提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
「あら…」
「…うまぁい!」
「おいし…」
「そうだろう?」
これは那智がBARを開く少し前の話。
何やら上機嫌な那智。
柄にもなく笑顔で口笛なんか吹いてさ。
「お?那智、どうした?上機嫌じゃないか」
「む?提督か…。例のやつOKでたぞ!明日の夜…来るといい」
「ほー!マジか。そりゃあ楽しみだ」
さて…例のやつとは?と思ってるだろう?
知りたいか?
知りたいだろう?
知りたい筈だ…そうに違いない。
私の趣味は…酒だ。
え?オッサンみたい?
沈めるぞ…?
酒はいいぞ?
体にも良いし…コミュニケーションの一つにもなる。
無論…飲みすぎると体に良くはないが…そこは個人の采配次第だろう。
提督もなかなかイケる口でな…。
さすがというか…色々と入手経路を持ってるらしく…私もそれに肖っている。
が…
自分で飲むだけではつまらない。
なので…だ。
「鳳翔さん…お願いがあるのですが」
「はい?何ですか?」
「その…定休日でいいので…ここでBARをやらせてもらえないか?」
「ばー…ですか?」
「ああ、私のお酒コレクションを…お金は少し貰うが、皆にも楽しんでもらいたい」
「酒やつまみは用意する!店と席だけ貸してもらえると嬉しいです」
「片付けや掃除もしっかりするし…手伝いもする」
「だから、どうか…試しに一回でもいい!お願いできませんか」
ピッと頭を下げる那智。
鳳翔はクスッと笑い…
「どんなお酒があるのですか?」
と聞いた。
BAR 酒好きの集い
鳳翔の看板を見た那智から頼まれた救が作った看板を玄関に立て掛け、はじめてのBARが開店した。
といっても…居るのは
提督に鳳翔、隼鷹に千歳。
2週に2回の不定期鳳翔の休みに夜にだけ開く大人の空間。
いつしか…新たな憩いの場となった。
那智のチョイスするお酒は人気だった。
その日の気分に合ったカクテルや酒を出し、うんちくもウザくない。
鳳翔のつまみや、習って作った…もしくは取り寄せたつまみも人気の理由の一つだった。
実際、鳳翔と俺もよく顔を出した。
「ヘーイ!那智〜!グレートデース!ダーリン♡いいムードヨー?」
「…美味しいです…気分が高揚してきました」
「酔ってるだけでは?」
そんなある日のことだった。
「明日からは…ここではできないわ」
突然鳳翔さんから言われた。
「な……そ、そうか…今までありがとうございました」
…楽しい。
こんなにも楽しいが…こちらはあくまで間借りしている身、文句は言えない。
何故だ?
鳳翔さんも楽しんでたはずなのに…
何か粗相があったか?
いや…無かったはずだ…
まさか…お金が少なかったから?
売り上げも悪くない…適正価格より少なかったから?
「提督が呼んでましたよ」
「ああ…行きます」
とぼとぼと那智は歩いて行った。
「那智…BAR体験は楽しかったか?」
「ああ…でも今日からは出来ないと断られたよ」
「仕方ないな…間借りだからな…でも楽しかったさ」
「楽しかった?」
「あぁ…皆と語らい、楽しく酒を交わして…普段見られない一面を見て…私も良い刺激になったんだ」
「願わくば…またどこか––––」
「那智、時間はあるか?」
「あ…ああ…」
呼ばれるがままに背後をついて行く。
途中で鳳翔さんが合流した。背中しか見えないが2人とも少しずつソワソワした感じだった。
そういや…お金だけじゃないな…
提督を殴った事もあったな…
もしや…解体されるのか?
だから最後にやりたい事をやらせてくれたのか?
等と色々と考える。
「着いたぞ」
提督が言った。
なら、どのような結末でも受け入れようー…。
目の前に…それはあった。
こじんまりとした…洋風の構えの入り口。
それは一目で私のBARだと分かった。
なぜなら、あの看板が…出入り口のところに架けられていたから。
「なっ……あっ…」
「だって…明日から自分の店を持つのだから……ね」
鳳翔がニッコリと救の隣に立っていた。
「金…解体ではないのか?」
「お金?」
「解体?何のことだ?」
「…鳳翔さんにお礼を言うんだぞ?」
『あなた?お願いがあるんです』
『何?』
『このお金…で那智さんにお店を出してあげて欲しいの』
『結構な額じゃないか!どうした?』
『間借り代とおつまみ代にっていつも納めてくれていたのを取っておいたの』
『あんなに楽しそうにやってるの…なら、応援したいもの』
『……』
『あなたも楽しかったでしょう?それに…』
『ああ…あんなに生き生きとやってたら…なあ』
『妖精さん…コレで…どうかな』
救は右手で3の指を出す。
『…5…だね』
『…5だとぉ!?』
『それくらいじゃないと、わりにあわない』
『フッ…ケチのついた話だと…ダメだからな…!気持ちよくやって欲しい………よし!なら5…いや!7出す!やってくれるか!?』
両手の指で7を出す。
『ふっ…やってやりますか…』
『頼んだぜ』
ちなみにお金ではないよ?
お菓子の数ね。
私は…今までの人生…艦生の中で泣いた事はない。
いや…うるっとはきた事はあるぞ。
でも姉妹以外の人前で涙を流した事は無いはずだ。
…正直泣いたことはある。
だが…
酒は自分の趣味だ。
BARとて…趣味の延長線の筈だ。
しかし、いつしかそれが楽しみとなった。
何度も言うが…
お酒を通して得られる時間…
仲間の意外な一面や…考え
あの人との時間…
それが…私にとって何よりの楽しみとなった。
正直に言おう。
鳳翔さんに…明日からできないと言われた時は…心の中が物凄く傷んだ。
あぁ…そんなにも私は楽しみにしてたのかと…痛い程に自覚した。
「………ズルイな…そうならそうと…言ってくれれば良いのに…」
「すまんな」
びっくりさせたくて…と彼は言う。
「良かったね」
と、妙高姉さん達は温かく拍手してくれた。
周りにはいつしか皆が集まって…おめでとうと言ってくれる。
馬鹿…
涙が止まらないじゃないか…私はそんなキャラじゃ無いのに…
「私はそんなキャラじゃないと思ってるだろう?」
提督がニヤリと笑って言う。
「…そうだな」
「お前が言ったんだ」
「お酒で見えた仲間の意外な一面…て奴だろう」
「俺達がお酒を通して知った那智の一面だ」
「そうだな…」
と、私は笑った。
「ありがとう」
「明日からやるよ!皆…是非きて欲しい」
ここはBAR 酒好きの集い
少しだけ角が取れた?店主のおすすめの酒を飲みながら…語らう
西波島の一画に…そんな小さなBARがオープンした。
「で?何で俺は客じゃなくて…バーテン?」
「オープンで賑わうからな…頼もしいぞ!提督!」
「はーーい!おつまみお待たせ〜」
「鳳翔さん!ありがとう」
「うーーーーん」
唸りながらグラスを拭きあげる救に彼女が言う。
「とっておきの酒は…閉店したら2人で飲もう」
仕方ないな…と救は笑う。
「って言ったのに…ぐすん…」
救の背中にはオープンで張り切って、沢山お酒をご馳走になって潰れて幸せそうな顔をした那智がぐっすりと寝ていたとか…
どんどんと娯楽が増えつつある鎮守府。
少しでもお楽しみ頂けたら幸いです!
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