提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
後ろを見れば栄光があるのに…
目の前は果てしなく続く暗闇なのだ
今この時は…その闇に差し出した光なのだ。
『時代遅れ…』
偽艦娘と偽物KAN-SENが放った言葉はその一言だった。
その言葉は天龍をキレさせるのに十分すぎる一言だった。
「待て!天龍!」
という桜三笠の静止を振り切って天龍は偽天龍に斬り込んで行く。
「くっ…あのバカ…!龍田…奴の援護にまわって貰えるか?」
「わかりました。でも…桜三笠さんは…?」
「我なら大丈夫だ!」
『味方は多い方が良いのではないか?我よ…いや…我の亡霊よ』
目の前には…
砲門の増えた…前弩級型でない三笠が立っている。
「亡霊はお主の方だ!」
許せねえ!許せねえ!!
天龍にとってその言葉は己を踏み躙られるのと同意義であった。
『図星か?』
「るせええ!!」
天龍の一閃をヒラリと避ける。
目の前に居るコイツがムカつく。
眼帯もしてなくて…装備も…クソ理想的な装備で…。
『テメェじゃ俺には勝てねえよ!』
ドゴッ…!!
と、蹴りを喰らう。
「ぐっ…このおおお!!」
体勢を取り直して突っ込むが…
『甘いッ!』
相手の天龍も刀を出してくる。
刀身も刃渡りも大きい!!
「くそおっ!」
間一髪で躱した
ブシュッ…
左腕に激痛が走る。
どうやら間に合わず斬られたらしい。
世界水準…と言われた当時。
その強さは当然のものであった
『惨めだな…天龍。だから置いて行かれるんだ』
「あぁ!?」
「天龍ちゃん!落ち着いて!」
追いついた龍田が諫める。
『龍田か…お前も知ってるだろう?』
『古い存在は…弱いと』
『自分を強いと怖いと言い聞かせて…何と哀れか』
「……」
「うるせえええ!」
「俺は強え!」
『
「このッ…」
「落ち着いて!天龍ちゃん!」
「うるせええ!悔しくねえのかよ!龍田はッ!」
『妹にも置いて行かれ…愛する者はお前に目もくれず…』
『そして…龍田お前は…そんな姉を笑う』
「…龍田?」
「そんな事ないわあ!」
『嘘だな!無茶ばかりするバカ姉貴に辟易してる。心を痛ませる提督に申し訳なくなる』
「…いや……でも…」
「へっ…そんな事かよ…」
「笑ってたのか…龍田ァ!!」
「ちがっ」
ぽろぽろと涙を溢す龍田。
『……ふん…』
「まずはテメェをぶっ殺してやる!!偽天龍!!」
天龍が突っ込む。
『ばかめ…』
『だからその改ニも不完全なのだ』
パキイイイン!
天龍は斬られた。
自慢の刀ごと。
ブシュウウウと血が流れる。
刀?
俺の…魂の?かたなが?
ガクンと膝をつく。
「天龍…ちゃん」
『…貴様は……わかってない』
『だから…提督にも選ばれない』
『いや…提督すら…お前の中では己の存在を確固たるものにする為の手段なのだ』
『…どうした?』
「くっ…我はまだ…やれる」
膝をつく桜三笠。
『その時代遅れの装備でか?』
前弩級戦艦ー…。
当時は最強とも言われた戦艦もドレッドノート級の台等によって前と言う名称の括りにされた。
砲門の数は…即ち攻撃の手数の違い。
所謂、新型の弩級戦艦には前後に2門ずつの主砲があり、最低でも2門が相手に発射可能。
つまり、T字での戦闘においては…4門での掃射が可能になる。
それは砲撃戦においては致命的な違いを持つ。
時代の移ろいとは…かくも残酷な現実を叩きつける。
「そうだな…」
桜三笠はフッと笑った。
「だから何だってンだァァァア!!」
血みどろの天龍が吠えた。
「ぅルセェんだよッ…」
「そんな訳ねえ!アイツだけなんだよ…仲間以外でずっと俺を信じてくれた人間は…だから…俺はアイツに応えてえんだ!!」
『ただ…自分の弱さを認めたくないだけだろうが!!』
「…違う…っ!!」
天龍は…超前衛型…といえば聞こえが良いが、どこの艦隊でも大破しやすい艦娘と言われている。
敵陣に切り込んで行く姿は勇猛と言えるが…
その分傷も負いやすく、大破に追い込まれる可能性が高いのだ。
中には死すら恐れていない天龍も居る。
最終的に効率やその他を鑑みて、安全な遠征に回される事が多い。
だが、彼女は戦いたい……というより、自分が役に立つ事を証明したいのだ。
だからそこの理想と現実に乖離が生じて性格が曲がるのだ。
『そのプライドも折れているがな…』
天龍にとって艤装の刀は天龍そのものなのだ。
妹に対する劣等感、嫉妬
それを認めたくない心…。
折れた…刀。
天龍の改ニが不完全なのは……
己を認めていないから。
そうだ…
俺は…
認めたくねえ…
龍田にも負けてて…
時代遅れで…なんて…
俺は…ただ!!
いや…わかってるんだ。
でも認めたら終わっちまう気がするんだ。
俺を支える全てが…
「天龍よ…」
いつの間にか立ち上がっていた桜三笠が言う。
「我は見てきたぞ」
「この国の…栄光も…どん底も…興廃全てを」
「どれだけどん底でも立ち上がれるのが強さだ」
「私とて…当時は世界最先端を征く戦艦だったのだ」
「それが今や…前弩級戦艦…」
「いつしかは置いて行かれるものなんだ」
天龍は思い出す。
敷島型四番艦…
明治期の日本を勝利へと導いた旗艦も…今となってはその強さは…完全たる過去の遺物になる。
しかし、彼女はそれを受け入れている。
しかし、彼女は強かった。
KAN-SENとしての強さなのか…たしかに武装は弱いが…それでも強かった。
己を受け入れた上でも彼女はもがく。
それは…
「後ろを振り返れば栄光があるのに…前を見れば果てしなく遠い…遠い暗闇しかないのだ」
「だが…どれだけ時が立とうと私の誇りや栄光は消えない」
「それはお前達も同じだ」
「我にとってな…お主達と共に…この世界を…愛する者を守る為に戦える誇りや喜びというのはのは…果てしなく遠い暗闇に差した…光なのだ」
彼女がその光へと手を伸ばしたいから…
プライドを捨てて、誇りを守りながら必死でもがくのは…
愛する者へ応えたいから。
彼女は言う。
弱くて良いじゃないか
古くて良いじゃないか
我らはここに生まれて…存在している。
それだけで意味がある…と。
弱きを認めるからこそ…
自分を認めるからこそ…
きっと彼女は強いのだ
「征こう…共に…」
「暁の水平線に…勝利を刻むのだろう?」
「…桜三笠さん………ありがとう」
「龍田…ごめんな」
「ほんも……しょうがなねえな」
「ええ…先輩にそう言われたら…」
やるしかないでしょ!
「あぁ…そうだよ」
「龍田には先を越されるし…素直になれねぇから…俺はいつまで経っても今のままだ」
天龍は思い耽る。
『天龍……』
救が差し出した指輪。
『提督…わりぃ!その指輪…帰ったら贈ってくれよ。そん時ゃあ…俺も素直になれるはずなんだ』
欲しかった。
でも…今はその資格がないから…と言い聞かせて逃げた。
「俺だって…アイツが大好きなんだッ!!」
「龍田にも負けたくねえ!誰にも負けたくねえ!!」
「天龍…ちゃん」
「確かに俺ァ…強くねえよ!!他に強い奴は沢山居るよ!」
「でも…いつだって俺は…」
「確かに…世界水準なんかじゃねえよ…」
「皆の先陣切って…誰よりも前で戦って来たんだッ!!」
「俺は…ずっとアイツに応えたかったんだ。ずっと1番であり続けたかったんだ」
「悪いか!!」
「それは今後も変わらねえ!俺は!俺に出来る方法で…ずっとそうあり続けるんだ!!」
彼女は認めた。
己は弱い…と。
確かに時代遅れだと。
だが…彼女が歩みを止めることはなかった。
より高く…遠くに…彼女は登ろうとしていた。
「天龍ちゃん」
龍田から差し出された物は……
「刀…?」
「提督から…あなたに」
「え…」
「明石さん達に頼んで作ってもらってたらしいわぁ」
「頑張ってデザインしたらしいわ」
『天龍〜刀見せてくれよぉ〜』
『あん?良いけど…』
『かっけーよなあ…刀…』
『だろぉ?わかってくれるか?!』
『これは握っててしっくり来る?』
『そーだなあ…それが良いなあ…』
その感覚を頼りに救は明石にお願いしていたのだ。
[折れない刀を作って欲しい…と]
決して折れることの無い天龍のように不屈の刀を
「…ばかやろぉ……」
「死にたがりな天龍に…折れない
龍田は続ける。
「
誰か…ではない。
「皆」なのだ。
指輪の有無は関係ない。全員が生きて無事に戻って来なければ…
勝ちとは言えない。
『………』
『なら超えてみよ!貴様らが…本物だと…この偽物よりも強いと言うのであれば!超えてみよ!!』
天龍は構える。
何でしっくりくる刀なんだ…本当に…あの提督は…。
だからこそ応えたい。
自分の為でなく…アイツが誇れるように。
この天龍を戦場に出していることを…誇って貰えるように
「悪りぃ…提督…俺ァ…」
「あんたの事が…大好きだ!!龍田にも負けたくねえ…!!」
例えこの声が聞こえなくとも良い…
「こんな…ハンパで…確かに時代遅れで…強かねえけど…」
「ずっと…あんたの隣で…あんたの為にこの刀を払いたい!」
だから…頼む…
俺に力を貸してくれ……
天龍の体が光る。
天龍は感じる。
温かな…陽の光のような暖かさを。
この感じが…
あぁ……最高だ。
この刀は…ずっと…あなたと共に
もう…絶対に…
天龍 改ニ 超高揚状態。
天龍は駆ける。
その新しい
やがて彼女の身を光が包む。
「いけえ!天龍ちゃぁあん!!」
天龍は一気に距離を詰めた。
偽天龍が刀を振り払う。
『貴様なんぞに…この俺がぁぁあ!!!』
偽天龍は刀を振り下ろす。
天龍は刀を振り上げる。
音はなかった。
そのまま…
「うおおぉぉぉおおおおお!!!」
天龍は飛んだ。
斬り上げながら高く飛び上がった。
まるで龍が天に昇るかのように。
『ぐっ!がっ!ま、まさか!』
『こんなに……!』
黄色い閃光が天に昇り…雲までも断った。
「我も…負けぬぞ!!」
桜三笠は艤装を構える。
『…いや…私の負けだ』
「なっ?!」
どしゃり…と偽天龍が落ちてくる。
『がふっ…』
『やられたな…偽天龍…』
『あぁ…本当に時代遅れなのか?って言いたくなるくらいに…強え』
「一体何なのだ?!お前達は…敵なのか?味方なのか?」
『…敵だよ…でもね……私達にお前達は…撃てない』
偽三笠は微笑んだ。
「え?」
『いいかあ…天龍…その想いだ…ぞ…お前はそれでいい』
『…お前は弱くねえ……もっと自分を見つめて……すりゃあ…きっと…』
「意味わかんねえよ!何なんだよ!お前達は!」
2人は言う
『『お前達だよ…』」
その言葉と共に…2人は消えた。
「アイツらは何を…」
釈然としない天龍。
「三笠さん。わかります?」
と、竜田も首を傾げる。
「…わからんが…一つだけ言えるのは…誰よりも私達のことを分かっていた…ということか」
「…やっぱり俺達なのか?」
「…わからんがな…」
勝ちというには…少し後味がよくなかった。
彼女達の心に少しだけ引っ掛かりを感じながら彼女達は…愛する者を目指した。
引っ掛かりをもった…後味の悪い終わり方にしています。
不完全燃焼気味な感じ…
何故彼女達は自ら消えたのか…?
何故でしょうか
少しでもお楽しみ頂けたなら嬉しいです!
感想などお待ちしています!
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