提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
「……え?」
「あ」
そこには…改装の為臨時休業と書かれた看板があった。
「ははは!やられたな!」
「そんな…」
焦る。
「そ、そうです!別のプランの店に行きましょう!!」
そう言いながら俺の手を引く霧島。
「そんなに焦らなくても良いんだぞ〜」
「だ、大丈夫ですから!!」
予定より遠いところでのショッピング…
少し焦る霧島。
お昼ご飯も当初行く予定のモールの近くだったので…
時計を見たらお昼過ぎ…
幸い、この付近にもピックアップした洋食屋さんがある!
「…定休日……」
そうだった…ここは今日は定休日だった…。
ふふっと笑う提督…だが、霧島はそれどころでは無かった。
最終的には…1番最後の候補の店しか空いていなく…そこでのランチとなった…
「……すみません」
「ん?気にして無いぞ?楽しいじゃないか。君とこうやって歩くのは楽しい」
「それに飯もうまい」
どういう訳か…その後も霧島のプランに反したデートとなった。
パフェを食べに行った店は売り切れ。
コーヒーとケーキのお店は大行列。
少し時間を潰して戻ったら人が増えていた。
その後の
ショッピングは…言わずもがな…
あっという間に夕方になろうとしていた。
帰りがてらに散歩していると…隣に居たはずの霧島が視界から消えた。
振り返ると…。
「…ふっ……ぐっ…」
スカートを握りしめて俯く彼女はぽたぽたと涙を眼鏡と地面に落とした。
俺は本当に気にしていないのだが…彼女には許せないのだろう。
「も、申し訳ありません…完璧にリサーチしたつもりなんですが…いえ、言い訳ですね」
「完璧だと慢心していました…」
「ただ無駄に歩かせて大切な時間を浪費させたのです…」
「わ、私は…今日を…大好きなあなたに楽しんで欲しくて…うっ…ぐすっ…ぐすっ」
はらり…と霧島からメモ紙が落ちた。
俺はそれを拾い上げる。
涙で滲んだそれには…
朝一からのスケジュールが書かれていた。
朝ごはんは手作りの和食。
前日のメニューも調査しており飽きさせない工夫。
だから…納得のいかない朝食だったのか…。
船の上ではこの時期にもしかしたらイルカが見られるかもしれない。
ショッピングでは最近オープンしたスイーツと2人で見たいお店をピックアップ。
昼食は前に姉妹で行った…イタリアンランチ。
オヤツはコーヒーとケーキで…。
夕焼けを見ながら…早めに帰って2人で夕食、のんびりする。
細かな時間や店の名前も明記されており、如何に今日の為に計画を立てていたかが分かる。
余程楽しみにしてたのだろう。
定休日や改装工事はリサーチが出来ていなかった。
臨時休業は仕方ない。
その中に…消したであろう言葉が…微かに見えた。
これは…
金剛も言っていた。
かなり力を入れて計画している…と。
寝る間すら惜しんで。
霧島は金剛型四姉妹の中でもブレイン的ポジションである。
弾道の調整計算、その他頭脳派で戦場を駆ける。
それは戦場以外でも…であり、秘書艦の時には確実に時間内…いや、時間を余らせる勢いで仕事を終わらせる。
曰く
「時間が余ればゆっくりお話もティータイムもできます」
とのことで…。
その霧島が、目の前で泣いている。
必死に泣かまいと…唇を噛み締めて俯いて…スカートを強く強く握りしめて…小さく声を漏らしながら泣いている。
何と声をかけるべきだろうか?
今の彼女に俺ができる事は?
どんな言葉が…彼女への労いと慰めになるだろうか…。
……あのメモの……
私は…今日の為に…
提督の為に……なのに…全部裏目に出て…提督を引っ張り回して…
結局…何も良いところが無かった…
お姉様達に負けたく無い。
私だって…提督の事を好いてます。
だから…だから…少しでも…あの中で私が霞まないように…
精一杯やったつもりだったのに…
私は–––––
抱き締められていた。
抱き締められながら…頭を撫でられていた。
やめてください…
私にそんな資格…無いです。
しかし彼は辞めなかった。
服が濡れようと…その体も手も温かいままで…
優しく私を…
「…ありがとうな霧島」
「感謝されるような事は……何も」
事実そうだ。
楽しみにしといてください!と言ったのに私は…
「見てご覧」
「–––––え?」
提督の胸から顔を上げて提督の見る先を見た–––。
「–––––––––ッ」
私は言葉を失った。
その先には…
夕焼けに染まる海。
どこまでも続く広い海は…とても綺麗で…遠くに見える島も…建物も小さくぼやけて。
寒い季節だからか…空気は澄んで…遠くまで見える。
遠くの水平線の彼方に向かう夕陽は…あたりをオレンジ色に染める。
涙で滲むその景色は…綺麗で…儚くて…。
今の私には眩しすぎる程に…。
自然と言葉が出ていた。
「……綺麗」
「…コレを見せてくれるつもりだったんだろう?」
そんな事は無い。
決してそんな予定では無かった。
なのに…
なのにー…
この人は…この人はそれすらも私がそうしようとした事にしてくれている。
君の事全てが失敗じゃないよと…
言っている。
「…失敗しても良いじゃないか」
「俺は…君との今日が楽しかった。君に手を引かれて着いて行くのが幸せだと思った」
「こんなに良い景色も見られた」
「ありがとう…霧島」
「……バカですよ…提督は…」
「そ、そんなこと言われたら…私ッ…私はッ」
「ああ…バカだ」
「だからこそ君が必要なんだ」
「だから君にコレを…この素晴らしい景色の中で送りたい」
「あ––」
銀色が…夕陽色に反射するそれは…。
予定メモに書いて…消したイベント。
彼が見たそのメモには…
消されてはいたが…薄っすらと…本当に薄っすらと読み取れるかも知れない文字があった。
夕焼けが綺麗な海の見えるところで2人で過ごす。
そして…愛していると伝える。
指輪を……貰う。
それは彼女が伝えたかった言葉と
何より欲しかったもの…。
どんな言葉よりも…
どんな贈り物よりも欲しくて…欲しくてたまらないもの。
2人の永遠の愛の証。
シルバーに輝く小さな指輪。
でも、それを決めるのは私では無いから。
書かなかった、書けなかった。
「あぁ…あぁ…!!」
何一つ予定通りに叶わなかったのに…
コレだけは叶えられてしまった。
叶ってしまった。
「い、良いんですか?提督…こんな……私に……」
「君だからこそ渡したいんだ。受け取ってくれるか?」
同情もない。
哀れみでもない。
たた…そこには…私に向けた
私だけに向けた笑顔でその贈り物を差し出す彼がそこに居た。
「はい、喜んで…!!」
きっと…ちゃんと言えてなかったであろう。
溢れて…止どまることを知らない涙であなたの顔もまともに見ることが出来てはいないだろう。
でも…伝えるんだ。
こんな私でも…しっかりと…伝えるんだ。
「喜んでお受けします」
「私も…愛しています!!」
と…。
左手が熱い。
左手の薬指が熱い。
触れられた唇が熱い。
私は今日を忘れない。
死ぬ時も…その後も…カッコ悪い私に…彼が笑顔で送ってくれた愛の証を。
「言葉が見つかりませんね…嬉しくて」
「良いじゃ無いか…計算通りです!…で」
私は涙を流しながらニヤリと笑って言った。
「えへへ…計算通りです」
キスされた。
抱き締められて…少し長く。
「・…」
「可愛くてつい…」
帰り道は…手を繋いで。
お姉様や他の方もこうやって一歩一歩をゆっくりと踏みしめながら帰ったのかな?と思いながら…彼女は彼と共に帰路を歩む。
泣いた後の頬が少し風で冷たいけれども…
繋いだ手はそれ以上に温かくて…。
「愛しています」
何度も言った。
「俺もだよ…愛してる」
何度も返してくれた。
「楽しかったみたいネー」
「幸せそうで良かった!」
「私も…その時は!頑張ります!」
「全てうまく行かなかったですよ…」
「でも…一つは叶ったんです…失敗をかき消すほどに幸せな願いが叶ったんです」
「あっ!…ついに霧島も!?」
「あっ!羨ましい!!」
金剛姉妹の部屋からはワイワイと霧島が救の部屋に戻るまで声がずっと響いていたとか。
数日後…
「…提督!?この書類は締め切りが明後日ですよ!」
「明日じゃダメ?」
「今やってください!」
「予定通りに行かないことも……」
「ダメです…!」
「うぅ……」
渋々と執務をこなす。
こんな時でもやらなきゃならないことは多いのだ。
あの一件以来…霧島の計算には磨きがかかったようだ。
というか…厳しい…。
「そのかわり…」
「終わったら2人で間宮さんのパフェ食べに行きましょう?」
霧島はニコリと内緒のポーズでコソリと言った。
「ね?ダーリンさん」
その左手にはキラリと光る指輪が…。
全て計算通りに上手くいくとは限らない…
だけれども一生懸命に頑張った人は何かで報われる…と言ったお話でした。
少しでもグッときて貰えたなら幸いです!
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