
「ひびき……きっとだいじょーぶだよ」
妖精さんは彼女に話しかけた。何のことか俺にはわからないけれども…彼女は立ち上がって「うん」と言った。
「わたしはあなた…あなたはわたし」
「どういう…」
どうやら話について行けてないのは俺だけらしい。
「そのままの意味だよ提督…。妖精さんは私なんだ」
「私達が願った…結晶なんだ」
妖精さんとは…"願いの結晶"である。
人の願いか?
海の願いか?
世界の願いか?
否
「艦」の願いである。
かく在りたいと言う願い。
終われども…それでも尚力になりたいという願い。
もう一度…この世に生まれたいと言う願い。
その形が妖精の姿なのだ。
彼女達は表に出ない。心許した…資格を持つ者にしか見えない。
それは
艦の声を聞く者。
海の声を…命の声を聞く者。
良くも悪くも…彼女達は選べない…その者が善なる者かどうかまでは…。
だが、彼女達は力を貸す。
来る未来が明るいものと信じて。
「ねえ…もういちどきかせて?てーとく?わたしたちをしんじられる?」
「たとえぜつぼうのなかでも……わたしがわたしじゃなくなっても」
「最後の最後まで信じるさ」
「なら…うん…わかった」
「ひびき…今だよ」
「…うん」
響はその声に答える。
「わたしたちは…2人でひとつ」
「わたしは…たいせんごのきおく」
「私は大戦時の記憶」
妖精さんは言う。
「…わたしたちはね?あまり…このなまえはすきじゃないけれども……大好きなあなたの為なら…喜んでこの名前をあなたに捧げる!!」
「行こう…響」 妖精さんは言う。
「行こう…ヴェールヌイ」 響は言う。
2人の体が光りあう。
敵もたじろぐほどの眩しさ。
ヴェールヌイ
響が大戦後に露国に接収された際の彼の国での名前。
信頼できるもの…と言う意味らしい。
彼女は新しい名前で新たな艦生を歩むことになる…。
が…彼女はついに祖国に帰ることなく彼の国で…最期を迎える。
響として…終えることのできなかった命。
人の手によって冷たい海に眠った彼女。
帰りたい…。
姉妹や仲間に受け入れられなかったらどうしよう……
ましてや大好きな提督に…となると……。
その気持ちは彼女の心に大きな影を生んだ。
故に彼女の魂は自分自身を2つに分けた。
響としての艦娘…。そして、ヴェールヌイとしての妖精。
だが…ヴェールヌイとしての彼女も…もう一度人の役に立ちたいと願う。
その願いは妖精となってずっと彼女…いや、自分自身を見守ってきた。
ー響 改ニー
そう、これは不完全なのだ。
この世界では救の下でも響は改ニ状態でしかなかったのだ。
本来はあり得ない。
ただ、この世界ではその先がヴェールヌイなのだ。
だが、彼女達が真に認めた者でないとその姿は見せられない。
自分達の願いを託せる提督でないと…。
信頼できる人にでないと…。
この名前だと嫌われてしまう。
それは杞憂だった。
なぜなら…彼女は彼女だから。
その言葉を受け取った彼女達。今の2人の願いは…
大好きな人の為に…大好きな世界の為に戦いたい…だ。
名前にしがみつくプライドなんかより…
この人の方が何倍も大事だから。
彼女達は覚悟を決めて受け入れた。
もう、響としては居られなくなる。
だから何だ。
それがどうした!私は…響だッ!
そんなことを彼は気にするような人ではない。
それは私達が1番よく分かっている。
きっと…あの人は私を響と呼んでくれる。ヴェールヌイと呼んでくれる!
彼女は一歩踏み出す。
彼女は一歩寄り添う。
2人は目を閉じる。
暖かい光が…私の中に…
提督との強い絆の暖かさと……優しさと…
仲間との強い絆…。
『……何?』
深海棲艦は目を見開いた。
響 –– 真 改ニ 発動 ––
名称変更
新真名 ヴェールヌイ
「ヴェールヌイ…抜錨」
ガラガラと碇が上がる。
ヴェールヌイ…。
彼女は深く帽子を被り…新しい姿で敵と対峙する。
「例え…名前が変わろうと…お前はお前だよ…響…」
「うん」
ありがとう…提督。
「ちょっと!響!!何1人で抜け駆けしてんのよ!」」
突如響く声。
聞き慣れた声。
そこには姉妹の姿があった。
騒ぎに駆けつけた彼女達は…響を見つけた。
「…え…」
サッと帽子を深く被るヴェールヌイ。
彼女は不安だった。
見た目は響なのに名前が違う…もし、認められなかったら…と思うと…。
「何よ!名前がカッコよくなったからって!レディなの?!」
「!?」
響は驚いた。
「いくら名前が変わろうと…あなたはあなたよ!」
「私達の姉妹…六駆の駆逐艦…響よ」
暁が先頭で言う。
「行くわよ!!ついてらっしゃい!!」
「その前に…」
「ほ、ほら!提督?この子に渡すものあるでしょう?」
「ま、待ってるから…早く渡してちょうだい!!」
初めてのケースだわ…そんなの
コホンと咳払いを軽くして響に向き合う。
「…お前は響であり、ヴェールヌイである」
「…響……これからもずっと…俺と共に居てくれ」
「…うん…居るよ」
「提督が好きだから…認めてくれるあなたが好きだから!!」
指輪を渡して抱き寄せる。
キスは…甘い味がした。
「……私も早くちょうだいね?」
と、暁が言う。
「行ってくるよ!提督!!」
4人は海を駆ける。
例え…
死に場所が違おうと、名前が違おうと…
彼女達の姉妹である絆は誰にも別つ事はできない。
響は見違えるほどにその力を発揮した。
「…左……撃つッ!右は当てるッ!」
敵を寄せ付けない牽制と砲撃の使い分けに魚雷の予測発射。
「その方向には…魚雷がいるよ!」
ズドォン…
ズドォン!!
「暁!!左から来るよ!!」
「任せてッ!!」
並の駆逐艦では全くと届かない言っていいほどの領域に彼女は居た。
今の彼女達は恐らく最強に近いと言っても過言ではない。
「デートの邪魔をしてくれたね!でも…私は分かり合えた!自分と向き合えたッ!!」
「私は私だっ!!」
………
……
…
「少し時間が短くなったのが寂しいなあ…」
「でも今日はお疲れ様…よくやってくれた」
「……うん」
「…響?」
「ん」
「ヴェールヌイ?」
「ん?」
「………響」
ぎゅっと彼女を抱きしめる。
「……ん」
「この分の埋め合わせと褒賞はまたさせてくれ」
「待ってる…」
2人は仕事前のギリギリまでずっと隣に居たとか…。
メッセージで響の改ニはヴェールヌイじゃないですか?と質問してくださった方が居ました。
こういう使い方でした…。ネタバレになるんで曖昧な言い方ですみませんでした!
さて
今回は特殊なパターンでした。
長門達とは違った最後の迎え方をした…ということで今回のような話にしてみてます。
少しでもお楽しみ頂けたなら幸いです。
感想などお待ちしてます!
ぜひぜひ!よろしくお願いします!